第121話 ドレスを作るよ
院長先生から貴族の挨拶の仕方を学んで孤児院を出たあと私は草原に来ていた。
別に宿に戻っても良かったのだけれど何となく見晴らしのいい所に行きたくなったの。
くーちゃんにお願いして木陰のある見晴らしの良い場所を探して連れて来て貰った。
流石は私のくーちゃん。
(勿体ないお言葉です。)
相変わらず固いけれどそれがくーちゃんなりの忠義なのだそうだ。
私的にはもう少しくだけてもいいと思うのだけれど、くーちゃん的にはそれはナイらしい。
そうゆうのも好ましいとは思うけれど、いつかは姉妹みたいな友達みたいなそんな関係になれたらいいなと思う。
さて、私なりに考えてみたのだけれど、やはりドレスを着て行った方がいいのではないか?と言う結論に至った。
どうしてかと言うと、単純明快、それが礼儀なのでは?と思ったから。
確かに褒章としてのお呼ばれだし平民が着るワンピースでも問題はないのだろうけど、でも用意出来るならやはりここはドレスの方がいいんじゃないかな?って。
幸いにして私には最強の『創造魔法』さんがある。
材料もある。
だったらもう作っちゃえって。
じゃあドレスならどんなドレスでもいいかって言うとそうでもない。
今回のお呼ばれは公式なものではなくて個人的な夕食会との事なので夜会のような派手で煌びやかなドレスは場にそぐわないだろうし、第一奥様方や女性陣よりも目立つドレスは絶対ダメ。
真っ赤なドレスや黒のドレスだとか、背中がパックリと見えてたり胸元が開いていたりするのは私の年から考えても不自然だし可笑しい。
そもそもそんなドレスは用途が違う。
かと言ってピンクみたいな可愛らしい色はアシュリー様と被りそうなのでそれもダメ。
そう考えるとデザインとか色選びの選択肢は中々に少ない。
結局残ったのは消去法で、シックで落ち着いた青系のドレスがいいのでは?となった。
それも深みのある色合いのインディゴブルー、これなら華美にはならないでしょ。
ニット素材のロングのマーメイドドレス、ノースリーブで首元は詰まったもの。
パーティ用のロング手袋にストール。
これに関しては明日来てくれる髪結いさんの意見も聞いてみてロング手袋にするかストールにするか決めるつもり。
履物はアンクルストラップタイプのハイヒールで色はレッド。
持って行くハンドバッグはディアスキン製で色はハイヒールに合わせてレッド。
宝飾品はオープンハートタイプのネックレス、イヤリングは私の魔力を込めたオパールのような色合いをした虹色魔石の1粒石。
お化粧とかヘアスタイルは元男の私には荷が重いので明日来てくれる髪結いの人にお任せしようかなと思ってる。
それと、下着が迷う所なのよねー。
ラインが出ちゃうと困るからドレス用のラインの出にくい下着の方いいかとも思ったけどどうなんだろうね?
こっちの世界の人はそうゆうの気にするんだろうか?
そうなるとTバック?
……そ それはかなり大胆と言うか何と言うか。
履くのに勇気が要りそう。
それか総レースのショーツとか?
Tバックだとセクシー過ぎるけど総レースならお洒落でラインが出にくいからいいかも。
色は私の好きなボルドーに決めている。
言ってる事が違う、ちょっとエッチっぽいって?
いいじゃない、好きなんだし。
せっかく女の子に生まれ変わったんだし楽しまないとね。
と、言う訳でこれから自分で作ります!
マーメイドドレスに関して言うと、素材違いでも作っておくつもり。
ツルツルした触り心地の良い光沢のある生地で作ってみてもいいかな。
色は青系じゃない色の方がいいかも。
別に明日着るって訳じゃないんだからそれは赤とか黒でもいいよね。
まずは1つづ順番に。
今から何を作るのか頭の中でよーく整理して、『創造魔法』さんにお任せする。
っと、その前にくーちゃんにお願いが。
「くーちゃん、前みたいに寄り掛かってもいい? あれふわふわもふもふですっごく気持ち良かったんだ。 ダメ?」
(駄目などとそのような事は御座いません。是非にわたくしにさせて頂きたく存じます! どうぞ如何様にもお使い下さいませ。)
そこまで強く言わなくても。
尻尾をぱたぱたと振って喜びを露わにするくーちゃん。
この間のあれがとても気に入ったのね。
じゃあ早速お願いしようかな。
くーちゃんがとっても嬉しそうに耳をペタンと後ろに下げて尻尾をこれでもかってくらい振っている。
ストンと伏せの体勢になって私を待つくーちゃん。
くーちゃんの横に布を引いてそこに座る。
それからくーちゃんの方へそっと身体を預ける。
嗚呼、ふわふわ。
最っ高!
これよこれ。
正に至福の刻。
「さくちゃんこっち来て。」
私は横になったまま手招きしてさくちゃんを呼んでギュッと抱きしめる。
くーちゃんのふわふわとさくちゃんのぷよぷよ、最高の組み合わせだわ。
思わず口元が緩み「にへ」と笑ってしまう。
(ご主人様蕩けてるのです。)
(そうだよー。最高に気持ちいいんだもん。)
あー、ダメだ。この気持ち良さに抗えない。
これは人をダメするやつだ。
このまま寝てしまいたい誘惑に駆られる。
あまりの気持ち良さに瞼がコンニチワしそうになる。
ダメダメ。
寝てる場合じゃないって。
寝るんだったら作る物作ってからにしないと!
最初はやっぱドレスかな。
頭の中でデザインを思い浮かべながらストレージ内で魔法を発動する。
魔力がぐぐぐっと吸い取られるように減っていくのを感じる。
おおっふ。
これはこれは、まぁまぁ魔力を使ったね。
私は出来上がったドレスを確認する為に一旦身体を起こすと、くーちゃんがちょっと残念そうな顔をする。
ドレスをストレージから取り出して現物を見てみる。
魔法で作った物なので私の身体にぴったりフィットなのは間違いないので一々試着して確認しなくてもいいのが地味に助かる。
デザインはこんな物じゃないかなぁ、良く分かんないけど。
何かいいような気がする。
ふむ、こんな物かな。
まだまだ作らないといけない物が沢山あるからサクサクいくよ。
私はまたさっきと同じようにくーちゃんに身体を預けて次の製作物に取り掛かった。
そうやって作っては、起き上がって確認するを繰り返す事小一時間。
取り合えず全部終了だ。
魔力もかなり使ったし、今日はこれでお終い。
あとは宿に帰って明日に備えて早めに寝る事くらいか。
くーちゃんの身体にギュッと抱きつきもふもふを堪能する。
すーはー。
はー、癒されるぅ。
くーちゃんを見ると目を細めて恍惚とした表情をしていた。
あは、とっても幸せそうな顔しちゃって。
さくちゃんも交えて私たちの癒しタイム。
私たちの絆をより深いものにするからこうゆう触れ合いはとても大事。
「さてと、時間的にはまだ早いけどもう帰ろうか。」
くーちゃんにもたれ掛かっていた身体を起こし、立ち上がって街へ戻る準備をする。
そう言えば、バレットアントや女王蟻の買い取り額っていくらになるんだっけ?
聞いてなかったかも。
買い取りに出してから何日になる?
ええっと……なんと!あれから4日も経ってる。
何やかんやで忙しかったからうっかり忘れてたよ。
今日帰りに寄ってお金貰ってこないと。
蟻ん子は1匹いくらでって言ってたけどさてさていくらになっている事やら。
楽しみなようなちょっと怖いような。
バレットアントだけで買い取りが1,000匹でしょ?
それに女王蟻と他にくーちゃんたちが狩った獲物もだから相当な額になると思うのよね。
お金が減るどころか増える一方だもの。
使っても使っても使っても減らないだもん。
いや、有難い事なんだけど使うより増えるペースの方が上回ってるからさ。
ちょっとビビっちゃって。
くーちゃんたちのおかげだってのはよーく分かってるよ。
分かってるんだけど増えてく桁数が尋常じゃないからね。
「くーちゃん・さくちゃんありがとね。」
そう言いながら二人を優しく撫でる。
感謝の気持ちを忘れちゃダメだものね。
いつも心に感謝を!
街に戻って門を通過する順番を待つ。
いつもは夕方の混んでる時間帯に来る事が多いけれど今日はいつもより少し早い時間なのかわりと空いている。
自分の番が来て市民カードを見せて通過する。
「最近帰りが早いんだな? 体調不良か? 油断してたら夏でも風邪引くからな、気を付けろよ。冒険者は身体が資本だからな!」
「ううん、風邪じゃないから大丈夫。 ちょっと予定があってね。心配して頂いて有難うございます。」
ちょこんと頭を下げる。
この門兵さん冒険者一人一人をちゃんと見てるのねー。
へー、意外や意外仕事熱心なんだ。
私が感心していると、
「なんだぁ、俺の顔に何かついてるか? それとも俺に惚れちまったか?」
「いえ、それは無いです!」
0.1秒で即答する。
「何だよ、つれねぇなぁ。」
そう言って笑う門兵さん。
「俺は可愛い子ちゃんの名前と顔は全部覚えてるからな!」
「全くもって何の自慢にもならないわね。」
「一刀両断だな。」
僅かでも感心した私が馬鹿だったわ。
こめかみをグリグリと押さえてため息をつく。
「じゃ、もう行くわ。 ちゃんと仕事しないとダメですよ?」
そう言って門を通過してギルドへと向かう。
ギルドに着いて中に入ると夕方にはまだ少し早い時間と言う事もあって冒険者はまだらだった。
窓口を見るといつもはメイジーさんが居る事が多いんだけれど今日はミランダさんが窓口に居た。
メイジーさんは休憩中なのかな?
まぁ私の用事だとどっちがどっちでも大差ないから別にいいんだけど。
この間の買い取りはどうなったのか質問しようと思ってミランダさんの前まで行く。
「こんにちは。」
ミランダさんがこちらを見て
「あら、こんにちは。オルカさん今日は早くない?」
冒険者がこの時間帯にギルドに居るってあんまりないから目立つのと、私はいつも朝早くからきっちり夕方まで帰って来ないからね。
それが分かってる人には疑問に思うのかもね。
「明日に備えて早めに切り上げたの」って理由を説明してから肝心の質問をする。
「買い取り依頼出してたんですけどお金ってどうなってます? もう通帳の方に入金されてます?」
「ちょっと待って、すぐ調べるわね。」
私が差し出した市民カードを受け取ったミランダさんは、何か良くわからない魔道具にかざして確認作業をしている。
こちらからは見えないけれどミランダさんからは入出金履歴が見えるんだろうね。
「うわっ。すっごい金額!」
ミランダさんが目を丸くして驚いて、思わずと言った体で言葉が漏れてきた。
一体どれだけ入ったのかしら?
ミランダさんの驚きようから小金貨1枚や2枚って訳ではなさそうってのは予想出来るけど。
私の方をジッと見て小声で「まぁまぁ結構な金額だからここでは言わない方がいいかも」と奥の部屋へと案内された。
部屋へ入るとソファに座るように促されてそのまま素直にソファにちょこんと座る。
長くなるような話でも無いので飲み物はなしで。
ミランダさんが私の真ん前に綺麗に座る。
その仕草がとても綺麗でおよそ平民とは思えない程にさまになっていた。
脚を揃えてちょっと斜めにしているその様がとても美しかった。
「小金貨62枚と大銀貨3枚よ。」
はっ?
一瞬頭がフリーズしてしまう。
今なんて言った?
何かとんでもない数字が聞こえた気がするんだけど?
聞き間違えた?
「は? えっ?」
「間違いではないわよ。小金貨62枚と大銀貨3枚よ、そこから解体手数料や何やかんや諸々で大銀貨3枚引いて小金貨62枚の入金が確認されたわ。」
ええっと、考えが追い付かないんですけど。
小金貨62枚?
小銀貨62枚じゃなくて小金貨?
嘘でしょ?
あわあわと慌てる私を見てミランダさんは可笑しそうに笑う。
「貴女ってそうゆう所が可愛いのよね。」
き 急に何言い出すんですか、もう。
「ふふ」と笑いながら買い取り額の内訳を説明してくれると言う。
「じゃ、内訳を言うわね。バレットアント1,000匹は1匹につき小銀貨1枚と大銅貨2枚と銅貨5枚、〆て小金貨12枚と大銀貨5枚。女王蟻は傷も少なくてとても良好な状態だったのと卵を沢山持ってた事もあって王都の研究機関が高く買い取ってくれるそうよ。それが小金貨23枚ね、今回の中では一番高値がついたわ。色々な魔物がかなり大量にあったみたいだけどそれが全部纏めて小金貨10枚と大銀貨8枚。それと貴女グリーンバイバーを買い取りに出してまだお金受け取ってなかったでしょ?それの分が小金貨16枚。グリーンバイバーはお肉よりも皮の方が利用価値が高くて、あれだけ大きい1枚物の皮って滅多に出回らないからこれも相場よりもかなり高値がついたわ。」
ミランダさんにそう説明されて頬が引き攣る私。
何かもう、これって笑うしかないのでは?
あはは……
そう言えば領主様からの褒賞金が大金貨1枚だったわよね。
それも入れると小金貨72枚か。
……。
……小金貨72枚。
日本円にして約7,200万円
既に持ってたお金と合わせると小金貨100枚を超えちゃうか。
小金貨100枚……1億円超え……宝くじ並みじゃん。
いや、くーちゃんとさくちゃんの実力からすると当たって当然の宝くじみたいなものか。
おっそろしいわ。
私たちの話を聞いていたくーちゃんは尻尾をふわんふわんと揺らしていてとても機嫌が良さそうだ。
今回ギルドに買い取りを依頼したけど、実はストレージの中にはまだ狩った獲物が眠っている。
くーちゃんたちの食料と今度のアルマさんのお披露目で孤児院の子供たちに食べさせてあげようと思っていた分を差し引いてもまだ相当な量の獲物が残る。
それはもう相当な量が ね。
うん、これは当分出せないかも。
出したら出したでまた騒動になりそうなんだもん。
そう言えばギルマスに丸投げしていたズラトロクの方もまだ返事貰ってないのよねー。
あれなんか小金貨100枚単位って言ってたっけ……。
それにあのレア果物「女神の贈り物」がまだ500個近くストレージに眠ってるし……。
私が遠い目をして考え込んでいると
「普通はいきなり大金なんか持っちゃうと馬鹿になる人が殆どなんだけど貴女は大丈夫そうね。」
とミランダさんは言うけれど、全然大丈夫じゃないですよ。
めちゃめちゃ吃驚してますもん。
「お金はないよりあった方がいいんだからイイ事じゃない。」
そうですけど。
んー、そうですよね。
そう思う事にします。
私はミランダさんにお礼を言ってギルドを後にして宿屋に戻った。