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第134話 鼻薬を利かせ過ぎたかも ③

ギルマスと領主様がとても仲がいい。

と言うか気安すぎるくらい気安く名前を呼び合っている。

それがすっごく気になってんだけど、ギルマスと領主様って敬称なしの名前で呼び合ってるのよね。

これっていいのかしら?

普通なら不敬も不敬、即その場で罰せられても可笑しくないと思うんだけれど。

戦国時代なら打ち首ですよ。

でもまぁギルマスもああ見えてどうやら本物の貴族みたいだし、そうは見えないけど。

だから領主様と面識くらいあっても可笑しくはないのよ、可笑しくはないけど領主様に対する態度としては可笑しいのよ。


「なぁ、今失礼な事考えてただろ?」


ギルマスがジト目で私を見ている。

なんで私の考えてる事分かるの? もしかしてギルマスってエスパー?


「なんで分かるんです?」


「いや、そんな怪訝な顔してこっち見てたら誰だって分かるだろう。」


「ギルマスさっきから領主様に対してかなり失礼な事言ってますけど大丈夫ですか? 普通なら不敬で処罰の対象とか」


領主様に聞こえないように小声で言ったのに


「いや、それは大丈夫だ。なぁヴィンス?」


私の考えなんてお構いなしに大きな声で領主様に話しかけるギルマス。


「ん? そうだな。私とガスパーの仲だからな。それにコイツは昔からこうゆう奴だから。」


そう言って屈託なく笑う領主様。

でもでもそれにしたって程度ってものがあるでしょ?

いくら仲が良くても親しき中にも礼儀ありって言うじゃない。

ギルマスにはそうゆうのが感じられないのよ。


「何か納得いかないって顔してるな。」


「いえ、別にそうゆう訳では。」


「あー、分かった。教えてやる。けど誰にも言うなよ? 俺とヴィンスは同い年の乳兄弟なんだよ。」


え?


マジ?

ギルマスと領主様が乳兄弟?

同い年?

どう見ても領主様の方が若々しいんですけど。


「ワハハ、吃驚してるな。もっと言うとな、殆ど他人みたいなモンだが遠縁の遠縁の親戚でもある。」


いえ、吃驚してるのは別な意味でもですけどね。


「だな。子供の頃一緒に過ごし良く遊んだな。ガスパーは子供の頃から悪ガキでな、いや今も悪ガキのままか。」


「おいおい、随分な言い草じゃねーか。俺も大人になったんだぞ?」


「あら、ガスパー様が大人ならここに居る全員が大人ですわね。」


うわ、カリーナ様結構キツイ事言ってる。

とってもいい笑顔で毒吐いてるよ。


「カリーナは相変わらずキツイなー、カカカ。」


けどギルマスには届いてない。

全くへこたれる事なく笑い飛ばしている。

この心の強さ、ううん、この鈍感さがギルマスの強みなのかも。

しかも周りのみんなも同じように笑っているし。

私的には笑うに笑えないんですけど。

普通なら喧嘩になっても可笑しくないのに喧嘩にならないのはギルマスの鷹揚さによるものなのかもね。

これも一応人徳と言えなくもないのかな。


さっき毒を吐いたカリーナ様がとってもイイ笑顔で私に話しかけて来る。

笑顔なのに笑ってないって分かる?

それよそれ。

とにかく圧がすごいんだって。


「ねぇ、オルカ様?」


ひっ!


ななな 何でしょう!


「あら、そんなに驚かなくても宜しくてよ。取って食べたり致しませんわ。」


ひぃぃぃぃ


ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい。

どうか命だけはご勘弁をー!


「うほん。 カリーナ、オルカ殿が怖がっておるようだからもっと優しくだな……」


「あら、私は優しくてよ。ねぇ、オルカ様?」


「は はい。」


ふえぇー

怖いよ怖いよー。

誰か助けてよー。


ね、アシュリー様?

見るとスッと視線が逸らされた。

マジかい。

あんたの母親ちゃうんかい!

あ、またカリーナ様と目が合っちゃった。

蛇に睨まれた蛙ってまさに今の私の心境だわ。


「お願いが御座いますの、聞いて下さらない?」


「か 畏まりました。」


「あら、内容を聞かずに宜しいのかしら?」


内容を聞くも何もお願いがあるって言った時点で私には拒否するなんて出来ないじゃないですか。

聞くしか選択肢が無く拒否権すらない。

謹んでお受け致します、それしか答えようがない。


「まぁ嬉しいわ。」


カリーナ様はとっても美しい笑顔だけれど他の皆は微妙な顔してる。

きっとこうなる事が分かってたんだろう。

たまたまそれの犠牲者が私だったってだけで、明日は我が身って思ってるのかもね。

今日の流れから考えるとカリーナ様のお願いってアレだと思うのよ。

ううん、むしろアレしか考えつかない。

絶対に『女神の贈り物』絡みだよね。


「所で、『女神の贈り物』ってまだ持ってらっしゃるのですよね?」


ほらキター、ただの疑問形じゃなくて「持ってるよね?」と来た。


女性なら美容にいいって聞いたら欲しくなっちゃうのは分かります。

ええ、もうそれは仕方ないです。

女性陣の視線の痛い事痛い事。

8つの(まなこ)が突き刺さるとはこの事。

そして私を伺うようにジッと見る男性陣。

これってやっぱ出さないとダメなやつですよね?


「ほら。」


カリーナ様がとってもイイ笑顔で手を差し出してくる。

もう貰ったつもりって事ですね。

なんかね、出さなかったら出さなかったでガッカリされて、出したら出したでそれはそれで面倒事になりそうだし。

どっちにしても私にはあまりメリットが感じられないのは確か。

だけどこの状況で出さないってのはもう有り得ない雰囲気だし。

ここはもう考え方を変えて、出すものはすっぱりと出してしまって、貴族をそれもこの領地の領主様の奥方を味方につける方を選んだ方が賢い選択なんじゃないかと。

私はそう愚考する訳で。

小さく、それと分からないくらい小さく「はぁ」と溜息を吐く。


「最上級品ではないのですが。」


とひと言断りを入れて比較的大きめの物を8つ取り出す。

一応ギルマスにも要るかどうか尋ねたら「俺はいい」と遠慮された。


「「「「キター!」」」」


すっごい喜びよう。

特に女性陣の喜び方が半端ない。

口々にお礼の言葉を頂く。


「先の2つは王家に献上致しましょう。 しかし、本当に頂いても宜しいので? 売れば相当な金額で御座いますが。」


グレイソンさんが申し訳なさそうに言う。

ですね、でもいいんです。

圧力に屈した私が悪いんです。

それにこれが袖の下になるんならまぁいいかなと。


「ええ、どうぞお納め下さい。」


力なく笑う私を気遣うように見やる領主様とグレイソンさん。


「オルカ様から献上された品々の総額は金貨50枚を優に超えるかと思われますが……」


グレイソンさんが何か小声で言っているけど良く聞こえなかった。

けれど領主様はとても驚いたようで。


「そんなにか? オルカ殿、重ね重ね申し訳ない。 これでは何のために夕食に招いたか分からんな。 何か褒美を取らせたいと思うのだが何か欲しい物はないか? 何でも言ってくれ。何だったら息子の妻と言うのも吝かでないが。」


「父上そんな♪」


テオドール様がとっても嬉しそうにしてるけど私的にはそれはナイですからねと。

それに関しては謹んで遠慮しておきますとだけハッキリと伝えるとテオドール様はあからさまにガッカリした様子を見せる。

アシュリー様は「ほっ」と安堵の息を吐く、どして?

皆の視線が私に集中する。

私が何を言うのか皆が固唾を呑んでその瞬間を待っている。

う、沈黙が痛い。

そんな欲しい物って言われても直ぐには思いつかないですよ。

しいて言うなら平穏な生活かな。

まぁこの状況だとそれも怪しいけど。

さて、何か言わなきゃいけないけど何もいい案が浮かばない。

お金は特に必要としてないし、異性は要らない。

まぁ可愛らしい女の子ならウェルカムだけどそれだと私の性癖がバレちゃうし。

あー、困った。

私がうんうんと唸っていると沈黙を破るようにギルマスが質問して来た。


「なぁ、姫さん家探してんだってな?」


え?

ええ、そうだけど。

なんでギルマスが知ってるんですか?

今ここでその話ですか?


「なんでギルマスがそれ知ってるんです?」


「なんでって、リズたちと話してただろ?新しい家借りるとか何とか。別に内緒話とかじゃないから話してたんじゃないのか?ギルドの連中は結構知ってるぞ?」


「そうなんですか? あやー。」


「別に知られて困る事はないだろ。何人かで一緒に暮らしてる冒険者は多いからな。特に同じパーティーなら尚更だ。」


そりゃまぁそうですけど。

けど結局いい物件見つからなかったんですよね。


「いいのが無かったんですよ。家賃は安いけど治安が悪い場所だったり、古いわりに家賃が高かったり、立地はいいけどその分べらぼうに高かったりとか……。」


リズが不動産屋で紹介された物件をザっと説明する。

帯に短したすきに長しなのよね。

どの物件にも一長一短がある。

だから取り敢えず一旦今リズたちが借りてる物件に引っ越して4人で暮らそうかなって。

で、その内いいのが出て来るかも知れないからそれまでは気長に待とうかってなった。


「お姉さま何方かと一緒にお暮しになられるんですの? それはまさか…殿方 とか?」


はい?

このお嬢さんは何を言っているのでしょう?

なんで私が男と一緒に住まなきゃいけないの?

殿方のところでテオドール様とサイラス様がピクリと反応する。

なぜ二人がそこで反応するのかしら?


「違いますよ。今度女の子4人でパーティーを組むんですけど、そのパーティーメンバーと一緒に住もうかって話なんですよ。」


「「「はぁぁぁ」」」


安心したように大げさにため息をつく3人。

そしてそれを見て優しく微笑む大人たち。

「ふむ、そうか家を探しておるのか。」そう呟く領主様。

そして後ろに控えるグレイソンさんの方に振り返って何やら話している。


「グレイソン、あの屋敷はどうなった?ほら、例の男爵家が住んでいたあの屋敷。」

「あれでしたら買い手のつかぬまま今も空き家で御座います。」

「そうか、ならそれでいいのではないか?」

「それはオルカ様への褒美と言う意味で御座いますか?」


は?

何かすごい会話が聞こえたような気がするんですけど?


「そうだ、小ぢんまりとした屋敷だが小さすぎず使い勝手も良いし悪くない選択だと思わないか?」

「まぁ、それは良い案ですわ!流石お父様です。それにそのお屋敷なら近くですしすぐに遊びに行けますわ!」

「そうか、アシュも気に入ったか。そうかそうか、ならばそうしよう。グレイソンすぐ手配を。」


ちょ ちょっとちょっと。

そんな貴族が住むような大きなお屋敷なんて要らないですよ。

それにそのお屋敷って貴族街の中にあるんですよね?

だったらそもそも私入れませんし。


「ちょっとお待ち下さい。」

「うん? 何故止める。何か問題でもあったか?」

「はい。 オルカ様は貴族では御座いません故貴族街にお屋敷を持っても貴族街に入れない為住む事は出来ません。住めないのであれば意味はないのではないかと。」

「それは大変ですわ。お父様、すぐにオルカお姉さまを貴族にして差し上げて下さいまし!」

「む、それは流石に難しいな。」


いや、難しいどころかほぼ無理難題に等しいですよ。

そんな何でもない事で平民が貴族になれっこないですから。

アシュリー様もそんな無理仰らずに、ね。


「むうぅ。グレイソン、どうにかならないんですの?」


顎に手を当てて暫し考えてゆっくりと口を開くグレイソンさん。


「貴族街は無理でも平民街の上流階級が住む貴族街に近い場所で探すのは如何で御座いましょう?」

「それは名案ですわ!」

「そうだな、それが良さそうだ。グレイソン頼めるか?」

「御意。」


それって冒険者ギルドよりも北側の高級住宅街って言われてるあの地域の事ですよね?

なんかすんごく場違いな感じがするんですけど。

あの辺って豪商とか富裕層なんて言われてる人たちが沢山住んでるんだけど冒険者で住んでる人って居るの?

て言うか冒険者が住んでもいいものなのか?


「あの辺りなら貴族の屋敷ほど大きな物はないであろうし小ぢんまりとして使い勝手は良さそうだな。」

「隠居した貴族が少数の使用人を引き連れて住む離れくらいの大きさと思えば悪くない選択ではないかと。」


離れって……。

それに使用人を引き連れて?

私普通の平民、使用人になる事はあっても使用人を使うなんてないですよー。

なんかもう別世界の話だわ。

私的にはお屋敷とか館とか離れとかじゃなくても全然いいんです。

それこそ普通の家で十分なんですけど。

けど今のこの雰囲気でそれを言っても……通らないよね。


「では、そのように早急に手配致します。」

「うむ、頼む。」

「これにて一件落着ですわ!」


アシュリー様、それは北町奉行所の桜吹雪の方の真似ですか?

って、知ってる訳ないか。

でも一件落着って事は、私がその離れくらいの大きさの家を貰うのが前提なんですよね?

そんな大きなの要るかなぁ。

掃除とかメッチャ大変そうだよ?

大きすぎても光熱費が掛かりそうでそれも心配だしさー。

そもそもの話、そんな家貰っちゃっていいの?

何より貴族の小ぢんまりと平民の小ぢんまりって基準が絶対違うと思うのよね。

日本人の感覚からすると一戸建て2F、DK、風呂トイレ、それに部屋4つだと十分な広さなのよね。


所で、これって決定事項なんですよね?

領主様やアシュリー様を見ると満足気に「うんうん」と頷いている。

そうですか。

リズたちに言わないといけないんだけど信じてくれるかなぁ。

俄かには信じて貰えないような気がするよ。

どうしたもんだろうね。



「そう言えばオルカ殿、例の伝説の魔獣の事なんだが。」


はい、ズラトロクね?

あ、もしかして何か進展があったのかしら。

以前のグレイソンさんの口振りからも多分この事だろうなとあたりは付けてあった。


「小金貨500枚だそうだ。」





はあっ?




「えええぇぇぇっぇえっ!!!!」


びびびび 吃驚した。

金貨500枚? 嘘でしょ?

マジ?

本当に? 夢じゃなくて?

どど どうしよう。


「ほー、そりゃすげえ。姫さんやったな!」


やったな!じゃないですよ。


「めちゃくちゃ凄い大金じゃないですか!」


「これで暫くは遊んで暮らせそうだな、羨ましい限りだぜ。」

「金貨500枚と言っても4割が税金で持っていかれるから実質は金貨300枚なのだ。ただしオルカ殿の人頭税は一生免除になると言っておったぞ。」


人頭税免除。

いいの?

それプラス税金引かれても金貨300枚、日本円換算で3億円か。

おっそろしい。


「グレイソン、ガスパーに頼んでオルカ殿の口座に入金しておいてくれないか。」

「畏まりました。」


「今回ズラトロクを王家に献上するにあたってオルカ殿の名前は伏せてある。メイワースに所属する冒険者とだけ言って、男とも女とも言っていない。名前が知られると要らぬ詮索や勧誘、他の領地の貴族(バカ)が絡んで来たりと碌な事がないからな。だから私が後援をしている、私の庇護下にあると宣言して来た。これで早々馬鹿な事をする者も出ては来まい。」


「お、ヴィンス気が利くな。」


「当たり前だ、私を誰だと思ってるんだ。」


「ん、ヴィンスだろ。」


「そのまんまだな。」


「「ワハハ」」


「それとオルカ殿の功績を横取りするような形になって申し訳ないのだが、陛下から小金貨500枚を賜った。 すまぬ。」


そう言って軽く頭を下げる領主様。

ダメですって、領主様が平民に頭を下げてはダメですよ。

あ 頭をお上げ下さい。

私がアワアワしていると領主様はゆっくりと頭を上げてさも愉快だと言うようにクックッと笑っている。

本人は特に気にしてないようだけど私としてはとても気になりますよ、居た堪れない気持ちにすらなりますって。

その様子を静かに見ていたカリーナ様が「ヴィンス様、申し上げて宜しいでしょうか?」と。


「ん、なんだい?」


「先ほどのオルカ様への褒美として住居をと言う件ですが、その陛下から賜った金貨500枚でご用意されては如何でしょうか? 本来ならばオルカ様が受け取っている筈の褒賞金で御座いますから受け取るべき人に使うのが宜しいのではないかと。差し出口でしたら申し訳ありません。」


「そうだな、そうゆう考え方も一理あるな。分かった検討してみよう。グレイソン、カリーナの言った事も踏まえて何か良い物件を探してみてくれ。 土地屋敷で金貨300枚、改装費用・調度品や家具など一式で金貨200枚を目途に探してくれるか?」


「仰せのままに。」


優雅に一礼するグレイソンさん。


え?

えっ?

金貨500枚の家?

何言ってるですか?

考えが追い付かないのだけど。

それって5億円の家って事ですよね?

どんな豪邸なんだよー。

目を白黒させている私を見て


「おー姫さん、家探す手間省けて良かったな!」


と宣うギルマス。

いい訳ないでしょ!

そんな豪邸貰っても私じゃ維持出来ないじゃないの。


ねーホント、ちょっと待ってってばー。





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