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第102話 臨時パーティ

蟲疑惑 再び。

しかも蟻型。

厄介な事この上ない。

もし森にバレットアントが潜んでいるとしたら?


ぶるるる。


寒気がする。

これはイカン。

緊急事態発生の可能性あり。

出来る事なら間違いであって欲しいと思う。

間違いなら間違いで後で笑い話になるだけだから。

けどもしこれがホントなら……。


「これ、いよいよヤバい状況よね。」


うん、リズの言う通り本当にそう思う。

メロディもドロシーも言葉少なにコクリと頷いている。


(主様、この辺りは小さき魔物の反応が多いようにございます。)


(うん、私もそれが気になってた。 これって森から逃げて来たって事だよね?)


(仰る通り。)


「くーちゃんからの報告で、この辺って小さい弱い魔物の反応が多いんだって!」


「それってどうゆう事ですか?」


メロディが「それが何か?」みたいな感じで聞いてくる。

少し間を置いてからリズとドロシーが


「あっ、そっか。逃げて来てんだ。」

「ああ、成程。森に強い魔物が居るから。」


と同時に声を上げる。


「っ! そっか! だからさっきもくーちゃんさん達あんなに沢山魔物を狩って来てたんだ。」


「そ。そゆ事。 メロディちゃん良く分かったねー、エライエライ。」


メロディの頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫でる。


「わ 私を子供扱いするなーっ!」


ぷ。

手をぶんぶんと振りながら怒ってるメロディも可愛い。

なんだか微笑ましい気持ちになるよ。

私とメロディの様子を見ていた二人も「ふふ」と笑っている。

これで少しは緊張がほぐれたかな?


「ほら。」


私が左手を差し出すと


「エヘヘー」


って、すっごい嬉しそうに手を握ってくる。

メロディ、ぽって顔が赤くなってる。

ホントにおませさんなんだから。


「私、右手も空いてるんだぁ。あー手持ち無沙汰だなー」


チラチラとドロシー達の方を見ながら棒読みの台詞を言う。


チラッ。


チラチラッ。


「はいはい。ほら、ドロシー行きなよ。」


「えっ、でもいいの?」


「いいからいいから、今日はドロシーに譲ってあげるから。」


「リズさん、有難うございます。」


リズにペコリと1回頭を下げて私の右隣りに来たドロシー。

おずおずと左手を近づけて来てふにゅっと私の右手を握って来た。


柔らかい。

そして温かい。

両手から伝わる女の子の柔らかさと優しさと温かさが私を包んでくれる。

こっちに転性してホント良かったよ。

うん、この掛け替えのない日常を守る為に頑張ろう!


「さ、戻ろうか。」


「「「うん。」」」





帰り道、さっきまでの緊迫した空気は霧散しちょっとだけ緩い感じになる。

取り留めもないガールズトークをしながら冒険者ギルドまで歩いてゆく。

事態が事態なだけに不謹慎な気もするけど、こうでもしないと心配だし不安だしで落ち着かないのよ。

時刻はまだ夕方には少し早い時間帯。

ギルドの中は冒険者の姿は少なく閑散としている。

受付の所まで歩いていくとメイジーさんが居た。

朝ギルマスを見たから居るはずなんだけど……。

私たちはメイジーさんに近づいて小声で


「ギルマスはいらっしゃる? ちょっと緊急の案件で相談したい事が……蟲関係なんだけど。」


そう言うとハッ!とした顔で「確認して来る。」と立ち上がって静かに奥へと消えて行った。

するとすぐにメイジーさんが戻って来て、


「奥の応接室へどうぞ。」


と手招きして奥へ通してくれた。

メイジーさんが扉の前でコンコンとノックする。


「メイジーです。 オルカさん達をお連れしました。 今大丈夫ですか?」


「おう、構わん。通してくれ。」


扉の向こう側、応接室の中からギルマスの声が聞こえた。

ちょっと声がいつもより硬かった気がする。


「失礼します。」


リズが代表してそう言ってから中へ入った。

順番はリズ、メロディ、ドロシー、私+くーちゃん&さくちゃん。

私たちが入ったのを確認してからメイジーさんがそっとドアを閉めて持ち場へと戻る。

中に入るとソファにギルマスが座って居て、他に3人の女性冒険者がギルマスの反対側に座って居た。

あ、この人達見た事ある。

確か女性だけで組んでるCランクパーティの人達だ。

彼女たちは私たちの姿を確認すると立ち上がってギルマスの横へと移動してギルマスの前を空けてくれた。

でも彼女たち何でここに居るんだろう?

「ん?」って小首を傾げて考えていると、私の考えなど分かってるとばかりにギルマスが口を開いた。


「こいつらは俺が呼んだ。後でちゃんと説明するから、まー、今はちょっと待ってくれ。まずは姫さんの話からだな。緊急の案件だそうだが一体どうした?」


私たちは4人で顔を見合わせたが、くーちゃんの事もあるので私が代表して話すことにした。


「実は…東の草原で森林狼を見たんです。」


東の草原には弱い魔物の反応が沢山あった事、本来草原には居ないハズの森林狼が草原に居た事。

それらの事から東の森や北の森から魔物たちが逃げて来たのではないかと。


「つまり、狼より強い魔物が居る可能性が高いと……」


「ええ。」


まだ蟲が居ると確定した訳ではないけれど、実際にこの目で見た訳ではないしね。

だけど状況が状況だから簡単にそうも思えないんだよね。

私の思い過ごしならそれでいいんだ。

けれど万が一って事もあるし。

だからこうしてギルマスに報告をしに来たんだけど。

判断はギルドの長であるギルマスに委ねるとしてだ、私たちはこれからどうすればいい?

ギルマスの返答を待っていると、


「ふうぅーっ。」


っと長い息を吐いて、苦虫を何匹も纏めて噛み潰したようなこれでもかってくらい思いきり顰めっ面をしてギルマスが喋り始めた。


「アイツ等やりやがった!!」


ドンッ!とテーブルを叩いて怒りを露にする。


「ひゃん。」


ちょっと吃驚して思わず声が出ちゃった。

もー。

声こそ出さなかったけれどドロシーもビクッ!てなってたじゃない。


「お、スマンスマン。つい頭来てカッとなっちまった。 しかし何だな、姫さんも可愛らしい声で驚くんだな。」


はい?

むむむ。

また余計な事言ってー。

「カカカ」と笑うギルマスをじっとりとした目で睨む。


「アレだな、姫さんにその蔑んだような目で視られるのも何か悪くないな。 ワハハ。」


「バカな事言ってないで早く続きを話して下さい! じゃないと言いつけますよ?」


ほんと男ってバカばっか。


「い、いやスマン。それじゃ説明するぞ。 メイデンウッドとウチの商業ギルドが『正しくない情報』を流しやがった。それを聞いたアシュリー様一行が今朝早くメイデンウッドを発ったと向こうの冒険者ギルドから連絡があったんだ。」



……。




「「「「はぁぁぁぁぁっ?!」」」」




よりにもよってこの状況でまさかの事態。

まだ安全が確認されてないこの状況で『正しくない情報』を流す。

『嘘の情報』ではなく『正しくない情報』ってのがまた悪意を感じる。

要は『嘘は言っていない』、『正しくないだけ』だったと。

どうせ事実誤認を誘うような言い方でもしたんだろう。

つまり後から何とでも言い逃れが出来るようにって。


この世界には簡単な文章をやり取り出来る魔道具がある。

特定の相手とだけ、お互いにセットになった通信の魔道具を使う事で相互の文章のやり取りを可能にするんだそうだ。

例えば王都の冒険者ギルドとも通信したいならそれ専用に別に魔道具を用意しないといけない。

通信したい場所が増えれば増えるほど魔道具も増えるし場所もとる。

ま、そんな事らしい。

それ以外では鳩や魔鳥などを使って文を送る方法もあるが、これは前世の伝書鳩みたいな物で、出先から特定の場所へ文を送るだけの用途なんだって。

それでも伝達手段としてはまぁアリだと、何もないよりはマシって所か。


話を元に戻して


アシュリー様ってあのアシュリー様よね?

一応念の為聞いてみる。


「アシュリー様ってメイワース領のご令嬢のアシュリー様ですよね?」


「そうだ。ご領主様のご息女で、女の子はアシュリー様だけだからご領主様はそれはもう可愛がっている。溺愛してると言ってもいい。」


そのアシュリー様に危険が及ぶかもしれない?

これ、ヤバいなんてもんじゃないんじゃない?

領主様は今頃気が気じゃないんじゃないだろうか。

商業ギルドは何でそんな事を言ったのか?

もし、もしもだよ?

万が一アシュリー様に何かあったらどうするつもりなの?

誰が責任を取るって言うの?

いや、そこまで考えてないから迂闊な事を言うのか。

領主様ブチ切れ案件だ。

全くもう……。


「そこでだ。 アシュリー様の安全確保の為に厳戒態勢で冒険者を派遣する事にした。これは決定事項だ、ご領主様より正式に依頼も受けている。ただ、今すぐは難しい。高位の冒険者を集めている所だ。」


それで今目の前に居る3人の女性冒険者の方へと話が繋がる。

メイデンウッドの領都からメイワースの領都まで普通なら馬車で2日半程掛かるらしい。

これから冒険者を確保して組織する、その為に明日1日必要で、明後日の早朝から森へ向かってアシュリー様一行の捜索と護衛に当たる。

それまでの繋ぎとしてまずは斥候役の冒険者を放って情報収集をする。

その為に彼女たちCランクパーティが呼ばれてたんだそうだ。

彼女たちは女性としてはかなり強い、冒険者のランクは女性だからと言って何か特に優遇がある訳じゃない、つまり彼女たちのランクはそのまんま掛け値なしで実力と言う訳

素晴らしい!

しかもしかも、彼女たちが最も得意とする事は索敵だったり偵察だったりと情報収集する事なんだって。

斥候の腕前はこのメイワースいちだとか。

なので彼女たちが先だって状況の確認をする手筈になっている。


の筈だったのだけれど、


「姫さんの話で状況が少し変わった。 東の森へは別のパーティーに頼む事にする。 北の森へは姫さんとこっちの3人で頼む。 姫さん頼まれてくれんか?」


何でそうなんの?


「えっ? 私? 私Fランクですよ? いくら何でも…」

「そうよ! 何でオルカばっかり! つい最近冒険者になったばっかりのオルカに頼り過ぎじゃありませんか?」


リズがギルマスに食って掛かっている。

私の為に怒ってくれるのは有難いけれど、


「まぁまぁ、そんなに怒らないで。」


「何のんきな事言ってんの! 貴女の事じゃないの!」


ありゃ、怒られちった。


「リズ~、そう怒るな。 姫さんの従魔の索敵能力は本物だぞ? それに多分この中の誰よりも強い。 それはリズも分かってるんじゃないか?」


「それはそうだけど……だったら私たちも行く!」


「ダメだっ! リズたちじゃ足手まといになるだけだ。 ハッキリ言って邪魔だ!」


「「「ぐっ!!!」」」


間髪入れずにギルマスがピシャリと言う。

この後リズたちが反論するも正論を説くギルマスには勝てずしぶしぶ受け入れた。

理解はしたけど納得はしていない、そんな顔だ。

気持ちは嬉しいんだけれど、リズたちに危険が及ぶようなのは出来る事なら避けたいなぁと。

だから今回はこれで良かったかなぁなんて思ってる。

だってリズたちは大切な仲間で友達だもん。

怪我とかして欲しくないしね。


「まぁ、知ってると思うが、こっちの黒髪の嬢ちゃんがオルカだ。」


ギルマスが3人の女性冒険者に向かって私の紹介をしてくれた。


「オルカです、宜しくお願いします。」


ペコリと頭を下げる。

挨拶は大事、第一印象も大事。

物事は最初が肝心だからね。

最初をキチっとしておくと後で全然違ってくるから。


「勿論知ってるわよー、有名だもの。」


「は、はぁ。」


どう有名なのか気になる所ではあるけれど、今ここでは聞ける雰囲気ではないな。

取り合えず曖昧に笑っておくか。


「私がこのパーティのリーダーでハイディで、」

「エミリーだよ。ヨロシクね。」

「ドンナ。」


三者三様の挨拶だった。

エミリーさんは朗らかで人当たりの良さげな感じのイイ人で、ドンナさんはカーリーさんみたいに口数の少ないタイプ。

リーダーのハイディさんはリズさんタイプか。


「取り合えず明日、北の草原と森の警戒を頼む。後はお前たちで段取りを決めてくれ。」


ギルマスの言葉で一旦ここで応接室から出る事に。

みんなでゾロゾロと連れ立って冒険者ギルド内に置いてあるテーブル席へと移動する。


しっかし何だ、明日はまた大変だなぁ。

知らない人と組むなんて初めてだからどう接していいのか分からなくて困ってしまう。

明日は朝早くから出発か。

今日は早く寝ないとなーなんて思っているとハイディさんが話しかけて来た。


「何か妙な事になっちゃったけど、明日は臨時のパーティよろしく。」


右手を差し出して来たので私も右手で応じて握手した。

高位の冒険者だって聞いてたからもっとゴツゴツした手なのかと思ったら意外と柔らかい手だった。


「まだ新人で分からない事だらけで迷惑かけちゃうかも知れませんけど、明日は宜しくお願いします。」


私の方が年下だし、後輩だから一応下手に出ておく。

こうゆうのは前世での社会人生活が活きてるね。


「臨時!」


ん? リズ何言ってるの?


「だ か ら、飽くまで臨時!臨時のパーティ! オルカとパーティ組むのは私たちなの!」


んもー、リズったらぁ。

こんなとこで対抗心出さなくてもいいのに~。

分かってますって。

私も正式なパーティ組むんならリズたちだって思ってるよ。


「ほほー、リズ、元気いいねー。」


エミリーさんがニコニコしながらリズの肩をバンバン叩いて茶化している。

いや、それダメだって。


「私たちが一番最初にオルカと知り合ったんだからパーティ組むのは私たちですー!」


メロディも一緒になって突っかかってるし。

そんなムキにならないで。


「リズたちだけズルい。偶には貸す宜し。」


ドンナさんも参戦して来た?!

だんだんカオスと化して来てるよ、どーすんのよこの状況。

誰かーっ! ヘルプミー!


「もー、アンタたち馬鹿やってんじゃないよ!」

「リズさんもメロディさんも一回落ち着こう? ね?」


良かった、助け船が来た。


「でも、明日は私たちとパーティ組む。 ふふん。」


ドンナさんがドヤ顔で更に煽ってる!

それを聞いたリズとメロディも


「わ 私たちなんか昨日も今日もオルカの手料理食べたもーん!」

「そうだー、私たちの勝ちですよー!」


「勝ち負けとか関係なくてー、明日は私たちと一緒にとーっても重要なお仕事するんですよぉ。」


ちょっ、エミリーさんもそんな煽んないで!

それ聞いてリズとメロディが「キーッ!!」ってなってるし。

嗚呼、もう!

収集がつかない!

どうしてこうなったのよーっ!






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