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第1話 プロローグ 出会いと別離


私 城之内薫(36才 ♂)は傷心の北海道旅行の最中に次元の狭間に落ちて死んでしまった。

「おやぁ~、遺伝子情報が破損していますね~。 これちゃちゃっと修復しておきますね。」

勘違い駄女神様アリアの遺伝子操作により美少女になって異世界転生してしまった。

転生したらついでに転性もついてきた?!

なぁ、私はこれからどうすればいい?

勇者? 魔王? そんなもの知らん!

私は自由きままに可愛い女の子とイチャイチャしたいだけなのだ。

ちょっとだけ役に立つ前世の知識を活かしてのんびり異世界ライフを満喫するのだっ!


お正月3が日は毎日更新予定。


ざまぁも復讐もありません。

残虐・戦闘要素もほぼありません。

ただただ可愛い女の子とイチャイチャするだけのお話です。

私、城之内薫は日本海側のとある地方都市の中堅企業に勤める中年サラリーマンだ。

部署は総務。総務部 総務課兼経理課。

特に望んでもいなかったのだが何故か課長の役職付き。 ちょっとだけしんどい。

直属の上司だった総務部長が定年退職し、その席が空席になったままだから仕方なしに私が代理をしている。

総務部内で唯一の課長である私が代わりを務めているにすぎない。

まぁ、言ってみれば体よく責任の所在を押し付けられたとも言う。 難儀なことだ。

部下は女子社員一人のみ。部下の女子社員には請求書関連を担当して貰っている。

以前はもう一人女子社員が居たのだが他部署に取られてしまった。

お金を生む花形部署と何も生まない総務経理。 理由なんてそんな物だ。

私はと言うと会社の人事・総務・経理のチェック・決済とほぼ全てをやっている。

入社・退職、給料計算、請求書の最終チェックから支払いまで、全部一人でだ。

ちょっと多すぎないか?と思わなくもないが人員の補充がないのだから仕方ない。

やらねばならぬのだ、自分がしなければ仕事が溜まる一方で誰も手伝ってはくれないのだから。

なので日々粛々と仕事をこなす毎日だ。


そんな、一応は責任のある立場の私なのだがいま北海道へ来ている。

デキる私は北海道支店へ出張! なんて事はなくて、地域に密着した地場の中小企業である我が社であるからして当然プライベートで北海道なのだ。 残念。

今回の旅行に関しては会社の方にはきちんと有給申請をしてある。 そりゃな、一応社会人だしな。

会社も私の事情を考慮してかあっさりと申請が通ったのは幸いだった。

先月一周忌も済んで少し落ち着いた。

一周忌と言うひと区切りが良かったのかもしれない。

気持ちの整理も兼ねて旅行を。

と言うか、ようやく気持ちの整理をつける努力をしてみようかと思えるようになったからだ。


季節は7月初旬、北海道観光の夏のトップシーズンだ。

北海道へはキャンピングカーに乗ってフェリーで新潟から小樽へと向かう。

お昼ごろに新潟を出発し翌朝早朝に小樽に着く。


小樽の港に着く。

車の乗り降り口がガっと開き、蟻の行列のように順番に車が下りてゆく。

いよいよ私の番だな。

アクセルをそっと踏み車を始動させる。


とすん。


北海道の土を踏む。

薄明るい空の下、キャンピングカーの窓を少し開け冷たい空気を胸いっぱいに吸い込む。

「ついに来たか。」

長年の夢であったキャンピングカーで北海道撮影旅行、それが今やっと叶った。

叶ったのは嬉しい、がそれと同時に残念な事もある。

それは彼女が居ないのだ。

私にとって一番大切な女性(ひと)

「一緒に北海道へ行きたいね。」

いつもそう言って私に笑いかけてくれた彼女。

彼女、それは去年亡くなった私の妻だ。

前髪を切り揃えて大きい丸いメガネをかけたひと。

彼女の名前は「綾小路香流(かおる)」。


彼女との出会いは5年前の4月にまで遡る。

私が31歳の時、彼女「綾小路香流(かおる)」が新入社員として我が社に入社してきたのだ。

ちょうど一回り年下の新入社員達、男性2名女性3名。

香流(かおる)はその中のひとりだった。

不景気なこのご時世に新入社員を5名も採用。

さて、新入社員教育担当官の私としては、今年の新入社員はどんなもんだ?そんな思いだった。


入社式も無事終わり場所を研修室へと移動する。

皆荷物を持ち緊張した面持ちで私のあとを付いてくる。

研修室は教室のような広さの所で、ホワイトボードが前に置いてあり、薄い茶色の天板・細い銀色の脚のついた長テーブルが等間隔に隙間を開けて横一列に3つならんでいる。

それが縦に4列ある。

各テーブルにはパイプ椅子が2つづつ。

新入社員の面々には最前列に座って貰う。


「さて、まずはお互いに自己紹介から始めましょうか。」


そう言いながら私は背筋をピンと伸ばし教卓の後ろに立ち皆をゆっくりと見回す。


「まずは私から。」


そう言って自己紹介をする。


「私は総務部 総務課兼経理課課長 城之内 薫。 君たち新入社員の教育担当だ。よろしくお願いします。」


そして教卓から左窓側へと移動し名前を呼ばれたら返事をして前に出て自己紹介するようにと言う。


「では、綾小路香流(かおる)さん」


「はい!」


大きくはないが不思議とよく通る声でしっかりとした返事が返ってくる。

丸い大きなメガネが特徴的な小動物のような雰囲気を持つ、まだ少女と言ってもいいくらいの幼げな容姿の彼女。

少し緊張しているのかな? そんな様子が見て取れる。

まぁ一番最初は誰でも緊張するか。


「ああ、失敗しても詰まってもいいので気楽に自己紹介すればいいから。」


二コリと笑うと彼女はこちらを見て驚いた後ちょっと照れたようにはにかんだ。


「◎△□高校から来ました 綾小路香流(かおる)です。 香りが流れると書いて『かおる』と言います。 友達からは漢字を逆さまに読んで『ルカ』と呼ばれてます。皆さんも私の事は気軽に『ルカ』と呼んで下さいね。」


「それと教官。」


「は? 教官?」


私の事か? この子は何言ってるんだ?


「んふ~ 教官も私も同じ『かおる』仲間ですね。 仲良くしてくださいね。」


そう言って屈託なく笑う彼女を見て私は思わず笑ってしまった。


「くくっ、分かった。」


それが私と綾小路香流(かおる)との出会いだった。



1週間の研修期間を新入社員は誰一人として脱落する事なく耐えきった。

栄えある我が総務部へは、


「◎△□高校から来ました 綾小路香流(かおる)です。 香りが流れると書いて『かおる』と言います。 友達からは漢字を逆さまに読んで『ルカ』と呼ばれてます。私の事は気楽に『ルカ』と呼んで下さいね。」


はい、やって来ました。 ある意味予想通り。

上司に聞いたら同じ『かおる』だから面白そうだと思ったとか何とか…。 そんな理由でいいのかよ。

あと妙に私懐いていたからと。

新入社員研修をしてて分かったのは、この子は普段の言動とは違い思いのほか引っ込み思案だった事 微コミュ障な事。

しかし私にはグイグイ来るのだ。 私にだけ。

遠慮がないと言うかなんと言うか。


「教官、よろしくお願いします!」


まだ言うか。 だから教官はヤメなさい。

正式に配属が決まったのだからこれからはお客さんではなくて一従業員として自覚を持って貰わないと。


「あー、綾小路君? 教官と言うのはヤメて貰っていいかな?」


一応、言うべきことは言っておかないとな。 部下の注意も出来ないダメ上司のレッテルを貼られるのはマズいのだ。


「え~っ?」


え~ じゃありません。 ダメなものはダメです。


「わかりました。 じゃあ城之内先輩! これでいいですよね。」


うん、う~ん。 ダメではないが…。


「じゃ、私の事は名前で呼んで下さいね。 ルカちゃんって。」


いやいやいや、それはダメだろう。

第一君とはそこまで仲良くはないだろう?

ちょっと待て、なぜそこでみんな生暖かい目でこっちを見てる?

そこ! 笑うな。

なぜだ、なぜ私がこんな目に会うのだ。


「先輩! 仕事教えてくださいね♪。」


そこから彼女の大攻勢が始まった。


「城之内先輩、明日のお休みヒマですか? 私ヒマなんで一緒に遊びに行きませんかぁ?」


ん、ヒマと言えばヒマだが片づけておきたい仕事が少しあるんだが…。


「じゃ、明日の午前10時に待ち合わせしましょう。」


また別の日のお昼休憩時間


「はい、先輩。 これお弁当です。」


ん? 私はいつも自分の弁当は自分で作ってくるんだが。

折角作ってきたのに食べないと言うのも失礼だし頂くのは頂くが。 まぁ自分のは夜食べればいいか。


「先輩、今度のお休みの日 先輩の部屋掃除に行きますからね!」


だ、ダメだ。 ダメに決まっているだろう。

うら若き乙女が男の部屋に上がるなど絶対ダメだ。

言語道断。

そうだ、掃除してないからと断ろう。


「だったら尚のことお掃除しないと。 大丈夫、任せて下さい。 私掃除は好きなんですよ。」


全然大丈夫じゃないから。

あ、あれだ。 怪しい本とかあるから。 な。

あれは女性が見るものではないから。


「別に気にしませんよ、男の人って普通そうゆうの見るでしょう。 弟もこっそり見てますし。」


弟君 災難だな。 同情するぞ。

いや、それどころではない。 まずは自分の身を守らないと。

って、何から守るのだ?

結局断り切れずに午後から夕方まで掃除して貰う事になった訳だが、その前日に隅から隅まで念入りにピカピカに掃除したのは言うまでもない。


「あれぇ、先輩意外とちゃんとしてるんですね~」


おし、勝った! って、勝ち負けではないんだがな。

またある日は、「せ~んぱい、一緒に帰りましょう。」と腕を絡めてくる。

ちょっ、それはイカン。 イカンぞ。

それではまるで恋人同士みたいではないか。


「先輩、軽く呑んで帰りませんか?」


こんなのが2ケ月も続けばそりゃあ呆気なく陥落もするだろう。

勝てる気がせん。

そして、私たち二人は職場公認の恋人同士と相成ったわけだ。

ルカが同僚と談笑中か。

うん? ああ、呼び方か。 付き合うようになってから『ルカ』と呼ぶようになったのだ。

あ、一応勤務中は『綾小路君』と呼んではいるぞ、一応な。


「あはは、それでね~ カオくんがねぇ~」

「へぇ~、課長 カオくんて呼ばれてんですねぇ。」


な、なんだよ。 そんなニヨニヨした顔で見ないでくれ。

ルカもあんまりプライベートな事は口外しないように。 頼むよホント。


それから交際は順調に進みお互いの両親にも紹介し、2年後私たちは結婚した。

思えばあの頃が幸せの絶頂だったような気がする。

結婚して2年後、私35歳 ルカ23歳の時 職場の健康診断でルカに異変が見つかった。


それから1年後ルカは亡くなった。

若かったからか病気の進行が早くどうしようもなかったのだ。


「一緒に北海道へ行きたいね。」


治療を始めて半年が過ぎた頃、ルカの治療の励みになればと思いキャンピングカーを購入した。

キャンピングカーに乗って北海道に写真撮影旅行に行きたいと二人でよく話をしていたからだ。

購入したのは1BOX型のバンコンで、電子レンジ、冷蔵庫、TV、FFヒーターに車載エアコン付き。

サブバッテリーは贅沢に3個、ルーフには太陽光発電パネル、更に正弦波1500Wインバーター装備。

オプションにだいぶお金がかかってしまったが致し方ない。 ルカの為だ。

そして注文したキャンピングカーが納車になる直前にルカは他界したのだった。



小樽港に着いて船から降りる。

車の窓を開け朝のひんやりとした空気を吸い込む。

実に清々しい。 これが鮮烈な空気とでもいうのか。

ルカが隣に乗っていれば「空気が美味しいね」きっとそう言っただろう。

さて、どこに向かおうか。

行きたい所は沢山ある。 いや、行きたい所だらけとも言う。

有給休暇は10日取ってきた。 時間は有限である。

すでにフェリーで1日を消費している。

帰りのフェリーで1日、有給の最後の1日は休養日に充てたいので実質残り7日。

まずは東へ行こう。 富良野市から北へ向かい美瑛町へと向かう。

一番行ってみたかった美瑛町。

カメラマン憧れの地へ!


青い空、白い雲! 広大な大地。

思わず車を停めて景色に見入る。

まさに北海道。 写真で見たまんまの光景が今目の前に広がっている。

感動だ。

目から一筋涙がつたっている。

知らずにに泣いていたようだ。

この雄大な景色をルカにも見せたかった。

うん、沢山写真に撮って帰ろう。 そしてルカの仏前に飾ろう。

カメラは手持ち機材全部持って来てある。

私が俯いていたらダメだ、ルカが安心出来ないだろう。

だから前を向くんだ。

涙に滲む目を服の袖で拭い顔を上げる。

さぁ、行こう。


車に乗り、ギアをドライブに入れアクセルをゆっくりと踏み込む。

車体をぶるりと震わせ少し重そうに動き出す。

今の自分にちょっと似てるな。

振り払うようにグッとアクセルを踏み込み加速させる。

イヤな気持ちを置いてゆくように走ってゆく。

窓から入ってくる優しい風が頬に心地いい。

癒されるな。

流れていく景色を見ながらドライブを楽しむ。


「ん、雨か?」


フロントガラスが歪んだような滲んだような気がした。

もう一度フロントガラスを良く見てみる。

いや、違う。

道路の先、少し向こうが、空気と言うか空間が歪んで見えるのだ。

景色がマーブル模様のようにぐにゃりと混ざったようないびつに歪んでいる。


「大丈夫なの か?」


ブレーキを掛ける間もなく私はそのままその空間の歪みのような物の中に突っ込んだ。

そこはぐにゃぐにゃとした時間も空間も色も判断出来ない、いや知覚出来ない世界だった。

その瞬間激しい頭痛がした。

これまで経験したこともないような激しい痛み。

割れるような痛みとは正にこの事なのだろう。

眩暈・頭痛・吐き気・全身の痛み・倦怠感。 それらが一斉に襲ってくる。


そして私の意識は途切れた。




「……て下さい。 …さん起きて下さい。」


誰かが私を呼んでいる。


「う、ううん。」


目が覚めるとそこは真っ黒だった。

いや、正確には真っ暗で何も見えなかった。 が正解なのだろう。



ここは どこだ?




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