第117話 色違いのお揃いよ
リズたちと翌日の朝、いつもと同じくらいの時間にギルドに集合の約束をしてそれぞれ帰路についた。
ドロシーは孤児院に住んでるからギルドには来ないで現地待ち。
ドロシーに関して言うと前世の記憶持ちと言う事もあってテーブルマナーにはそれ程忌避感は抱いてないみたい。
私もそうなんだけど、普通の日本人だったらナイフとフォークの使い方くらいは知ってるし、何だったら最低限のマナーくらいはどこかで習ったりしてたりするしね。
特に女性の場合は高校で習うなんて場合もあるくらいだし。
私? 私は社会人歴10年選手だったから一応知ってはいるよ。
会社のお偉方のお供で顧客の接待に付き合わされた事もあったし、デートでルカと一緒にフレンチのお店に食べに行った事もあったもの。
あの頃のルカはテーブルマナーがあやふやで私がするのを真似しながら食べてたっけ。
その姿がまたすんごく可愛らしくてねー。
ふふ。
思い出したら可笑しくなっちゃった。
(主様ずいぶんとご機嫌で御座いますね。)
(とっても楽しそうに笑ってました。)
(え、そう? 私笑ってた? そっか、笑ってたか。 昔を思い出してたの。)
(主様の前世の時の事で御座いますね?)
(うん、あの子がまだ生きてた時の話よ。もう会いたくても会えないんだけどね…。)
(主様。)
(ご主人様。)
(あ、ゴメン。なんか湿っぽくなっちゃったね。お終いお終い。さっ、帰ろっか!)
ちょっとだけ空元気ぎみに勢いを付けて歩き出す。
ほらほら、ボーっとしてると置いてくよ。
後ろを振り向いてくーちゃんたちに笑いかける。
「今はキミたちが居てくれるから私は幸せだよ!」
くーちゃんたちに言った台詞だったんだけど周りにはバッチリ聞かれてたみたい。
「見て、あの子すっごく可愛い。」
「まるで天使か妖精みたい。」
「私あんな妹が欲しかったなー。」
「それねー、私も思った。」
「うん、私も幸せになりたい!」
「お姉さんが居てあげるから一緒に幸せになろうね。」
はい?
見られてた?
ヤダ、もうー。
ちょっ、恥ずかしいってば。
「俺はあんな娘が欲しかったよ。」
「俺は嫁が欲しい。」
うわ。
今のは聞かなかった事にしましょう。
私は殿方はノーサンキューだからね。
可愛らしい娘さんや色っぽいお姉さんとかならバッチ来いのウェルカムなのだけれどねぇ。
私はそそくさとその場を後にする。
明けて翌朝。
いつものように目覚めスッキリ。
私目覚めはいいんだよねー。
ルカはいっつもお布団の中でゴロゴロしていつまでも出て来なかったけど。
「んんんーっ! っはあぁぁぁー。」
大きく伸びをして息を吐く。
今日は孤児院で院長先生のテーブルマナー講座だ。
服は冒険者の恰好じゃない方がいいのかな?
だったら普段着のワンピースでいっか。
いつも紺色や白色のばっかり着てるから今日は気分転換に同じデザインで淡い色合いのグリーンのにしようかな。
ストッキングはまだ作ってないので生足だよ。
履物は無難にベージュのパンプス。
斜め掛けのポシェットと後ショールを羽織って準備OK。
お出かけの恰好でトントントンと階段を降りて食堂へ向かう。
あ、カミラさんだ。
「おはようございます。」
「ああ、おは……よう。 今日は随分と気合の入った格好ねぇ。どこかのいいとこのお嬢様みたいねー。」
「え? そ そうですか?」
そう言われると嬉しいやら照れるやらで。
思わず口元が緩くなって二ヨってなっちゃった。
「あっれー、オルカさん今日はおめかししてる? もしかしてデート?」
「えー? 誰誰?誰とデートすんの?」
「男とデートするくらいなら私たちとデートしてよー。」
「そうだー、我々はデートを要求するー!」
「ち 違いますよー。今日はリズたちが居た孤児院で院長先生にテーブルマナーを教わりに行くんです。」
手をひらひらとさせながらハッキリと否定する。
こうゆうのとっても大事。
私は殿方とデートなんてしませんから。
冒険者のお姉さんたちも知ってると思うけど、先だっての蟲騒動で領主様のご令嬢を助けたお礼に夕食にお呼ばれしてるのよ。
それで失礼があるといけないからテーブルマナーを教わりに行くって訳。
かいつまんでそう説明したらみな「ああ」って顔しながら「頑張って。」って言ってくれた。
まぁ普通の冒険者にテーブルマナーって必須ではないものね。
いつも通り美味しい朝食を取った後くーちゃんたちを連れてギルドへ向かう。
冒険者の恰好をしていても視線を感じるのに、今日の私は冒険者の恰好じゃない普通の少女の恰好をしている。
そんな普通の恰好をしている少女が従魔を連れているのが珍しいのかチラチラとこちらを見る視線を感じた。
(いつもよりも見られておりますね。あまり気分の良い物ではありませぬ故ちょっと噛んで参りましょうか?)
(葛の葉姉さま名案です!)
(ダメだから!)
ダメに決まってるでしょ。
くーちゃんが噛んだら人間なんてひとたまりもないわよ。
事件よ事件。
私捕まっちゃうじゃない。
くーちゃんたちとそんな話を念話でしていると前から見知った2人が歩いて来るのが見えた。
あ、リズたちだ。
相変わらず時間に正確だこと。
人と待ち合わせの約束をしたら時間に遅れないようにする、当たり前の事なんだけどそれが出来ない人ってのが一定数居るのよね。
それはこっちの世界でも元世界でも一緒だね。
その点リズたちはちゃんとしてて好感が持てる。
流石は私のリズたんとメロディたん。
「おはよう。」
「「おはよう!」」
「あれー、普段着着てる。自分だけずっるうー!」
え、だって今日はテーブルマナーの練習って院長先生が言ってたからいつもの冒険者の恰好よりこっちの方がいいかと思って。
そう言ったら
「ねぇ、リズー。私たちも普段着に着替えて来ようか?」
「そうね。私たち1回家に戻って着替えて来るから先に孤児院に行ってて。」
「分かった。 じゃあ私は商業ギルドに顔出して用事済ませてから孤児院に行くわ。」
っと、その前に一応日課として3人連れ立って一緒に冒険者ギルドへ行く。
まぁいつもの習慣ってやつね。
ギルドに入るといつもと少し様子が違う、なんて言うか雰囲気が明るいと言うか浮ついている感じ。
どうしたんだろう?って思っているとカーリーさんとベルさんがやって来て「日にちが決まったよ。」って。
最初なんの?って思ったら
「アルマとザックのお披露目の日にち4日後に決まったから。場所は孤児院の中庭で午前の5の鐘だよー。」
それだけ言うとパタパタと小走りにどこかへ行ってしまった。
それでか、それで何かザワついてるって言うか浮ついた感じがしてたのかー。
でも目出度い事だね。
みんなも嬉しそうにしてるもの。
こうゆうのはパーッとお披露目して皆に周知して祝って貰う。
娯楽の多くないこの世界の平民にとっては騒げる数少ない機会だもんね。
そりゃ浮かれもするか。
リズたちも嬉しそうに笑っている。
ギルドの中に居る冒険者も職員もみな嬉しそう。
何かこうゆうのもイイね。
イイんだけど、領主様との夕食会の2日後にアルマさんとアイザックさんのお披露目かぁ。
なんか私だけめっちゃ忙しんだけど気のせいですか?
色々と準備しないといけないから全然ゆっくり出来ない!
どうしよう?
でも人任せに出来ない事ばっかりだし私が頑張んなきゃダメなのよね。
気合い入れなきゃ。
ふんす。
「よっし。頑張るぞー!」
腕にグッと力を入れて頑張るぞーのポーズをする。
「なぁに、急にどうしたの?」
リズが笑いながら聞いて来たから、忙しくなりそうだから頑張んなきゃって思っただけって返事をする。
「私たちもオルカの巻き添え食らっちゃったけどねー。」
「それについてはほんとゴメンねー。」
「美味しいお肉で許してあげる。」
「もー、メロディったらぁ。」
分かったわ、今日のお昼ごはんにお肉提供してあげる。
孤児院で子供たちも入れてみんなで食べよう。
そう約束して一旦2人と別れて私は商業ギルドへ向かう。
商業ギルドに入って受付まで行って職員のお姉さんに、このお姉さんはリズに意地悪したこの間のお姉さんとは別人だった、特許申請をしたんだけどそれが通ってるかの確認に来たと用件を伝える。
前回特許申請をした時に商業ギルドの会員になっているのでカードを見せる。
これでギルド会員かとかランクとかの確認が出来る。
ほんと便利なもんだよね。
なんか見た事ない魔道具をカチャカチャとやってる。
あ、どうやら確認が取れたみたい。
「確認が取れました。申請した特許は全て通っていますね。」
「良かった。安心しました。」
ホッとして私は笑顔になる。
それを見た職員のお姉さんはちょっと頬を赤く染めて言葉を続ける。
「ランクはEランクからですね。これってスゴイ事なんですよ。」
なんで?
普通はGランクからじゃないの?
冒険者ギルドも最初はGランクからだったよ?
「普通だったらそうなんですけど、オルカ様に関してはこれまで見た事も聞いた事もないような斬新な特許が複数申請されまして、まぁ実を言いますと前代未聞過ぎて審査官も理解出来なくてそのまま通ったって言うのが本当の所みたいですよ? あと新しいギルド長の推薦もあってすぐに通せ!みたいな。」
「へ、へぇー。そうなんですね。」
特許申請してからわずか7日で審査が通るってすごい早くない?
スピード審査でお待たせしません!って、サラ〇かってーの!
ランドルフさんギルド長に就任早々職権乱用じゃない?
そんな事して大丈夫?
ま まぁ、兎に角これで特許は通った訳だし、後はお金が入って来るのを待つだけだ。
うししし、楽しみねぇ。
ただ、特許は通ったけど誰もその特許を使用しようと思わなければ意味ないんだけどね。
誰か早く商品化して印税払ってくれないかなぁ。
「ありがとうございました。」
受付のお姉さんに挨拶して商業ギルドを後にして孤児院に向かった。
歩きながら前世のテーブルマナーをあーでもないこーでもないと思い出していた。
前世ではテーブルの上にはずらっとナイフやフォーク、グラスやパン皿が並んでいた記憶が。
確か外側から使うんだったのよね?
間違えて内側から使ってもそのままで大丈夫だったはず。
うっかりカトラリーを落としてしまってもお店の人に拾って貰えばOK。
ええっと、他には、利き手の右手にフォークを持ち替えるのはNG。
日本ではよくフォークの背に乗せて食べる人が居たけどそれもNG。
それからスープを飲む時も音を立てて飲む、息を吹きかけて冷ますのもマナー違反。
他にも色々あったはずだけどすぐには思い出せない。
後でドロシーに確認がてら聞いてみよう。
そんな事を考えながら歩いてたら孤児院の前まで来ていた。
約束の時間より少し早めに着いたみたい。
私が到着するのと同じくらいにリズたちも着いた。
「オルカ早いねー。もう着いてる。」
「リズたちも早かったね。その服、着てきてくれたんだ。」
「当ったり前じゃない!」
「そうですよー、」
「嬉しいなぁ。」
自分がプレゼントした服を着てくれると嬉しいもんだよねぇ。
思わず私もニッコリ。
私が今着てる服もデザインが一緒のヤツ。
「色違いのお揃いだね。」
3人で顔を見合わせてまたニッコリ。
ああぁぁ、至福のひととき。
美少女の笑顔は何物にも代えがたい。
笑顔独り占めだ、贅沢過ぎる。
「あれ、早っ! 3人とももう来てたんだー。」
あ、ドロシーおはよう。
「「「おはよう!」」」
するとドロシーは私たちの恰好に気付いてほんの一瞬だけ顔を曇らせた。
でもすぐに元に戻って何でもないって顔で喋り始めたんだけど、それを見ていた私たちはちょっと申し訳ない気持ちになってしまう。
そうよね、ドロシーだけ仲間外れは良くないよね?
もし私がそんなんされたら悲しい気持ちになるし、怒っちゃうかも。
自分がされて嫌な気持ちになるような事を人にしちゃダメだよね?
それって人としてどうよ?ってヤツよね。
私はリズたちに目配せしてから
「実はね、ドロシーにもあるんだぁ、お揃いの服。」
「ほら。」と言いながらストレージから同じデザインの色違いを取り出す。
渡すのが遅れちゃってゴメンねって言いながらドロシーに手渡す。
「え、あ あの……私。」
「いいの、これはドロシーのだから。」
「そうだよー、私たち友達だからねー。4人で色違いのお揃いだよ♪」
「そうそう、リズの言う通り。友達なんだから遠慮しなくていいんだよ。」
受け取った服をギュッと胸にかき抱いて
「ありがとう♪」
そう言ったドロシーの笑顔は大輪の花が咲いたようだった。
良かった、ドロシーが笑ってくれた。
同じ見るなら悲しそうにした顔より笑った顔の方が絶対いいもんね。
リズたちを見ると2人もニッコニコに笑っている。
真新しい服を胸にかき抱いたドロシーに
「ボーっと突っ立ってないで着替えてきたら?」
と今日一番の笑顔でリズが促す。
「そうそう、誰かさんが見たがってるしねー。」
む。
メーローディー。
「わ 私は別に……」
「ほぉーん? 見たくないんだ? へぇー?」
「着替えたドロシーきっとすんごく可愛いよ? それでも見たくないの?」
ぐっ、痛いところを突いてくる。
着替えたドロシー。
可愛いドロシー。
スカートの裾を摘まんで軽く持ち上げて、そんでニコッて笑うドロシー。
み 見たい。
「見たくない なんて言ってないじゃない。」
「「じゃあ見たいんだ!」」
そう言ってコロコロと笑う二人。
くっそー。
いつか仕返ししてやるぅ。
私たちのやり取りを見ていたドロシーが笑いながら「着替えてくる!」って言って部屋に戻っていくのを眺める私だった。