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第149話 グレイソンと使用人

「あの、本当に宜しかったのでしょうか?」


恐る恐ると言った感じで申し訳なさそうにそう聞いて来るアンナさん。

病気がちだと言うお母様も一緒にと言う私の提案に半信半疑のよう。

まぁそれも分からなくはないかな。

だって面識があるってだけでそこまで良くして貰えるなんて普通思わないもんね。

こっちの世界じゃ人々は日々生活していくだけで精一杯。

他人に施しなんて基本しないのよ。

でもね、私は日本人。

お人好しで知られる由緒正しい日本人だもん、目の前の困ってる人が居たら人助けくらいするよ。


「ええ、勿論。何も問題ないわ。 リズたちもそれでイイわよね?」


「イイも何も、家主のオルカがイイって言うんだからそれでいいよ。第一私たちも居候になる予定だからね!」


後ろを振り返ってリズたちにそう聞くと3人は屈託なくニカッと笑う。

3人がこうゆうカラリとした性格で本当に良かった。


「そうゆう訳だからアンナさん宜しくね!」


「多大なるご厚情をいただきまして痛み入ります。」


深々と頭を下げピタリと動きを止めて5秒程停止してから今度はゆっくりと頭を上げる。

頭を上げた時のアンナさんは心から安心したような優しい顔をしていたのが印象的だった。

そんな私たちのやり取りを見ていたグレイソンさんが「それはそうと」と話し始める。


「先ほどから気になっていたのですが、オルカ様が「使徒様」と呼ばれているのは?」


ああ、グレイソンさんは知らないんだっけ。

あんまり実感はないんだけど駄女神様に貰った祝福なのよね。

そう言えば最初初めてここに来た時に院長先生はじめサラさんやパメラさんに跪かれて大事になりかけたんだっけ。

つい最近の事なのに毎日が忙しくて充実してるからか大分前の事のように錯覚しそうになる。


「あら、ご存じない? オルカ様は我らが主神であるアリア様の使徒様ですよ。オルカ様の周りにキラキラと輝く光の粒が見えますもの。」


うっとりとした顔でそう語る院長先生とそれにうんうんと頷くサラさんとパメラさん。

すると弾かれたように席を立ち両膝で跪き胸の前で手の平を合わせ指を組んで祈るような恰好になるグレイソンさん。


「ザッカリー、アンナ、使徒様の御前で御座います。頭が高いですよ。」


「これまでの数々のご無礼に対し心よりお詫び申し上げます。」


ちょっ、ちょっと待って下さい。

すみません、どうか顔を上げて下さい。

あの、そのままじゃ話も出来ませんし、それにお詫びされるような事も何もされてませんから。

それに目上の方に土下座のような恰好をさせたままと言うのもいたたまれない気持ちになる。


「どうか顔を上げて下さい、それから座りましょう。」


そうは言うのだけれど「いやいや」と中々立ち上がって貰えずどうしようと戸惑っていると院長先生が助け船を出してくれる。


「グレイソン、使徒様もお困りです。そのままでは話も出来ませんし、何より使徒様を困らせるのは貴方も本意ではないでしょう?」


院長先生にそこまで言われては立ち上がらない訳にもいかず渋々と言った体で立ち上がり座り直すグレイソンさん。

お付きのザッカリーさんとアンナさんも立ち上がって後ろに控え直す。

ほっ。

良かった。

院長先生有難うございます、助かりました。


「で、使徒様どのようにしてアリア様の祝福を?」


祝福の経緯は別にいいんですけど、使徒様はヤメて貰えると非常に助かるんですが。


「何を仰いますか、女神の使徒と言えば王族に準ずると言うのが一般的な見解となっております。状況によっては王族の更に上位に位置し使徒様の言葉はアリア様の言葉に等しいのです。」


グレイソンさんも何言ってるんです?

意味わかんないです。

私そんなエライもんじゃないですよ。

どこにでも居るごくごく普通の町娘ですから。


「ですね、今代ですと王都の教会本部に祝福を受けた者が数名居ますが市井ではオルカ様だけなのではないでしょうか。」


院長先生まで!

あの、ホントに勘弁して下さい。

しかし私の願いも虚しく院長先生とグレイソンさんの話は盛り上がっている。

一番最初にここに来た時に座ったあの椅子、しっかりと礼拝堂に設置してあるんだとか。

それと私が寄付した金貨も同じく礼拝堂に設置してあって、今はまだそこまでではないけれど少しづつ本当に少しづつだけど信者さんの間で広まりつつあるそうだ。

それと使徒様印の免罪符も売り出していて、これはまずまずの売り上げを記録しているらしい。


マジですか。


「それもこれも使徒様のおかげで御座います。」


そう言って深々と頭を下げる院長先生。

だだだ ダメですってば。

心臓に悪いのでもうほんとヤメて下さいね、お願いします。

「ほうほう」と感心したように顎を撫でるグレイソンさん。


「それではあの館も使徒様に相応しいものにしないといけませんなぁ。」


「グレイソン、程々になさいませ。やり過ぎると使徒様もお困りになりますよ。何事も程々が一番よ。」


グレイソンさんの不穏な台詞にイヤな予感がする。

しかも応援するかのように院長先生の追撃が来る。

ちょっと待って。

すごーく不安なんですけど。

満面の笑みを浮かべるグレイソンさんを見ると不安が募るばかりだわ。


「戻ったら早速旦那様に報告せねば!」


そんな報告しなくていいですから。

ね、放っておいてくれていいんですよ?

そう言ったけれどどうやら聞き入れて貰えなさそうだ。

いつも思うのだけどどうしてこうなるの?

後ろを振り向いてリズたちを見るとジトーッとした目で私を見ていた。

い 今のは私悪くないし。


「では、その改装工事と言うのはいつ頃終わる予定なの?」


院長先生がグレイソンさんに質問する。


「ひと月ほどでしょうか。職人には少々無理をさせますが人員を大量増員させて内装と外装を同時進行で修繕しますのでそれくらいで何とかなるかと。」


「そうなのね。ではそれまでには人員を決めておきましょう。やはり期限を切ってないと締まりませんものね。」


「細々としたお使いや雑事、屋敷の警護も兼ねて男性使用人を2人ばかり確保出来ると良いですな。 それともう少しメイドを増やせるとなお良しですが難しいなら致し方ありません。」


「分かったわ。それも踏まえて今日の夕飯の時に皆に聞いてみましょう。」


「読み書きの出来る子はどれくらい居るのですかな?」


「簡単な読み書きなら全員出来ますよ。みんなここを出たら自立しないといけないので最低限の事は大丈夫よ。」


「大変結構。では簡単な計算等は? 使徒様の資産管理も重要な仕事ですので。」


「それはそこに居るドロシーが出来ますよ。この孤児院の帳簿は全てドロシーが1人でやってくれているのだけれど、今は後任に引継ぎ中だからそれも心配ないわ。」


そう言ってドロシーを優しく見つめる院長先生。


「ほう、それは頼もしい。 素晴らしいパーティーメンバーですな、それならばかなり見通しは明るい。」


満足したように頷くグレイソンさんと、自分を指差して「私?」とちょっと吃驚しつつも褒められて頬を染めて恥ずかしがるドロシー。

ふっふーん。

そうよ、私のドロシーはすごいんだから。

とーっても優秀なんだからね。

私がドヤァって顔してるとリズが「なんでアンタが自慢げな顔してるのよー」と言って笑いだす。

それに釣られてみんなも楽し気にクスクスと笑い合う。


さて、話も程よく纏まった所で院長先生とグレイソンさんにお礼を言って暇を告げる。

ドロシーは孤児院暮らしだからこのままここに居るけど、私を含めたリズとメロディは家に帰る事にする。

みんなには明日の5の鐘の頃にまたここに来ると告げて孤児院を後にした。

私はリズたちと別れてから、足りなくなりつつある食料の買い出しの為に市場の方へ向かう。

玉子だとか果物とか補充しときたかったのと、何か目新しい食材がないか探してみるつもり。

市場を見て回った後は冒険者ギルドへ行って手持ちのまだ買い取りに出してない魔物のお肉を買い取って貰う予定。

手持ちのお金だけで言えば既に小金貨400枚、日本円に換算して4億円以上持ってる。

だけど新しいお屋敷に引っ越して孤児院の子を雇うとなったらそれなりに給金を支払わないといけなくなる。

何人くらい雇えるかは分からないけど、仮に10人雇うとすると年間に掛かるお金はかなりの金額になるはず。

建物の維持費や修理代、固定資産税、食費、消耗品とか使用人に支給するお仕着せとか兎に角お金が必要なるのは明白。

だから少しでも不安を解消する為にお金に換金しておこうって訳。

これからは雇用主になるんだし、もっともっとバリバリと働かないとね!


(くーちゃん・さくちゃん協力お願いね。)


(何の協力かは解り兼ねますが何なりとお申し付けください。)

(ドンと来いです!)


(ふふ、ありがとね。)


今度ヒマがあったらまた職人街にも行って金属素材とかガラスとか買っとかなきゃ。

自分で作るのもいいけどたまには色んなお店覗いて魔道具とか見てみたいしね。

あ、そうだ!

あれ、あるかな?

やっぱり今日中に一回職人街の方へ行って確認して来ようっと。

あればラッキーだし無ければ無かったで特に問題はないしね。

そうと決まれば善は急げよね。


結局目当ての物は見つからなかった。

見つからなかったけど使える状態での素材は持ってるので問題はないけど出来たら素材そのものがなお良かったんだけどね。

だけど石とか金属を取り扱うお店で色々な金属の化合物の塊を見れたのは良かった。

これは使えるからね。

時間が空いた時にでも『創造魔法』さんにお願いして目当ての物を作って貰わないと。



翌朝目が覚めるとボーっとしたままゆっくりと起き上がる。


ふあぁぁぁぁ。


あくーび。

んんーっ、っんはぁー。

ぐぐーっと伸びをしてまだ眠っている身体を目覚めさせる。

さっ、今日も1日頑張ろー!


朝食を食べて歯を磨いて顔洗って宿屋を出る。

向かう先はいつもの冒険者ギルド。

ギルドに着いて今日は依頼を受けるつもりはないけれど一応いつもの癖で依頼状況等を確認する。

いつも通りそんな大事になりそうな依頼は出てないね。

常時依頼の薬草採取なんかはいつもと一緒だ。

窓口に行って昨日買い取りにだした魔物肉はきちんと清算されて私のギルド口座に入金が確認された。

良き良き。

いつもと変りない日常に安心感を覚える。

すると肩をポンポンと軽く叩かれる。

ん、誰だろう?と思って振り返るとそこにはリズとメロディが居た。


「「おはようー!」」


「あ、うん。おはよう。 なんで居るの?今日は孤児院に5の鐘の頃って言ってあったわよね?」


「んー、なんかいつもの習慣でいつも通りに起きていつも通りに来ちゃった。」

「それはこっちの台詞、オルカこそ何でこんな朝早くから居るの? お腹空いちゃった?」


「いや、お腹空いたのはメロディでしょ。」


私もいつも通りに起きていつも通りに来ちゃったの。

そう言うと「一緒だー。」って二人が笑う。

この何でもないありふれた日常が幸せなのよね。


「しっかし昨日のあのお屋敷はとんでもなかったねー。メロディもそう思わない?」

「思う思う。あのお屋敷元は騎士爵の家だって言ってたよね、貴族になるとあんな豪邸に住めちゃうんだねー。やっぱ貴族ってとんでもないよね。」

「だけどさ、貴族でもないのにあのお屋敷に住もうって少女が目の前に居るんだからもっととんでもないよね。」


私の方を見ながらそんな事を言っている二人。

別に私がとんでもないんじゃなくて、それを褒賞として下さった貴族がとんでもないのよ。

私なんてそこらに居るごく普通の新人冒険者なんだから。

そう言うとなんか生温い目で見られただけだった、何でよ。

っと、それはそうとここで駄弁ってても邪魔になるだけだからここ出ない?


「そうだね、仕事しない私たちが居ちゃ邪魔なだけだもんね。」


「そうそう、一旦出よ。それに小腹空いたから何か軽くつまもうよ。」


「はぁ?メロディアンタ何言ってんの、さっき朝ごはん食べたばっかじゃん!ボケてんの?」


ぷふっ、流石メロディ、全くブレてない。

いつでも食欲全開ね。

分かったよ、食べ物の屋台の出てるとこ行こうっか。

今日も付き合わせちゃってるから奢るよ。


「オジさん、串焼き肉4本ね。塩3本とタレ1本で。」


「あいよ、すぐ焼くから待っててくれ。」


値段は1本小銅貨7枚だけど4本買うって言ったら小銅貨25枚に少しだけおまけしてくれた。

こうゆうのちょっと嬉しい。

ジュージューとお肉の焼ける音と香ばしい匂いが漂ってくる。

焼きたての串焼き肉を受け取るとメロディは両手にお肉でホクホク顔。

左右交互にお肉をパクつきもっきゅもっきゅと食べる姿は相変わらず愛らしい。

私たちのパーティーの愛玩動物担当ね。

私たちはそのまま食べながら歩き出す。

買い食いって楽しいよね。

これぞ女子の嗜みよねー。

あ、食べ終わった後の串はさくちゃんが処分してくれるよ。

さくちゃんの上にそっと乗せてあげればいいからね。


時間的にちょっと早いなと思ったけど、遅れるよりいいかと思って孤児院へと向かう事にした。





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