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第143話 新たな追跡者 ②

前を行く怪しい二人組の男。

恐らくだが敵対貴族の息の掛かった者だろうと当りを付けるマイキーとイルゼ。

にこやかに笑いながら話しかけるマイキー。


「よう、今日もいい天気だな、景気はどうだい?」


いきなり声を掛けられて少し警戒している。

が、同時にマイキーの屈託ない笑顔に油断もしている、そんな感じだ。


「ん? まずまずだ。」


「そうか、それは何よりだ。見た所冒険者のようだけどこっちにはいつ?」


見かけない顔だなと言う意味を込めてそう問いかけるマイキー。

横では「うふふ」と笑っているイルゼだが、袖の中の暗器をいつでもすぐ取り出せるように準備は怠らない。


「ああ、つい最近こっちに来たばかりだ。」

「この間の蟲騒動のせいでメイデンウッドで足止めされてたんだがそれも解除されてやっとこっちに来れたんだ。」


「そうか、それは災難だったな。」

「まぁでも蟲はすぐに討伐されちゃって大した事なかったんですよ。」


そっと手の中に暗器を握り込むイルゼ。


「そうなのか? 聞いた話だと馬車が襲われて人死が出たって聞いたぜ?」

「おおよ、相当酷い有様だったって聞いたぞ? 違うのか?」


やっぱりコイツ等で間違いないな。当りかよ!そう心の中で呟くマイキー。

どうやらこの二人は正確な情報を掴んでいないようで如何にもそうなんだろ?と言わんばかりの口ぶりだ。


「違う違う、街は至って平和なもんさ。ここ最近は死人が出たって話はとんと聞いてないな、そりゃ何かの間違いだろ。」


「そうなのか? だったらもうちょっと詳しく教えてくれよ。俺たちも冒険者稼業やってるからな、情報は必要だしな。」

「勿論タダでなんて言わねーよ。ちゃんと対価は払うからよ。」


男たちはマイキーたちを有益な情報源と見なし少しでも情報を引き出そうとして銀貨をチラつかせる。

銀貨を手の平の中で弄ぶようように転がす男たち。

マイキーはそれを見て破顔する。


「そっか、では対価はお前たちの命でどうだ?」


そう言うや否やイルゼは向かって左側の男の首に暗器を突き刺す。

血を吹き出し一瞬で命を刈り取られた男がそのまま地に伏せる。

マイキーはもう片方の男の首にナイフを当て腕を後ろに捻りあげ拘束する。


「くそ! 離せっ!」


ジタバタともがくがマイキーに拘束されてそれも叶わない。


「あーあー、そんな簡単に殺すなよ。出来るだけ生きて捕縛しろって言われてるだろ?」

「二人も居るんだし一人くらい消したっていいじゃないですか。」

「さて、俺たちは聞きたい事が山ほどあるんだが……」

「さっさとアジトに連れ帰って拷問……コホン、尋問をしましょうよ。」

「おい、今拷問てハッキリ言ったよな? ちょっとは取り繕えよ。」


マイキーとイルゼがそんな会話をしていると残った男の身体が突然麻痺したようにガクガクと震え始める。


「がはっ!」


「お おい! どうした!」


血を吐きビクビクと痙攣しそのまま息を引き取る。

ほんのついさっきまで生きて動いていたのに今はもうそれも出来ないただの肉の塊になっている男を見てマイキーは悪態をつく。


「くそっ、毒か!」

「失敗したわね。」


だから生きて捕縛しろって言っただろ……とは言わないマイキーはジト目でイルゼを見ている。

そんなマイキーの視線を受けてそっと目を逸らすイルゼ。

マイキーはしゃがんで目の前の物言わぬ男たちの脈を診て死亡しているのを確認すると立ち上がって少しだけ遠い目をする。


「帰ったらグレイソンさんに怒られるよなぁ……」

「ですね。」


「はぁ」とため息をつく二人。

その後すぐにまた行動を開始して男たちの持ち物や身元に関わる手がかりが無いか調べるが、そこはその道のプロ、そんな物は何一つ所持しておらず結局何も分からずじまいだった。


「コイツ等をこのまま放置しとく訳にもいかんし、回収して一旦二人で戻るぞ。」

「監視はいいんですか? 何だったら私が残りますけど?」

「いや、取り合えず危険は排除したから大丈夫だろ。それに俺一人で怒られるのはイヤだしな。」

「結局そっちが本音じゃないですかー。潔く一人で怒られて下さい!」

「イヤだ、イルゼも一緒に来い、命令だ。」

「あっ、ずっるぅー。職権乱用ですよマイキーさん!」


そんな緊張感の無い掛け合いをしながら戻る準備をしているとマイキーが突然ピタリと動かなくなる。

身体を強張らせ明らかに緊張しているのがイルゼにもはっきりと分かった。

その緊張しているマイキーの視線の先には葛の葉が真紅の瞳で真っすぐに二人を見つめていた。

いつの間に?

そんな疑問が二人の頭の中に浮かぶ。

いつからそこに居た?

それ以前にどうやって来た?

この見渡す限りの草原で目視されずにどうやって?

魔物なのに隠密系スキルを? 嘘だろ?

頭の中をそんな考えが浮かんでは消える。


「マイキーさんあれって……」

「ああ、監視対象の嬢ちゃんの従魔だな。」


葛の葉は今隠密系スキルを全て切って二人の目の前に立っている。

真紅の瞳で二人を観察するようにジッと見つめている。

気配は消してないし魔力も放出していない。

聞こえるのは静かに息をする音くらいのものだ。

マイキーもイルゼも背中にイヤな汗が流れ落ちる。

目の前に居る従魔は魔力も放出していなければスキルで威圧する訳でもない。

それなのに目の前に居る従魔が大きな山のように感じていた。

巨大な巨大な山だ。

そして圧倒的な強者の匂いを放っている。


「マイキーさん、私あの従魔を見てから身体の震えが止まらないんですけど。」

「奇遇だな、俺もだ。 アレはヤバいぞ、アレに比べたらコカトリスなんて羽根の生えてないニワトリみてーなもんだ。」

「それは美味しそうですね。」


マイキーは葛の葉を刺激しないように出来るだけゆっくりと動きながら状況の説明を試みる。

実際には葛の葉は人の言葉が分かるのだが、そんな事を知らないマイキーは通じる訳がないと思いながらも必死に説明する。


「コイツ等は嬢ちゃんたちを尾けてた敵対勢力の手の者と思われる。 何をしでかすか分からなかったから取り合えず排除しておいた。だから暫くは安全だろうと思う。俺たちはこれから戻って報告しないといけない。」


それだけ言って一旦区切ると葛の葉の様子を伺うが葛の葉は動かない。

動かないがその視線だけで二人を地面に縫い留めている。


「今日の所はこれで一旦引く。 当面は陰から()()するのは変わらんと思う。」


すると葛の葉は音もなく草も揺らす事なくシュンと消えたかと思ったらその時には遥か彼方を疾走していた。

葛の葉の得意技である。

およそ人類では成し得ない速度での移動だ。


「「っだっはぁー!!」」


二人はその場で減り込んで大息をつく。

そして過度な緊張感から解放されて小刻みにブルブルと震えだす。


「生きた心地がしなかった。」

「ええ、本当に。もうダメかと思いました。」

「アレはヤバい、本当にヤバいぞ。」

「はい、あの従魔1匹で街一つくらい簡単に滅ぼせそうですね。」


そのまま二人は暫くしゃがみ込んで肩で息をしていた。

それが落ち着いてからゆっくりと立ち上がり街へ向けて歩き出す。


「帰ろう、今日は流石に疲れたわ。」

「はい、マイキーさんの奢りでご飯に行きましょう。」

「何でそうなるんだよ。」

「可愛い部下にご飯奢ってあげたくなりませんか?」

「ならんね。大体自分で可愛いとか言うな。」

「あー、ひっどぉーい! 今日の事全部グレイソンさんに言いつけますよ?」

「あっ、てめえ。それは卑怯だろ。」

「ふっふーん、それならご飯奢って下さい。あ、オーク肉の分厚ーいステーキだと素敵なんですけどね。オーク肉の……」

「分かったよ、繰り返さんでもいい!」

「やった、言質取りましたよ!」


じゃれ合いながら帰路につく二人であった。





◆◇◆◇◆◇◆◇



それぞれに木で出来たコップを持ちお茶を飲んでいるとくーちゃんたちが帰って来た。

あ、帰って来たね。

思ったより早かったね。


(くーちゃん・さくちゃんお帰り。)


(ただ今戻りました。)

(戻りました。)


(所で監視って結局どんなだったの?)


(はい、かくかくしかじか……)


私はくーちゃんから説明を受けたけどその内容にとても吃驚した。

だって更に別の間諜が居たですって?!

はぁ?て感じよ。

そもそも何で私が監視されないといけないの?それも二組も。

しかもその二組の間諜同士って敵対してたのよね?

つまりお貴族様の世界のドロドロとしたあれこれに巻き込まれたってヤツですか?

私そんなの望んでない。

私はゆっくりのんびり異世界でスローライフを満喫したいだけなのに。

なんでこうなった?

どうしてこうなるんだ?

意味不明ですよホント。


「ねー、結局くーちゃんさんたちは何だったの?」


「それね、勘違いだったんだって。」


メロディの問いに適当にはぐらかしてそう答える。


「そうなんですね、珍しい事もあるもんですね。」


「そうね。」


メロディはそれで納得したみたいだけどリズとドロシーはイマイチ納得してないって言うか「それ本当か?」って疑ってるフシが見え隠れする。

けれど私がそれ以上何も言わないので突っ込んでこないだけで。

それにさ、監視の事とか話して変に心配させるのも何か悪いしね。

だから今は言わないでおくよ。

それよりも、一時的にとは言えせっかく監視の目が無くなったんだから武器の支給もしちゃおうかな。

今を逃すとこんなチャンスそうそうないもんね。

くーちゃんに頼んでどこかいい場所を探して貰ってそこに移動する事にする。

障害物がなくて目視しやすくて広々とした所。

監視され易いけどこちらからも監視し易いそんな場所が理想。

くーちゃんに案内されてその目当ての場所に着いた。


「うん、ここなら大丈夫だね。」


私はストレージからテーブルを取り出してお茶の準備をする。

リズたちは「ねー、何すんの? 教えてよ。」と言ってるけど「まぁまぁちょっと待って」て言ってちょっとだけ待って貰う。

くーちゃんたちには狩りに行って来てもいいよって言ったんだけどさっきの事もあるし一応念の為ここに残って警戒するとの事。

ホント真面目だねぇ。

最悪誰か襲ってきても結界石があるから大丈夫だし、何なら魔法ぶっ放せばいいだけの話だから。

そう言ったんだけど過保護なくーちゃんたちはそれでも心配だからと残ると言ってきかなかった。

有難い事だね。


さて、では我らが「Rosy lilies」の制式武器のお披露目としましょうか。

私は勿体つけるように「ジャジャーン!」と効果音を口ずさみながらストレージからそれぞれの髪色のハンドグリップ付いたのベレッタ改2を取り出す。


ゴトン。


取り出された鉄製の重厚な拳銃4丁が黒く鈍い光を放っている。

何とも禍々しい光景だ。

なんか893映画の登場人物にでもなったような気分だわ。

取り出された拳銃を見てリズとメロディは「???何これ?」って顔をしているけど、ドロシーは一瞬目を見開いて驚いた表情を見せた後すぐストンと表情の抜け落ちたような顔でジッと私を見ている。


うっ。


ドロシーの視線が痛い。

またやりやがったな?

そう言っているように見える。

目は口程に物を言うとはこの事か。


「二人とも見つめ合ってるけどさ、これ何なの?」

「こんな小っちゃい武器なんてある訳ないし、これ何なのか説明してよ。」


「拳銃よ。」


「「ケンジュウ? ケンジュウってなに。」」


「拳銃ってね武器よ。」


「武器? これがっ?!」

「何か弱っちく見えるなー。」


こっちの世界には火薬を使った武器ってないのかな?

ないからリズたちは知らないのか。

だから当然拳銃とかそう言う弾を飛ばす武器なんかある筈もなく、剣や槍、斧などの武器を使うか魔法を使うんだよね。

馴染みがないんだから分からないのも当然か。

なのでこれは武器で使い方はこうだよってのをキチンと教えないと危ないね。

特に取り扱いは注意が必要だしね。

なのでまずはこれが武器だって事を認識して貰う所から始める。


「まず私が使ってみるから見てて。あ、それと危ないからまだ触らないでね。 じゃ、今から撃ってみるから見てて。」


そう言って私はベレッタ改2を両手で持って撃鉄を起こして照準で狙いをつける。

人差し指を軽く引き金にかけて息を吐いて引き金を引く!


パァーン!


火薬が爆発する音とはまた違う軽い炸裂音がして弾が飛び出してゆく。

私は右手に持っている銃を立てて銃口に向けて「ふうー」と息を吹きかける。

ふ、決まった!

リズとメロディは「なに? なにが起こったの?」みたいな顔してるのを見てちょっと可笑しくなっちゃった。

銃ってどんな物か知らないんだもんそうなっちゃうよね、それは仕方ないと思う。

ドロシーもきっと「すごーい!」とか大絶賛してくれるはず……と思ったら頭をはたかれた。


「このお馬鹿!」


痛っ! 何すんのよ。

拳銃撃っただけでしょ?

こっちの世界には銃刀法なんかある訳ないんだから違法じゃないもん。


「ちょっとこっち来なさい!」


ドロシーに手を引っ張られてリズたちとちょっと離れた所に連れて行かれた。

あ、ドロシーと手握ってる……って照れてる場合か!

ねーちょっと、ドロシーってば。


「アンタって人はほんとにもう! やり過ぎなの!」


「えー、でも武器は必要だよ? 飛び道具あったら便利じゃない。」


「そうゆう問題じゃなくて! 何でもかんでも作ればいいってもんじゃないの。オーバーテクノロジー過ぎなの!」


「ええーでもぉ。」


「でもじゃない。第一こんなの危ないじゃないの!」


「そう? そうでもないよ。これだと対人用途とか兎や小さな魔物くらいにしか使えないよ? 強い魔物にはもっともっとストピングパワーが……あっ、何でもない。」


「もっとストッピングパワーが何だって? ほら怒らないから言ってみなさい。」


ヤバい、ドロシーが本格的に怒ってる。

怒らないからって言ってるって事はもう既に怒ってるって事だ。

どどどど どうしよう?

言う?

実はウィンチェスターライフルも作ってましたって正直に言う?


……。


私は上目遣いをしながら小さな声で言ってみる。


「ほんとに怒らない?」


「怒らないよ。」


「ほんとに?」


「うん、ほんとに。」


「ほんとにほんと?」


「うん、ほんとにほんと。」


「絶対怒らない?」


「それは話による。」


「絶対に怒らないなら言う。」


「じゃあ怒らない。」


「約束して。」


「ちっ。」


「今ちって言った。」


「ほら、早く。」


「ええっとね。」


「うん。」


「や やっぱダメ。」


「早く言いなさいっ!」


「はいっ!」


結局ドロシーに押し切られる形で私は白状した。

そぉーっとウィンチェスター改を取り出してドロシーに見せる。


えへっ。

作っちった。


その刹那スパーン!と小気味よくはたかれた。

いったーい!

んもう、そんなペンペン叩かないでよ。

これ以上頭悪くなったらどうするの?


「なんでこんな物騒な物作るの! これライフルよね? 拳銃より威力あるんだよね?」


「そりゃあそうゆう目的で作ったから威力はあるけどさ……」


だって今までの石礫弾じゃ蟲の魔物には効かないんだもん。

もっともっと威力がないと蟲の硬い外殻を貫けないから。


「こんのぉお馬鹿さんはぁ……」


ドロシーがぷるぷるしながら怒っている。

でもねでもね、これだとある程度射程距離が稼げるから割と安全に攻撃出来るんだよ?


「それに流石にこれは対人用には使わないよ?」


「当ったり前でしょ。」


またドロシーに怒られた。

解せぬ。


けどもう作っちゃったものはしょうがないよね。

それに使える武器はないよりあった方がいいもん。

これはみんなの安全の為でもあるから。

だから貰ってよ。


今からリズたちにも使い方説明するからさ。







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