089 - スリカータ星観光
クィーンバタフライ号のハッチが開くと、強めの風が吹き、外套がはためく。
視点が低いので、四方に見えるのは透き通る青空と灰色の地面ばかりだ。
周りに船は居ないので、観光に来ているのは私達だけかもしれない。
タラップが地表まで伸びていくのを待って歩き出す4人と、少し後ろを浮いている2人。
今回私は、ミルアさんの副官として行動することにしている。
タラップが伸びた方向にはスリカータ星側の迎えの方々が並んでいる。栗縞亜猫族の方が10名だ。
スーツっぽいものを着ている人が4名に、薄着で色々な飾りを身に着けている人が6名。
みんな動きが大きく、歓迎ムード全開だ。
「ようこそ。スリカータ星へ!」「「ようこそ~」」
手足が少し短めで立ち上がっている姿はミーアキャットそのものだ。とても愛嬌がある。
「凄く綺麗な船ですね!」「とてもカッコイイ船ですね! こちらへどうぞ~」
半分リップサービスだとしても、自分の船を褒められるのは気持ちがいい。
案内に従ってタラップを降りていくと、どうやら各個人に頭飾りを載せてくれるらしい。ハワイのレイの様な習慣のようだ。
目の前に立って、2名ずつ頭の上に花と穀物の実った冠を載せてもらう。
ラングとタマミちゃんはお揃いの色の冠を載せてもらっている。
うん、よく似合ってる。
シンリーとボルグに対しては、栗縞亜猫族の人もどうしていいか分からない様だ。迷っている姿がとてもカワイイ。
とりあえずシンリーとボルグには口に掛けてもらうことにして、送迎のキャリアに乗る。
見方によっては猿轡なのだが、そこは言わぬが花だろう……
開放的なキャリアの2階部分に座ると、エンジン音を鳴らしながらキャリアが出発する。
ゆったりと寛ぎながら外を見る。
視界の左半分は灰色の駐機場、右半分は緑色一色の農地、前方には都市を囲う城壁が見える。
駐機場も巨大なら、農地も巨大。
遠くの都市はここからだとサイズがよく分からない。
感覚がおかしくなりそうだ。
「農地も駐機場も全部が大きいですね! どのくらいの大きさなんですか?」
ラングがエンジン音に負けない声で栗縞亜猫族の女性に聞いている。
「着陸場は4km四方ですよ~」「農地も基本サイズが4km四方ですね~」
それは大きいわ……地平の先が見えないのも分かる。
「都市には何人くらい住んでいるんですか?」
タマミちゃんも興味津々で聞いている。
「今向かっている都市は400万人位ですよ~」「普通の都市だと100万人位ですね~」
人数だけ聞くと日本の都市と同じくらいかな……
私も一つ気になることがあるので聞いてみよう。
「都市の周りにあるのは城壁? 何かから守る物なの?」
「キレイな壁でしょう~」「季節的な嵐から守るための物なんですよ」「今の季節は気にすることはありませんよ~」
答えるのに一瞬間があった気がするが、内容は無難なものだ。
栗縞亜猫族の顔色が分からないのがちょっと残念。
『空気中って遠くまで見えるんですのね。……だけど殺風景ですわね……』
『空には鳥というものが飛んでいると聞いたことがありますが、何もいませんね』
シンリーとボルグは初めての陸上の光景を興味深く見ているようだ。
「ここは特別に殺風景ね。完全に人が管理している環境だからかしら。鳥もこの星には居ないのかもしれないわね」
地球を想像しながら答えてみる。考えてみると地球しか比較できる知識が無いので、”普通”って何だろうとか考えてしまう。
「鳥は別の惑星に移住してもらっていますね~」「この星は農業惑星として改良を重ねているんですよ」「他の植物や動物も第4惑星に引っ越してもらいました」
栗縞亜猫族の女性が、私の説明を引き継いで説明してくれる。完璧な観光ガイドだ。
うーん。なかなかスケールが大きい話になってきた。
環境破壊どころの騒ぎではない気もするが、絶滅させるよりはいいのだろうか……
それから30分もかからないうちに城壁の前に着く。目の前には大きなアーチ形の門があるが、扉は見えない。
道の先がそのまま大通りにつながっているようだ。
「門をくぐるときは手を出さないようにお願いしますね~」「安全の為ですよ~」
門をくぐるときにゾワリとした感覚があり、”何か”を越えた感覚がした。実際には目に見えないフィールドがあったのかもしれない。
≪エンジュ。問題ない?≫ と念のために聞くと≪はい。 全く ≫ とのこと。
キャリアはそのまま大通りを進み、段々とビルが高くなっていく。
中央に高いビル群があるのは、地球と同じか。
その間窓から見える街並みは綺麗で、人通りも結構ある。
道路や歩道なども整備されており、雰囲気は日本の都市に近い。
特徴的なのは、どのビルも円柱を基本としていて、あまり角がない。印象はかなり柔らかい感じだ。
一際大きなロータリーの一角まで進むと、ここからは徒歩とのことでキャリアから降りる。
「結構乗ってたなぁ~」
「ちょっとお尻が痛くなっちゃいましたね」
ラングとタマミちゃんは伸びをして体を適当に捻っている。私も少し腰を回しておこう。
「こちらからお買い物エリアとなります」「好きなお店に入っても大丈夫ですよ」「記念にアクセサリーとかいかがですか?」
栗縞亜猫族の皆さんは言葉を繋ぐのが上手いみたいだ。
観光ガイドだからなのかは分からないが……
「ゆっくり見せてもらいますね」
ミルアさんが物腰柔らかく先頭を進む。
一般の栗縞亜猫族の人たちはそれなりに居るものの、積極的に近づいてくる人は居ない。
みんなカラフルな洋服を着ており、複数人で楽しそうにショッピングを楽しんでいる様だ。
買い物エリアということで色々なお店は見えるが、食べ物も衣服も合わないのであまり興味のそそられるお店は無い。
ついでに言うと、グルンフィルステーション程の未来感もない。通行人とビルの形を別にすれば日本の商業エリアの風景とさほど変わりは無いかもしれない。
道の奥の方にはパンケーキ型の建物が何棟もあり、雰囲気的にはビジネス街か行政庁舎だろう。
とても美味しそう……には見えないな。
ガイドのお勧めに従ってアクセサリー店に入ってみる。
普通の金属系のアクセサリーの他に、木彫りの素朴なアクセサリーも置いてある。
せっかくなので陸上組はお揃いの木彫りのブレスレットを購入。ここでも連邦のカードが使える様だ。
ほかにもスリカータ星のイメージをデザインした厚手の絨毯があったので記念に購入。12パックと少々値が張ったが、まぁいいでしょ。
次のお勧めは連邦向けの食料品店。
黒犬族と兎耳長族用の食料品コーナーがある。
残念ながら私や彩海豚族に合うものは無いとのこと。まぁ滅多に観光客が来ない星ならそんなものでしょうとのこと。
ラングとタマミちゃんはこの星の穀物で出来た固焼きを何種類か購入。ミルアさんは穀物の袋とお酒を何種類か購入。
「隠れて飲んじゃだめよ」 と伝えると、「そ、そんなことしませんよ~」 と目が泳いでいた。
ま、ベロベロにならなきゃいいけどね……
最後にパンケーキ型の庁舎の前に来た辺りで、ミルアさんに声が掛かる。
「ミルアさんは連邦捜査官なのですよね!」「凄いお仕事ですよね。尊敬します!」「是非、行政長官と会談していきませんか?」
「え、えぇ……」
となって、押されたミルアさんがなし崩し的に同意し、庁舎にも寄って行くことになった。
ミルアさんは押しに弱い、っと……
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