お祈りメール(8)
「ご迷惑をお掛けしますが、私も辞めさせていただきます」
高橋までいなくなるなんて……。しかし、仕方がない。彼女の気持ちを考えると、当然だ。こうなる前に何とか出来なかったのかと後悔ばかりが募った。俺は、高橋の申し出を承諾するしかなかった。
こうして、二人の大切な仲間がいなくなった。正直、とてもショックだった。でも、しっかりしなければ。俺は自分にそう言い聞かせた。
俺がやるべきことは一つだ。
俺は、社長職を引き継いだ。会社に残ってくれている佐藤雄介のためにも、何より俺自身のためにも、頑張らなければならない。そう思い、俺はがむしゃらに働いた。これまで以上に仕事に没頭した。
そうして、毎日の激務をこなしているうちに、あっという間に二年が過ぎた。
俺は、今日も一人、朝からパソコンに向かっている。やはり、一人で全ての業務を回すのは大変だ。早急に人手が欲しかった。
唯一会社に残ってくれた佐藤雄介も、自身の就職活動の時期が来ると、あっさりと会社を辞めてしまった。本当に頼れる奴だっただけに残念でならない。
彼がいなくなってからは、俺は一人、事業を拡大する事もなく、細々と仕事をしていた。それでも、やはり一人では限界がある。
俺は、求人募集をすることにした。今回は、アルバイトで妥協なんてしない。必ず長く働ける正社員を雇いたい。少しでも良い人材が入ってきてくれるように、待遇面にも気を配っている。これまでにいくつかの応募はあった。だが、なかなか採用までには至らない。
パソコンの画面に目を向けながら、ため息をつく。
“ このたびは、多くの企業から弊社へご応募頂き、誠にありがとうございました。
厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが今回は採用を見送らせて頂くこととなりました。
ご期待に沿えず大変恐縮ではございますが、ご了承くださいますようお願い申し上げます。
山田様の今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます。”
以前、嫌というほど見た文章を再び目にする時が来るとは。この文章を目にするのは、これで何度目だろうか。
今回の不採用通知を「最後のお祈りメール」にしたい。毎回そう思う。しかし、現実は厳しい。俺は再び深い溜息をつくと、椅子に深く腰掛けたまま、天井を見上げた。
その時、新たな応募が届いたことを知らせる音が鳴った。俺は、ハッとしてすぐにそのメールを開く。
今度こそ、「お祈りメール」を送らなくて済みますように。
そんな願いを込めて。