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「乙女ゲームの皮を被ったRPG」シリーズ

【短編】クリア後の平和な世界に転生してしまいましたわ

作者: 田中佳奈

本編も進めたいんですが、こっちができてしまったので先に投稿します。

「……どうして……なんですの?」


 レモングラスの入浴剤をいれたお風呂に浸かってリラックスしていたのに。

 どうして、こんなタイミングで前世を思い出すの!

 早く上がって、現状を整理しなくては!


「ミーシャ!お風呂から上がりますわ」


 脱衣所に待機していた専属侍女から驚きながらも「か、かしこまりました!」という声が響く。

 私だって、いつも通り浸かっていたかったのに。

 体を拭いてもらい寝間着に着替え、髪を乾かしてもらう。

 私が急いでいるのを察して、テキパキと保湿剤などのケアを施していく。


「後でカフェオレをお持ちいたしますね」


 いつもならこの季節になるとホットミルクを持ってきてくれるのだけど、何か作業をするのだろうと気を利かせてくれた。


「ありがとう、ミーシャ」


 自室の前で礼をして準備に向かうミーシャを見送り、自室に入る。

 机の中からノートとペンを取り出し、何から書き出そうか。頭の中で前世の記憶がぐるぐると回りだす。


 ※


 前世の私はゲームが好きな学生だったこと。

 死に際は覚えていないこと。

 この世界が前世でプレイしていた「恋と禁忌のイデア1」であること。

 私がその主人公である「ミリア・フォーブス」であること。


 今の世界がゲームとは違う道筋を歩んでいること。


 これがお風呂を早く上がった理由。

 このギャップがどうして生まれているのか。それは両親から何回も聞かされている。


 曰く、平行世界から侵略が始まった。

 曰く、当時の王も侵略に加担していた。

 曰く、友人であるクローディア・ブラキシスと学園長のカーツェ・カフィクションが協力し合い、侵略を防いだ。

 曰く、この事実は国民には秘匿されている。

 曰く、人の口には戸が立てられない。

 曰く、この二人が英雄であるということは周知の事実である。


 そうなのだ。

 この世界は「恋と禁忌のイデア1」に出てくるはずの平行世界との戦闘を終幕させ、大団円となった世界なのだ。

 だから、何の問題も起きず、攻略対象にある「過去の因縁」なんかもないのだ。

 順風満帆の彼らの何を慰め、勇気づけ、前を向かせればいいのか。


 ミーシャの淹れてくれたカフェオレを口に運ぶ。

 何から始めればいいのか決まった。


「クロ叔母様に会わなくてはいけませんわね」


 ※


「ミリア、久しぶりね。今日も可愛いわよ」

「ありがとうございます、クロ叔母様。叔母様もお綺麗ですわ」


 思い立ったが吉日。

 次の日にはクロ叔母様の屋敷にいた。

 勿論、魔法で事前に行ってもいいかと聞いた。

 数分経たずに返事が飛んできたのには驚いたが……。


「急にどうしたの?シュルツたちと喧嘩でもした?」

「……前世を思い出しましたの」


 カップを口に運んでいたクロ叔母様の手が止まった。

 そして、何かを考え出す。


 まさか、クロ叔母様は前世の記憶を持っていないの?

 だって、こんなにシナリオを変えるのってゲームの知識がないとできないですよね?

 お母様からは、クロ叔母様が中心になって戦っていたって聞いていたけど……。まさか、カーツェ・カフィクションの方だった?


 頭の中が混乱であわあわしていると、クロ叔母様が口を開いた。


「このことアリスには話した?」

「……いえ、話していません」

「私のところに来て正解よ。私も前世の記憶を持ってると思ったのでしょう?」

「そうですわ。学園長と少しだけ迷いましたけど……」

「まあ、カーツェが先でも私の方に話が来たでしょうね」


 予想が外れていなかったことにホッと息が漏れる。


「それで、確かめるだけに会いに来てくれたんじゃないわよね?」

「……記憶が戻って、ゲームの知識も戻りました。戸惑いましたわ。だって、攻略対象が問題を抱えていないんですもの」

「そうね……。私たちが解決しちゃったから……」

「そうなのです。ゲームでは、ユーリは戦争に親を殺された恨み、ミズキは幼い頃に誘拐され平行世界の兵士に、ローキシュは強制的に兵器を作らされていたり」

「カーツェもボスであるシギン・パースを倒しちゃったから……」

「平和な世界は嬉しいのですけど……」

「ゲームとしては破綻しているわね」


 特に困っているわけではない。困っているわけではないけど、ゲームの世界に、しかも主人公として生まれたからには、何かをしなくてはという気がしてしまって、落ち着かない。


「これからはゲームのシナリオに関係なく、好きなように生きていけると思えばいいのよ」


 そう言って励ましてもらった。


 ※


 あの後、シギンを倒すまでの話を聞いたり、自分の親戚にも転生者がいることや、コーヒーや紅茶の話などを楽しんだ。

 楽しんだのだけど、やっぱりシコリが残っている。


「だから、直接私のもとに来たのか」


 攻略者の一人である学園長カーツェ・カフィクションが、コーヒーを淹れながら話を進める。


「考え続けるより、動いた方が早いと思いましたので」

「君の母もそういうところがあった」

「そうなんですの?」


 父と一緒にこの国を立ち直らせ、いつも穏やかに笑っていて思慮深いあの母が。

 気恥ずかしい。


「ゲームについては、クローディアから一通り聞いている。私も攻略者の一人だということも」

「シリーズのどの作品化は聞いていますの?」

「クローディアが出ている作品ではないのか?」

「それにも出ていますわ」


 コーヒーを飲む。美味しい。


「学園長は特殊で、全部の作品で攻略対象となりますの」


 ※


 シリーズの中心人物なので、全ての作品で攻略対象となっていますわ。2作目は母であるアリスと、3作目では調査団の一員であるユイとのルートがあります。

 そうですわ。あの皇太子と結婚したあのユイですわ。

 そして、1作目は私とのルートですわ。

 矛盾が生じてしまう?ルートの一つなのでそこは問題ないのです。もしもの世界として受け入れればいいのですわ。

 私との年齢差ですか?学園長は34歳で止めているので、19歳差になりますわ。……そこまで離れていませんわよ?前世でも年齢差婚なんてありきたりでしたので、気になりませんわ。


 ※


「なるほど。君の攻略者であることは承知した。……クローディアの言う通り、好きなように生きていけばいいとしか言えないな」

「……そうですわよね」


 沈んだ私を気遣うように、焼き菓子のおかわりをお皿に乗せてくれる。


「君の持つ虚無感もわかる。今の私も似たようなものだ」


 学園長もそうだとは、意外だった。


「学園長を続けているのは、一種の逃避だろう」

「逃避でも、やっていることは立派ですわ。今までやってきたことも」

「……そうか」


 焼き菓子を口に運ぶ。どこのお店のものだろう?


「私が焼いた」

「手作りでしたの⁉お店を開けますわよ!」

「そういえば、ブラキシス姉妹やアリスもお菓子を作れとせがんでくるな」


 母もクロ叔母様もこんな重要なことを教えてくれないなんて!

 全く!信じられませんわ!


「学園長!私と喫茶店をやりましょう!」

「……断る」

「なぜですの?」

「君は王族だろう」

「継ぐのは兄様なので、問題ありませんわ」

「……そういうことではない」

「好きなように生きていけばいいとおっしゃったでしょう?」

「急に開き直りすぎだ」

「カーツェも!私と好きなように生きていきましょう!」


 学園長はため息をつき、目をつむる。

 勢いに任せ過ぎましたわ。

 少しだけ反省しながら、焼き菓子をかじる。

 やっぱり美味しいですわ。


「……考えておく」


 その言葉が聞こえ、バッと顔をあげる。


「ほ、本当ですの?」


 聞き間違いかと疑い、もう一度尋ねる。


「本当だ。君が学園を卒業するまでには返事をしよう」


 やりましたわ!

 物件を探さないと!食器や家具も探さなければ!

 ああ、その前にお母様とクロ叔母様に報告ですわ!


 フッと学園長の笑い声が聞こえ、少し落ち着かせる。


「ありがとうございます。卒業が待ち遠しいですわ!」

「一人で先走らないように」

「二人のお店ですもの!勿論ですわ!」


 ※


 鈴の音が鳴り、来客が入ってきたことを知らせてくれた。


「いらっしゃいませ!まあ、クロ叔母様!」

「久しぶりね。カーツェはいる?」

「裏で生地を作っていますわ。呼んできます?」

「いいわ。エチカも可愛いですね~」


 私の腕に抱かれている赤ちゃんのほっぺをツンツンする。

 人見知りすることなく、笑顔でかえす。

 なんて可愛いのでしょう!まさに天使ですわ!


「まさか、カーツェと結婚するとは思わなかったわ」

「私もですわ」


 あの後、学園を卒業してカーツェとお店を開いた。

 英雄が菓子店を開いた、しかも、ものすごく美味しい。と評判は広がり、お店は順調に走り始めた。

 その後も問題なく3年の月日が流れた。そして、プロポーズされたのだ。

 青天の霹靂を身をもって体験した。

 涙が溢れて止まらなかった。


 子どもも生まれた。

 玉のようにかわいい女の子で、エチカと名付けた。


 平和な世界に転生できて良かったと心から思えた。


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