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第140話 披露宴

ついにと言うかいよいよと言うか本日の主役の二人が仲睦まじく手を繋ぎながらやって来た。

おんやぁ、見せつけてくれるでねーですかお二人さん。

にこやかに笑って幸せいっぱいの二人。

手を振り笑顔を振りまきながら中庭に入ってくる。

途中みんなから「おめでとう」の言葉を掛けられ「ありがとう」と返す二人。


「今日は俺たちの為にこんなに盛大にやってくれてありがとう。」


私たちが固まって居る所にやって来て今日のお礼を言われる。

そんな改まって言われるとちょっと照れ臭い。

リズたちやカーリーさんさんたちも「いやいや、気にしないで。」とか「お目出度い日なんだからパーッといこうよ。」とか「私の時はお願いねー。」とか言って笑っている。

元世界の人間関係が希薄な社会と違って、こっちの世界は持ちつ持たれつお互い様の気持ちが強いんだろうね、そうやってお互いに助け合いながら精一杯生きているんだと思う。


「もっと感謝してくれてもいい。」


「コラッ!」


ドンナさんがまた一言余計な事を言ってハイディさんに叱られている。

この人は本当に懲りない人だなぁ。

それでもめげずにまた口を開く。


「みんな良く頑張った。」


「そうね、何もしなかったのはドンナくらいだね。」


「何もしてない、それは違う。ちゃんと監督してた。」


「ドンナ、後でお仕置だからね!」

「わははは、そうか監督してくれてたのか、ありがとう。」


苦笑しながらアイザックさんはお礼を言って、ハイディさんに向き直って二人できちんと今日のお礼を言う。

「ドンナがごめんね」そう言うハイディさんに首を横に振って再度お礼を言ってその場を離れて院長先生の元へ挨拶しに行った。


宴の開始時に孤児院の代表でありアルマさんのお母さん(育ての親)でもある院長先生の挨拶がある。

これはカーリーさんとベルさんが事前に頼んでくれている。

そうこうしている間に続々と人が集まって来る。

孤児院の子供たちも宴が始まるのを今か今かと楽しみしているね。

美味しそうなご馳走を前にキラキラした目で見つめている子供たちを見るとお肉をいっぱい提供して良かったと思える。

その様子を優し気な目で見つめている院長先生。


「子供たちも待ちきれないみたいだしそろそろ始めましょうか。 院長先生お願いします。」


ベルさんが声を掛けると主役の二人の前に皆が集まって来る。

ワイワイがやがや。

中々に騒がしい。

おおっ、これは結構な人が集まったものだわ。

今日の司会進行役のベルさんからお披露目の宴の開始が告げられ、まずは院長先生から主役の二人に祝辞が贈られる。


「本日はお忙しい中このように多数おいで下さいまして御礼申し上げます。

 皆さんご存じの通りアルマはこの孤児院の出です。

 子供の頃から皆を纏め引っ張ってゆく姉御肌でとてもしっかりとした子供でした。

 面倒見も良く喧嘩の仲裁をしたり、新しく入った子が早く馴染めるようにと何やかんやと世話を焼く優しい子でもありました。

 そんなアルマが……

 

 ~中略~

 

 人生経験の浅い二人ですので、皆様のお力添えが必要になるかと思います。

 その際には、是非ともご指導ご鞭撻を賜ります事をお願いいたしまして、私のご挨拶に代えさせて頂きたいと思います。

 本日は誠にありがとうございました。」


パチパチパチ

盛大な拍手が起こる。

流石院長先生、場慣れしてるだけあってこうゆうのも全く危なげなくてとても上手。

私も前世では部下を持つ立場だったので部署内でみんなの前で話す事はあっても、こんな大勢の人の前で話すなんて事は一度も無かった。

だから私には絶対無理だなと思ってしまう。

そう思っていたんだよ。

ええ、本気でそう思っていましたとも。

なのに何故わたし?

マジで?


ええぇぇ。


何故か私も前へ呼ばれて何かひと言話せと言われる。

ムリムリムリ。

ぜーったい無理。

そもそも何で私?

他にもっと適任な人いるでしょ?

え? アイザックさんを助けた命の恩人なんだから当然?

二人の為にもここは快く引き受けてくれ?

ぐっ、ズルいな。

そう言われると何も言い返せない。

断れないじゃない。

私が百面相をしながらうんうん唸っていると


「それでは、お二人にとって大恩あるオルカさんより祝辞を賜りたいと思います。 オルカさんどうぞ!」


ベルさんにそう言われてしまう。

げっ。

ホントに来ちゃったよ。


「えー、ただ今ご紹介にあずかりましたオルカです。」


「知ってるぞー。何かカッコイイ事言えよー。」


くっ、話し出した早々話の腰を折るんじゃない。

それにカッコイイ事言えとかむやみやたらとハードルを上げるな。


「皆さまご多忙中にもかかわらず……」


「それは院長先生がさっき言ってた。他は何かないのかー。」


や、やりにくい。


「本日はお足元の悪い中……」


「ギャハハハ、足元悪いどころか雨すら降ってねーぞ。」


もうイヤだ。

話が進まないよ。

誰か助けてよー。

まるで酔っ払いの相手してる気分だよ。

流石にこれじゃ話が進まないと判断したのか周りに居た人がヤジを飛ばしてた人の口を押えて物理的に黙らせる。

まだ何かモゴモゴ言ってるけど聞こえなければ問題ない。

取り合えず其れらしい事を言って誤魔化す私。

こんなんで本当にいいのかな?って不安はあるけれど何も言わないよりはマシだろうと思いつく事を喋る。

そして最後に


「前途洋々のお二人の門出にあたり、私から心ばかりの贈り物をご用意させて頂きました。」


私はシャンパンタワーの所まで歩いてゆき囲ってあった木の板を外す。

すると綺麗なおよそこの世界ではあり得ないような透明度のグラスを積み上げたタワーが現れる。

8段に積まれた三角タワー。

グラスの中には葡萄が1粒入っていてワインが注がれている。

それが陽の光を受けてキラキラと輝いていて二人の前途を祝福しているみたい。


「「「おおぉぉぉぉっ!」」」

「スゴーイ。」

「綺麗。」

「キラキラしてて宝石みたい。」


皆が口々に感嘆の声を上げている。

こうゆうキラキラした物とか綺麗な物って平民には中々手が出ない物が多い、見るからに高級そうな物って貴族の特権みたいなとこがあるからね。

それがこうして目の前にあると気分も高揚するんだろう。


「それじゃあ、まずはお二人。」


今日の主役の二人にグラスを持って貰って、それからみんなにもグラスを配る。

グラスを持ち上げて光に透かして眺める人、スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる人。

或いは指でグラスを弾いてチンと甲高い音を鳴らす人。

因みに妊娠しているアルマさんと子供たちはお酒ではなくて果実水になっている。

グラスがみんなに行き渡ったのを確認して乾杯の音頭をとる。


「お二人の末永いお幸せと本日ここへお越し下さった皆さまのご多幸とご健勝を祈念いたしまして、乾杯!」


私は声も高らかにグラスをグイっと高く持ち上げる。

それに合わせて皆も同じように声を合わせて大合唱。


「「「「「カンパーイ!」」」」」


あちらこちらでグラスを鳴らす涼やかな音が聞こえる。

私とドロシーは未成年なので果実水を勢いよくグイっとあおる。

プハーッ。

美味い。

飲み終わったグラスは台の上に置く。

そして皆に声を掛ける。


「みんなー、好きなだけ食べて飲んで行ってねー! それと飲み終わったグラスは回収するのでこの台のとこまで持って来てねー。」


一応回収の事は言うだけ言っておく。

多分、ううん、こっそりとしまって持って来ない人も居るだろう事は分かっている。

だからこその時限式自壊魔法陣を刻んだのだから。


「なぁ、これ持って帰って売ったらすんげぇ高値で売れるんじゃねーか?」

「おっ、そりゃ名案だな。」

「じゃあ俺はみんなから搔き集めて来るわ。」


「ちょっと!飲み終わったら持って来てって言ってたでしょ?勝手に持って帰っちゃダメじゃない!」

「そうだよー、人の厚意を無碍にしちゃダメってお祖母ちゃんから言われなかった?」


「なんだよ、うっせーなー。俺の勝手だろ?」

「お前等にゃ関係ねーよ!」


「そうゆうのイケナイんだよ? そんな考えじゃ碌な人間にならないよ?」

「そうだそうだー。」


「はぁぁ? んだってコラァ!」

「女のクセに生意気言ってんじゃねーぞ。」


「はん! やるってーの? いいわよ、掛かって来なさいよ!」


ん?

ありゃりゃ、なんかあそこが険悪な雰囲気になってない?

遠くて良く聞こえないけど何かとっても拙い状態のような。

リズー、あれどうしよう、ヤバくない?

リズに相談すると「ちょっと行ってくる」と言ってスタスタと歩いて行った。

うーん、リズちゃん頼りになるなぁ、さっすが。

騒ぎが起きている場所に向かってリズが真っすぐに歩いてゆく。

とは言っても知らんぷりする訳にもいかないので私もリズの後をおいかけてゆく。

すると人垣の隙間をするすると掻い潜るように進む小さな人影が1つ見えた。

私の立っている場所からは良く見えたけど他の人には良く見えなかったみたいで誰も気付かない。

そして甲高い可愛らしい声が辺りに響いた。


「オジちゃん、ちゃんとかえさないとメッだよ。」


脚を肩幅に開きグイと胸を張り、ビシッと人差し指をさす女の子が一人。


「しなさいといわれたこともできないの? いんちょーせんせーやお姉ちゃんにおこられちゃうよ。」


周りは沈黙……

ハラハラドキドキ。

もし今この男が暴れでもしたらこの女の子の身が危ない。

それでも女の子は止まらない。


「しかたないですね、おねーちゃんがかえしてきてあげます。ほら、かしなさい。」


そう言って得意げに手を差し出してグラスを取り上げてしまう女の子。

「は?」と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして佇む男たち。


そして……クスクス笑い。


ぷ。


クスクス。


ぶはっ。


誰かが盛大に吹き出した。


「ぶはははははははは!」


巻き起こる爆笑の渦。

己の狭量さを気付かされ笑われた事への羞恥。

顔を真っ赤にして「覚えてろ」と捨て台詞を吐き逃げるようにその場を去ってゆく男たち。


「せいばいしてやりました。」


ドヤッて顔をする女の子。

そしてまた爆笑。

ひー、おっかしい。

もう笑った笑った。

お腹抱えて大笑いしちゃった。

そんでもってよく見たら女の子はあのエラちゃんだった。


「お姉ちゃーん!」


小っちゃなアンヨを一生懸命動かしながらエラちゃんが駆け寄って来る。

私の方へ飛び込んで来るのをしゃがみながらしっかりと抱きかかえるようにキャッチ。

「エヘヘ」と笑いながら私の肩の辺りに顔をグリグリとするエラちゃん。


「エラちゃん助けてくれてありがとうね、助かったわ。でも危ない事はしないでね、約束よ。」


「うん、わかったー。それからね、お姉ちゃんのことはエラがまもってあげるからね!」


「あらまぁ、可愛い女性騎士さまね。」


これにはみんなもほっこり。

とっても優しい眼差しでエラちゃんを見ている。

エラちゃんて可愛いわねー。

あ、一応誤解の無いように言っておくけど決して幼女趣味はないからね。

純粋に庇護欲がそそられるだけだから。

院長先生もやって来てエラちゃんに危ない事しちゃダメでしょって言い聞かせている。

だよね、たまたま今回は大丈夫だっただけでもし万が一があったら大変だもん。


それからみんな美味しい食事を楽しんだ。

普段なかなかお腹いっぱいまで食べられない孤児院の子供たちは頬一杯にお肉を詰め込んで食べている。

男の子も女の子も笑顔笑顔笑顔。

どこを見ても笑顔の子供たちがいっぱい。


「「「美味しーっ!」」」


子供たちが喜ぶ顔を見て微笑む大人たち。

院長先生やサラさんパメラさんも目を細めてその様子を嬉しそうに眺めている。

両手に串焼き肉を持ち交互にお肉を頬張るエラちゃんが何とも言えず可愛らしい。

もきゅもきゅと食べるその愛らしい姿を見ているとつい笑みが零れてしまう。

隣りには同じように両手に串焼き肉を持ち交互にパクついているメロディが居て、エラちゃんと二人で「美味しいねー。」なんて言い合っている。

これじゃあどっちが子供か分かんないな。

みんな思い思いに飲んで食べて歓談している。

そんな中を二人手に手を取って挨拶しているアルマさんとアイザックさん。


「おめでとう。二人ともお幸せにね」


「「ありがとう。」」


そのまま今度は私の所までやって来た。


「オルカさん、ありがとう。私たちの為に色々としてくれたって聞いたわ。さっきのあの綺麗なグラスとかお肉とか色々。本当にありがとう。」


そう言って深々と頭を下げる二人。

もー、そんなのヤメてよ。

いいっていいって。


「お礼だったら私じゃなくて、今日ここに来てくれたみんなに言ってあげて。それとこの場所を快く貸してくれた院長先生にも。 それにそんなに畏まる必要はないわよ、貴方たちは笑ってありがとうって言えばいいの、私たち幸せになりますって言うのが聞ければ皆それで満足なんだから。」


「うん、ありがとう。」


そう言って笑うアルマさんの笑顔はとっても綺麗で今日イチだった。


それから一頻りアルマさんやアイザックさんと話をした。

なんでもアイザックさんは近々冒険者を引退する事にしたらしい。

大怪我をして死に瀕した事、子供が出来た事などが引退を決意した理由だそうだ。

これからは冒険者ギルドで職員として働くんだって。

男は守るべき者が出来ると意識が変わるからね。

自分がしっかりしなきゃ!ってなるんだよ。

それはとってもいい事だと思うし、逆にそう思わない男はダメだ、問題ありだ。

結婚もした、子供も出来た、だからもっともっとガッポリ稼いでやるぜ!って危険な依頼を受けるようではダメって事。

万が一が起こったらどうするの?

残された妻子の事は考えないの?

そうゆう事なのよ。

でも、アイザックさんがそうじゃなくてキチンとしている人だと言う事が分かって安心だ。

アルマさんはいい人を掴まえたね。


どうぞお幸せにね!




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