093 - 事故
紫足帝国の宇宙船から地表に向けて光の筋が伸びる。
白い光の中に赤い稲妻が絡みつくような、その姿はとても禍々しい。
しかしその光の柱は大気に触れる前に跳ね返り、発射した宇宙船を貫く。
「あら、鏡にでも当たったのかしらね。不運な事故ね」
スクリーンに映る宇宙船は、船体の極一部に爆発が起きている。
そのまま大爆発に至らないか少し心配だが、今のところは大丈夫そうだ。
エンジュ、 GJよ!
「そ、そんな馬鹿なことがあるか! ハイペロン水素ビームが通常物質で跳ね返ることなど有り得ん! 何をした! 言え!」
「だから事故よ。……分からない? そうしておかないと、私はあなたの船を撃たなくてはならなくなってしまうわよ?」
唇を横に広く嗤い、目を細める。
暗に、私が宣言したことを、まだ実行していないことを匂わせる。
「こ、小娘が……」
先を続ける前に、紫豚剛族の秘書と思われる男性がウルダーに近づき耳打ちをする。
「……うむ、分かった。戻ろう。……みなさん、申し訳ないが少々退席させていただく。覚えておけよ小娘!」
「カンナヅキ ユメよ。そっちこそ覚えておきなさい!」
ウルダーが秘書と共に出て行くと、沈黙が落ちる。
「ユメさん大丈夫ですか? 相手はあの紫足帝国ですよ」
クルンさんが心配そうに聞いてくる。
「先ほどの映像を見ていたでしょう。何かしようとすれば先ほどの二の舞ですわ。さて、先ほどの話の続きをしましょう。何か要望はありますか?」
先ほどの事故の衝撃からか、次の会話につながらない。
話の呼び水になればと思い、他のオプションも提示してみる。
「他にも、他の惑星から資源を運ぶようなことも可能ですよ」
「う、うむ」「大量の資源を運んでもらうのも、ありではないでしょうか……?」「いや、しかし、自分たちで出来ることを頼むのはもったいないような……」
クルンさんと財務大臣がこそこそと相談しているのを横目に、さっきの遣り取りでビビっていたヴァイパーが気を取り直した様だ。
「ちょ、超重元素でいいのではないか? 例えば超重タングステンだと何トンだ?」
「ミルアさん、連邦での相場だと、5千パックで何トンくらい買えそう?」
「5-10トン程ですね。一般に出回るようなものではないですし、大抵の国家では戦略物資なので高めです」
「そう、それなら10トン提供しましょう」
私としては即決してもらえば負い目は無くなる訳で、多少の大盤振る舞いであれば、何の問題もない。
「そうか、それではそれで手を打とう。いつまでに用意できるのだ?」「ちょ、ちょっと待ちなさい。そもそも貴方に決定権は無いでしょう。それとも5千パックを第4惑星政府は払えるのですか?」
美味しい話に飛びついて、話をまとめようとしたヴァイパーをクルンさんが止める。
「いや、それは……」
そして止められたヴァイパーも言葉を続けられなくなってしまった。
第3惑星と第4惑星はそれぞれ別会計なのね。
「ユメさん申し訳ありませんが、簡単には決まらないかもしれません。申し訳ありませんが、お待ちいただくことは可能でしょうか?」
「何日も、にならなければ可能ですわ。でも……待っている間に借金が増えていくのはゴメンですわね」
「お待ちいただいている間は無料にさせていただきます。観光も立ち入り禁止の場所以外は自由ということではいかがですか?」
今よりも状況が悪くならないのならば、足止めされても問題はないだろう。
むしろ観光的には良くなった可能性まである。
「それならば承諾いたしますわ。とりあえず本日は船の方に戻らせていただきますね」
「はい。船の方にはお送りさせていただきます。……お客様がお帰りだ、お見送りをよろしく頼む」
後半は部屋の外のガイドの方向けに宛てられたものの様だ。
部屋の入口が開き、今日一日案内してくれたガイドの方々が入ってくる。
その後は、庁舎から出て、買い物エリアを通過し、シャトルに乗ってアンスリューム号に戻ってきた。
船に乗ったらすぐに転送でフォージニアスに戻る。
アンスリューム号で過ごしてもいいけど、フォージニアスの方が広いし安心感も高いからね。
「ユメ艦長、ごめんなさい。まんまと乗せられて、払えないほどのオプションをいっぱいつけられてしまいました」
帰宅早々、ミルアさんが頭を下げて謝ってくる。綺麗な長いうさ耳がテロンと垂れた。
話だけ聞くと、まさに悪徳商法にヤラレタ人の話だ。
気にするなと言いたいが、ミルアさんの性格的に気にするだろうなぁ……
「大丈夫よ。私も途中で何も言わなかったんだから! それに、パックは無いけどエネルギーはあるからね」
「でも、しばらく足止めになってしまいました」
「それもどのみち、中性子星のエネルギー回収が終わるまでは暇だし、見方によっては星系内部を自由に見学できるわよ。何せ禁止されているところ以外は自由に見て回っていいっていう言質を取ったからね」
「長官は第3惑星の中に居ると思ってるぞ。たぶん」
「そうよね、傍から見れば、私たちはクィーンバタフライ号の中よね?」
ラングとタマミちゃんがこそこそと話している。
「細かいことは気にしなくていいのよ。向こうが悪徳商法なら、こっちは身勝手に行動するまでよ!」
「「え~」それはちょっと……」
あらら、ラングとタマミちゃんにはちょっと引かれてしまった。
しかしその甲斐あって、ミルアさんの緊張はちょっと解けた様だ。
「それはそうと、地上にあるクィーンバタフライ号はあのままで大丈夫かしらね?」
安全面を気にしてエンジュに相談を持ち掛ける。
「警備はしていますので、破壊行為は阻止できます。 ただ、何かを画策してくる可能性はかなり高いですね。 何か罠を張りますか? 」
「それで、傷付けられても面白くないわね。浮かせておきましょうか。……そうね、逆にエネルギーの無駄遣いを盛大にやってみましょう」
エネルギーの無駄遣いを見て悔しがるがいい!
わっはっは!
「艦長、内心絶対キレてるよな……」
「貧乏人呼ばわりかしらね。田舎者呼ばわりかしらね……」
「おい、タマミそれは……言い」過ぎ、と言い終わる前にタマミちゃんの後ろに移動する。
タマミちゃんの頬っぺたをむにゅとヤル。とても柔らかい。
「しゅ、しゅいましぇん……」
痛くない程度にムニムニとして感触を楽しむ。
「エンジュ、何ができるかしらね?」
「船を浮かすだけだと、盛大な無駄遣いというほどにはならないですね。 シールド全開は惑星上なのでやめておいた方がいいですし。 武器もこの状況では使わない方がいいでしょうね 」
「水が足りないとか言ってましたから、水でも放水しときますか?」
ミルアさんがのほほんと提案しているが、絵面はあまりよろしくない気がする。
「水を垂れ流す船って感じ悪くない?」
「えっ! ユメ艦長、嫌がらせをするんじゃなかったんですか?」
あっ!
「あぁ、そうだったわ。エンジュ、この船が出しても不自然じゃない水の量ってどんなもの?」
「およそ200 L/毎秒です。 ただこれを2日以上続けると、積載資源が尽きます。 もちろん、内部的には艦隊からの補給は可能です 」
「まぁ明日の朝まででいいでしょう。高度100mに上げて駐機場に水を撒いてあげましょう」
「畏まりました 」
「さぁ、私たちは、観光の感想でも共有しながら美味しい夕飯を食べましょう~」
【はーい!】
昨日と同様にフォージニアスの多目的ホールでスリカータ星を背景に夕飯を頂く。
なるほど、見事な “スリカータの星縞” だ。
やりすぎともいえるような、惑星レベルの生産活動はみんな思うところがあるようだ。
ただ、完璧に管理された農業がもたらす壮大な光景は、みんなが一度は見る価値があると思ったようだ。
今日は主に上空から見ただけなので、明日は近くで散歩でもしながら見るのもいいかもしれない。
シンリー達は海の中が気になるようで、明日時間があればホロ転送で潜ってみると言っていた。
第4惑星に退避した生物達の事はタマミちゃんが気にかけていたな。
ただ、直接見に行くのはちょっと厳しい……と思う。
研究施設も多そうなので、セキュリティを気にしながらというのも面倒だ。
第3惑星の衛星も少し気になるが、行ってまで見る物があるのかは疑問がある。
やっていることは結局食料生産って、話だったからね。
さて、今日は朝から観光と、心労で結構疲れた。
みんなでお風呂に入ってゆっくり休もう!
今回から投稿のインターフェースが一新されました。
今まで通りの投稿が出来ていることを願います。
今週は明日も投稿になります。お楽しみに。
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