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第116話 院長先生衝撃の事実

帰り際「では、3日後の2と半の鐘の刻にお迎えに上がります。」と言ってやり切った満足感いっぱいの顔つきで意気揚々と引き上げるグレイソンさん。


マイガーッ!


ね、正直に言っていい?

いいよね?

私だって愚痴りたい時もあるのよ。

ぶっちゃけ、貴族と夕食だなんてあまりしたいとは思わない。

ううん、むしろ遠慮したいくらい。

でも、招待(実質的な召喚だけど)されたら行かない訳にいかない。

どうしよう。

って、考えてもどうしようもないんだけど、ホントどうしよう。


心配事が山積み。

着て行く服どうする?

普段着でいいって?

ないないない、それだけは絶対にない。

普段着ってそれはお貴族様の感覚での普段着って事であって、それって平民からしたら絶対に普段着にしないような一体幾らするの?ってくらい高価な服だよね?

今の私ならそうゆうドレスだってそりゃあ買えなくもないけど、問題はそこじゃない。

買える買えないではなくて、仮に注文しても3日後までには間に合わない事の方が問題。

間に合わないのなら自分で作るしかないんだけど、そうすると一から自分でデザインしないといけなくなる。

私元男だよ?

そんな服のデザインなんてした事ないよ。

そもそもお洒落な女性用のドレスとか知らないし。

それにお化粧はどうするの?問題もある。

実はこっちの世界に来てまだ一度もお化粧をした事がない!

と言うか、お化粧道具すら持ってない。

今のこの身体はお化粧なんて全く必要としないくらいぴちぴち艶々で綺麗なんだもん。

元オッサンの私にお化粧しろと?

ハードル高すぎじゃない?

更にテーブルマナーの問題もあるわね。

前世では最低限のテーブルマナーくらいは知ってたけど、こっちの世界のテーブルマナーどんなのなのか知らない。

勘だけど、多分似たような物だとは思うんだけど確信はない。

他には手ぶらで行っていいものなのか?って事。

お貴族様にお呼ばれして手土産の一つも無しに訪ねるなんてあり得ないと思うのよね。

だから持って行く手土産を考えなくては。

貴族が欲しがる物ってなに?

まずそこからリサーチしないといけない。

でもそんなの誰に聞けばいいのよ?

まだある、お呼ばれしたら夜も遅いから泊っていけって言われる可能性大!

お貴族様のお屋敷でお泊りなんて絶対に気が休まらない。

あと、お貴族様に取り込まれたりしないようにどうやって断るか断り文句を考えておかなくては!

考えながら歩いていたら


「おおーい、姫さん。全部ダダ洩れになってんぞ。」


とギルマスに笑われた。

ついでにハイディさんたちにも笑われて、


「オルカさん、夕食楽しんで来な。」

「頑張ってね。オルカさんなら大丈夫だと思うよ。」

「ご愁傷様。」


最後のドンナさんだけ嫌味を言って来た。

こんにゃろうー。


「まぁその、なんだ。俺はドレスだとか化粧とかそうゆうのはさっぱり分からんから大して力になってやれんが、リズたちにでも聞いてみたらどうだ? 手土産は持って行った方が無難は無難だな。何か珍しい物とかでもあればいいが、無ければ無かったで持ってかなくても領主様は咎める事はせんだろう。」


「そうですね。 うん、そうしてみます。」


1人でうじうじ悩んでても仕方ないからリズたちに相談してみよう。

うん、そうしよう。


皆と連れ立って戻った所でリズたちに会った。

私を見つけたリズたちが駆け寄って来て「どうだった?」って聞いて来る。

どうせ後できちんと話するつもりだったからここは曖昧に笑って済まそうと思ってたのにギルマスが「結構な大金だったな、良かったなお前たち。それと姫さんはご領主に呼ばれて会食だ。」って勝手にペラペラと喋ってしまう。

もー、当の本人がまだひと言も言ってないのになに勝手に喋ってんのよ!

ここの冒険者ギルドの情報管理の甘さはギルマスのせいなんじゃないの?

そう思わざるを得ない程のザルッぷりだ。

もうスッカスカの穴だらけ。

私が「むー。」と睨んでも「あーそんな風に睨まれるのも悪くないなー。」なんて宣い全く反省の色が見えない。

ギルマスに構ってても話は進まないし埒が明かないのでリズたちを伴って一旦外へ出た。


「はあぁぁぁぁ。」


思わず大息をつく。

なんか疲れちゃった。

けどリズたちに説明しないとアドバイスも貰えないからなぁ。

何から話そうか、まずは順を追って話した方がいいのかな?

そう思っていたのだけれど


「ねぇ、何がどうなったの? 詳しく教えて。」


リズの方から聞いてくれたので助かった。

宿へ戻る道すがら説明した。


かくかくしかじか。


時々「へー」とか「はぁ?」とか「信じらんない!」とか「うわっ!」とか「私は無理だな」とか言いながらも最後まできちんと聞いてくれた。

やはり持つべきものは友だよ。


「でも、私たちも冒険者だし、そんなお貴族様と一緒に食事するのに必要な服とか言われても分からないし、そもそも私たちも普段お化粧なんて滅多にしないから。」

「そうそう、私もリズも孤児だからそうゆうのは良く知らない。あっ、でも院長先生ならお貴族様とも付き合いとか有るかも知れないし何かいい案があるかも?」

「だねー、私たちが知ってる大人で頼りになるのって院長先生とかサラさんやパメラさんくらいしか居ないし。」


そっか、その手があったか。

そだね、じゃあ孤児院に行ってみようか。


「じゃあこれから孤児院に行って話聞いてみる。」


私がそう言うとリズたちも


「だったら私たちも行くよ。」


って言ってくれたので3人で孤児院へと向かった。


「それにしてもドンナさんってもっと頼りになる人かと思ってたのにそんなにポンコツだったなんて。」

「ホントホント。」


2人ともビックリして開いた口が塞がらないって顔してる。

私もそう思う。

それに較べたらカーリーさんなんて無口なだけで全然まともよね。

いや、それはカーリーさんに失礼だよー。

そんな事を言って3人で笑い合ってる内に孤児院に着いた。


「「こんにちはー!」」


「あら、リズにメロディ。どうしたの?」


「あ、サラさん、ちょうど良かった。院長先生は居る?ちょっと相談があって……」


「相談? 何の相談なの?」


リズが私の方を手で指示して


「それがオルカさんの相談なんだけど、院長先生に聞きたい事があって……出来たらサラさんやパメラさんにも聞けたらいいなと思って。」


「まぁまぁ、使徒様の相談で御座いますか。」


使徒様から相談をされるなんて光栄で御座いますとか言ってる。

もう、ほんと勘弁して下さい。

世間知らずのただの子供の相談なんです。

軽~い感じで聞いて貰えればそれでいいんです。


コンコンコン。


サラさんが執務室のドアを軽くノックする。


「サラです、失礼します。」


そう声を掛けてドアを開けて私たちに中へ入るよう促す。

中へ入るなり元気よく「こんにちはー!」と挨拶するリズとメロディ。

その様子を優しい眼差しで見つめる院長先生が居る。

私はちょこんと頭を下げて中に入った。


「あらあら、使徒様まで。一体今日はどんなご用事で?」


私たちに座るよう勧めながら同室に居たパメラさんにドロシーを呼んで来るよう頼んでいる。

サラさんは人数分のお茶の用意をしに厨房へと向かって行った。

パメラさんがドロシーを連れて部屋に戻って来てから暫くしてサラさんがお盆にお茶を乗せて戻って来た。

私の用事なのだから私が説明するのが筋なのだけれど、私が言う前にリズが説明を始めた。


「ほら、一昨日の蟲の件は知ってますよね? あの件で……」


時々私が補足を入れながら説明する。

そして同時に聞きたかった事を話していく。

ドロシーも事の顛末を知りたかったようで、聞き終わった後に感心するやらビックリするやら忙しそうに百面相していたのが可愛らしかった。


「大金貨なんて私見た事ない。みんなは?」


リズさんの問い掛けに、メロディもドロシーも、サラさんやパメラさんさえも「見た事ない」と言ったのに対し、院長先生は「昔あるお屋敷で働いていた時に見た事はあるわね。」とサラッとスゴイ事を言う。

それには皆「えっ。」と固まってしまう。

サラさんやパメラさんでも知らなかった衝撃の事実が今ここに判明した。

何処のお屋敷なのか気にはなるけど院長先生が言わないのだから誰も聞きはしない。

きっと貴族の屋敷なんだろうなと察しただけだった。


「でも、大金貨なんてあの方も思い切ったものねぇ。それ程お嬢様が大切なのね、ふふ。」


まるで領主様の事を良く知ってるみたいな言い草。

まさか昔働いていたお屋敷って領主様の所?

サラさんもパメラさんもとても驚いて院長先生を凝視している。

勿論リズたちもビックリして目をパチパチさせている。


「あら、みんなジッと見てどうしたの?」


「え、あの 院長って領主様の所で働いた事がおありなのですか?」


「ええ、そうよ。昔ちょっとね。言ってなかったかしら?」


サラさんの問いにあっけらかんと答える院長先生。

サラさん始めリズたちも初耳だったようでとっても驚いている。

そりゃそうよね。

あの穏やかで優しそうで物腰柔らかな院長先生が一時期とは言え領主邸で働いていたなんてね。

そのまま働いていた方がお給金も貰えて生活に困る事もなく良かったはずなのにどうして孤児院の院長をしているのかしら。

疑問は残るけれども人には言いたくない事、知られたくない事なんて幾らでもあるからね。

院長先生が言わない以上は聞くべきじゃないよね。


「なんか私の昔の事で話が飛んじゃったわね。それで使徒様のご相談って?」


そうそう、それよ。

ここに来た一番の目的は夕食に招待されたけれどもどう対応すればいいのかを聞く事。

領主様から夕食の招待を受けたけど、服は何を着て行けばいいのか、やっぱりドレスじゃないといけないのか?

お化粧なんてした事ないから誰かに教えて貰いたいとか、お呼ばれに手土産は必要じゃないのかとか。

テーブルマナーも触りだけでもいいから教えて貰えれば嬉しいなとか、色々。

心配事が多すぎてちょっと頭パニックになっちゃってさ。

誰かに頼らないとどうにかなっちゃいそうで。

聞きたかった事をワーッと一気に捲し立てたのに、院長先生はそれを黙って優しく微笑みながら最後まで聞いてくれた。

そしてゆっくりと口を開く。


「そうねぇ、どこまで参考になるか分かりませんけれども私で良ければお教えして差し上げます。」


「あ、有難うございます。」


相談に乗って貰える、それでどれだけ心が軽くなる事か!

心が軽くなるだけで受けるストレスは半減する。

更にいいアドバイスを貰えよう物ならストレスは無くなったも同然。

良かったぁ。

嬉しいのが顔に出てるのが分かったのか院長先生は手を口元に当ててクスリと笑った。


「では、まず初めに、お召し物からですね。普段はどちらで?」


あー、それは平民の行く商業街区の服屋さんだったかな?


「確か商業街区の服屋さんだったと思います。そこで普通のワンピースを買いましたから。」


「確かに私たちのような平民ならそれで充分ですね。いえ、そのお店なら十分過ぎでしょうか。公式な晩餐会ではなく個人的な夕食と仰ったのですよね?それでしたら大丈夫だと思いますよ。貴族ならば着ていくドレスもそれなりの物が求められますので駄目でしょうが、平民ならばそれで十分です。あのお方はお優しい方で御座いますからそのような事で一々咎めたりはなさいませんよ、だから安心して。」


そう、それなら安心。

けどやはりドレスの方が望ましいのは望ましいですよね?

私がそう聞くと院長先生は


「どうしても心配なら貴族街に近い所に富裕層が集まる地区がありますからそちらの仕立屋に行ってみるのも1つの手ですね。そこなら貴族の方がお召しになられるようなドレスも作れます、貴族のドレスと言うのはデザインから始まって生地や素材を決めて採寸、仮縫いから本縫い、最後に最終調整と長い時間が必要なのね。でも今回の夕食会ではそれだと間に合いませんから、吊るしのドレスで身体に合う物が有ればそれでもいいかも知れませんね。無ければ無かったで平民のワンピースでも問題は無いと思いますよ。」


「そうなんですね、参考になります。」


成る程成る程。

これで1つ疑問が解消されたわ。

次はお呼ばれの時の手土産について。

やはりこれも持って行った方がいいのかな?

その辺はどうなのだろう。

貴族に喜ばれる手土産って何があるんだろうか?

私じゃ全然分からないから聞いてみる。


「手土産は必ずしも必要ではありません。特に今回はこちらが招待される側ですから無くても不敬には当たりませんよ。ですのでご安心を。あ、それと、お化粧に関しては仕立屋で聞いてみては如何?そうゆうお店ではお化粧や髪結いの人が居るはずですから当日頼んでみてもいいかも知れませんねぇ。」


良かったぁー。

何でも聞いてみるもんだねー。

次々と不安が解消されていく。

残るはテーブルマナーのみ。

これも聞いてみる。

ここまで聞いたんだから遠慮は要らないよね?

って言うかここで遠慮するのも可笑しな話だしね。


「テーブルマナーについては私がお教え致しましょう。なにぶんにも昔のテーブルマナーですので今のテーブルマナーとは若干違いはあるかも知れませんが、それでも基本は同じでしょうしね。」


「ホントですか! すっごく助かります!」


「「「良かったねー。」」」


リズたちが口々に「良かったね」って言ってくれた。

うん、ほんと良かったよ。


「これで不安の全てが解決だね! やっぱ院長先生に相談して正解だったでしょ?」


リズとメロディが「エッヘン」と胸を張ってドヤ顔してる様が可愛らしくて思わず笑顔になってしまう。

もー、二人ともー。

別にリズたちが偉い訳でも何でもないのにねー。

おっかしーの。

私たちがキャッキャウフフと笑い合っていたら


「では、リズ、メロディ、ドロシーも。使徒様と一緒にテーブルマナーのお勉強をしましょうか。」


「「「えっ?!」」」


3人が息ぴったりに声を上げる。

あらら、私の巻き添えを食っちゃったみたい、ゴメンねぇ。

リズとメロディが両手を前に出して掌をブンブンと振っている。


「いやいやいや、私たちはお貴族様と食事する事なんて一生ないですから、そんなの覚える必要ないですよー。」

「そうそうそう。リズの言う通り。私たちには不要です!」

「私は覚えてもいいと思う。」


「「ドロシーッ?!」」


リズとメロディがバッとドロシーの方を見る。

むむむっと唸るリズとメロディ。


「ドロシーが寝返った?」

「ドロシーの裏切り者ー!」


「何言ってんですか。成人してるんですからそれくらい知っておいた方がイイに決まってるでしょ!」


「「ううぅ、ドロシーが正論言ってる。」」


はい、ドロシーの勝ち~。

正論言ってるって悔しがるリズたちもどうかと思うけどね。


「リズもメロディも、貴女たちもイイ大人なんだから諦めて覚えなさい。ドロシーの方がよっぽど大人じゃないの。」


ぷ。言われてる言われてる。

そうだよー諦めなさいよ。

みんなで一緒に勉強したら楽しいかもしれないじゃない。


「では、使徒様。明日の午前中5の鐘の刻にお越し下さいますか?」


「あ、はい。承知しました。宜しくお願いします。」


「はい、承りました。」


ニッコリと笑って首肯する院長先生。

それからリズたちの方へ向き直って、


「リズ、メロディ。分かりましたね? 明日必ずここに来るように! いいですね?」


人差し指を下に向けて「ここに」を強調していた。


「「はあぁ~い。」」


しょんぼりと了承する二人。

それを見てみんなで爆笑した。


何とかなりそうな感じだね。

ホッと一息ね。

明日頑張ろう!





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