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第148話 院長先生と使用人

私が頂く事になった超が3つも4つも付くようなスーパーでウルトラなお屋敷の前から馬車に乗り孤児院に向かう。

侯爵家の馬車を前に私たちが乗る辻馬車が後ろをついてゆく。

程なくして孤児院に到着するとグレイソンさんが一番前を歩いて敷地内へと入って行く。

孤児院の中庭へ入ると子供たちがキャッキャッと楽しそうに遊ぶ声が聞こえて来る。

みなとても元気に駆け回っている。

最初初めて見た時と比べて少しだけふっくらとして来たようにも見える。

少し目を細めて子供たちを優しく見つめる私たち。

孤児院に居る大人って院長先生、サラさんとパメラさん、他には通いでやって来る調理係のご婦人くらい。

なので私たちが固まって歩いていれば当然目立つ訳で。


「あ、お姉ちゃんだー!」


子供たちの中に居る誰かが私を見つけて元気いっぱいに声を上げる。

すると周りの子たちも気付いたようで「ホントだ。」とか「リズさんたちも居る。」とか「よっし!今日は肉の日だ!」と喜んでいる男の子も居る。

私もうすっかり「お肉の配達員」だわね。

思わず苦笑いしてしまう。

でも屈託なく笑う子供を見るのはいいものね、とても微笑ましいわ。

するといつものようにタッタカと駆け寄って来てドーン!と脚にしがみ付いて来る子がいる。

お約束のエラちゃんだ。


「お姉ちゃーん!」


何故かは分からないけれど最初からエラちゃんに懐かれてるのよね。

理由は私にもさっぱり分からない。

強いて言うなら私=お肉だから?

ま、それについては今はちょっとこっちに置いといて。


「ねぇ、エラちゃん、院長先生のとこまで案内して貰える?」


「分かったー、こっち!」


そう言ってその小さな可愛らしい手で私の手を握ると小さな身体を一生懸命動かして私を引っ張って前を歩いている。

リズたちの周りにも子供が寄って来てワイワイ言いながら一緒に歩く。

後ろを振り返るとグレイソンさん、アンナさん、ザッカリーさんは口元を優しく綻ばせながらついて来ている。

建物の中に入って廊下を進む、院長先生の執務室の所まで着くとエラちゃんと女の子たちが声を揃えて「いんちょーせんせーっ!」と大きな声で呼びかける。

するとコツコツと靴音がして扉のあるこちらの方へ歩いて来て扉のすぐ向こう側で止まる。

少しだけ建付けの悪い扉が開き中から院長先生がひょいと顔を覗かせる。


「あら、エラにみんなどうしたのかしら?」


「お姉ちゃん連れて来た!それと知らないオジイちゃんと知らないオバちゃんも!」


ちょっ、ちょっとちょっと、エラちゃん。

私が慌てたように声を掛けると「ん?お姉ちゃんどうしたの?」とコテっと小首を傾げる。

純真無垢な子供の言う事だからしょうがないってのはみんな分かってる。

分かってるんだけど言われた本人は気持ち的には微妙よね。

グレイソンさんは「ほっほっほっ」と笑いながら受け流してるけどアンナさんはすまし顔で笑いながらも片眉がピクッと反応るすのが見えた。

それから聞こえるか聞こえないぐらいの小声で「私まだオバさんじゃないし。」と呟くのを私は聞き逃さなかった。


「まぁ、使徒様それにリズたちも。 あら、あらあらまぁまぁ。」


私たちの後ろに居るグレイソンさんたちの姿を見て院長先生が少し驚きの表情を見せた後ふわりと笑った。

そしてゆっくりと扉を開けて私たちを中へ招き入れてくれる。


「使徒様どうぞ中へお入り下さい、貴女たちもね。 エラ、ありがとう。もう戻っていいわよ。それからグレイソン久しぶりですね。」


「ペネロペも変わり無いようで安心しました。」


「お互い様ですね。どうぞお入りになって、そちらのお付きの方たちも中へどうぞ。」


以前院長先生が領主様のお屋敷で働いていた事があったと本人から聞いたけど、グレイソンさんとの今のやり取りを見るにどうやら本当みたいね。

ただの知り合いと言うより旧知の仲って感じ。

なんかお互いに分かり合ってるって言えば分かりやすいかな。

中へ通されてソファに座るよう促される。

目の前には院長先生、そして私の横にグレイソンさんが座り、何故か残りのみんなは立ったままでいる。

院長先生の後ろにサラさんとパメラさんが、私の後ろにはリズたち3人が、グレイソンさんの後ろにはザッカリーさんとアンナさんがそれぞれ立っている。

えーっと、これってどうなの?

なんか私すっごくエラそうになって見えたりしない?

大体なんでリズたち立ったままなの?

私は無言のまま目でリズに問うてみる。


「いやいや、流石に私でも空気読むよ。」


そうなの?

でも何の空気読むの?

そんな気にしなくていいのに、ここはリズたちの実家みたいなもんじゃない。

そう言ったんだけど「それはそれ、これはこれ。今日の目的とは違うから。」って言われた。

ん、そっか。そう言われればそうだね。

私が浅慮だったね。

私とリズのやり取りを笑みを浮かべながら見ていた院長先生は私が話し出しにくそうにしてたのを察して「ところで」と水を向けてくれた。

ほっ。

何て言いだそうかちょっと迷ってたので助かった。


「今日はまた珍しい取り合わせですけれどどちらのご用事なのかしら?」


グレイソンさんと目配せしコクンと頷いて私から話す事にした、だって私の個人的な用事なんだもの、私が話さないでどうするの?って話よね。

ひと息ちょっと軽く深呼吸して、それからピンと背筋を伸ばして目の前の院長先生に話し始める。


「実はお願いがあって参りました。 孤児院の子を何人か雇いたいと思うのでその許可を頂きたいと思いまして。」


「まぁ、そうなのですね。でも何故ウチの子たちを雇いたいと思われたのでしょう。人を雇うなら冒険者ギルドや商業ギルドに依頼すれば使徒様の希望に沿った人を確実に派遣してくれます。それなのに孤児を雇う理由とは?お聞きしても?」


そうよね、普通はそう思うよね。

最初私もそう思ったもの。

でもね、リズたちから孤児の現状を聞いたら何もせずに放っておくなんて出来ない、私にだって出来る事はある。


「はい、先だっての領主様の夕食会での事なんですが、ええっと何から話せばいいのかしら。」


「大丈夫ですよ、落ち着いてゆっくり話して下されば結構ですよ。」


「ドロシーからも聞いてご存じかと思いますが、この4人で正式にパーティーを組んだんですけど、それで4人で一緒に住もうかって話になりまして借家を探していたんです。で、その話が夕食会の時に出まして、それならと褒賞として家を一軒領主様から頂ける事になりまして……」


「まぁ、あの方も随分と思い切った事をなさるのね。」


え、いや、そんな軽い話ではないと思うんですけど。

家一軒ですよ一軒。

いくら貴族でも家一軒易々とポンと出せる物じゃないのにそれを貰える事になってしまって。


「その頂ける家って言うのは? 庶民が住むには少し大きいって事なのね?」


流石院長先生察しが良くて助かるわ。

けど少し?

いえいえ、少しなんてもんじゃなくて相当に常識外れに大きいです。


「少しなんてとんでもない、およそ庶民が住むには分不相応と言うか何と言うか。まるでお城かと思うほどのお屋敷なんです。広大な敷地と庭園、本館と使用人棟があって部屋がいくつもあって……とてもじゃないですけど私たち4人じゃ管理出来ないと思いまして。」


私は見たまま聞いたままの通りに説明する。

家を頂けるのは素直に嬉しいけれど、何もあれ程大きくなくても良かったのでは?と思わなくもない。


「グレイソン。」


ニコリと笑っているけれども目が笑ってない。

どうやら院長先生は思う所があるらしい。


「旦那様がそう仰いましたので。私の役目はお仕えする主の意を汲みそれをお支えする事ですので。」


表情1つ変えずうっすらと笑みすら浮かべてそう言い切るグレイソンさん。

確かに言ってる事は間違ってはいないわね。


「確かにグレイソンの言っている事は正しいわ、だけどね、敢えて主君に諫言するのも家臣の努めではなくて? 確かにあの方は民想いだし思い切りもいいですけど、時として突っ走ってしまう事もままありますから。」


話し方は優しいけれど話している内容はワリと厳しい事を言っている。

しかもグレイソンさんを圧倒している。

少々慌てた様子のグレイソンさんを見て後ろに控えている二人は吃驚している。

普段のほほんとして温厚な院長先生しか知らないサラさんやパメラさん、リズたちは毅然とした態度で強く主張する院長先生を見て目を白黒させている。


「だからと言って相手に無理を強いるのは良くないわ。」


別に無理矢理とかって訳ではないんですよ、お屋敷が頂けて嬉しいのは嬉しいんです。

自分の持ち家があるって、帰る家があるって素晴らしい事だと思いますから。

ただ、予想より遥かに限度を超えて大きかったってだけで。


「人を雇うにもお金が要るでしょう? 使徒様その辺りはどうなさるおつもりで?」


「あ、それは心配してないんです。この子たちが狩りで獲物を獲って来てくれますし、特許料とかも入って来ますので。こう見えて私色々と特許持ってるんです。」


「そうなのね、ならそちらの心配は要らないと。では何人くらい雇うおつもりで? それだけ大きいお屋敷ならそれ相応に人手も要るのではなくて?」


そうなのよね、そこが問題なの。

あの規模の大きさのお屋敷だと普通何人くらい使用人が要るものなのか皆目見当もつかなくて。

一応考えてみたんですけど、ざっと8人くらい?


「庭や建物と言った施設関連に2人、料理関係で2人、掃除や洗濯、その他中の雑役仕事に4人。それくらい居れば足りるでしょうか?」


そう答えてチラリとグレイソンさんを見ると静かに首を横に振る。


「足りないですな。お嬢様方に専属の侍女を付けないと言う前提であれば回せなくはない、と言った所でしょうか。ですがそれでも門兵や護衛、敷地内の巡回等が手薄になるのが気になります。それと念の為信用出来る男性使用人も居た方が何かと都合が宜しいかと。」


成る程ね、とても参考になります。

けど私たちは貴族じゃないですし、一介の冒険者なので専属侍女なんて必要ないですよ。

門兵に敷地内の巡回かぁ、そっかそれも考えないといけないのね。

そうなるとやっぱり孤児院の男の子から2人ばかり雇った方がいいのかな?


「グレイソン、貴方一体どれだけ大きいお屋敷を用意したのよ。8人で全然足りないってそれもう一般庶民の住む家ではないでしょう。」


やや呆れた口調で咎める院長先生。

はい、仰る通り。

元は騎士爵のお屋敷ですもん、そりゃあ大きいに決まってますよね。


「ほっほっ、大変良い掘り出し物に巡り会いましてな、即決でした。」


ちょっとだけ得意げにドヤッてるグレイソンさんを見て院長先生は軽く睨むけれど、睨まれた当のグレイソンさんはどこ吹く風と言った様子なのが場にそぐわなくて妙に可笑しかった。

その様子を見ていた院長先生はやれやれと軽く1つ溜息を吐いてから私を見て「分かりました。」と。


「他ならぬ使徒様のお願いで御座いますので今日の夕飯の時にでも皆に聞いてみましょう。ここを出たら全て自己責任で己の才覚のみで生活していかないといけないですから、少なからず不安に思っている子は居ます。特に女の子には厳しい世の中ですから、リズたちと一緒に住めるのならと志願して来る子も居ると思いますよ。」


ふわりと笑いながらそう言ってくれる院長先生の笑顔に元気づけられる気がする。

院長先生に相談して良かった。


「そんなすぐに返事は貰えないかもしれないですけど私明日また来ます! 子供たちにはお腹いっぱい食べて欲しいのでまたお肉持って来ます、それからみんなと遊ぼうと思います。」


「いつもお心遣い有難うございます、それは子供たちも喜ぶと思いますよ。」


これで全てが片付いた訳ではないけれど、ひとまず使用人を雇うって事に関しては何とかなりそうね。

ほんと院長先生はさまさまだわ。


気になる事としては、孤児院の子を使用人として雇うのはたぶん問題なさそう、だけどその教育をどうするか?って事なのよね。

さっき話してたように領主様の所から誰かメイドさんを派遣して教育して貰えると助かるのだけれど。

今この場できちんとお願いしといた方がいいのかな?

一応ちゃんとお願いしておこう、そう思って私はグレイソンさんに話しかけた。


「あのグレイソンさん、使用人の教育に関してなんですけど、教育係として誰か派遣して頂く事って可能ですか? それと出来たら調理関係の人もお願いしたいです。」


「それは大丈夫ですよ、先程も申した通り侯爵家からメイドを1人派遣しましょう。 料理人ですか、旦那様の了解を得ないといけませんが見習いで良ければ派遣出来ると思います。それで宜しいですかな。」


はい、助かります。

良かった、メイドさんも料理人もあっさりと了承を得られてホッとする。

これでかなり目途がたったように感じる。


「派遣するメイドですがここに控えているアンナでどうでしょう?」


「いいんですか? 私としてはアンナさんなら嬉しいですけどアンナさん自身はどうなの? 来て貰えますか?」


すると一瞬俯き背筋を伸ばし意を決したような面持ちで言葉を紡ぎ始める。


「あの…私には病気がちな母が居ます。母の面倒をみないといけないので住み込みでの教育係は難しいと思います。なので通いでお願い出来ませんでしょうか。それでも毎日は無理かも知れませんし午後だけとか午前だけとか変則的になると思います。」


そこまで一気に喋って黙り込むアンナさん。

よほどお母様の事が気掛かりなのだろう、とても不安そうな顔をしてこちらを見ている。


「アンナ、我が儘はいけませんよ。お母様の事はこちらが責任を持って面倒を見ますので心配には及びません。」


グレイソンさんが優しく諭すように嗜める。


「はい、それは重々承知しております。私は侯爵家に雇われた身、命令されれば拒否権はありません。ですがっ!」


でもね、そもそも何で通いって前提なんだろう。

それ程心配ならお母様と一緒に住み込みで来ない?

それならいつでも面倒を見られるよ。


「それじゃあお母様用にひと部屋用意するから教育期間の間アンナさんも一緒に住まない? それならいつでも面倒見られるから安心でしょ? 駄目 ですか? 差し出口でしたらすみません。」


そう言ってペコリと頭を下げる。


「そうね、それがいいわ!」


パン!と手を叩いてにっこりと笑う院長先生に私も含めて皆呆気に取られる。


「もうね、私が勝手に決めちゃうわね。アンナさんだったかしら? 使徒様がああ仰っているんだからつべこべ言ってないで有難くお受けなさい。それで全部丸く収まるんだから。それからグレイソン、反論は一切認めませんよ。」


静かに優しく、そして有無を言わせぬ迫力を持ってグレイソンさんを黙らせる院長先生。

この人は怒らせちゃダメな人だ。

しっかりと頭の中にメモしましたとさ。






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