お祈りメール(3)
「それで勢いで仕事を辞めたものの、次が決まらず、自暴自棄になったお前は、無計画に東京に来たというわけか……」
その通りだったので、俺はただ苦笑いするしかなかった。
すると、大地はもう一度ため息をついた。それから、急に真面目な口調になって続ける。
「お前さ、上司が嫌って理由で、一々仕事辞めてたらキリないぜ。友達グループじゃないんだから、会社なんて自分に合わない奴の方が多いだろ」
厳しい言葉を投げかけられ、思わず下を向く。言っていることは正論なので反論ができない。俺が俯いていると、大地は三度大きなため息をついた。
そして、しばらく何かを考えた後で俺の目を見る。彼の目は真っ直ぐで、とても澄んでいた。まるで吸い込まれてしまいそうなくらいに……。
大地は静かに口を開く。その声はとても穏やかで優しげだった。だけど、その声音とは裏腹に力強い言葉で告げた。
「お前、俺のとこ来いよ」
俺は目を見開いたまま固まった。予想外の言葉だったのだ。大地の言葉が頭の中で反響し続ける。俺が何も言えないでいると、大地は続けて言った。
「実は俺さ、農業系のITベンチャー立ち上げようと思ってるんだよ」
それはあまりにも唐突な宣言で、すぐには理解できなかった。
農業系……? IT……? 何を言っているのか分からない。
大地は目をパチクリとさせている俺の様子を気にすることなく、自分の考えを話し始めた。曰く、これからの時代、農作物の需要はさらに高まっていくはずだと。そのために、新しいビジネスモデルを作る必要がある。
そこで考えたのが、農家とECサイトを繋ぐプラットフォームを作ることらしい。プラットフォームは完成しつつあるが、全国の農家へ営業をかけるには人手が足りない。しかし、新たに立ち上げたベンチャー企業に転職したがるような人はなかなかいない。
「だから、ここで手を挙げてくれる人を待っている」
そこまで話したところで、大地はテーブルの上にあった水の入ったグラスを手に取り、一気に飲み干した。そして、再び俺の顔を見ると、ニッと笑う。
そこでようやく俺は、大地の意図を理解した。つまり、俺に救いの手を差し伸べてくれているのだ。この俺に仕事をくれると言っている。正直、ありがたい。
だが、一方で、俺は不安でもあった。起業しようとしているということは、今はまだ軌道に乗ってはいないだろうし、給料だって安いかもしれない。それどころか、会社ですらないのかもしれない。