第101話 蟲の影
リズ・メロディ・ドロシーと言う美目麗しい美少女3人と一緒に食事をする私。
んー、なんて贅沢。
ここは桃源郷かなにかですか?
前世だったら絶対に叶わないであろうシチュエーション。
もし叶うとしたら余程の大金を積むとか、事案発生とかそんなレベル。
しかも3人とも私に好意を持っている~と私は思っている~キャッキャウフフしてるなんて。
これを幸せと言わずして何と言えばよいのか。
死んだ原因がアレで、駄女神様がアレだから最初はどうなる事やらと思ったけど、思いのほか出会う人達が良い人達ばかりで異世界も悪くないなぁって。
ううん、異世界に来て良かったかも?って思い始めてる私が居る。
美味しそうに、実に楽しそうに食事をしている3人を眺めていると何だか気持ちがとても温かくなる。
こうゆうのイイよね。
「ぷはーっ! 食ったーっ♪」
「こら、メロディ。 お行儀が悪いよ。 ごはんご馳走になったんだから先ずはオルカにちゃんとお礼言わなきゃ! あっ、ごはん有難う。」
「御馳走さま、ごはんとっても美味しかった♪」
三者三様だけど、そのどの言葉もしっかりと心が籠ってて嬉しくなる。
まぁメロディはいつものメロディクオリティだけど。
「いえいえ、どういたしまして。お粗末様でした。」
だから私も素直に受け取れるし笑顔にもなる。
この3人と居ると居心地がいいな。
「お茶飲む? それとも果実水の方がいい?」
私は後味がさっぱりしてるお茶にするけど皆はどれにするのかな?
果物ならまだいーーーーーーっぱい持ってるから好きなの言いなよ。
「私は果実水かなぁ。」
「私も!」
リズもメロディも果実水だね。
OK OK。
そう言や前に一度飲んでたもんね。
「ドロシーはどっちがいい?」
「んー、私はお茶がいいかなーって思ってたんだけど……」
お茶と果実水でちょっと迷ってる様子。
私はさっぱり感重視でお茶にしたけどね、リズたちは甘い方を取った訳だ。
すると、
「ドロシーもオルカの作る果実水飲んでみなよ。 マジで美味しいから。 あ、私は葡萄で!」
「そだよー、あれは飲む価値ありだよ。 私はオレンジで!」
リズたちがしきりに果実水をドロシーに薦める傍ら、ちゃっかりと自分が飲みたい果物のをリクエストしてる。
「そんなに美味しいの?」byドロ
「そりゃあもう! 一回騙されたと思って飲んでみ。」byメロ
「いや、別に私は騙したりはしないけどね。」byオル
「そこまで言うんなら私も果実水にしよーかな。何がいいかな?」
あーでもないこーでもないと考えていたけど結局メロディと同じオレンジにしたみたい。
と、言う訳で私はコップを取り出してその上の何もない空間に氷を出現させる。
カランコロンコロン。
コップの中へ落ちて軽やかな音を響かせる。
後はいつものようにストレージ内で果物を絞って、水で薄めてコップへと注ぐだけ。
トポトポトポ。
はい、出来上がり。
ほんと魔法って便利だねー。
「コップを少し揺らすようにして中の果実水を冷やしてから飲んで。」
「「「うん。」」」
3人がコップの中を覗き込んだり匂いをスンスンして冷えるのを待ってる間に、私はお湯を沸かしてお茶を淹れる準備をする。
薬缶がしゅんしゅんと音をたてて勢いよく水蒸気を吐き出している。
お茶っ葉をティーポットに入れて沸いたお湯を注いでしばし待つ。
おっ、3人の果実水もそろそろ冷えて来た頃合いかな。
くぴ。 くぴくぴ。
「んー、おーーーーーいしい♪」byリズ
「カアーッ、やっぱ美味しいわー。口の中がさっぱりするー。」byメロ
いや、そもそもの話メロディは食べすぎなんだよ。
いくら食べても太らない体質って言っても食べすぎじゃない?
食べたその栄養は一体どこに行ってんのやら。
と、ある一点を見る私。
まぁ、たぶんそこだろうねぇ、見るからに。
「いや、そんなに熱い視線で見ないで下さいよぉ、照れるじゃないですかぁ。」
顔赤くして何モジモジしてんの?
変なメロディ。
あれ、ドロシー は?
「これはアレだ。まさにオレンジジュースだ。オレンジの顔がジュースを飲んでる絵の付いてるあのオレンジジュースの味だ。」
何かブツブツと小声で呟いている。
そのままゴクゴクを飲み干すとズイッとコップを差し出して「ん。」と御代わりを要求してくる。
「はいはい、今あげるね。」
そう言うとドロシーは嬉しそうに笑った。
ふふ、カワユス。
女の子の笑顔はいつ見てもいいものね。
オジさん癒されちゃうよ。
ドロシーが御代わりをするのを見ていたリズたちが
「「私もーっ!」」
と、コップを差し出してくる。
分かってますって、モチロン二人の分もあるよ。
二人に新たに果実水を作ってあげて3人が美味しそうに飲んでいるのを眺めながら私はお茶を飲む。
アチチ。
フーフーして冷まさないと。
まったりとした食後の時間を楽しむ。
なんか蟲騒動でそれどころじゃないハズなんだけどなー、こんなにゆっくりしてていいのかな。
それもこれもくーちゃん達のおかげなんだけどね。
私は何にもしてないもん。
こうしてのんびりして居られるのもくーちゃん達が獲物を狩って来てくれるからこそだよ。
ほんと有難いことだ。
「そう言えばくーちゃんさん達は何処まで狩りに行ったんだろう?」
そうメロディに聞かれたけど私にはさっぱり。
両手の掌を上に向けてちょっと大げさに欧米人みたいなリアクションで答える。
くーちゃんの『探知』は超が付くほど高性能だから、私には到底無理な距離でも探知出来るんだよね。
獲物が居る場所を探して見つかったら風のように駆けて行って狩りを楽しんでるんだと思うよ。
そしていつものように大量に狩ってさくちゃんの兵隊さん達が運んでくると。
っと、おや?
メロディとそんな話をしていたら遠くに小さな小さな何か動く塊が見えた。
それが1つ 2つ 3つ 4つ 5つ…………まだ続いてる。
お 多いな。
今日はいつになく多い。
くーちゃんたち興が乗ったのかな?
「ねぇ、あれって まさか……だよね?」
メロディが「まさかね?」みたいに聞いて来るけど、
「うん、その「まさか」だね。 身体強化で視力を強化して視てみたら案の定くーちゃんたちだった。」
私がそう言うと
「うわ~」とか「マジかー」って声が聞こえた。
まぁそうなるか。
慣れてる私でさえ今回のは多いと思ったもん。
まぁね、魔物列車見たら大抵はそうゆう反応になるよね。
小さな小さな豆粒のような大きさだったのが時間と共に近づいて来て、その姿がハッキリと分かる程になるとその異様さにちょいとビックリ。
何なのこれ。
まるで前世で見たような長~い貨物列車みたいになってるんだけど。
どんだけ狩ってんのよ。
ね、これ狩り過ぎじゃない?
魔物居なくなっちゃわない?
ってか、この草原によくこれだけの魔物が居たね、そっちの方がビックリだよ。
ちょっと軽くヒキながら魔物列車が到着するのを見ていた。
(主様、お待たせ致しました。)
(ご主人様、今日は大猟でしたー。)
(あー、うん。お帰り。 今日はまたエラく沢山狩って来たねー。)
(今日はとっても楽しかったのです!)
(そう、さくちゃん良かったね。)
楽しそうにそう言うさくちゃんと会話してると「良かったね」としか言いようがなくなる。
別に悪い事してる訳じゃないんだし怒る必要はないよね?
むしろ私にとってはイイ事だらけだし。
ここはやはり褒める所だと思う。
さくちゃんに右手をそっと乗せて
「よしよし。さくちゃん良く頑張ったね。エライエライ。」
そう言いながら撫で撫でする。
すると、嬉しそうにみよんみよんと伸び縮みするさくちゃん。
可愛い。
(主様、実は気になる事が1つ。)
(どうしたの? 何があったの?)
(はい、これをご覧ください。)
そう言ってくーちゃんが魔物の小山の中から何かを咥えて引っ張り出してきた。
それは、本来なら草原には居ない筈の『森林狼』の遺骸だ。
「あっれー、これ森林狼ですねー。これがかなり強いんですよねー。こんな強い魔物を狩って来るなんてさっすがくーちゃんさん達ですねぇ。」
メロディがほよよんとのんびり言っているけど『森林狼』が狩られた意味に気付いてない?
本来『森林狼』は草原には居ない。
森林に居るから『森林狼』なのであって決して草原には居ないのだ。
なのに何故草原に居たのか?
獲物を追いかけて草原に迷い出てしまった?
或いは、
「本来の住処である森から逃げて来た…。」
(わたくしもそのように思います。)
「だよね。そう思うのが自然だよね。 あの時と一緒か。」
「あの時って?」
リズが心配そうに聞いて来る。
それに対し私は出来るだけ深刻にならないように注意深く、努めていつも通りの口調で説明する。
「アイザックさんが蟲に襲われる前の日に北の草原で見たのよ、森林狼。」
「それって……バレットアントで怪我したあの時の?」
リズたちがあの時の惨状を思い出して渋い顔をしている。
あの時のアイザックさんは息も絶え絶えの重傷だった。
私の治癒魔法が無ければ助からなった可能性が高い。
私たち冒険者にそんな最悪の状況を齎したのがバレットアントの小さい群れだった。
小さくても群れたバレットアントは出来るなら相手したくないと思ってしまう程の魔物。
実際にバレットアントは単体でも強い方に属する昆虫型の魔物だし。
ちなみに、蟻型の魔物の中で一番厄介で危険とされるのが『軍隊蟻』だ。
『軍隊蟻』は単独ではバレットアントには劣るものの群れでの行動となると話は全然変わる。
兎に角群れる、ひたすら群れる。
分かりやすく言うと『数の暴力』である。
『軍隊蟻』の一番の特徴はその群れの大きさにある。
バレットアントの群れは最大規模でも数百~数千程度なのに対して、『軍隊蟻』の群れは数十万から百万匹で襲ってくる。
『軍隊蟻』が通った跡は草一つ残らないと言われる程に悲惨な結末を迎える。
だからバレットアントの方が幾分かマシではある物の……。
単独でも強いバレットアントが群れると……非常に厄介でもある。
バレットアントは基本あまり群れないのだそうだが、一旦群れるとその危険度は跳ね上がる。
バレットアントの群れ一千は軍隊蟻の群れ数万匹とも十数万匹に匹敵するとも言われている。
おっそろしい!
もしも北や東の森の何処かに、或いはメイデンウッド側の森の何処かにバレットアントの群れが潜んでいたら?
それはもう災害と言っても差し支えない。
小さな村や町だと一溜りもないだろう。
メイワースの領都とて到底無事では済まされない、相当な被害が出る筈だ。
そんなのが近くに居るかも知れない?
それは想像を絶するような恐怖だ。
「ね、ねぇ、それってマズいんじゃ?」
メロディも事の重大さを理解したのか微かに震えている。
顔色も幾分か悪く青くなっているように見える。
「うん、マズいね。非常にマズい状況だと思うわ。 けどまだバレットアントだと決まった訳じゃないから。」
私がそう言うと
「だとしても、すぐに戻ってギルマスに報告した方がいいと思う!」
リズの言葉を合図に私たちは急いで帰り支度をする。
折角くーちゃん達が狩って来てくれた獲物だけどゆっくり見る暇もない。
ホントは何を狩って来たのかじっくりと見てどれを買い取りに出すとか、これは自分たちの食料にしようとか考えたかったんだけど……。
でもそんな事してる余裕はないしね、仕方ない。
帰りを急ごう。
そう思い直して獲物をストレージに片付ける。
それから魔動キッチンやテーブルなんかも片付ける。
よし、こっちは帰り支度出来たよ。
(お待たせ、くーちゃん達はどう? 行けそう?)
(ご主人様少々お待ちを!)
ん? さくちゃん、どしたの?
なんかあっ た ?
へっ?
私は目を丸くしたまま一瞬固まった。
その光景はそれ程衝撃的だった。
「「「は?」」」
皆もビックリしてジッと凝視してる。
さくちゃんが自分の兵隊のスライム達を食べてる?
いや、吸収してる?
見た目的には、さくちゃんが集めて来た野良スライムがさくちゃんに取り込まれてるようにも見える。
さくちゃんが野良スライムを1匹吸収する度に僅かづつ体積が大きくなって行ってるように感じる。
ええええええっと、スライムってスライムを食べるんだっけ?
んん????
ハテナだらけだ。
思わずさくちゃんに聞いてみた。
(ね、ねぇ、さくちゃん。何してるのかな?)
すると、さも当たり前だと言うように答えが返って来る。
(戦力が必要になった時の為に野良スライムを一旦吸収してます。)
(は? 吸収?)
(はい。こうやって吸収しておけば私の体積を減らさずに野良スライムをまた出す事が出来ますので。)
(べ 便利だね。)
(やりました。ご主人様に褒められたのです♪)
(桜…)
(さくちゃん…)
さくちゃんが喜んでるなら ま いっか。
「「「あ あれ、大丈夫なの? なんか大きくなってない?」」」
「あはは、何か大丈夫みたいよ?」
さくちゃんの方はこっち置いといて、
取り合えず、街に戻ろうよ。
戻ってギルマスに報告したら注文しておいた胸当てが出来上がるから取りにも行きたいしね。