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第115話 褒賞金と招待状

くーちゃんとさくちゃんにとっても雑な扱いを受ける主。

私ってまぁまぁそれなりに普通に常識のある人だと思ってんだけど。

ね、私ってそんな残念な子?

くーちゃんたちにそう聞いたらスッと目を逸らされた。

なんか納得いかない。


本当はベレッタ改2とウィンチェスター改の銃弾も作りたかったんだけど、魔力と時間が足りなかった。

それはまた今度で。

今日はこれからギルドに行かなきゃいけないから明日時間あったら作ろう。


「もうお昼も回ったからそろそろ行こうか。」


くーちゃんたちに声を掛けててくてくと歩き出す。

ギルマスの話だと、何か領主様の使いの人が褒賞金持って来るって事だったけどどれくらい貰えるんだろう。

そりゃまぁ多ければ多いほど嬉しいけど、そこはそれ、常識的な範囲だろうね。

折角頂ける物だから有難く頂戴しておけば失礼には当たらないよね?

でもホントお金が減らないね、逆に増えてく一方だし。

更に特許も取れたみたいだしこれからもっともっとお金増える予感。

小金持ちから大金持ちになりつつある私、ちょっと怖いくらいだよ。

異世界に来てから順風満帆過ぎてなんか落とし穴でも見落としてそうで心配になっちゃう。


街へ戻る途中、くーちゃんたちと歩いていると魔物が遠巻きにこちらを見てはいるけど相変わらず近寄っては来ない。

魔物の反応は結構あるんだよ、あるのに姿を現さない。

くーちゃんが居るだけで魔物除けになるってすごいよね。

くーちゃん様様だ。


あ、街の防壁が見えてきた。

南門の周りをぐるっと囲っているお堀の外側で待っていると呼ばれるので、呼ばれたら順番に橋を渡って中に入る手続きをする。

市民カードを見せるとすぐに「通ってよし」の合図が出た。

門兵さんとも顔見知りになったのもあってスムーズに街に入れた。


「今日は随分早いんだな。」


いつもは夕方近くに戻る事が多い冒険者がお昼ごろに戻ってくればそう思うのも当たり前。

門兵さんたたちは意外としっかり見てるのね。

感心感心。

貴方たちのおかげでこの街の安全が守られてるんだから感謝しないとね。


「ええ、今日はちょっとギルドに呼ばれてまして。」


ざっくりと説明する。

別に一々事細かに説明する必要ないもんね。

なのに、


「そっか、今日は褒賞金が貰える日だったか。領主様直々にお褒めの言葉を貰ったんだって? すげーな、オイ。」

 

は?


「なんで知ってるんですか?」


「何でって、今街じゃあ嬢ちゃんの活躍の話で持ち切りだぞ? 街中の噂だぞ?」


ちょっと待ってよ。

どうゆう事なのよ?

情報ダダ漏れじゃないの!

情報漏洩絶対ダメ!

それに噂ってなによ、噂って。

一体どこから漏れた……って、冒険者はみんな知ってるからそこからか。

それしか考えられないよね。

はあー、まったく。


「それで、どんな噂なんですか?」


「あー、あれだ。黒い髪をした魔女が魔法で魔物を切り刻……んだ……ひっ!」


犯人はアイツか!

絶対間違いない。

うぬぬぬ、おのれー。

右手をグッと握りしめワナワナと震える。

溢れ出た魔力がブワッと広がってゆく。


「お 俺はそうゆう噂を聞いただけなんだ。」


怯える目で必死に言い訳をする門兵さん。

あ、ゴメンなさん。

別に門兵さんに怒ってる訳じゃないから。

ちょっと1回落ち着こう。

深呼吸して、スーハー。


「ゴメンなさい、もう大丈夫です。 成る程よーく分かりました。」


これはお仕置きが必要だわ。

それもきっついのが。

ハイディさんにいいつけてやるー!


街の中をギルドに向かって歩いているとめちゃめちゃ視線を感じる。

おうふ、時すでに遅し、完全に広まってる。

あっちからこっちからひそひそ話が聞こえるよ。


「ねぇねぇ、黒髪の……ってあの子じゃない? 冒険者の恰好してるからきっとそうだよ。」


とか、


「領主様から直接褒められて領主さまの養子になるって噂なんだって。」


とか。

って何で私が領主様の養子にならないといけないの?

可笑しい可笑しい。

どこでそんな話になった?


男どもの舐めるようなイヤらしい視線とか……。

コソコソと話し、下品な笑い声をあげている男たちを見ると虫唾が走る。

元男だけに、今何を考えているのか手に取るように分かるからなお腹が立つ。

近づいてこようとする男が居たけれど、くーちゃんがガッチリとガードしてくれているのでこちらに近づけずにいる。

くーちゃんありがとね。

周りの視線を気にしつつも歩いて行く。

ふー、漸くギルドに着いた。

こんな事なら辻馬車に乗れば良かった。

ドアを開け中に入ると、ハイディさんが駆け寄って来て大きな声で私に謝る。


「ほんっとうにゴメンなさい! ドンナの馬鹿が余計な事言ったばっかりに街中に知れ渡っちゃって……」


見るとドンナさんが力なく項垂れてシュンとしている。

これは余程こっぴどく絞られたみたいね。

でも可哀相だとは思わないよ。

だってこっちは被害に遭ってる訳だからね。

ドンナさんは一度心から反省するといいよ。


「噂になっちゃった以上仕方ないですね。もうどうにもなりませんし。人の口に戸は立てられぬって言いますから。」


諦めるしかないよね。

他にどうしようもないし。

騒がしいのは今だけ、2・3カ月もすれば落ち着くよ。


「ほんとゴメンね。お詫びに何でもするから!私たちに出来る事なら何だってするから言ってね!」


「そんなに気を使わなくていいですよ。ドンナさんも反省してるみたいですし。」


見た感じは反省してるっぽい。

それにハイディさんがしっかりと手綱を握ってくれるみたいだから。


「おっ、噂の姫さんの登場か。」


む。

ここにも空気を読めないお馬鹿さんが一人。


「ギルマス、馬鹿な事言ってると切り刻みますよ?」


にっこり笑いながらそう言う。


「ヤメてくれ。嬢ちゃんが言うと冗談に聞こえねぇ。」


「だったらそんな事言わなきゃいいじゃないですかぁ。もー。」


「スマンスマン。 お前たちこっちだ、応接室に来てくれ。」


ギルマスの後ろについて行く。

ギルマスの話だと領主様の使者はまだ到着してないらしい。

けどもうすぐ1の鐘だから直にくるだろうって。

応接室に入ってソファに座って待つ。

くーちゃんたちが一緒に居ても問題ないかどうか聞くと「テイマーなんだから従魔を連れてるのは当たり前だろ」との事でくーちゃんたちも一緒の部屋で待つ事に。

ドンナさんがシュンとして大人しいのをギルマスが弄ったりしながら使者の方が来るのを待っていると、ミランダさんがやって来て「使者の方がお見えです。」と言う。

いよいよか。

別に悪い事した訳でもないのになぜかちょっと緊張する。

扉が開かれ見知った顔が順番に入って来るのが見えた。

先頭は華麗な家令グレイソンさん。

相変わらずシブ爺だわ。

最後が護衛のトッドさん。

今日は流石におちゃらけてないのね。

で、2番目に入って来たのは誰だっけ?

ええっと、確か領主様の従者の人だっけ?

アシュリー様が言ってた執事のメイ メイ メイラード?

そうだ、メイラードだ。

何か焦げ臭そうな名前ですわね、ほほほ。


「本日はご足労頂き申し訳ない。まずは座ってくれ。」


丁寧なのか丁寧でないのか微妙な挨拶をするギルマス。

それに対して怒る事も無くにこやかな笑みを絶やさないグレイソンさんたち。


「それでは失礼して。」


慇懃に礼をして座るグレイソンさんとメイラード?さん、トッドさんは後ろに立って控えている。


「本日はオルカ様はじめ冒険者の方々に態々ご足労頂いたのは他でもありません、先だっての事件の謝礼でございます。」


「そのように聞いているが、で、実際にどうなんだ? たんまり出るのか?」


ちょっ!?

ギルマス聞き方!

まるで私たちに話す時みたいに普通に話しているけど不敬じゃない?

大丈夫?

私の心配が伝わったのか、グレイソンさんが此方を見てニコリと笑って、


「ガスパー様でしたら大丈夫でございますよ。」


「そうだぞ、俺とグレイソンの仲だからな。」


そうなの?

どんな仲なのかは知らないけれど大丈夫ならそれでいいの。

兎に角ギルマスは言動がお子ちゃまだから冷や冷やするのよ。

でもまぁ大丈夫だと言うのだから大丈夫なのだろう、私は「はぁ。」と曖昧な笑みで返す。


「ギルマスはお子様。」


ちょっとドンナさん空気読んで空気。


「いや、ドンナにだけは言われたくないぞ!」


それは確かに!

ドンナさんに言われたらショックだよね。


「ドーンーナー!」


ハイディさんがドスの効いた低い声でドンナさんを諫める。

「ひっ!」と小さい声を上げて大人しくなる。

最初から大人しくしてればいい物を何で余計な事を言うかなー。

『雉も鳴かずば撃たれまい』だよね。

ドンナさんは色々と学習した方が良さそうだね。

その様子を微笑ましい物でも見るかのように優しい眼差しで見つめるグレイソンさん。

トッドさんは口に手を当てて「クッ、クッ」って必死に笑いを嚙み殺してるし。


「さて、もう宜しいですかな?」


「お? おお。スマンスマン。それじゃあ頼む。」


ギルマスの言葉でグレイソンさんは居住まいを正してコホンと咳払いをする。


「今回の蟲の魔物襲撃事件における領主一族の救援並びに救出に際し、オルカ様、ハイディ様、エミリー様、ドンナ様より多大な貢献を頂きました事心よりお礼申し上げます。」


「はい。」


「つきましては謝礼でございますが、我が主より褒賞金を預かっております。 メイナード此方に。」


メイナード?

メイラードじゃなくて?

あらま、私なんか勘違いしてたみたい、失敬失敬。

焦げ臭くなくて良かったわね。

なんて場違いな事を考えていると、メイナードさんが横長の薄い木箱をツイっと此方に差し出して来た。

綺麗な白木の箱でメイワース領の紋章が彫り込まれている。

見るからに高級品と分かるそれだ。

それをグレイソンさんが美しい所作で両手で箱の両側を支えるようにしながら開く。

するとそこには赤いすべすべした素材で出来た上質な布の上に見慣れない金貨が4枚乗っていた。


「「「「えっ。」」」」


金貨ですよね?

でも私の知ってる金貨とは大きさが大分違うんだけど?


「ほほう、こりゃまた随分と奮発したな。」


ギルマスが「こりゃスゲエわ」みたいに思わずといった感じで感嘆する。


え? え?

なに?

どうゆう事?

ハイディさんを見るとわなわなと震えて


「……大金貨なんて初めて見た。」


と手で口を押えながらビックリしている。

はい?

大金貨?

大金貨ってあれですよね?小金貨10枚で大金貨1枚。

小金貨が1枚約100万円相当だから、それが10枚で1千万円……


1千万円っ!?


「うそっ。」


思わずそう呟いてしまう。

だってそんな……

幾ら危ない所を助けたからと言ってそんな大金普通考えられる?

例えば強盗に襲われそうになってる人を助けたとしてよ、それで金一封なんて普通貰えないよね?

日本だったらせいぜい感謝状くらいは貰えるだろうけどそれまで、流石にお金は貰えない。


「いいえ、嘘ではございませんぞ。正当な褒章金で御座いますよ。最愛の愛娘であるお嬢様をお助け下さった事に我が主は大変感謝しております。」


優しく笑うグレイソンさんの様子を見るにどうも本当らしい。


「いえ、でも…だからと言ってそんな大金……」


「御一人1枚づつ、些少では御座いますが、どうぞお納め下さいませ。」


えええぇ。

納めて下さいって言われてもそんな大金はいそうですかと受け取る訳にはいかないじゃない。

本当に貰ってもいいの?そうゆう意味も込めてハイディさんの方を見る。

するとハイディさんは真剣な面持ちで


「オルカさんは受け取る資格があると思うけど、私たちはそんな大した事してないし、蟲の大群を討伐したのもオルカさんだし。だからこれは受け取れません。これを受け取るのは図々しいような気がする。」


と、そう言う。

自分は受け取れないって言うハイディさんの気持ちも確かに分からなくはない。

私も同じ立場ならきっと同じ事を言うと思う。

けれどグレイソンさんは


「いいえ、ハイディ様方も同様にそれを受け取る資格が御座いますぞ。怪我をした馬丁のマシューを貴重なポーションで治して下さったのは他でもないハイディ様で御座います。大切な使用人の命を救ってくれたと我が主は大層感謝しておりました。ですのでこれは当然の権利かと。」


「でも……」


だよね、幾らそう言われても中々ねぇ。


「さぁさぁ、遠慮なさらず。お納め下され。」


にこやかな笑みでグイグイくるグレイソンさん。

随分と押しが強いなぁ。

それでも躊躇うハイディさんたち。


「あ、そうそう。忘れておりました。オルカ様へはもう1つ褒章が御座いまして。」


如何にも今思い出したとでも言わんばかりの口調で一旦話題を変え、懐からそっと手紙を差し出してきた。

真っ白な封筒。

私は受け取ったその封筒をまじまじと見る。

裏面には赤い封蝋を押してある。

えっと、これは?


「我が主がオルカ様を夕食にご招待したいとそう申しております。こちらはその招待状に御座います。」


「え? 夕食に招待?」


「はい、主もお嬢様も是非にと。」


グレイソンさんは更に続けて、


「公式な晩餐会ではなくあくまでも個人的な夕食への招待で御座います故、気楽に普段着のままでお越し下さいとの事で御座います。」


「ええええぇぇっ、むむむ 無理ですよ。私ただの平民ですし、冒険者だし、そんな恐れ多いですよ。」


慌てて遠慮するがグレイソンさんはにこやかに笑いながら首を横に振る。


「ここだけの話、お嬢様がどうしてもオルカ様にまたお会いしたいとそう申しておりまして。」


笑っているようで笑っていない、口元は笑っているように見えるけど目が笑ってない。

笑みを深くして


「3日後の2と半の鐘の刻にお迎えに上がります。お迎えは滞在されている宿屋で宜しいですな?」


有無を言わさぬ口調で決定事項のように事が運んでいく。

私の意見はどうやら関係ないみたい。

招待状って言うけどこれって実質召喚状ですよねー?

絶対断れないヤツ。


「いいえ、招待状で御座いますよ。あれからお嬢様がどうしてもと毎日うるそう御座いますゆえ。」


え?

なんで私の考えてる事分かるの?

もしかしてグレイソンさんてエスパーだったりする?

私が疑問に思ってるのが分かったみたいで、


「全部漏れてたぞ。」


とギルマスが笑いながら教えてくれた。


……やらかした。


私痛恨のミス。

けれどグレイソンさんは怒る事もなく変わらぬ笑顔のまま


「では、よろしゅう御座いますな。」


と念を押して私が夕食に招待されるのが決定してしまった。

そして、今度はハイディさんたちに向き直り喋りだす。


「ハイディ様方に一つ提案が御座います。」


「あ、はい。」


「ハイディ様方は褒賞金はお受け取りにはなられないと。」


「はい、流石にそこまで厚かましくはなれないんで。」


ハイディさんが言うと横からドンナさんが口を挟む。


「折角くれるって言ってるんだから貰っ……んが、モゴモゴ。」


エミリーさんに口を塞がれるドンナさん。

エミリーさんグッジョブ!

ドンナさんの空気の読めなさ過ぎには吃驚だよ。

流石にこれにはエミリーさんも動かざるを得なかったか。


「ドンナちょっと黙って!」


エミリーさんにまで窘められてるドンナさん。


「あちらのドンナ様のように前向きに受け取って頂けると此方としても大変有難いのですが。」


それでもにこやかで優しい口調で話すグレイソンさん。

彼は鉄の精神だ。


「あ、いえ、でも……」


「そこでですな、ハイディ様方が褒賞金をお受け取りになられない場合、オルカ様とご一緒に夕食にご招待させて頂きたく存じます。 我が主と夕食か褒賞金か、どちらかをお選び下され。」


究極の二者択一を提示するグレイソンさん。

流石は華麗なる家令。

私だったら絶対に褒賞金一択よ。

ハイディさんは上向いたり下向いたり、目を所在なくあちこち動かしては「うーうー」唸りながら必死に考え込んでいる。

そんな悩む事かなぁ。

どっちがよりストレスフルかちょっと考えたらすぐ分かりそうな物だけどね。

ハイディさんがゆっくりと顔を上げる。

その目は半分諦めのような雰囲気が漂ってる。


「ハイディ、諦めろ。貴族が褒賞金を出すと言っているのに断るってのはそれはそれで不敬に当たるんだぞ?」


ギルマスにそうダメを押されてしまってはどうしようもない。

とうとう観念したハイディさん。


「褒賞金を頂きます。」


頭をちょこんと下げてそう言う。


「畏まりました。」


これ以上ないくらいの笑みで頷くグレイソンさん。

完全にしてやられた感ありあり。

斯くして、ハイディさんたちは大金貨を1人1枚、私は大金貨1枚と領主様と夕食を共にする事になった。



何か胃に穴空きそうだわ……






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