第13話 お魚さん いらっしゃ~い
薪窯は出来た。
苦労しただけあって思いの他上手くいったと思う。
上手くいき過ぎて、一旦焼きに入ると連日連夜窯を焚きっぱなしになると言う最大の問題を見逃す失敗をしてしまったのだ。
私一人で連日連夜休憩もなく睡眠もなく窯を焚きっぱなしなど到底無理だ。
よって、誠に残念ながら薪窯による陶器作りは一旦保留。
中止でも頓挫でもない、保留だ。
いずれ時期が来たら再開する。
せっかくここまで準備したのだからやらないと言う選択肢はない。
はぁ~ なんというかもう。
ほんとガッカリへにょんだよ。
しばらくは薪窯は使うことはないだろうからストレージへ収納だな。
手を当てながら
「ストレージ」
土台も薪窯も一緒に丸ごとストレージへと納める。
さぁ、凹むのも此処まで、気持ちも新たにもう1つの楽しみ「やな漁」があるじゃない。
その為に簀子を作ったのだから。
「んしょ」
ブーツを脱いで素足になる。
ちゃぷん。 足の指の先からそっと川に入る。
「冷た」
気持ちいいけど冷たい。 やっぱ朝晩は冷えるね。
私は川の中程まで進んでゆき、上流側を低く下流側を高く土魔法で土台を作る。
川の中から土がゴリゴリとせり上がってくる。
そこに簀子がズレないように引っ掛かりを作る。
上流側にもストッパーになるように土魔法で出っ張りを作って、いよいよ簀子の登場だ。
「出でよ、簀子さん!」
なんか変な掛け声かけっちゃったけどそこは気にしないで。
しっかりと位置決めをしてストレージから簀子を取り出す。
上流側が水に漬かるように、下流側は水面の上に出るようにして設置だ。
簀子には隙間が開いていて、これは資源保護の意味で小魚は下に落ちるようになっていて大きな魚だけが残るようになっている。
そして掛かった魚が横から逃げてしまわないように両サイドには落下防止用の板を取り付けてある。
さぁて、細工は流々仕上げを御覧じろ。
あとは簀子にお魚が掛かるのを待つだけである。
ちゃぷちゃぷ ぴちぴちぴち
おお 掛かってる。
結構大きいのが掛かってるぞ。
って言うか小さいのは全部下に落ちていってるから簀子に残ってるのって大きいのばっかりだったりする。
尺サイズ以上のお魚さんがピッチピッチと簀子の上で飛び跳ねている。
見た目イワナに似た魚や鮎に似た魚だ。
私は土魔法で下処理用のテーブルと椅子を作る。
これだけ毎日土魔法を使っていると慣れるもんだな、などとちょっと自分で自分に感心してしまったよ。
ストレージからまな板を取り出しテーブルの上に置く。
私は魚を捕まえるとすぐに活〆にし血抜きをしてエラと内臓を抜いて下処理をする。
日本の鮎ならばワタも食べる。
ほのかな苦みがあってとても美味しい、私は鮎の塩焼きが大好きだったのだ。
けれどここは異世界であって地球と同じとは限らない。
知らない食材に関しては慎重にならないといけない。
「仕方ない、勿体ないけどワタは外しちゃお。」
そうやって下処理を済まして口からカマの方へ蔦を通しておく。
魚が掛かると下処理をし、待っている間に、ストレージに入っている木で魚に打つ串を木魔法で大量に作るのだ。
ついでに、木で食器も作る事にした。
薪窯で陶器を作るのは延期になったので木製の食器で代用するためだ。
木製のマグカップ5ヶ、大中小のお皿各10枚づつ、大中小のボール各3個づつ、スープ皿10枚このくらいもあれば十分だろう。
簀子→お魚捕まえる→テーブル→下処理する→お魚が掛かる→簀子
延々とこれを繰り返すこと数時間。
ストレージの中には大量のお魚さんが収まることとなった。
「いや~、大漁大漁♪」
んーと、ざっと50匹くらい?
ええ、全部下処理しましたとも。 私の食生活を豊かにする為だもの!
私すっごい頑張ったよ。 褒めていいんだよ?
簀子をストレージに片づける、一旦収納したら中に入ったまま『乾燥』で乾かしておく。
川の中に作った簀子を固定する土台も元に戻しておく。
自然破壊ダメ! これ鉄則!
水産資源は乱獲しないよう漁獲調整は必須です。
「ふふ」
「んふふふ♪」
「念願のお魚がついに私の手に!」
あー いけない。 心の声がダダ漏れになっちゃう。
でもね、やっとあの硬くて塩辛い干し肉から解放されるのよ、これを喜ばずして何を喜べと?
今日の夕飯は焼き魚に決定。
塩がないのが残念だけどそれは贅沢が過ぎるという物ね。
焼き魚が楽しみすぎてもう一人の女子な私が顔を出してしまった。
最近の私はまだらに女子化が進んでいるように思える。
遠からず私の女子化は完了してしまうのだろうな。 なむ~。
お天道様はてっぺんにある。
時刻は分からないがまぁお昼頃と見て間違いないだろう。
時間はある、魔力もまだだいぶ残ってる。
砂鉄もバカ程持ってるし、材料と創造魔法があれば何とかなるだろ、ならば調理道具を作るとしようか。
前々から欲しかったのはまずは包丁、メインで使う三徳包丁と、小出刃と牛刀くらいは欲しいな。
これだけあれば大抵の物は調理出来るだろう。
次はフライパンだな。深めで大きさ28cmのと深さは普通ので24cmくらいのの2つは欲しいな。
あ、取っ手は木ね。
そんでもって鍋も欲しいな。
鍋は片手鍋が普通の大きさのと小さいの1つづつ、両手で持つ取っ手が付いた鍋が大中1つづつ。
3合炊きのメスティン1つと、1合炊きのメスティン3つ、お湯を沸かすティーポットも1つは欲しいかな。
それだけあれば快適なアウトドアライフ、まんま外で寝泊まりしてるけどね、が送れるな。
材料は砂鉄と木材、あとは足りない物は創造魔法で補ってと。
問題は私の魔力が足りるかどうかなんだけど材料を用意してるからそこまで酷い事にはならないんじゃないかな。
「さて、やりますか。」
いっぺんに全部やるんじゃなくて、残り魔力と相談しながら鍋なら鍋だけって感じで一種類づつ作っていく。
ちょっと端折っちゃうと、結果全部出来ました。 なんとかね。
ただし例によって魔力切れで、頭痛と倦怠感が襲って来たけれども。
「ぷぎゅうぅ。」
ぐでぇ~。
今は椅子に座りテーブルに突っ伏して魔力回復中。
女子にあるまじきだらけた格好だけれどもそこは気にしないでくれ。
だらけてるように見えるかもしれないけど、並列処理でちゃんと『探知』とかのスキルはずっと鍛えてるからね。
「んふふ」
突っ伏したまま顔を横に向けて出来上がった調理道具達を眺めている。
至福の時だわ~。
自分の調理道具ってアガルよね。
前世でもそうだったけど自分の包丁って可愛いんだ。
そう言うと亡くなった妻には残念な人でも見るような目で見られてたけどさ。
この良さがなんで分からないんだ?それが不思議でならないって言ったら「それ、そっくりそのまま返すよ。」って言われたっけ。
全く持って理解不能である。
さて、ようやく動ける程度には魔力も回復したし野営地に戻るとするかな。
のんびりと景色を楽しみながらてくてくと歩いてゆく。
はぁ~ようやっと念願叶ってお魚が食べれるんだ。
今日の夕飯がめっちゃ楽しみだわ。
獲ったお魚は2種類で『鑑定』さんの見立てによると、「イワナ」に似た魚は「イワナモドキ」で、「鮎」に似たのは「アユーモ」と出た。
何だよそれ。 まるでパチもんみたいじゃねーか。
『鑑定』さん、別に現地名で構わないから無理やり日本語っぽくしなくていいんだよ?
ま、美味しければ名前なんてどうでもイイっちゃあどうでもイイんだけどさ。
野営地に着いたので竈に火を入れる。
ストレージから「イワナモドキ」と「アユーモ」を1匹づつ取り出して、それらに木串を刺す。
尺サイズのお魚2匹って結構なボリュームだ。
でも毎日動き回って魔法使ってるとお腹が空くのよ。
摂取したカロリーは魔力に変換されてるんだよ、きっと。
苦労に苦労を重ねてようやくゲットしたお魚さん。
私が美味しく頂いてあげよう。
「美味しくなれよ~」
嬉しくってついつい独り言が出る。
竈の火も十分に熾きたので満を持してお魚さんを炙りにかかる。
竈なので直火焼きだがそれもまた良し。ワイルドなアウトドア料理とも言えるしな。
パチパチと薪が爆ぜる音、魚の皮がチリチリと焦げる。
脂が火の上に落ちてジュワッと耳に美味しい音がする。
ごくん。
喉が鳴る。
これは辛抱堪らんな。
まだか? まだなのか?
な、もういいんじゃないか?
ねぇ、私……もう待てないの。
すまん、ふざけ過ぎた。
でももう我慢の限界かな。
そろそろ焼けたか?
では、手を合わせて
「いただきます♪」
あーん、がぶっ!
女子的にはちょっとお行儀が悪いが思い切りかぶりつく。
臭みが全くなくジューシーでふわふわの身質。
パリパリの皮の下にはサッパリした上品な脂。
「おいっっっっしい♪ けど……」
うん、そうなんだ。
美味しいのは美味しいんだ。
ハッキリ言ってすごく美味しんだよ。
けどさ、塩味がしないんだよ、塩味が。
塩がないからどうしても一味足りないんだよ。
物足りないって言うかね。
塩辛い干し肉を一緒に食べると塩味はするけど全部干し肉の味になっちゃうんだよ。
干し肉はこんなに塩辛いのに……
干し肉は塩辛い……
干し肉は……
あぁぁぁぁぁ!
ここに塩あるじゃないか!
干し肉から魔法で塩だけ抽出したら良かったんだ。
うがーっ! 私とした事が。
凹む、これはマジ凹むわ。
結局次の日、私は創造魔法で干し肉から塩だけ抽出した。
それだけだと量的にちょっと少なかったので創造魔法で「美味しい塩」を作ったらかなり魔力を持っていかれた。
残った魔力でお米を出したら魔力切れでぐんにょりへにょんだ、涙。
こっちへ来て5日目は塩とお米だけ作って終わったよ。