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第133話 鼻薬を利かせ過ぎたかも ②

私の合図を待っていたグレイソンさんに目配せして最後の手土産を披露する。


「こちらは旦那様へ。」

「ん? 私にもあるのか? 気を遣わせたようで済まぬな。」


いえいえ、こうゆう心付けは必要経費ですから。

とは言ってないよ勿論。

いくら私が不用意とは言っても流石にこれは言わないわよ。


「こちらになります。」


グレイソンさんが勿体つけるように掛かっている布をゆっくりと外す。

するとそこにはツヤツヤぴかぴかの大玉の『女神の贈り物』が2つ鎮座していた。

これは私の手持ちの中でも色艶、張り、瑞々しさがとびきり上等な物の中から2つを持って来た。

勿論最上級品は出してない。

それは私が食べたいからね。

でも今回出したのはかなり良い物なので間違いは無いでしょう。


「これはっ!」


ガタッ!とおよそ貴族らしくない派手な音を立てて椅子から立ち上がる領主様。

グレイソンさんが差し出した『女神の贈り物』を置いてある所へゆっくりと近づきジッと見る。


「これはまさか……」


「間違いない。 しかしこれ程大粒で見事な物は初めて見た。」

「私も長年旦那様にお仕えして幾度となく王都へ参りましたが、これ程の物は見た事がありません。 これは大変貴重な物ですな。」


グレイソンさんも驚きを隠せないようだ。

ふーん、そうなんだ。

私的には普通に食べてるから良く分かんないんだけど。


「まさか『女神の贈り物』とは。」


しげしげと『女神の贈り物』を見つめる二人。

アップルマンゴーのような真っ赤な果実。

鼻腔をくすぐる芳香。


「念の為聞くが、オルカ殿はこれが何か知っていて出したのかね?」


えっ?

何言ってるのかな?

勿論知ってますよ。


「はい、勿論。」


「では、これが大変貴重な果実だと言う事も知っていると?」


当然。

そうでなきゃ手土産にしたりしないもの。


「ええ、そう言われているのも知っています。」


「ふーむ。」


あれ? 何か変な事言ったっけ?

あっれー?

この微妙な間はなに?


「お話し中失礼致します。 どうもオルカ様は事の重大さがあまり良くお分かりになられてないご様子。 ですので私グレイソンがご説明させていただきます。」

「『女神の贈り物』はとても珍しく貴重で滅多に採れない果実として有名なので御座います。 と言うのも『女神の贈り物』は魔力濃度の高い場所や深い森の中など強い魔物が跋扈するような場所に多く自生しておりまして、そうゆう場所は大変危険で普通の冒険者はまず立ち入らない場所でもあります。しかも実が生る時期というのが決まっている訳ではなくいつ実が生るか誰にも分からない。実が生ってもすぐに落ちて朽ちてしまう。ハッキリとは分かっておりませんが実がついてから落ちるまで長くて数日と言われています。」


「しかもな、運よく見つけてもまだ青かったり朽ちる直前だったりと丁度いい時期にあたる事もまれだし。だから普通はまだ熟していない青い実でも収穫するんだよ。そして追熟させて食べごろになるのを待ってから食べるんだよ。」


グレイソンさんの言葉のあとにギルマスが追加で説明をしてくれる。

へーそうなんだ。

全然知らなかった。


「私は真っ赤になって木に生っているのを採ったんですよ。」


「なにっ? 完熟品かっ! それはすごいな。」

「木に生っていた完熟品の『女神の贈り物』か、そんな貴重な物を私が貰って良いのか?」


何だかすっごい大事になってるような気がするんですけど?

ねぇ、大丈夫ですよね?

私やらかしてなんかないですよね?


「オルカ様、ですのでこれは大変な事なのですよ。これでお分かり頂けたかと。」


マジですか。

だって私そんなつもりじゃ。


「あー、まぁそんな心配そうな顔するな。別に犯罪でも何でもないんだしな。ただちょっと珍しい果物が手に入ってヴィンスも驚いただけだ。」


「うむ、ガスパーの言う通りだ。だからそう不安がる事はない。」


そうなんですね。

それならいいんですけど。

みんながそんなに騒ぐもんだからちょっと心配になっちゃって。


「所で姫さんよ、姫さんは『女神の贈り物』っていくらくらいするか知ってるか?」


あ、それならリズに聞いて知ってる。

聞いた時「高っ!」て思ったもん。

だってそこらの森に普通に生ってる実だよ?

それが小金貨1枚だって言うもんだから吃驚しちゃって。

なので正直にそう言うと。


「いや、そこらの森に普通には生って無いぞ。って言うかそこらの森にあるのか?」


「まぁ、詳しくは言えませんが。」


「そうだな、そうゆう飯のタネになる大事な情報は冒険者は秘密にするからな。だからヴィンスもグレイソンも欲しい時は姫さんに依頼という形で頼んで、生ってる場所を聞き出すような真似はしないでやってくれ。」


「うむ、承知した。」

「畏まりました。」


「姫さんは『女神の贈り物』にどんな効能があるか知ってるか?」


効能?

そんなのあるの?って思ったけど、こんな仰々しい名前付けてるんだから何かしらの効能くらいあっても可笑しくはないか。

でも何だろう。

思い当たる事と言えば、身体の中から浄化されると言うか洗い流されて綺麗になってスッキリするとか、魔力の回復が少し早くなったような気がするとかかな。

取り合えず思いつく事を言ってみた。


「なんだ、良く分かってんじゃねーか。それは体験談か?このクソ高い果物を一体どんだけ食ったんだ?羨ましい限りだぜ。」


「そんないつも食べてる訳じゃないですよ?たまーにですよ、たまーに。」


「いや、たまにでも相当な贅沢だとは思うが。相変わらず姫さんは意味不明に規格外なヤツだな。」


「失礼ですねー。私の何処が意味不明なんですか。普通ですよ普通。私なんて何処にでもいるそこらの町娘ですよ。」


「いや、そもそも町娘は『女神の贈り物』なんか知らんだろうし採って来ないぞ。」

「ですな、ガスパー様の仰る通り。オルカ様は少々無自覚に事を大きくするきらいがありますな。」

「まぁ、なんだ普通の町娘は従魔を連れて歩いたりはせぬだろうし、第一そんなドレスも持っておらんだろう。ましてや見た事もない鏡や『女神の贈り物』などと言う貴重な果物を手土産にする事もない。」


「つまり姫さんはこうゆうヤツなんだよ。」

「ですな。」

「だな。」


むう、私の評価が酷い事になってる。

納得いかない。

思わず眉間に皺が寄る。


「くかか、姫さんはそうゆう顰めっ面しても可愛いんだな。」


なっ!

またギルマスは変な事言ってー!


「もー、馬鹿な事ばっかり!」


「オルカお姉さま、私もお話に混ぜて下さいませ!」


私たちの話を周りでジッと聞いていたアシュリー様が参加して来た。

どうも私と話をしたかったけれど大人たちの話だったので遠慮していたが、ギルマスが冗談を言って茶化すのを聞いて我慢できなくなったみたい。

それにつられるように奥様方を始めみんなが会話に参加するようになった。


「これは『女神の贈り物』ですわね?久しぶりに見ましたわ。最後に食べたのなんていつだったかしら。」


生粋の貴族であるカリーナ様は食べた事あるんだ、流石。

他の人たちは名前は知っていても実物は初めて見たんだって。


「因みに、姫さんが持って来たこの『女神の贈り物』な、値段幾らぐらいすると思う?」


「え? 小金貨1枚じゃないんですか?リズはそう言ってましたけど。」


「そうだな、普通の『女神の贈り物』だったらそうなんだが、これはそもそもが普通の『女神の贈り物』じゃないからなぁ。」

「そうですなぁ、これ程の大粒の『女神の贈り物』はついぞ見た事がありません。これ程大きければそれだけで高値がつきますが、これは追熟させた物ではなくて木に生ってた完熟品でございますから。更に申しますと、追熟させた物よりも自然に木に生った完熟した物の方が効能が高いとも言われております。いやはや一体幾らの値がつく事やら。」

「だよなー、これ1個で庶民の1年分の生活費くらい軽く超えそうだな。」


え? そんなに?

庶民の1年分の生活費って確か小金貨3枚くらいだったよね?

それより高いって言うの?

いやいや、いくら何でもそれは高すぎでしょ。

ギルマス揶揄ってない?


「いや、冗談でも何でもないぞ。」

「ガスパー様の仰る通りでございます。これ程の逸品ならば金貨5枚でも安いと言って買う者は居るかと。」

「だよな、どうしても欲しいってヤツは居るからな。そうゆう奴等に売りつければ金貨8枚くらいまでだったら出すんじゃないか?」

「あり得るな、貴族は見栄や体面と言うのを殊の外重要視するからな。」


なんか恐ろしい事言ってるんですけど?

貴族って一体なんなの?

そこまでして高いお金出してまで食べる物でもないでしょうに。

私の考えている事が分かったみたいでギルマスがまた答えてくれた。


「えっとな、『女神の贈り物』の効能なんだが、姫さんが言った通りそれも勿論あるんだが他にもあるんだよ。例えば肌荒れ防止・美白効果・健康増進・眼病予防、体力の回復を早めるとか、一時的に毒や呪い・状態異常に軽い耐性が出来るとか、軽い風邪程度なら治してしまうとかな。」


「すごい、そんな効果もあったんですね、知らなかった。」


って言うかどんだけチートな果物なのよ。

正確な数は見てないけど私それをまだ480個くらいは持ってるんじゃないかなぁ。

ヤバ過ぎてもう絶対誰にも言えない。


「他にもまだあるぞ。魔力の回復を早め魔力総量を増やす効果と、魔法が使えない人間でも稀に魔法が使えるようになる事があるらしい。」

「魔法が使えると言うだけでそこから享受する利は計り知れない物が御座います故。」

「だからこそ貴族は高い金を出してでも『女神の贈り物』を買って、それを自分の子供に食べさせ身内から魔法が使える者を輩出したいんだよ。」

「まだあるな。ガスパーが風邪程度の軽い物なら治せると言ったが、少々重い病気でも継続して食べさせる事で治ったと言う事例もあるらしい。怪我は魔法やポーションで治せるが病気はその限りではないからな、どうしても治したいと思えば『女神の贈り物』に頼らざるを得んのだ。」

「ま、その継続して食べせるってのが極めて困難な果物ではあるんだがな。」


へ、へー。

そこはかとなく貴族の闇みたいな物を感じるよ。

貴族って893みたいに舐められたら負けみたいな感覚があるのかも知れないね。

なんか周りの圧がすごいんですけど?

ね、そんなジッと私を見ないでくれませんか?


「オルカ様、魔法が使えるのは何人に一人かご存じですかな?」


グレイソンさんが私に聞いて来るけど、それは知ってる。

魔力はみんなが持ってるけど魔法が使えるのは確か100人に1人だって聞いたわね。


「左様、良くご存じでらっしゃる。では、貴族とそれ以外ではどう違うのかご存じですかな?」


え?

貴族とそれ以外?

それ以外って平民って事でいいのかな?

どう違うって言われても。

逆に何が違うの?


「済みません、質問に質問で返すようで申し訳ありませんが教えて頂けないでしょうか。」


「ではご説明致しましょう。端的に言いまして違いは魔法が使える人の割合です。」


「割合?」


「はい、割合です。事実として貴族は10人に1人が魔法を使えます。」


「えっ? でも魔法は100人に1人って……」


「ええ、それで合っておりますよ。全体としては100人に1人で間違い御座いません。」


「それってつまり平民で魔法が使えるのって100人に1人よりもずっと少ないって事ですか?」


「御明察。」


「そうゆう事だ。だから姫さんのように強い魔法が使える平民は珍しいんだよ。とても貴重な人材と言える。」


「ここアンティア王国の人口は500万人程ですが、その内貴族は100分の3程です。」


100分の3て事は3%ほど。

つまり残りの97%が平民。

人数にすると貴族が150,000人で平民が4,850,000人。

150,000人の貴族の内10人に1人が魔法を使えるんだから、15,000人の貴族が魔法を使えるって計算になる。

アンティア王国500万人中魔法を使えるのが約50,000人、その内魔法が使える貴族が15,000人だから平民では4,850,000人に対し35,000人しか魔法が使えない事になる。


「貴族が10人に1人で、平民は約1000人に7人程しか魔法が使えないって事ですね。」


パーセンテージにして約0.72%か。

それは確かに少ない。

そう思うとリズやメロディが魔法を使えるってのはかなり珍しくて貴重な才能って事よね。

成る程ね、そうゆう事ならリズたちが他のパーティーに勧誘されるのも頷ける。

私は全属性使えるけど、これは女神様から貰った物だし、まぁ言ってみればズルだからね。


「では何故貴族とそれ以外でこれ程までに差が開いたかと言いますと……」


あ、それなら多分わかるかも。


「貴族だから魔法が使えるのではなくて、魔法が使えるから貴族に取り込まれた。 ですよね? 魔法が使える資質を持った人間が貴族に叙爵されたり、貴族と養子縁組したりしてどんどんと貴族に取り込まれていく。更にさっきの『女神の贈り物』が重要な役割を果たすと。魔法が使える資質を持った人間が集まって交わりそこに『女神の贈り物』を摂る。そうする事で更に魔法が使える資質を持った人間が増えてゆく。そうした結果が今日に至ると。」


「ご慧眼さすがで御座います。」


となると魔法が使える事が貴族に知られるって事はそれなりのリスクって事だよね?

これはちょっと失敗した?

知られない方が良かったのかな?なんて思ったりして。


「そう心配するな。こう見えてもこのヴィンスはまぁまぁいい貴族だぞ?」


ギルマス言い方!

まぁまぁいい貴族って失礼にも程があるでしょ!


「失礼な。いくら私でも娘の命の恩人に対して非礼を働く訳がなかろう?」


「そうですわ!オルカお姉さまは私の命の恩人、お父様がそんな事をする筈がありませんわ。先程からのお話を聞いておりますと無礼を働いているのはガスパーおじ様ではありませんの?」


「いや、それは違うぞ。これは無礼なのではなくて距離が近いって言うんだ。俺たちは同じ冒険者として信用しているし信頼もしている。その表れだ。なっ、そうだよな?」


「オルカお姉さまそうなのですの?」


え、それ私に聞く?

微妙に返答に困る質問ね。


「え、ええ、まぁ……」


否定しにくい。

けど手放しで肯定するのもアレだし。


「ほらぁ、オルカお姉さまは違うと仰っておりますわ!」


「姫さん、お前なぁ……」


私なにも言ってないし。

い 一応肯定はしたじゃない。

私悪くないもん。

そんな風に思われるギルマスの方が悪いんだって。


「お父様、この際ですから冒険者ギルドのギルドマスターはガスパーおじ様に代わってオルカお姉さまにやって貰ったら如何でしょうか?」


え?

この際ってどの際?

アシュリー様? 何を言っているのかしら?

そんなの普通に考えてダメに決まってるでしょ、有り得ないって。

ほら、ギルマスも吃驚して目が点になってますよ?

第一こんな小娘がギルマスだなんて他の冒険者の人たちが黙ってないし納得しないって!

実績も人望もないんだから無理無理。


「ふむ、私の可愛いアシュがそう言うならやってみてもいいかもな。面白そうだし。どうだガスパー、1回ギルマス辞めてみないか?」


「おい、親バカ領主。そんな簡単に1回辞めてみろとか言うな!面白くも何ともねーよ。子供の冗談を真に受けんじゃねー。」


「ダメか?」


「ダメに決まってんだろーが!」


ギルマスと領主様のやり取り見てみながクスクスと笑っている。

いや、カリーナ様も「相変わらず仲がいいわねぇ。」とか言って笑ってないで止めて下さいよ。


「仕方ないわね。じゃあもう少しだけギルマスの仕事を続けてもいいわ。でもオルカお姉さまには危険な仕事をさせてはダメですわよ!」


アシュリー様の発言を聞いてまたみんなが爆笑する。

私にしたら笑いごっちゃないんですよ、ホント。


ひー、ギルマス睨まないで下さいよー。

私は悪くないんですってば!






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