第136話 お風呂に入りましょ
メイドさんたちに取り囲まれてドレスを脱がされた私。
お世話されるのに慣れてないのでこれには戸惑った。
みな丁寧に扱ってくれるし次は「手を挙げて下さい」とか具体的な指示もあるので困る事もなくて、まるで貴族か何かになったかのような錯覚に陥る。
世の貴族や富豪って言われる人たちはこうゆう風に傅かれているのね。
すごい世界だわ。
お世話されるのに慣れている生粋の貴族であるアシュリー様はいつも通りと言う感じで泰然としている。
そして見事にドレスを脱がされた所でみなが私をジーっと見ている。
今ここ。
「えっと、あの、何でしょうか?」
やはりと言うか何と言うか、ロジーヌさんと同じ反応だ。
ドレスにラインが出にくいこの下着ってこっちの世界では珍しいから何だコレは?て感じで見られている。
ええっとですね、恥ずかしいのでそんなに見つめないでくれます?
「恥ずかしいんですけど。」
顔が熱くなるのを感じながらそう言うと「はうっ!」とか「はぁぁぁ」とか聞こえて来た。
綺麗な女性を見慣れているメイドさんたちが軽くため息を吐いている。
「そのレースで透けているのは下着ですの?」
「あ、はい。そうです。」
「見た事もない形ですわね。」
そう言って徐に私の豊かな双丘をそっと持ち上げるように触れるアシュリー様。
あん。
ちょっといきなり触るのはダメですよ、メッ。
思わず声が出ちゃったじゃないですか。
あ、そんなにふにふにしちゃダメですってば。
円を描くように優しく撫でるのもダメです!
アシュリー様が真剣にお触りしている。
そろそろヤメません?
「これはけしからんですわ! 何ですのこの柔らかなお肉の山はっ!」
「ひゃあぁぁぁ」
「んふ、オルカお姉さま可愛らしいお声をお出しになって。」
口角をニイっと上げて楽しそうに笑うアシュリー様。
今ちょっと悪い顔になってますよ。
「これです、これがイケナイのでございます。最高級の白パンよりも白く柔らかなこのお胸が私を誘うのですわ!」
そう言いながらふにふにと私の胸に指を沈めてゆく。
あ。
ね、ねぇ、もうホントにヤメません?
んはっ。
声 が出ちゃうから。
「オルカお姉さま、悩ましい声が出ていますわ。」
流石にそれ以上は……
私は両腕をグッと前に伸ばすようにしてアシュリー様を引き剥がす。
ほっ。
何とか引き離す事に成功した。
これあとちょっと続いたらヤバかったよ。
「もー、メッ!ですからね!」
「そんな可愛らしく怒られても。もっと叱られたくなるではありませんか。」
「ダメなものはダメです。今日はもうお触り禁止です!」
私は胸の前で腕をクロスさせてバッテンを作ってダメ出しする。
「今日は、ですのね。では明日なら大丈夫と。んふふ、了解しましたわ。」
え……
いや、そう言う意味じゃ。
言葉のまま取るとそうなるのか?
でも普通は言葉のままには取らないですよね?
それだけアシュリー様は素直なのだと、そう思う事にしよう。
それに今日はここに泊るかもしれないけど明日の朝には宿に帰るんだからそれ以降はもう接触なんてないだろうしね。
なら大丈夫だよね?
そう思案しているとジャスミンさんやメイドさんたちは私たち二人を優し気な目で見ていた。
なんか急にお母さんがいっぱい増えたような気分だよ。
「お嬢様、そろそろお風呂に入りませんとお身体が冷えてしまいますよ。」
私もアシュリー様もすっかり裸にひん剥かれてすっぽんぽんになって前をタオルで隠した状態になっている。
確かにこのままじゃちょっと肌寒くて身体が冷えちゃうかもね。
っと、その前に。
私から剝ぎ取られたレース仕様の下着を見てあれやこれやと話をしているメイドさんたちから脱いだ下着を回収する。
だって脱いだ下着をしげしげと見られるなんて恥ずかし過ぎるじゃない。
一体何の罰ゲームなのよって話よ。
因みにアシュリー様の下着はこちらのスタンダードな物だった。
ただ、素材は平民が使うような物ではなくて貴族用の艶やかな高級な物に替わってはいたけれど。
アシュリー様と手を繋いで脱衣所からお風呂場へ移動する。
私たちが歩くのに合わせてメイドさんが無駄のない流れるような美しい所作でお風呂場の扉を開けてくれる。
「ありがとう。」
「ありがとうございます。」
アシュリー様が平民のメイドさんにお礼を言っている。
私の知っている貴族って小説の中の世界だけで、その小説の中の世界では貴族とは偉そうで横柄でふんぞり返っているイメージだったんだけど、どうやらアシュリー様は違うようでにこやかにお礼を言っているのが印象的だった。
すごく優しい子なんだな、だからあんなにも使用人から好かれているんだ。
アシュリー様やそのご家族を見ていると私の貴族のイメージが少し変わったって言うか、貴族も捨てたもんじゃないなって思った。
ただこれは他の貴族をまだ見た事もなくて、私の知ってる貴族ってアシュリー様とその家族だけだからそう思っているだけってのはあるかも。
でもまぁ、アシュリー様が変な貴族じゃなくて良かったよ、ほんと。
アシュリー様と連れ立ってお風呂場の中に入る。
中に入ると温かい湿気に包まれる。
あー、やっぱお風呂はいいな、元日本人だからかなんか安心する。
お風呂場は思ったよりは広くない。
ううん、違うな、温泉旅館の大浴場を基準にするとそう思ってしまうけど、普通に入るなら十分な広さはある。
湯舟は5人くらいならゆったりと入れるくらいには広いし詰めれば10人くらいはいけそうな感じ。
温泉旅館のお風呂の洗い場みたいなのは無い。
ないけれども少し高さのあるシングルベッドのような台が並んではいる。
湯舟には浅くなっていて寝湯みたいな場所もある。
あと湯舟の端にはマーライオンのように口からお湯を吐き出している像がある。
これは魔物か何かかな?
こうゆう像になるくらいだからきっと何か謂われがあるとか、伝説の魔獣とかなのかもね。
私はいつもの要領で自分で手桶を使ってパパっと掛け湯して湯舟に入ったけどアシュリー様はメイドさんたちに恭しくお湯を掛けて貰っていた。
こんな所にも平民とお貴族さまの違いが出てる。
メイドさんたちは高貴な方のお世話をするのが仕事だからアシュリー様がお風呂に入るのにも付きっきりでお世話をしている。
お湯を掛けて貰って「もういいわ。」と言ってアシュリー様が湯舟に入って来る。
私は肩までお湯に浸かって居たので湯舟に入って来るアシュリー様が良く見えた。
ええ、良く見えましたとも。
アシュリー様ったら全然恥ずかしがらずに入って来るもんだからお花が見えちゃいましたよ。
むふ。
「ふう、気持ちいい。」
ですよね、お湯に浸かるって気持ちいいですよねー。
私もそう思います。
お湯に浸かっていると1日の疲れも吹き飛びます。
アシュリー様と並んでお風呂に浸かり他愛もない話をする。
裸の付き合いって言葉があるけれど、昔の人って上手いこと言うもんだなぁと感心する。
一緒にお風呂に入ってお話するだけなのに距離がちょっと縮まったような気がするもん。
「所でオルカお姉さま、どうして敬語で話してらっしゃるのでしょうか?」
「え? どうしても言われましても。 あまり砕けた口調だと不敬なのでは?と思いまして。」
「いいえ、そんな事はございませんわ。私とお姉さまの仲ではございませんか、不敬などとんでもない。むしろ普通に話して下さる方が嬉しいですわ。」
いや、でも平民が貴族のご令嬢にタメ口なんて不敬以外の何物でもないわ。
それやっちゃったらどんなお咎めが来るやも知れないのにそれは出来ないですって。
「流石にそれは……」と言葉を濁したのだけど
「私が良いと申しているのですから問題ありませんわ!」
と仰るアシュリー様。
ええぇぇぇ。
「でも……」
「名前で呼んで下さいまし。」
えっ……。
思わず固まる私。
いやいやいや、それは駄目ですって。
「ですから先程から申している通り問題はありませんわ。何でしたら「アシュ」と呼んで下さって構いませんのよ。」
もっと駄目ですって。
流石に愛称呼びは駄目でしょう。
愛称で呼んでいいのは家族とか婚約者とかごくごく親しい人のみで、普通は友人でもせいぜい名前呼び止まりですよ。
名前呼びでさえ本人が許可を出さないと名前で呼んじゃいけない筈だし。
私なんかが名前呼びなんて恐れ多くて。
「さっ、アシュと呼んで下さいな。」
ニコニコとしながら名前が呼ばれるのを待つ少女。
絶対呼ばないと駄目ですか?
早く呼べ?
遠慮は要らないから可愛らしく呼んで欲しい?
そうですか。
「ア……」
「ア?」
「ア アシュリー様。」
「はいっ!」
速っ。
言うか言わないかの内に速攻返事が返って来た。
しかもすっごい笑顔。
もうニッコニコ。
「もう一度言って貰えますか?」
よほど嬉しかったんだろうね、もう1回名前を呼んで欲しいとリクエストされた。
名前を呼ばれるのが待ち切れないと言った風情でワクワクしているのが手に取るように分かる。
「アシュリー様。」
「はいですわ!」
今回もとっても良い返事だ。
そしてこれ以上ないってくらいの笑顔を見せてくれる。
うむ、可愛い。
名前を呼んだだけでここまで喜んで貰えるとは。
「うふふ、オルカお姉さまに名前を呼んで頂きました♪」
「お嬢様良かったですね。」
喜ぶアシュリー様を見て侍女のジャスミンさんも嬉しそうだ。
そして「オルカお姉さま」って言いながら私の横にピトっとくっついて来るアシュリー様。
顔が近い。
ちょ ちょっとちょっと。
近すぎません?
「おイヤですか?」
ぶるぶるぶる。
私はすぐに顔を左右に振る。
「そう、良かった。」
そう言って私に身体を預けて来る。
アシュリー様の重みが伝わる。
ふえぇぇ。
ドギマギするよー。
心臓が早鐘を打っている。
アシュリー様ったら子猫みたいに顔をスリスリして来てゴロニャンしてる。
目を細めてうっとり顔にかなりそそられるわ。
「お楽しみ中申し訳ありません。お嬢様、一度上がってお身体を洗ってしまいましょう。」
湯舟から上がって椅子に座るよう促される。
そしてメイドさんたちに取り囲まれてお世話される。
恭しくお湯を掛けられて、泡をたっぷりと付けたタオルで優しく優しく洗われる。
腕を持ち上げられて指先から、指の1本1本丁寧に洗われて、腕、肩へと続く。
脚も足の指からくるぶし、ふくらはぎ、太腿とタオルで包むように洗われる。
んっ。
ちょ、そこはデリケートな所だから自分で洗うから。
私がそう言ってるのに「心配には及びません、どうぞ安心してわたくし共にお任せ下さいませ。」と言ってきかない。
いやいやいや、そんなん安心なんか出来ませんって。
どうにかこうにかそれだけは固辞して事なきを得た。
隣りのアシュリー様を見ると同じように洗われていたけど平然としてたからきっとそれが日常なんだろう。
うーん、貴族っておそろしい。
その後胸も洗われた。
メイドさん3人がかりで懇切丁寧にしつこいくらいに優しく洗われたよ。
もうホント勘弁して下さい。
息も絶え絶えで私顔真っ赤になってるかも。
頭がボーっとしてる間にパパパッと髪の毛も洗って貰って今は頭にタオルを巻いている。
その後さっき見たシングルベッドのような台の所まで案内される。
寝そべっても痛くならないように台の上にはタオルが何枚も重ねられて敷かれている。
そこにうつ伏せに寝かされて、身体が冷えないように背中から腰お尻にタオルを掛けられてメイドさんによってマッサージを受ける。
これは気持ちいい。
トントン トントン 軽く叩かれる。
最初は軽く優しく、そこから少しづつ強くなっていく。
背中を押す時も最初は軽めに、その後は少しづつ強く押す。
はぁぁぁぁ。
これは極楽だわ。
もう最高。
「気持ちいい。」
ついつい声が漏れてしまう。
アシュリー様が「そうでしょそうでしょ」みたいなドヤ顔でこっちを見て笑っている。
すんごい自慢げな顔だけどそれはそれで可愛らしいのでヨシとしよう。
それからまた湯舟に浸かって身体を温める。
元日本人の私はゆったりと肩まで湯舟に浸かり身体全体でお湯の温かさを楽しむ。
このお湯の温かさがじわじわと身体に染みこんで来るような感じが堪らなく気持ちい。
ついつい長湯してしまいそうになる。
「私お風呂は嫌いではないのだけれどお風呂から出た後疲れるのです。」
そう言って苦笑するアシュリー様。
ああ、それはあれですね。
「それはのぼせか湯疲れではないでしょうか。」
「のぼせ?湯疲れ? どちらも聞かない言葉ですわ。 それってどう言う症状ですの?」
ん?
聞かない言葉?
そうなんだ。
平民もお風呂に入るんだからそうゆう概念もあると思ったけど違うのかな?
まっ、それは一旦置いといて。
「のぼせと湯疲れと言うのはですね……」
私はアシュリー様に分かりやすく説明する。
のぼせるとは頭や顔に異常な熱感を感じる事で、ボーっとしたり、身体のほてり、顔面の紅潮などが主な症状で、湯疲れとは普段あまり長時間お湯に浸かる事がない人が長湯したりするとなる脱水症状や熱疲労で体調を悪くする事。
どちらも入浴後わりとすぐに症状が出るのは一緒だ。
予防法としては、長湯をしない、こまめに水分補給をする事かな。
なので、
「今日は早めに上がって水分補給をしましょうか。」
そう言ってアシュリー様を促す。
普段は我慢して我慢してもっと長くお湯に浸かっているんだそうだ。
きっと原因はそれだと思う。
お風呂慣れしている日本人ならいざ知らず、こっちの世界の人は日本人ほどお風呂に入らないみたいだしね。
だから今日は早めにお風呂から上がってゆっくりしましょうか。
お風呂から上がるとお風呂に入る時と同じようにメイドさんたちにわらわらと囲まれて身体を拭かれる。
こうゆうお世話されるのに慣れてないのでどうしても戸惑ってしまう。
私は庶民なの、庶民は自分の事は自分でするのが当たり前だから。
アシュリー様はやはりさっきと同じようにメイドさんたちにされるがままにお世話されている。
そして下着もお世話されそうになったので「自分で着ます」と言ってパパっと下着を着けてしまう。
メイドさんが何故か残念そうな顔をしているけど何でだろう。
きっとすんごく仕事熱心な人なのだろうか。
この後着る服は……既に用意されていた。
アシュリー様と同じ服だね、長袖のロングのワンピース。
ただ素材はすべすべして手触りのいい布地でお貴族さま用のきっとお高い物なんだろう。
私の方がアシュリー様よりちょっとだけ背が高いので、その分だけ裾が短くなっている。
「お揃いの物を用意したのです!」
自身と私を交互に見てとても嬉しそうに笑顔を見せるアシュリー様。
お揃い、確かに嬉しいよね。
私もリズたちとお揃いのワンピース持ってるし。
なので私もニコリと笑顔で返す。
笑っている私たち二人をジャスミンさんやメイドさんたちは優しい目で見つめている。
「麗しい美少女が二人で見つめ合って……」
「ええ、ええ、分かります分かります。」
「オルカお姉さま、あの日よりずっとお慕いしておりました。」
「私もよ、ああ、私の愛しいアシュリー。」
なんかメイドさんたちがきゃいきゃいと盛り上がっているけれど全部聞こえてるよ。
しかも勝手にストーリーを作らないでくれます?
「貴女たち、盛り上がるのはいいけれどもう少し声を抑えなさい。さっきから丸聞こえよ。」
そうは言っているけど顔を赤くしてちょっと嬉しそうに言うアシュリー様。
何故そこで嬉しそうなのか?
しかも何かを期待した瞳でジッと見ないで下さいます?
う。
あうっ。
「そ、そろそろ戻りません? 従魔も待たせたままですし。」
「逃げた。」
ヘタレでごめんよ。
でもドロシーは裏切れないもの。