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第129話 厳つい強面の何処からどう見ても堅気には見えない裏社会に棲息する極悪人のような顔をしたギルマス

アンナさんの後ろについて歩いて行くとエントランスホールからすぐ近くの部屋へ通された。

夕食までまだ少し時間があるみたいでこの部屋で待機するみたい。

案内された部屋に入るとアンナさんが「お茶の用意を致しますのでお座りになってお待ち下さい。」とソファへ案内される。

部屋は広い。

綺麗。

豪奢。

そんな印象。

ぶっちゃけるとギルドの応接室なんかとは比べ物にならないくらい遥かに豪華で美しい。

ギルドの応接室でも思ったんだけど、こうゆうソファってこっちの世界でもあったんだね。

元世界ならそれこそピンキリでお安い物も勿論あったけど、ブランド品の高いのだとサラリーマンの年収かっ!ってくらいのもあったほど。

元世界でホームセンターなどで売っていたようなお値打ちなソファでさえもこっちの世界なら貴族しか持ちえないような超の付く高級品なんだろうなと容易に想像がつく。

そう考えるとこのソファ一体幾らくらいするんだろう、なんか考えただけで恐ろしくなるわね。

猫足のソファ、猫足のテーブル、椅子。

陶器の花瓶を乗せている台の足も猫足。

うはー、見るからにどれもこれも高級品じゃない。

貴族ってどんだけお金持ちなんだろうか。

引かれているカーテンだって分厚い遮光カーテンだし、繊細な刺繍を施した白いレースのカーテンだってそう。

この部屋1つだけとっても庶民のひと家族何年分の、いえ、何十年分の生活費が掛かっているの?

見る物全てが物珍しくてキョロキョロと室内を見回していたらアンナさんがお茶を出してくれた。


「どうぞ。」


「あ、ありがとう御座います。」


こんな風にお茶を出して貰うなんて初めてでつい畏まってしまう。

そんな私を見てアンナさんは優しく微笑みながら「私に敬語は不要で御座います。」と言う。

自分は平民なので平民に畏まる必要は御座いませんとも。

けどそれ言ったら私も平民だしね、しかも孤児だし。


「お心遣い感謝いたします。ですが、本日の私のお仕えする主はオルカ様で御座います。従者に敬語で話す主人など居りませんので敬語は不要で御座いますよ。」


あ、はい。

分かりました。

出来るだけ堂々と出来るよう善処いたします。

そう言うと苦笑しながらも「そうゆう所は嫌いではないのですけれど……」と言われた。

だって、ねぇ。

そんな付き人が付くような生活なんて今までした事ないんだもん、慣れてなくても仕方ないよね。

折角淹れて貰ったお茶が冷めちゃうのも何なんでそっと口をつける。


「あ、美味しい。すごくいい香り。」


紅茶の銘柄とか産地とか全然知らないし、紅茶の良し悪しが何たるかも分からない素人だけれどもそれでもこれは美味しいって素直に思っちゃう。

ホッとすると言うか、心が休まる感じがする。

思わずフッと口元がほころぶ。

温かい紅茶が染みてきてそれまでの緊張感がじんわりと溶けてゆく。

私の側でじっと立っているアンナさんが私の様子を見て柔らかく微笑んでいる。

何だろう、このゆったりとした時間の流れって意外と悪くないな、そう思った。

暫しゆるりとお茶のひと時を楽しんでいると声を掛けられる事もなく急に扉が開かれた。

ん、誰か入って来る?

アンナさんはピクリと眉を動かして扉の方を見ている。

表情を表に出さない所はさすが貴族に仕えるメイドさんだなと思った。


「お、居た居た。 よっ、姫さん。 あっ、アンナ俺もお茶を頼む。」


は?

ギルマス?

何でギルマスが入って来るの?

ずかずかと入って来たと思ったら、さも当然のようにアンナさんにお茶の用意を頼むギルマス。


「畏まりました。」


ペコリと一礼し流れるような動きでお茶の用意をするアンナさん。

プロだ。

私なら怪訝な顔してまずは問いただす所なのにアンナさんは表情一つ変えず己の仕事に徹する。

これぞ正にメイドの鑑。


「何でギルマスがここに居るんですか?」


「あ? 呼ばれたからに決まってるだろ。俺だって冒険者ギルドの関係者だぞ?」


そう言われればそうだけど。

だったら自分も呼ばれているんだとひと言私に何かあってもいいんじゃない?

私一人でお呼ばれとか心配で心配で、ギルマスも呼ばれてるって最初っから分かってたらここまで緊張とかしないで済んだのにぃ。


「どうぞ。」


アンナさんが表情を崩さないまま丁寧にそっとお茶を置くと「スマンな。」そう言って一口飲む。


「お、いい茶葉使ってるな。これ高かっただろ?」


「いえ、私は値段等は存じ上げませんのでお答えは出来かねます。」


「かぁー、相変わらずお前は固いなー。もっとこうニコッと笑ったらどうだ? 元はいいんだから笑えばモテるだろうに。」


ギルマスの言葉には返事を返さずそのまま無言で私の側まで戻って来る。

そして控える。

ギルマスはアンナさんにもっと笑えと言うけれど、ギルマスが来るまではアンナさん笑ってたよ?

とっても優しい顔で笑いかけてくれてたんだけど。

ふむ、もしかしたらアンナさんはギルマスが得意じゃない、苦手なのかも知れない。


しかしギルマスの恰好ときたら……


パッと見ただけで高級品だと分かる貴族が着るような豪奢な服を着た893みたいな強面の顔面を首の上に乗っけたオジさん。

しかも筋骨隆々。

この人がギルマスだと知らなかったら裏社会のそれも高い地位にある人だと勘違いしそうなほどよね。

子供だったら見ただけでチビッて泣き出しそうな迫力がある。


「ギルマス、何でそんな変な恰好してるんですか?」


「変な恰好て何だ、変な恰好って。 お前これは正装だろうが。」


「正装って何の正装なんですか?絶対に堅気には見えませんよ。怖いですって!」


「失礼な奴だな。堅気に見えなかったら何だって言うんだよ。」


「決まってるじゃないですか、非合法の裏組織の……」


「んな訳あるかっ!俺を何だと思ってるんだ。」


「ぷふっ。」


私たちのやり取りを聞いていたアンナさんが思わずと言った体で我慢しきれず噴き出してしまう。


「失礼いたしました。 くふっ。」


どうやらツボッたようで笑いたいのを必死に噛み殺している。

笑ったアンナさん可愛いな。

これはお持ち帰り案件だわ。

くー、ドロシーが居なかったら間違いなくテイクアウトしてたよ。


「お、何だ?アンナも笑えるんじゃねーか。お前は可愛いんだからいつもそうやって笑ってたらいいんだよ。」


「ガスパー様お戯れが過ぎますよ。」


表情を元に戻したアンナさんがやんわりと受け流す。


「そうかねぇ、勿体ねぇ。」


まぁでもアンナさんの気持ちも分からなくもないかな。

誰だっていつもいつも笑顔って訳じゃないでしょ?って話だよね。


「姫さんもそんな恰好してるとどこかいいとこのお嬢様みてーだな。どっかの貴族のご令嬢って言っても通用しそうな程だな。普段の姫さんを知ってる身としては今のその恰好はそれはもう見事な手弱女(たおやめ)ぶりだよな。」


そう言ってカカカと笑うギルマス。

んな、失礼な。

そりゃ冒険者なんて仕事をしてるから想像しにくいかも知れないけど、私だって女の子なんだからこうゆう恰好に憧れがない訳じゃないのよ?

ドレスなんて着る機会滅多にないんだからお洒落したっていいじゃない。

そう言うギルマスはどうなんだとしげしげと見つめ「馬子にも衣裳だわね。」と思っているとギルマスは私を訝しげに見て


「今すっげぇ失礼な事考えていただろ?」


とのたまう。


「いいえ、とんでも御座いませんわ。オホホホ。」


「胡散臭えーな。」


「その厳つい強面の何処からどう見ても堅気には見えない裏社会に棲息する極悪人のような顔を除けばギルマスも貴族に見えない事もないですよ。」


「マジで失礼なヤツだな。」


「それはお互い様ですよ。ギルマスもさっきから結構失礼な事言ってますよ。」


「なぁ、俺な、一応貴族なんだよ、知らなかっただろうけど。俺じゃなかったら不敬どころの話じゃないぞ。」


は?

何言ってんだか。

冗談も休み休みに言いなさいよ。

そんな冗談みたいな顔乗っけた巫山戯た貴族が居てたまるもんですか。


え?

マジで言ってるの?

嘘っ?!

ホントに?


「嘘なもんか。アンナに聞いてみろ。」


私はバッと後ろを振り向いてアンナさんに確認する。

するとアンナさんは小さく「その通りで御座います」と首肯する。


「ガスパー様は領主様に仕える男爵家の3番目のご子息と聞き及んでおります。」


「な。」


だから言っただろみたいなドヤ顔でこっちを見るギルマス。

なんかちょっとイラっと来た。

けどそれよりも、ギルマスが本当に貴族だった事に驚きだわ。


「世も末ね。」


思わずポツリともらす。

するとアンナさんは堪えきれずに「ぶはっ。」っと噴出した。

同意が得られたようで何よりだわ。


「お前らなー。大概にしろよ。」


「でも何で貴族のご子息がギルマスなんかやってるんですか? 別に家を継がなくても貴族としての仕事は他にもあったんじゃないんですか?」


私の問いにギルマスは笑いながら答えてくれた。

家は長男が継いだ、次男は長男にもしもの事があった時の保険としての駒と言う意味合いで居場所がある。

しかし三男であるギルマスはまぁ言うなれば役目も居場所もなかったと。

貴族とは言っても三男ともなれば平民と大して変わらない。

だったら潔く家を出て平民として生きていく方を選んだ。

そうゆう事らしい。

どこかに仕官してと言う道もあっただろうに自分の力だけで生きて行く事を選ぶあたり中々骨のある人物なのでしょうね、巫山戯た顔してるけど。

ただ、無いに越した事はないけれど万が一お家存亡の危機に陥った時には必要になるからと貴族籍からは除籍にはなっていないそうだ。

そうなんだ、貴族も大変ね。

いや、貴族だからこそ大変なのか。


「しっかしアレだな。」


はい?

自分の事話題を変えるようにギルマスが話し出す。


「姫さんのその恰好な、ちょっとばかり目のやり場に困るんだわ。そのボインボインが……ムチムチで……すげー色っぺぇんだよ。子供には毒かもしれんなと。」


両手でふよふよと波打つようにボインボインでムチムチでとするギルマス。

おい、オッサンすんなよ。

女の子相手になにやってんだよ。

世が世ならセクハラだぞ。


「うわっ、サイアク。」


私は両腕で自分の身体をかき抱きながら顔を引き攣らせる。

思わずドン引きだわ。

このオジさん私をそんな目で見てたのね?

いやらしい。

いやらしいリズやメロディやドロシーは好きだけど、いやらしいオジさんはノーサンキューよ。

ジト目でギルマスを見る。

後ろに控えるアンナさんもジト目で睨んでいた。


「い いや、違う。違うぞ。」


「何がですか? 絶対に変な事しないで下さいね? 私今忠告しましたよ? もし可笑しな事したら私も何するか分かりませんからね?」


「姫さんがあんまりにも綺麗だからつい……あ、いや、今のは忘れてくれ。兎に角若いモンにゃ刺激が強すぎやしねーかと思っただけなんだ。決して悪気があった訳じゃないんだ。」


珍しくギルマスがしどろもどろになっているな。

こんなギルマス初めて見た、これは中々貴重だわ。


「だからスマン、今のは俺の不用意な発言だった。」


ふむ、どうも本当に悪気があった訳ではなさそうね。

なら、まぁいっか。謝ってる事だし。


「ね、私変じゃない?」


後ろを振り返りアンナさんに聞いてみる。

すると


「大層お綺麗で御座いますよ。女性の私から見ても見惚れてしまいます。」


「そ そう? ありがとう御座います。」


褒め過ぎですって、照れちゃうじゃないですか。

照れくさくなってしまって困ったように眉尻が下がるのが分かる。

ちょっと顔を赤くして斜め上にアンナさんを見上げる形になるとアンナさんからは上目遣いに見えているのだろう、するとあまり表情を変えないアンナさんが少しばかり潤んだ目でこちらを見ている。

口元がかすかに上がっているのもまた良し。

ちょっとー、めちゃ可愛いじゃないですかー。

どうしましょ。

困ったわ。

そんなに見つめないで。


「あー、アンナもか。 姫さんあんま犠牲者を増やすんじゃねーぞ。」


ギルマスの声でハッと我に返るアンナさん。


「大変失礼致しました。」


そう言って伏し目がちに目線を逸らしてしまう。

あぁ残念、もっと見つめ合っていたかったのに。

無粋なギルマスのひと言で私の楽しい時間は終わってしまった。


そう言えばまだなのかしら。

いい加減もうそろそろ呼びに来ても良さそうなものだけど。

少し冷めてしまった紅茶をくいっと飲み干す。

アンナさんが中身のなくなったティーカップを下げてゆく。

手持ちブタさん、じゃなくって手持ち無沙汰なのよね。

何かちょっと軽い物でもつまみたいなと思ったけれどこれから夕食なのだからそんな物は置いてない。

ギルマスはソファにどっかと座ってジッと目を閉じている。

寝てる? 訳ではなさそうね。

さて、どうしたものかしら。

そう思っていたら漸くお呼びが掛かった。


「オルカ様、ついでにガスパー様もご用意が整いましたので食堂までお越し下さいませ。」


「ついでは酷いな。躾がなっとらんぞ、うん。」


とか言いながら楽しそうに笑っているギルマス。

こうゆう所が貴族らしくないと思う所以なのかも。

呼びに来た女の子もそれが分かっているからこそなんだろう、ギルマスと二人でくすくすと笑い合っている。

私が立ち上がろうとすると横からスッと手が伸びて来た。


「オルカ様お手をどうぞ。」


アンナさんが柔らかく笑いながら手を差し伸べてくれる。

アンナさんの手の上にそっと手を重ねる。


「ありがとう。」


「では、参りましょうか。」


「ええ。」


さぁ、いよいよ決戦よ。

私はアンナさんの手を取り立ち上がってフンスとやる気を漲らせる。








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