第125話 着せ替え人形はモテモテです
ちょっと聞いてくれる?
あのね、みんなにさ、おNEWの石鹸あげてね、ふかふかのタオルも貸してあげてだよ、しかも髪の毛も乾かしてあげたのよね。
それなのにね、性癖がどーとか、オネショする子供みたいとか、やらかし系女子とか、あまつさえ普通じゃないとか規格外とか。
それってどうゆう訳?
私ちょっと怒ってるのよ。
「もー、そんなに可愛いく怒られてもなぁ。」
「ねー、もっと怒られたくなっちゃうじゃない。」
「ちょっと二人とも、余計な事言わない! オルカごめんねー。」
「「あー、ドロシーが寝返った! ずっこい。」」
「うむ、ドロシーは許す。 でも二人は……どうしようかなー。」
「「だからゴメンて、ちょっと弄りたくなっただけだから」」
「ほう、それで?」
「「うっ。」」
「じゃあ私の言う事聞くなら許してあげてもいいけど、どうする?」
「うぅー、分かった。」
「仕方ない。」
素直な子は好きよ。
これで仕返しが出来るよ。
では言うよ。
「リズとメロディには罰を与えます。 それは……」
「「それは?」」
「二人のおっぱいを揉ませなさい!」
「「喜んでっ!」」
って、全然罰になってなかった。
もしかしてご褒美になってた?
失敗だ、選択ミス。
まぁいっか、言質はとったからその時を楽しみにしてるよ。
そう言ったらリズとメロディも「楽しみだねー」と返して来た。
やっぱこの罰間違いだったかも。
みんなちゃんと服着替えた?
そろそろ髪結いのお姉さんが来る頃合いだから部屋に戻るよ。
私は一旦普段着のワンピースを着て脱衣所を出て自分の部屋へ戻る。
んー時刻はいま何時ごろなんだろう。
イチャイチャしたり揉み揉みしたりしてかなり長いことお風呂に入ってたからなぁ。
もうそろそろ来てもいい頃だと思うんだけど。
部屋の中でリズたちとそんな話をしてたらコンコンとドアをノックする音がした。
「オルカさぁん、なんか綺麗なお姉さんが貴女を訪ねて来たわよー。」
来た、髪結いのお姉さんだ。
「はーい、上がって貰って下さい。」
けど、「なんか綺麗なお姉さん」ってどうなのよ。
普通名前聞くとか何の用事で来たのかとか聞くもんじゃないの?
何も聞かずに人が訪ねて来たって伝えに来る人は少ないんじゃないかなぁ。
まぁ、今日は髪結いの人が訪ねて来るって予め伝えてあったからいいんだけどさ。
これが何にもない普通の日だったら些か不用心と言わざるを得ないわよね。
リズもメロディも「カミラさんらしい」って苦笑してたけど、ほんとその通りだと思う。
私も思わず苦笑いしちゃったもん。
コンコンコン。
ドアをノックする音がして部屋のドアが小さくギギーと音を立てて開く。
イマイチ建付けが良くないのよね。
ひょこっとカミラさんが顔を覗かせたので向かいの部屋へ移動する旨を伝える。
私たち4人も一緒に向かいの大きい部屋へ向かおうと廊下に出た所で仕立て屋のお姉さんに会った。
「あら、どうも。 約束通り来たわよ。」
今日来てくれたのは約束通り一昨日対応してくれたお姉さんだ。
あれ、後ろにもう1人女の子が居るけど?
私の目線が付き添いの女の子に向いているのを察したお姉さんは続けて言う。
「後ろの子は私の助手ね。正確にはまだ見習いで荷物持ち兼助手で勉強の為に連れて来たの。」
ああ、そうゆう事なんですね、納得です。
手伝ってくれる助手が居るか居ないかで仕事の効率って大分違うものね。
見ると緊張してガチガチに固くなっているのか、助手の女の子は俯き加減で持っている鞄を両手でギュッと握っている。
「それじゃあ案内して貰おうかしら? 私はロジーヌ、この子はミア。」
「私はオルカ、オルカ・ジョーノです。」
「あら、苗字持ち? まさか本当に貴族だったりして。」
ああ、やっぱりこの反応だ、お約束だね。
毎回このやり取りが発生するからすっかり慣れっこになっちゃったわ。
「いえ、私ヤパーナなので。」
そう言えば大抵は
「そう言う事なのね。」
と、なって事がすむ。
向かいの部屋の扉を開けて手で押さえながらロジーヌさんとミアさんをお通しする。
後は順番にみんなを部屋へ入れて最後に私が入る。
って、あれ?
なんでカミラさんが一緒に入って来るの?
カミラさんお仕事は?こんなとこでサボってていいの?
「カミラさん仕事しなくていいんですか?」
貴女この宿の女将さんでしょ?
総責任者でしょ?
立場も責任もある人がサボってちゃダメじゃない。
「え? 何言ってるの? さっき、後で見せてねって言ったじゃないの。忘れちゃったの?もうー。」
頬をぷくっと膨らませてまるで少女のようにむくれるカミラさん。
可愛いらしい仕草なんだけど問題はそこじゃない。
「後で」って私はてっきり出発前って意味の「後で」であって、すぐ直近の「後で」とは思ってなかった。
カミラさんの言う「後で」は着付けの段階から見せてねの意味だったとは全く予想外だったわ。
「さっきの素敵なドレス、あれ着てるとこ早く見せて見せて。」
子供ですか!
ワクワク顔で待ち切れないと言わんばかりに脚をトントンしている。
カミラさんの様子を見ていたロジーヌさんも興味津々て顔で「ドレス用意出来たの? へー。」と私を見る。
リズたちは何かピンと来るものがあったのか私をジト目が突き刺さる。
「「「この人規格外の非常識だから!」」」
そこは息ぴったりなのが癪に障る。
いつも言ってるけど私は至って普通の女の子なんだよ、ホントだよ?
「「「オルカの普通は普通じゃないから!」」」
私たちのやり取りを見ていた皆は???を頭の上に飛ばしていたけれども。
「取り合えず、ドレス持ってるなら出して貰えるかしら?」
ロジーヌさんに促されてストレージからドレスを取り出してベッドの上に乗せる。
私の作った、正確には『創造魔法』さんが作ったんだけどそれは言わない、ドレスをロジーヌさんはジッと見つめる。
そして材質を確かめるよに手で持ってじっくりと見ている。
「あまり見ない形のドレスね。」
私が作ったドレスは服飾関係の仕事をしているロジーヌさんをして見た事ないデザインのドレスだと言わしめる。
それはそうだ。
だって別世界の、ここよりももっともっと発展した世界の産物なんだもの。
私とドロシーが元居た世界は文化・教育・技術・医療全てにおいてこっちの世界を遥かに凌駕していた、負けていたのは魔法がない事くらいか。
そんな世界のファッションをこっちに持ち込めばどうなるかは火を見るよりも明らか。
「「なんか着にくそうな形だね。」」
リズとメロディの意見はごく真っ当だと思う。
それに対してドロシーはと言うと
「マーメイドドレスかぁ。男の人が好みそうなデザインではあるね。」
とちょっと含みのある言い方。
うん、お察しの通り。
元男だけにこうゆうボディラインが分かるドレスって目の保養にいいのよ。
なのでつい作っちゃったけど、よくよく考えてみたらこれ着るの私なのよね。
て事はだよ、私が見られる立場になるって事じゃない?
つまり、私が男どもの目の保養にされちゃうって事だ。
ワーオ。
なんてこったい。
私とした事がやらかしちゃった感ありあり。
「ふうん、ノースリーブでロングかぁ。履物はどうするの?何かいいの持ってないのかしら?小物入れみたいなのとかは持っていかないの?」
ロジーヌさんに矢継ぎ早に質問される。
それに1つ1つ答えてもいいんだけど、まずは見て貰うのが手っ取り早いと思ったからハイヒールやハンドバッグ、ストール、アクセサリーを次々と取り出しベッドの上に並べて置く。
取り出されたそれらを見たロジーヌさんたちの目が釘付けになっている。
リズたちやカミラさんも興味津々と言った体で見ている。
「真っ赤なハイヒールに真っ赤なハンドバッグがひと際インパクトあるわね。その薄い布はどうやって使うの? そもそもこれ本当に着にくそうだし着たら着たでピッチピチでボディラインが丸分かりになっちゃうわよ?」
ロジーヌさんが更に追い質問して来る。
うん、それについては私もちょっと失敗したかも?とは思ってる。
やっぱ欲望のままに作っちゃダメだね。
「「このサンダルみたいなの可愛いー!」」
「アンクルストラップのハイヒールねぇ。ちょっと凝り過ぎじゃない?」
リズとメロディはハイヒールが気に入ったようで可愛いを連呼している。
はしゃぐリズたちの横でドロシーがジト目で私を見てる。
ジーッと見てる。
しかし私は知らんぷりを決め込む。
私は悪くない。
悪いのは私を夕食会に誘った領主様が悪いのよ。
「バッグもハイヒールと色を合わせてあって素敵ね、いいと思うわ。」
ロジーヌさんのお褒めの言葉を頂いて嬉しくなってしまう。
これはどうやら正解だったみたい。
「このネックレスも見た事ない形だけど可愛らしいデザインね、これはどこかで買ったの?」
「いえ、私の手作りです。」
「「えっ?」」
ロジーヌさんとミアさんの言葉が重なる。
そんなビックリする事かな?
大体みんな大げさなのよ。
「「「はぁ、また始まった。」」」
リズたちが溜息を吐きながら首を横に振る。
ねぇ、そんな明らかに「やれやれ、処置なしだ。」みたいな顔しないでくれる?
それだとまるで私が変みたいじゃない、ねー。
「ええっと、オルカさんだっけ? 貴女たしか冒険者だったわよね? もしかして錬金術師でもあるとか?」
「どうなんでしょうか。私はどこにでも居る普通の冒険者のつもりですけど?」
「うん、明らかに普通でない事だけは分かったわ。」
ねー、ちょっと。
ロジーヌさん?
なんでそうなるの?
それだと私が非常識だって言ってるように聞こえたんですけど?
「そうね、そう言ったつもりだったんだけれど、どうやら伝わってないみたいね。貴女たちも苦労してるんじゃない?」
ロジーヌさんはリズたちの方を見て苦笑している。
むむ、なぜそこで皆が分かり合って頷いているのだ?
私はそんな言うほど非常識じゃないよ?
ないよね?
「あー、この人はこうゆう人なんだと飲み込んで対処して下さい。」
ロジーヌさんに向き直ったリズが笑顔でサラっと酷いことを言っている。
「そうなのね、了解したわ。私も心を強く持ってあたるわね。」
あれー?
私って心を強く持たなきゃならない程地雷女だったっけ?
???
ゴーン ゴーン
「あら、2の鐘が鳴ってる。お迎えって2と半の鐘だったわよね? ほらほらオルカさんも早くして、時間が来ちゃうわよ。」
いつの間にか私が遅いみたいになってるし。
納得いかぬ。
けど時間がないのも事実なので不承不承大人しく従う事にする。
このドレス、髪を結っちゃうと着れなくなっちゃうから、髪を結う前に来てしまわないといけない。
なので服を脱ぎたいんだけど、ワンピースに手をかけた所で私に視線が集まるのを感じる。
ジー……。
めっちゃ見られてる。
あの、そんなに見られると恥ずかしいんですけど?
「あんまり見ないで。」
助手のミアって女の子が胸を押さえて「はうっ」とか言って顔を赤らめている。
カミラさんもロジーヌさんも期待に満ち満ちた目で「早く脱げ」みたいに圧力をかけてくる。
ふえぇぇぇ。
めっちゃ脱ぎにくいよー。
あ あの
見るにしてももうちょっと遠慮して貰えます?
「もう、何を恥ずかしがっているの。ここに居るのはみんな女性よ?」
ロジーヌさんにめちゃイイ笑顔で言い切られた。
「何なら私たちが脱がせてあげようかぁ?」
リズが追い打ちを掛けるように手をワキワキさせながら言い放つ。
その手はヤメなさい!
大体さっきさんざん触ったじゃない。
私を弄んだくせに。
「だだだ 大丈夫。 一人で脱げるもん。」
「ちぇっ。」
そんなあからさまに残念そうな顔しない!
もう仕方ないので諦めてワンピースを脱ぐ事にした。
脱いだら脱いだでまたロジーヌさんやカミラさんから注目を集めてしまったけど。
下着のラインが出にくくさせる為の総レース仕様のショーツなんてのはやはりこっちにはないみたい。
別な用途でのレースのはあるけど。
私が履いてるのにも構わず「後学の為に」とさんざん触られた、撫でられた。
ついでに軽く揉まれた。
「こら、それ以上やったらメッですよ。」
「「それ逆効果よ。」」
ロジーヌさんとカミラさんが口を揃えて言う。
「お触り禁止! はい、離れて離れて。」
ドロシーが間に入ってくれて助け舟を出してくれた、グッジョブドロシー。
あ、もしかしてドロシーヤキモチ妬いてくれてたりする?
嬉しい。
これはグッとくる。
じわじわと嬉しさがこみ上げて来る。
思わず口元が緩くなりそう。
そんな私を見て
「オルカもオルカよ。私以外の女の人に触られて喜ばないの。」
と怒られた。
意外な事にドロシーちゃん独占欲つよい?
それはそれで嬉しいけど。
そしてカミラさんやロジーヌさんには「あらあら」と生温かい目で見られた。
リズたちは「素直じゃないねー」とドロシーを揶揄っている。
ヤメなさいって、また怒られるよ?
それにもう時間が押してるんだからね。
邪魔しないでそこで大人しく見てなさい。
初ドレス、そう、私が丹精込めて作ったこのドレス。
作ったものの袖を通すのは実は初めてだったりする。
濃くて深みのあるインディゴブルーのドレス。
華やかさはないけれど落ち着いたシックな色合いがまたいい。
真新しい服を着るのってワクワクするよね。
っと、このままだと裾を擦っちゃうから台の上に乗らないと。
少し高さのある台の上に乗り、ドレスに袖を通す。
裾をちょっとだけ持ち上げるようにして裾が擦らないように気を付ける。
このドレス背中側の肩甲骨の中程辺りから肩にかけて逆三角形のシースルーのレース編みみたいになっている。
これがほんのりとセクシーさを演出していて中々良い。
少女と大人の女の狭間にある危うい色香が出ていると思う。
さて、ここからが髪結いとしてのロジーヌさんのお仕事。
なんだけど、
「貴女元々の素材がいいからお化粧はなくてもいいかも、ううん、しない方がいいわね。 口紅だけで十分綺麗よ。」
と言って特段お化粧はしない事になった。
自分で言うのも何だけど、若い女の子の肌はピチピチだからね。
若い子には若い子なりの、大人には大人の女性なりのお化粧ってある筈だからね、そうゆうのは専門家のロジーヌさんにお任せするのが一番だと思う。
ヘアスタイルは…私にはさっぱり分からないので完全にお任せ。
なにせ短髪の元オッサンだから女性のヘアスタイルなんてチンプンカンプンなのよ。
私が何かするくらいならドロシーに頼んだ方が100倍いい、それだけはハッキリ言える。
そのくらい私は自分のセンスに自信が無い。
なのでヘアスタイルに関してはドロシーとロジーヌさんとで話し合って決めて貰った。
ドロシーとロジーヌさん、更にはリズたちにカミラさんまでもが参加して実に楽しそうに「あーでもない」、「こーでもない」とやっている。
私は言われるがままの着せ替え人形状態である。
髪の毛を持ち上げてみたり、クルンと巻いてみたり、ポニーテールにしたりしてるけど皆楽しみ過ぎじゃない?
流石にツインテールは恥ずかしいので「絶対イヤ」と固辞した。
最終的に元世界で言うハーフアップみたいなヘアスタイルに決まったようだ。
ようだ、と言うのは私からは何にも見えないから。
ドロシーの言うには編み込み&ハーフアップで黒のリボンをさりげなく飾ってあるとの事。
成る程、さっぱり分からん。
私はお洒落には疎いのよ。