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第112話 そんなに切り刻まれたいのね

応接室を出て廊下に出たら表がやけにざわついている。

何かすっごく騒がしくない?

何をそんなに騒いでんのかしら。


「なんだ? エライ五月蠅いな。」


先頭を歩くギルマスが戻るなり開口一番、


「お前たち何騒いでんだ! 喧しいぞ、静かにしろっ!」


大声を出すがそれすらも皆の歓声にかき消される。

全く、何を騒いで……


「「「「うぉーっ!魔女様のお出ましだーっ!」」」」


「まーじょ!まーじょ!」


「「「まーじょ!まーじょ!まーじょ!」」」



ピキッ!


はぁ?


誰が魔女ですって?

こんな事言うのって1人しかいないよね。

どこ?

どこに居るの?

人混みの中に視線を動かすと声も高らかに口舌を垂れる目的の人物がそこに。

居た!

あまり口数の多くない印象だった人が今は饒舌に、それも我が事のように得意顔で喋っている。


「「「まーじょ!まーじょ!」」」


「ふふん。ここからが見せ場。」


ドンナさんは『私がやるよ。』と身振り手振りで私の真似をしている。


「そこでお嬢様の護衛が『オイ、ヤメろ。死ぬ気か?』と言うけれどもオルカさんはそれには構わず杖を取り出して魔法を撃つ準備をする! まるで黒い波のように押し寄せて来る蟲の大群。迫りくる恐怖。そしていよいよ黒い害意が目の前に来たその時、それは放たれた! それじゃあ行くよ、みんな準備はいい? せーの!」


ドンナさんは右手をかざして


「鎌鼬!ヤツ等を切り刻め!」

「「「「鎌鼬!ヤツ等を切り刻め!」」」」


オーマイガーッ!

まさかの大合唱。


っ!!!!

ウギャー、私の黒歴史ーっ!

ちょっとちょっとちょっーと!

メッチャ恥ずかしいんだけど?!


「ドンナ! アンタ何やってんの!」


「あ、ハイディいい所に来た。 皆に説明してた。」


「はぁ? どうやら反省してないみたいだね。」


ハイディさんいたくご立腹のご様子。

またもやドンナさんが頭にゲンコツを食らっている。

だけどね、私だって相当にご立腹なんですよ。

ええ、もう、魔力が漏れ溢れるくらいには怒ってますとも。

静かに怒りを滲ませる私に気付いた周りの人たちがモーゼの海割りのようにスススーッと引いてゆく。

その中をゆっくりとした足取りで歩みを進める私。


ひたひたひた。


緊張感が走る。

皆の視線が私に突き刺さる。

痛みに頭を押さえて蹲るドンナさんの前まで行くと私に気付いたドンナさんが顔を上げた。

そこには濃い魔力を纏わせハイライトを失った冷たい目をした私が居る。


「あ、オル……っひ。」


表情からストンと感情が抜け落ちた顔で上からドンナさんを見下ろす私。


ジーッ。


沈黙。


「あ あう うひ。」


ドンナさんがズザザッと後ろに後ずさる。

私はゆっくりと右手を上げて前へ突き出す。


「そう、そんなに切り刻まれたいのね。」


抑揚を抑えた声で静かに喋る。


「すすすす すみませんでしたーっ!」


五体投地のごとく身を投げ出すドンナさん。

今更ね。

謝るくらいならそんな事しなきゃいいのにね。


「ふふ。」


私の微かな笑い声に恐怖するドンナさんがガタガタと震えている。

リズたちやハイディさん、周りの冒険者たちも固唾を吞んで見守っている。


「大丈夫よ、一瞬で終わるから。」


それまでの感情を押し殺した声色と違い、さも楽し気に軽やかに唄う様に囁く私。


「あぅ、あぅ っえぐ。」


緊張で呼吸が浅くなり目に涙を浮かべ「ひっ、ひっ、」と苦しそうにしているドンナさん。

私が1歩前に出るとドンナさんは後ろへ下がる。


1歩

また1歩。


そしてドンッと壁に突き当たる。

背中を壁に預けもう後がないドンナさん。

真っ青な顔をしてイヤイヤするように首を横に振っている。

私は軽くグーを握って


コツン。


ドンナさんの頭に痛くない程度に軽くゲンコツを落とした。


「ウギャーッ!!!!!」


そのままビクンビクンしながらカクンと落ちる。


あれ?


「おおーい、大丈夫ぅ?」


ふむ、どうやら気を失ったもよう。


「薬が効きすぎちゃった、テヘッ。」


その瞬間周り中で「はぁーっ。」と言う長い長い安堵のため息が漏れていた。

ハイディさんは「ドンナにはいい薬だね。」と言い、同じパーティーメンバーのエミリーさんも「この調子に乗るとこさえ無きゃイイ子なんだけどねー。」と言っている。


「オ オイ、今度から絶対に姫さんだけは怒らすなよ!」

「あ 当たり前だ。 あんなの怖くて無理だ、チビリそうだったぞ。」

「それから『まじょ』も禁止だ。」

「いいか、命が惜しかったらこれからはこのギルド関係では絶対にその言葉を口にするなよ。」

「分かってるよ、俺だってまだ死にたくねーしな。」

「それにしても姫さんヤベエな。」

「このギルドいちの危険人物だな。」

「間違いねぇ、逆らうな危険!てヤツだ。」

「あと、混ぜるな危険もあるな。特にドンナと。」

「あるある。」

「けどな、ここだけの話、姫さんのあの目で見られたまま踏まれたいってちょっとだけ思っちまったぜ。」

「あ、それ俺もちょっとだけ思った。あの目で見られながら言葉責めとかされてみてーなとかよ。ちょっとだけだぞ?」

「お前なかなか通だな。」

「そうゆうお前もな!」


くっ。

バカな男どもがっ!

本当に切り刻んでやろうか?


「オルカ、抑えて抑えて。どうどうどう。」

「私は暴れ馬じゃない!」


ドロシーが私を止めようと必死になってる。

いや、別にホントに魔法ぶっ放したりしないわよ?

ホントよ?

やーね、ポーズに決まってるじゃない。


「な 何よ、その目。信じてないでしょ?」


「さっきのあの様子を見た後じゃ到底信じられないんだけど。」


ドロシーも結構言うようになったものね。

でもその遠慮の無さが逆に友達っぽくて嬉しかったりもする。


「ドロシーすげーな。」

「おお、あの暴れ馬を抑えた?」

「調教師だっ!」

「あれは調教師だっ!!」

「今度から何かあったらドロシーに頼むんだ。」

「ドロシー様だ!」

「このギルドの救世主様だ!」


くっ、こんにゃろうー。


「マジで切り刻むぞ!」


「ダメに決まってるでしょ!」


ペシっとドロシーに頭をはたかれた。

痛たたたたたた。


「むう。ドロシー私にだけ当り強くない?」


気のせい?

決して気のせいではないよね?


「何言ってんの、オルカだからこそよ。オルカ()()()()なの。」


「特別? 私だけ? エヘヘヘ♪」


やった。ドロシーの特別だ♪


「「「「「「チョッロ!」」」」」」


なによぉー。

何か文句ある訳?


「オラ、お前ら解散だ解散! 散れっ、散れっ!」


「ヘーイ。」


シッシッと手の平であっち行けと冒険者たちを強制的に解散させるギルマス。

それで漸く静かになった。

ふー、すごく疲れた、主にドンナさんのせいだけど。

その騒動の張本人はハイディさんとエミリーさんに両側から拘束されたまま連れられて行った。

私はドロシーたちを見やって


「私たちも帰ろっか。」


っと、その前に蟲とかお肉たちを買い取って貰わないと。

ちょっと解体場へ寄ってもイイ?って許可を取って真っすぐ解体場へと向かう。

ちょっと端折っちゃうけど、解体場でバレットアント1,000匹と女王蟻とくーちゃんたちが狩った獲物を買い取りに出してきた。

ストレージから取り出した蟲とお肉の量を見て固まる職員さんたち。

ゴメン、出し過ぎだよね。

ホント申し訳ない。

でもねでもね、狩っちゃったんだもん。

殺らないとこっちが殺られるんだよ?

不可抗力よ。

それにアシュリー様をお守りしなきゃいけなかったし。

ギルマスも買い取るって言ってくれたもん。

口をポカンと開きまだ再起動出来ないでいる職員さんたち。

夥しい数の蟲の骸。

酷い臭い。

思わずと言った感じで鼻を押さえながらリズが聞いて来る。


「ねー、これ何匹いるの?」


「これでちょうど1,000匹かな。まだあと2,345匹持ってるけどそれは売らないで武器の素材として使うつもり。」


「「「はぁ?」」」


「って事は一人で3,345匹も討伐したって事?」


「違うよ、くーちゃんたちと一緒にだよ。」


「それにしたって数が多すぎない? 普通そんなの絶対無理だから!」


「そうかなぁ?」


「「「そうなの!」」」


私たちが話してる間に職員さんが再起動を果たしたみたい。

そして、


「こりゃ、今日は徹夜だな。」

「取り合えず、肉の方は今日中に必ずやっとくが、蟲の方はもうちょっと無理そうだから素材として1体幾らでの買い取りになるがいいか?」

「女王蟻はアレはまた別に査定させて貰う、以上だ!」


職員さんの目がもうこれ以上持ってくんなよ!そう言ってるようだった。

ほんとゴメンて。



私たち4人は逃げるようにギルドを後にした。

途中まで4人で行って、リズとメロディは今借りてる家に帰る。

私はドロシーを孤児院まで送ってく。

この間と同じパターンだ。

ギルドを出てすぐにリズが「所でさ。」と話を切り出す。


「オルカ、ハイディさんたちのパーティーに行ったりしないよね? 私たちとパーティー組むんだよね?」


え、何言ってんの?

そんなの当たり前じゃない。


「私はリズたち以外とはパーティー組む気無いよ。」


「「良かった~。」」


リズとメロディは心底安心したと言うような顔で大きく息を吐いている。

ほんと心配性だなぁ。


「何でそんな心配するかなぁ。私はリズたちがイイの。ううん、リズたちじゃなきゃイヤだし!」


そう言うと二人は花が咲いたようにパッと笑顔になる。

そうそう、やっぱり女の子は笑顔じゃなきゃね。


「うむうむ、女の子の笑顔はいつ見ても良いものじゃ。」


「ぷ。何よそれー、お爺ちゃんみたいだよー。」


ちょっとだけ間を置いてリズが聞いて来る。


「ねぇ、今ってカミラさんとこの宿屋に居るんだっけ?」


うん、そう。 カミラさんとこにお世話になってる。

あそこはいい宿屋だよねー。

居心地いいしご飯は美味しいし、何より宿泊客が女の子限定だから不埒な客も居なくて安心だしね。

あ、でもダメなお姉さんはいっぱい居るか。


「そうだけど、それがどうしたの?」


「あ、いやあ、あのね。ほら前に言ってたの覚えてる? 一緒に住まない?っていうの。」


「勿論覚えてるよ。」


「それなんだけど、どう?一度ちゃんと考えてみてくれない?って言ったらダメ?」


全然ダメじゃない!

それは私も考えてた。


「今はメロディと二人で住んでるんだけど、パーティー組むんならドロシーも一緒に4人で住みたいじゃない?」

「だからですね、新しいとこに引っ越そうかってリズと話してたの。」

「そんな訳で次の引っ越し先を探さないといけないんだけど……」


「いいんじゃない? 私的にはそれで何の問題もないよ。」


「ホントに? 良かったぁ。断られたらどうしようかと思って。」


「私がリズのお願いを断る訳ないじゃない。」


それはナイよねー。

リズたちには最初っから世話になりっぱなしだもん。

受けた恩は返せる時に少しでも返さないとね。

と、なると後はドロシーだけだけど。


「当然、ドロシーも来るよね? て言うかドロシーには拒否権はありません! これは先輩命令です♪ それと、家賃はパーティー資金から出すから家賃の心配要らないからね。」


ふふ。

何て優しい先輩命令だこと。

メロディって何やかんや言ってドロシーの事可愛がってるよね。


「私なんかがいいんですか?」


「私なんかって言っちゃダメ!私たちはドロシーも一緒に来て欲しいの!」

「そうだよ、ドロシーが居なきゃ4人にならないじゃない。そ れ に、ドロシーが居ないとダメな娘が居るからねー、そこに。」


3人が同時に私を見る見る見る。

うん、否定はしない。

そこの二人!ニヤニヤしない!

ドロシーは顔を赤らめてこっちを見てる。

うん、ドロシー可愛い。

ぽ。


「あのね、私一昨日30日分の宿代払ったばっかりなのよ。それどうしよっか?」


と言う私の問いにリズが


「今から次の引っ越し先探すにしてもすぐには見つからないかも知れないしねー。それまではカミラさんとこの宿屋に居ればいいんじゃない? 見つかったら返金して貰えばいいだけの話だし。」

「そうそう、そうしなよ。何やかんや言ってカミラさんは女の子には優しいからねー。」


そっか、そうよね。

うん、分かった。そうする。

私は笑いながら首肯する。


「今住んでるとこはさー、台所と居間が兼用で1部屋、使ってないけどお風呂場としても使える部屋が1部屋、そこは普段身体を拭く時に使ってる。他に個室が4部屋、それにトイレが2つかな。私とメロディで1部屋づつ使って、1部屋はお客さん用、まぁ誰も来ないんだけどさ。そして残りの1部屋は物置として使ってるの。」


2人で住むには十分過ぎる広さだねー。

けれど4人で住むにはちょっと手狭。

だから新しいとこを探そうって話なのね。


「因みにだけど、それって家賃いくらなの?」


リズは視線を少し上に向け、顎に人差し指を当てながら考えている。


「月に小銀貨7枚かな。広さはまぁまぁ広いけど築年数が古いから少し安いの。」


前世の感覚だとまぁそんな物かなぁって感じだけどこっちだとどうなのかな?

良く分かんないけど、リズが安いって言うなら安いんだろうね。


「それに領都だからってのもあるかも。いくらメイワースが田舎だからと言っても流石に領都だからね。それなりに物価は高いは高いし。」


「なる程ね、そんな物なのかねー。」


「そんな物なのだよ。」


尤もらしくメロディがたわわな胸を張る。

なんでそこで自慢げなのかは分からないけれどメロディが上機嫌なのでそれは言わないでおく。


4人で住むとなったら部屋はいくつくらい要る?

個室が6部屋要るって事かな?

その他にも台所に居間でしょ、お風呂場に脱衣所、それからお手洗いが2か所。

ちょっとしたお屋敷クラスだよ?

それだけ部屋のある家を1軒借りるって結構なお値段するんじゃない?

下手したら大銀貨2枚くらいしない?

心配になって聞いたら、何とかなるよってのほほんとした返事が返って来た。

まぁそうだけどさ。

リズさん曰く「取り合えず、不動産屋に行って探してみる」だって。


そっか、4人で住む家か。

何かちょっと楽しみになってきたよ。







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