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第111話 独りはイヤだよ

ハイディさんたちと一緒に冒険者ギルドへ向かう為に一旦外に出ようとした所でギルマスとランドルフさんに会った。

あれ?二人って仲悪かったんじゃなかったっけ?

違うのかしら?

見た所さっきとは打って変わって普通に接してるな。

うーん、訳が分からない。

さっきはただ緊張してただけなのかもね。

そもそもランドルフさんは私たちにそうだったように冒険者に対して友好的だったものね。


「お前たちもギルドに戻るのか? だったら一緒に行かないか? いやぁ兎に角お前たちが無事で良かった。」


私たちを見るなりギルマスが声を掛けてきた。

私たち平民は貴族街を歩いて通り抜ける事は出来ない。

なので一旦北門から外へ出てぐるっと周って東門から戻ろうと思っていた。

けれどギルマスは領主様が手配した馬車に乗って帰る為貴族街の中を通る事が出来るのね、で、ついでだからそれに同乗していかないか?と誘ってくれた。

ラッキー。

そうゆう事なら遠慮なく。

私たちは二つ返事で了承した。

領主様が用意した馬車ってきっとすっごく豪華なんだろうなぁ。

ちょっとだけ楽しみだなぁなんて思いながらギルマスの後を付いて行っているとランドルフさんに声を掛けられた。


「あー、オルカ君。ちょっといいかね?」


「あ、はい。何でしょうか。」


はて、何だろう?

私はコテンと小首を傾げる。

それを見たランドルフさんはちょっと照れたように「うほんっ。」と咳払いする。

この人見た目ほど悪い人じゃないのかもしれないね、何気に面倒見がいいのよ。


「あー、アレだ。この間の特許申請の件だが、アレな、どうやら近々通りそうだ。」


えっ? ホント?

思わず声が上ずってしまった。


「ああ、確認したから間違いない。余りにも前例の無い前代未聞の物ばかりだったので訳が分からんからとすぐに審査は終わったようだ。」


やったーっ!

これで不労所得ゲットだわ♪

印税印税♪

これから先何もしなくてもチャリンチャリンとお金が。

ああ、夢が膨らむわー。

私がルンルン気分で浮かれていると、


「手続きの事もあるし、商業ギルドの方もランクアップするから手の空いた時にでも寄ってくれ。何か分からない事があったらハンナにでも聞いてくれ、遠慮は要らんぞ。」


そう言って「それじゃな。」と左手をヒラヒラさせながら待たせてあった自分の馬車の方へと歩いて行った。

ふふっ、知識チート様様だわ。

ありがたやありがたや。

と言っても私がそんな有益な知識を記憶してる訳もなく、私が漠然と記憶してる物を『創造魔法』さんが形にしてくれただけ。

なので全ては『創造魔法』さんのおかげなのだけれど。


「なんだ? 商業ギルドの新しいギルド長と知り合いだったのか?」


「ええ、ちょっと。」


なので簡単にかいつまんでいきさつを説明した。

勿論マルクさんの事もしっかりと。

すると、


「ああ…ギルバート商会のボンボン絡みか……嬢ちゃんも災難だったな。それで変な事とかされなかったか?」


「変な事って?」


多分アレやコレやだろうけど私は純真無垢な少女のふりをして興味半分で聞いてみる。


「変な事って変な事だ。あんな事やこんな事とか碌でもない事とか……されとらんよな?」


されてないわよ、勿論。


「ちょろっと言われたけどされてはいませんよ。」


それにくーちゃんが守ってくれたからね。

そう言うとギルマスは呆れたように「やっぱアイツは馬鹿だ」と呟いた。

うん、それは私も激しく同意。

リズもメロディもめっちゃ怒ってたもん。

まぁ、そのおかげで特許申請とか手伝って貰えた訳だから、マルクさんのセクハラも丸っきり無意味って事では無かったけどね。

ただ、言われて嬉しくはないし気分のイイ物ではなかったけど。


その後私やハイディさんはギルマスと一緒に馬車で冒険者ギルドまで送って貰った。

馬車の車窓から見る貴族街はとても綺麗だった。

何処がどう綺麗だったかと言うと、まず道は広く馬車が2台楽に交差出来る程で、段差や継ぎ目も殆ど無く何処までもまっ平。

馬車に乗っていても突き上げも少なくとても快適。

道には街灯が立っていて、それがまるで大正時代のガス灯のような形をしていて面白いなって思った。

たぶん灯りの魔道具なんだろうけど貴族街だとそれが道の両側に整然と並んでいるのが凄い。

流石は貴族街、お金の掛け方が桁違いだ。

更に驚いたのは1つ1つのお屋敷が大きい事。

どのお屋敷も広大な敷地を有しておりその奥に見えるのが貴族の館。

入り口には大きな門がある。

金属で出来た鉄格子みたいなあれね。

門の前には衛兵が立っており警備をしている。

そんなお屋敷がそこかしこに立っているんだもの、そりゃビックリもするよね。

その中でもひと際大きいのが領主様のお屋敷ね。

入り口の門から遠く遠くはるか遠くに小さく見えるのが領主様が住んでいるお屋敷だと言う事実。

そりゃもうビックリなんて物じゃない、目が点になる程よ。

なんか敷地の中ですら馬車が必要なんじゃない?って思うほどのね。


「ふあーっ! おおーっきいー!」


思わず感嘆の声が漏れる。

ハイディさんたちも窓から貴族街のお屋敷を眺めてはため息をついている。


「すごい。」


もうそれしか言えない、語彙が極端に少なくなっちゃうね。

そんな私たちをギルマスは「俺は何度も来てるから見慣れてるぜ」的な顔でニヤニヤしながら見てる。

ちょっと悔しい。

けどこんな大きなお家なんて前世でも見た事ないもの。

別にビックリしたってイイじゃない、ねー。


貴族街を通り抜け平民街への出入り口へと馬車は進む。

貴族街と平民街とを隔てる通称「貴族門」。

その門をくぐると平民街の中でも富裕層が住む高級住宅地へと出る事になる。

主に世襲権を持たない一代限りの貴族、つまり平民の最上位の者や豪商、高位の冒険者などが住んでいると聞いた。

リズやメロディは普通の平民が住む南側に住んでいる。

ハイディさんたちも今は南側だが、このまま冒険者ランクが上がれば或いはここに住めるかも知れない。

私は、別にいいかな。

確かに綺麗なお家は憧れるけどね、けど維持費も掛かりそうだし。

何より気疲れしそうだもん。

幸いな事にくーちゃんたちのおかげでお金の心配はしなくていいのは嬉しいけれど、だからと言って周りに気を使いながら高級住宅街に住みたいとまでは思わないなぁ。

分相応って言葉があるように私たち普通の冒険者は普通のお家が一番なのよ。

そりゃ正直に言えばちょっとは憧れるけどね、けどねぇ。

なんて頭の中でそんな考えがぐるぐると周っていると冒険者ギルドの近くまで来ていた。

もうすぐ着くなぁ、こんな乗り心地のいい馬車に乗る事ってもうないだろうなぁなんて思っていると、


「ん? あれは誰だ?」


ギルマスの言葉に釣られるようにその方向を見てみるとそこに立って居たのはリズたち3人だった。

あれー?

なんでリズたちが?

メロディもドロシーもとっても不安げな顔で真剣にこちらを見てるんですけど?

何かあったの?

ギルドの少し手前だったけどギルマスが「ここでいいから停まって貰えるか?」と馬丁の人に声を掛ける。

馬車はゆっくりと速度を落としギルドの手前で静かに停止する。

ギルマスがまず先に降りて馬車から降りる私たちをエスコートしてくれた。


えっ?!


なに、どうしたの?

ギルマスってこんな紳士だったっけ?

私たちが意外そうな顔をしてまじまじとギルマスを見ているもんだから「いや、俺だってこれくらいは出来るぞ。」と心外だと言わんばかりに口を尖らせる。


「何か悪い物でも食べた?」


ドンナさんっ! 言い方!

無表情でそんな事言ったらそれは只の悪口だから。

そんなドンナさんの言葉にもギルマスは


「相変わらずお前は辛辣なヤツだなぁ」


とカカカと笑い飛ばしている。

それギルマスじゃなかったら大事になってたからね。

最後に私が馬車から降りるとリズたちが一目散にこちらにやって来た。

うおっ、圧がすごいな。

近い近い近い。


「オルカ! 大丈夫なの? 怪我してない? 痛い所とかない?」

「もー、私たちすっごい心配したんですよぉ!」


リズとメロディに両腕をギュッと掴まれる。

ふよん。

ぽよよん。

両腕に伝わる柔らかな双丘の感触。

しかもいい匂いがする。

両側から小鳥の囀りのような可愛らしい声が耳をくすぐる。


あいやー、これは桃源郷かー。


「何かさ、馬車が横転して動けないとか、ものすごい蟲の大群に襲われたのをオルカが囮になって一人で立ち向かって行ったとか、大量に死んだとか、魔法がどうとか、何か色々と情報がごちゃごちゃになってて訳が分かんなくて……」

「北門の衛兵が冒険者ギルドまで大慌てですっ飛んで来てギルマスに報告してさ、その衛兵も要領を得なくて何言ってんのか良く分からなくて……」


リズとメロディが今にも泣き出しそうになりながらも一生懸命に話しかけて来る。

どこでどうなったらそうゆう事になるのかな?

ん? トッドさんとドンナさんが街へ報告しに行ったんだよね?

つまりそうゆう事?

情報の出どころは……ジーッ。

私とハイディさんの視線がドンナさんに突き刺さる。

ドンナさんはプイと横を向いて


「知らない。」


と、ひと言。

うん、これは間違いなく心当たりのある顔だわ。

嘘を吐くのが下手な子、モロバレじゃないの。


「カーッ、噂の出所はお前だったのか!なぁドンナ頼むぞホント。メチャクチャ焦ったんだぞ、ギルトは上へ下への大騒ぎだったんだからな。」


「皆が感動するように少し盛っただけ。」


いや、少しでも盛っちゃダメでしょ。

情報は如何に早く正確に!が基本だよ。

ゴツン!と言う音と共にハイディさんが鬼の形相でドンナさんの頭にゲンコツを落とした。


「いいいいーったーっい! ハイディ何する!」


「何するじゃないの! アンタのせいで皆に迷惑掛けたんだよ?混乱したんだよ? ゲンコツくらい我慢しなっ!後でみんなに謝るんだよ!いいね、絶対だからね!」


うわっ、ハイディさんめっちゃキレてる。

怖っ。

でも今回のは仕方ないね、ドンナさんが悪い。


「それなのよ。昨日のギルマスの話の後だったから物凄い数の蟲に襲われたって聞いたら……頭が混乱しちゃって…」

「そうだよ。いくらくーちゃんさんが強くても蟲の大群だと……って思ったら」


必至に言い募るリズとメロディ。

ああ、本当に心配してくれてたんだな、そう思ったら不謹慎だけどちょっとだけ嬉しかった。

そう言えばドロシーはどこに?

視線を動かすと少し離れて所からツイっと私の前まで出て来てひと言。


「馬鹿。」


「えっ?」


「オルカの馬鹿!」


「えっ、なに?」


「馬鹿馬鹿馬鹿!」


え、ドロシーどうしたの?


……って、口をギュッと引き結んで涙を堪えるドロシーの姿が。

クリクリとした愛らしい瞳には今にも涙が零れそうになっている。


「私がどれだけ心配したと思ってるの! 生きた心地がしなかったんだよ!」


「あ…ゴメン。」


ドロシーに泣かれるのはちょっと辛いよ。

分かったから、ね。

お願いだから泣かないで。

私がオロオロと狼狽えているとドロシーが私にギュッと抱きついて来た。

わんわんと泣きじゃくるドロシー。


『わたし、独りはイヤだよ。』


日本語で、消え入りそうな声でそう呟く。

ドロシーの言葉に胸の奥が切なくなる。

前世で1回死んで生まれ変わったら中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジー世界。

前世の日本での記憶を持って生まれたドロシーはどれ程寂しかっただろうか。

何の奇跡か、私とゆう前世が同じ日本人と出会った。

仲良くなったと思った矢先にこの蟲事件でしょ。

私は前世では妻であるルカに先立たれた、その残された者の寂しさを知っている。

きっとドロシーもそれを想像しちゃったんだと思う。

だから独りにはなりたくないと。

だったら私が言う台詞は決まってる。


『独りにはしないから。 ずっと側に居るから。』


微笑みながら日本語で答える。

周りに居るリズたちは日本語は理解出来きないためか小首を傾げている。

けれどドロシーには分かる、ドロシーにしか分からない。

私の想いもきっと伝わるはず。


『同じだ。』


ハッと顔を上げ私の顔をジッと見つめるドロシー。

そして一言。


『うん!』


花が咲いたように満面の笑みを浮かべるドロシー。

やっぱりドロシーは笑ってるのがいいよ。


所でドロシーさんや、貴女さっき私の事馬鹿って言ったけど私巻き込まれただけだし。

あれは不可抗力だって。

ドロシーに泣きつかれて思わず謝っちゃったけど私何にも悪くないよね?


「あー、何か知らんが丸く収まった のか?」


恐る恐ると言った体でギルマスが口を挟む。


「姫さんあんまり女の子を泣かすなよー。」


カカカと笑うギルマスを軽く睨んで「バカ言ってないで早く中入りましょう!」と入り口へ向かう。

「姫さん照れてるな。」なんて聞こえたけど無視無視。

ドロシーは私からメロディを引き剥がし横から身体ごと私にギュッと抱きついて来た。

あ あの、歩きにくいんですけど?

ドロシーを引き摺るみたいな恰好でギルドの入り口へ向かう私。

その様子をニヤニヤしながら眺めているハイディさんたち。

騒ぎを聞きつけてギルドから出て来た冒険者たち。

みんな生暖か~い目でニヤニヤしてるのが地味にムカつくわ。

大股でズンズンと歩いて中に入ってゆく。


「おおーい。姫さんとハイディはこっちだ。もう少し詳しく説明してくれ。」


ギルマスに手招きされて前回と同じく応接室へ向かった。

そこでは北門での聴取では話してない事とか、ギルマスが聞きたかった事とかを中心に話をした。

まぁ、主に私の魔法とスキルの能力、それとくーちゃんたちの真の戦闘力の事だったけど。

1つ話をする度にギルマスの目が見開き、口をポカンと開き、眉間に皺を寄せたり呆れたり百面相していた。


「むう。俺の予想を遥かにぶっちぎってるな。」


それは心外な。

私は何処にでもいる至って普通の冒険者のつもりなんだけど、何故か二人には賛同を得られなかった。

理解不能だわ。

あと気になってた討伐した蟲は買い取って貰えるのかどうか聞いてみたら「おう、買い取るぞ。」といつものように軽~く答えてくれた。

よしよし。

買い取りして貰えるんだって、良かった。

ハイディさんたちもこれで少しは稼げるんじゃないかな。

因みにここでもギルマスは驚きを隠せずに呆れ顔をしている。

まず最初の群れが全部で31匹で、これは全てハイディさんたちの取り分。

後の大きい方の群れだけどこれがとんでもない数で、全部で3,345匹+女王蟻1匹。

私としては女王蟻は売り確定、残りの3,345匹なんだけどベレッタの弾にも使いたいので売るのは半分にしようとしたんだけど、それでも多すぎるとギルマスに言われた。

一気に大量に市場に流れると値崩れを起こしかねないから数を減らすようにと。

それで1,000匹だけ買い取って貰う事になった。

まぁ、お金に困ってる訳ではないからいいんだけどね。

考えようによっちゃ弾に使える分が増えたと思えばそんなもんだしね。

それでも相当な金額だけど。

ついでと言っちゃなんだけど手持ちのお肉たち(くーちゃんたちが狩った獲物)も売却する事にする。

ただ誤算だったのは買い取り10%アップキャンペーンの対象にはならなかった事か。

私が蟲を討伐しちゃったのでキャンペーンは終了したんだって。

ありゃま。

あと、私とハイディさんたちは日々の依頼を受ける受けないに関わらず1日に1回は必ずギルドに顔を出すようにとギルマスに言われた。

何でも、今回の件で褒賞金が出るのだけれど、それがいつどこでとかの連絡の為なんだそうだ。

私たちは「分かりました。」と返事をして応接室を後にした。







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