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第131話 食事をしながら家族を紹介しよう

領主様の音頭で宴席が始まった。


料理がワゴンに乗せられ運ばれてくる。

一番は領主様から。

給仕係はグレイソンさんがするみたいね。

領主様とグレイソンさんが話しているのが聞こえる、どうやらどれを食べるか聞いているみたい。

向かい側の列では真ん中に座っている先程領主様に苦言を呈した女性からのようだ。

「では、一通り貰おうか。」領主様に言われてグレイソンさんが給仕する。

すぐ近くだけどメイドさんがワゴンを押して私の横にまで移動する。

私のお付きは言わずと知れたアンナさんである。

ワゴンを見ると最初の料理は前菜、アミューズで良かったのよね?それが何種類も乗っている。

カリカリチーズのアミューズとか、生ハムを使ったアミューズとか他にも美味しそうな物が沢山あって目移りしちゃう。

どれが美味しいとか一般的な貴族のご令嬢がどれくらい召し上がるのとか分からないからアンナさんにお任せする事にした。

ここで領主様以外の出席している人の紹介が始まった。


「ああ、食べながらで良いので私の家族の紹介をさせて貰うよ。」


領主様が向かいのご婦人二人を紹介する。

向かって左側のご婦人がカリーナ・メイワース様で右側がリタ・メイワース様。


「わたくしは第一婦人のカリーナ・メイワース。オルカ様よろしくね。娘のアシュリーと仲良くしてあげてくれると嬉しいわ、ついでに息子たちとも仲良くしてくるともっと嬉しいのだけれどね。」


そう言って艶然と笑うカリーナ様。

え、いえ、あの。

何と言えばいいか、あはは。

私殿方は苦手なので……とは言いたくても言えないしねぇ。


「私は第二婦人のリタ・メイワース。私はね元々こちらでメイドをしていた平民なの。でも旦那様に見初められて今はこうして。旦那様はこんな私にも優しくして下さるのですよ。」


「リタ、何を言ってる、当たり前じゃないか。私はお前たち二人をとても愛しているのだよ。」


「「旦那様、イヤですわ。このような人前で……は 恥ずかしいですわ。」」


照れてる。

お二人とも顔を赤くしてとーっても嬉しそうにくねくねしてる。

それに領主様も平然と恥ずかしい台詞を口にしたわね。

前世の日本のお父さんなら絶対に言わない台詞よね。

ちなみに私もルカには言ってない、だって恥ずかしかったんだもん。


「父上も母上たちもお客人の前なのですから少しは自重して下さい。」


リタ様の隣りに座っている青年が苦笑しながらやんわりと諫める。

あの方は以前もお会いした方よね。

だとすると一番上のご子息なのかな?

えっ、次は私の番?

あ、はい、分かりました。

領主様に促されて私は再度立ち上がり貴族の礼をする。


「皆様お初にお目にかかります。オルカ・ジョーノと申します、以後お見知りおきを。」


よし、今度はバッチリ、上手く出来た。

ホッとひと安心。

ご子息たちが何か言いたそうにそわそわしてるけど領主様がそのまま家族の紹介を進めてしまい話すタイミングを逸した彼らはちょっと残念そうな顔をしている。

私的には助かったけど。

だって何か聞かれてもどう答えていいか分かんないんだもん。


次はギルマスの番だ。

まぁギルマスは知ってるから今更感はあるけれど貴族としてのギルマスは知らないからね。

きちんと自己紹介してくれるなら聞いておきたいかな。

そう思っているとギルマスはパッと立ち上がってパッと自己紹介して終わる。


「まぁなんだ、姫さんはよーく知ってるからもういいだろ。俺はギルマスをやってるガスパーだ。」


いやいやいや、ダメですよ。

ちゃんと自己紹介くらいしなさいよ。

いい年した大人がきちんとしないとダメしょーが。


「ガスパー元気そうで何よりだ。」

「ガスパーおじ様相変わらず雑ですこと。」

「「ガスパー様らしいわね、ほほほ。」」


ほらぁ、みんなにも言われてるじゃない。

ざっくりと雑なのはいつもの事だけどこうゆう場ではちゃんとしないと。

せめて家名くらいは名乗っても良かったんじゃない?


「ねぇガスパーおじ様、どうして私のオルカお姉さまが『姫さん』なのですの?」


アシュリー様、なぜか「私の」が余計についてるんですけどどうしてですか?

それともう1つ気になる事が。

「おじ様」? はいっ?

ええっとそれはどの漢字の意味の「叔父」なのかそれとも「伯父」なのか、はたまた「小父」なのか。

もしかして血縁関係にあるとか?


「姫さんか、ああ、それな。実は……かくかくしかじかで」


とまぁ簡単にギルマスが説明する。

あったわね、そんな事。

あの時の下品冒険者、あれはホントどうしようもないお馬鹿さんたちだったわ。


「そうななんですの? 素敵! 流石私のオルカお姉さまですわ!」


また言ったね「私の」と。

いよいよ私の所有権が私自身から移ったっぽい?

貴族に気に入られると色々と面倒な事が増えそうな気もして嬉しくないんだけどなぁ。


「何たって姫さんはウチのギルドの期待の星。今売り出し中の新進気鋭の凄腕美人テイマーだからな!」


「そうなのですね。オルカお姉さま、私の専属護衛にして差し上げますわ!」


え? え?

何ですか、それ?

専属護衛?

なんでいきなりそうなるの?

私の自由意志は?


「まぁまぁお嬢様、いきなりそのような事を仰られてもオルカ様もお困りになりますよ? それに護衛ならベアトリーチェが居るではないですか。 まずはお近づきになって親しくなってからお考えになられては? それにお嬢様が仰いますとそれは只の命令。 本当にそれで宜しいのですか?」


「そうね、それもそうだわ。グレイソン諫言ありがとう。 オルカお姉さま先程は失礼いたしました。」


「あ、いえ、とんでもないです。」


「まずは、お友達からですの!」


ニコニコと笑顔で言うアシュリー様。

ま、まぁそれくらいなら。

アシュリー様は素直に聞く耳も持ってるみたいだし悪い子ではなさそうだからね。

ただ、これから貴族と関わりが増えそうな予感がひしひしとするのがちょっとね。

アシュリー様とは蟲騒動の時に面識があったのでこれがそのままアシュリー様の挨拶替わりとなった。


続いて向かいの右端の青年、さっき喋ったあの青年の紹介が始まる。

彼はカリーナ様の長男でコンラッド様。


「私はコンラッド・メイワース。そうか君がアシュが言っていたオルカ壌か、会議室で一度会って居るから初めましてではないな。うん、妹の良き友人になってくれると嬉しいよ。」


「そうですわ、私たちはもうお友達ですのよ!」


アシュリー様とっても嬉しそうにすんごい食いついて来ますね。

さっきの事もあって尚更か。

あれだけ嬉しそうにしてるのを見ると違うと反論するのもね。

だから曖昧に笑っておくだけに留めた。



次の料理はオードブルかな。

これもワゴンに乗せられて運ばれてくる。

領主様はオードブルも一通り貰っている。

私はやっぱりアンナさんにお任せで選んでもらう。

見たところ野菜と何かのお肉を層にして重ねたテリーヌみたいのだった。

味はさっぱりとして食べやすい、素材の味が活かされていると感じる。

これはこれで悪くないね。

この後の料理にも期待が出来ようと言うもの。


次は私の右隣りの男の子の番。

私と同年代に見えるイケメン男子。

しかし私は殿方には興味はないのでどうでもいいけど、まぁ普通にモテるんだろうね。

そんな些か失礼な事を考えていると彼が立ち上がり自己紹介を始める。


「俺はサイラス、妹のアシュリーと弟のテオドールと共に王都にある学院に通っている15歳だ。学院は今年が最終学年だから学院を卒業したら王都に残るつもりだ。 んん、興味深い。」


へぇ、へぇー、そうなんだ。

王都には学院てのがあるのね。

こっちの世界では15歳で成人だから、その学院てのも15歳で卒業なんだろうね。

でも最後の私の方を見て興味深いってどんな意味?

私に興味があるって事?

それとも別の何か?

どっちにしろ私的にはあんまり歓迎したくはないかな。


「で、サイラス。どうなんだ? 卒業後はもう決まったのかい?」


「はい、ほぼ。まだ正式に通達は出されていませんが、内々で確約を頂いております。」


領主様の問いにサイラス様はハキハキと答える。

ふーん、卒業後の進路か。

貴族も世継ぎ以外は自分の進路は自分で何とかしないといけないから大変ね。


「実はな、このサイラスは第三王子のルーク殿下と仲が良くてな、卒業後は殿下の従者として仕える予定なのだ。」


「父上、まだ正式に決まった訳では。」


「だが、周知の事実なのであろう?殿下本人もそう仰られているし問題はなかろう。」


「それはそうですが。」


そんな重要な事部外者の私に話しても大丈夫?

情報漏洩とか処罰されたりしない?

横で聞いてる私の方が心配になっちゃうんですけど?

私の心配をよそに嬉しそうにサイラス様を褒める領主様。

領主様って貴族らしくないって言うか子煩悩で嫁馬鹿なのね。


「私はコンラッド様の妻でローラと申します、宜しくね。あまり見ない形のドレスですけれどとても素敵なのね、良く似合っているわ。」


あ 有難うございます。

でもそんなにジッと見られると恥ずかしくなってしまう。

コンラッド様のお嫁さんとの事だけど穏やかでとても優しそうな雰囲気を持つ人ね。

でもまぁ貴族のご婦人だからね、優しそうに見えてもそこは ね。

平民の私には権謀術数の貴族社会で生きていくなんて絶対無理だな。


最後の人物の紹介の前に次の料理が運ばれて来た。

次はスープか。

前世でのコース料理と同じ順番なんだね。

元世界とこっちの世界、全然違う文化や風習もあるけれど不思議な事に似通った所もあるのが面白い。

過去にも私のように地球からやって来た人が居て、それらの人たちが色々と地球の文化を広めていったのかも知れない。

メイヨーソースしかりカリャーゲしかり。

探せば他にもまだまだありそうだよね。


アンナさんがスープをそっと置いてくれる。

スープボウルに入っていたのは少し濁った茶色い液体。

この香りはコンソメスープなのかな?

周りを見るとみんな音もたてずに上品にスープを飲んでいる。

スープをジッと見る、うん、やっぱりコンソメっぽいな。

少し濁りがあるけど多分間違いないと思う。

スプーンでそっと掬って音をたてないように一口飲む。


「美味しい。」


味的には自分で作ったコンソメスープの方が全然美味しいけど、これもそんなに悪くはない。

ううん、この時代の事を考えるとかなり良い方なのでは?

これは……かなり肉の味が濃ゆい、ビーフコンソメっぽい、パンチが効いている。

知らず知らずのうちに口角が上がっていたみたい。


「どうやらお気に召したようで何よりだ。」


「ええ、とても美味しいです。」


ニコリと笑う。


「これは肉や野菜の旨味だけを凝縮した物だと料理人が言っておった。何でもとても手間暇がかかるとか何とか。」


「そうなんですね。美味しい料理を作って下さった料理人さんに感謝ですね。」


「それは料理人にとって最高の誉め言葉だな、伝えておこう。」


スープの後はパンが供される。

パンは、薄い茶色の柔らかいパン。

前世の真っ白でふわふわふかふかパンには遠く及ばないけど、それでもこっちの世界基準では十分に柔らかいと思う。


ここまでは前世のコース料理と同じ。

すると次はいよいよメイン料理のお魚かな?


「では、最後に息子のテオドールだ。」


領主様が私の列の一番左端の男の子を紹介する。


「僕はテオドール、姉上やサイラス兄さんと同じ学院に通う11歳です。あ あの、オルカ殿はとても素敵ですね。」


少し頬を赤くしながらも話すテオドール様。


「テオドール様、有難うございます。」


私が笑うと更に顔を赤くしてドギマギしているよう。

そのモジモジした様子が少々子供っぽく見えてしまう。

ショタ好きのお姉さんならガッツリと食いつく所なんだろうけど元男の私には響かない。

て言うか男の子見てキュンとかなったらそれはそれでヤバイし。

そうなったら危機的状況だよ。

照れてモジモジしているテオドール様を見て大人たちは微笑ましい物を見たかのように優しい目で見ている。

けれどテオドール様の兄二人は少々微妙な顔でテオドール様を見ているし、アシュリー様はジトっと睨み剣呑な雰囲気を醸し出している。

大人たちとお子様たちとで反応が真っ二つに分かれている。

なんだろうか、まるで面白い見世物を見るみたいにニヤニヤ顔した大人たちと獲物を狙うかのような目をしたお子様たち。

これは状況的に私ピンチなのでは?


これで全員の自己紹介も終わり後は食事を楽しみつつ少しのお喋りを楽しむ時間。

なのだけれど、お喋りと言ってもみんなの興味は私に向いている訳で。

そうなると必然的に質問は私に集中すると。

領主様は当然知っているだろうけど、他の方は冒険者の仕事とか日常なんて絶対知らないだろうしね。

冒険者って朝は早いとか、どんな仕事をしてるとか、お金はどうやって稼ぐのかとか色々。

時々ギルマスの説明を挟みつつ質問に答えてゆく。

そうそう、私はテイマーなんだけど、そもそもテイマーってなんぞや?って所から説明したりとか。

テイマーって冒険者全体から見ると少なくて、強い従魔を使役してる私のようなテイマーは更に少ないんだって。

だからとても貴重なんだと、これはギルマスの弁。

くーちゃんもさくちゃんも自分たちの事を言われているのは分かっていても我関せずで無関心を装い大人しく隅っこで伏せている。

うんうん、私の家族は二人ともイイ子だ。


「メインの魚料理でございます。」


メイドさんがワゴンを押して運んで来る。

領主様はガッツリと取って貰っているけれど私はこれまでと同様アンナさんにお任せである。

これはなんのお魚なんだろう。

食べてみるとふんわりと柔らかい身質だ。

ソースはレモンバターか。

うん、美味しい。

さっぱりとしたソースがいい。

これならもっと食べれそうだけど多分この後メインの肉料理が来るはず。

だからここはグッと我慢。


魚料理の後は口直しのシャーベット。

果汁を凍らせて作った氷菓ね。

こっちの世界は魔法があるから凍らせる事も可能だし、もしかしたら貴族なら冷蔵庫とか冷凍庫のような魔道具があるかもしれないし。


口直しの氷菓のあとはメインの肉料理。

流石にお腹も大分膨れて来たので気持ち少なめにして貰う。


「少し少な目でお願いしていいかしら?」


「畏まりました。」


アンナさんが取り分けてくれる。

これは牛肉の赤ワイン煮みたいに見える。

赤ワインを使ってるのは間違いなさそうだけど、お肉が牛なのか牛型の魔物なのかは不明。

ただ、牛肉っぽいなと思っただけだから。

ナイフを入れると抵抗なくスッと切り分ける事が出来る程の柔らかさ。

口に運んで咀嚼すると、ほろりと解けるように溶けて形がなくなっていく。

これ歯が要らないくらいに柔らかい。

これはすごい、これ程柔らかく煮ようと思うとかなりの時間煮込まないといけない。

燃料代の高いこっちの世界でこれはとても贅沢なんじゃないかな。

美味しい物を食べると人って自然と笑ってしまうもの。

私も思わず笑みが零れていたみたい。


ん?


妙に視線を感じるなと思ったら皆が私を見ていた。

特に大人たちは私を見てニコニコとしている。


「嬉しそうに食べる姿と言うのは良い物であるな、気に入って貰えたようで何よりだ。招待した甲斐があると言うものだよ。」


「ちょ、イヤだ、恥ずかしいです。」


赤くなった頬に両手を当てる。

もー、見ないで下さいよー。

ホントに恥ずかしいんですよ?


「「「「っ!!!!」」」」


お子様たち4人が息を呑む。

そしてポーっと私を見ている。

見られてるわね、それも相当熱烈に。

見蕩れていると言った方が正しいか。

その中でも特にテオドール様が一番症状が重いようで、熱に浮かされたように頬を朱に染め私をジッと見つめている。

うーん、困った。

どうしたものかと考えていると次の料理が運ばれてくる。

助かった。

流石にあのままずっと見つめられるのはちょっと気まずかったのよね。


肉料理のあとは生野菜。

やはり元世界のコース料理と同じなのね。

まぁその方が馴染みがあって助かるけど。


そしてチーズ。

お酒を飲めない子供組には関係ないから私はスルーかな。


その後はデザート。

色取り取りの果物を小さな四角い立方体に切りそろえてボウルに入れた美しいフルーツ盛り合わせ?が出て来た。

見た目も綺麗でしかもとても美味しそう。

私はもうお腹いっぱいポンポコリンなので少しだけ取り分けて貰う。

はー、もうダメ、お腹いっぱいで食べられない。

流石にちょっと食べすぎたわ。

今の若い身体だから大丈夫だけど、前世の私だったら確実に胸焼けしてただろうね。

男の子たちはやはり食欲旺盛でガツガツと食べている。

すごいねー、よくまぁあんなに入るもんだ。

感心しちゃうよ。

そしていよいよコースの最後、飲み物と小さなお茶菓子なんだけどここで領主様から提案が。


「さて、後は飲み物なんだがどうだろうか、みなで談話室へ移動してゆっくりと話でもしないかい? オルカ殿には良い知らせもある事だしな。」


みなは異論は無いようで頷いている、勿論私も異論など毛頭ないので「はい」と返事をする。

それに良い知らせがあるって言ってたしきっとアレなんじゃないかなとあたりをつける。


「では、行こうか。」


領主様の掛け声で皆が立ち上がる。


っと、私も行かないと。






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