SS - 一人の彩海豚族の物語
「騒がしい、太陽のような娘たちだったね……」
音ではない、意思が空間を伝播する。
そして、その意思に反応する何か。
懐かしい匂い。
同じ存在が、問いかける。
「おや、英雄のお帰りかい?」
幼馴染に話しかけるような、気安い感じは、少し芝居がかっている様にも聞こえる。
「みっともない格好で帰ってきたよ」
答えるほうは、遠慮がちに意思を発するが、同様に姿はない。
「何言ってんだい、約束通り、救援を引っ張ってきたじゃないか。英雄だよ。あんたは」
「そう言ってもらえると、人生に意味があったと思えるかな。でもね、一番うれしかったのはね……シンリーにほめてもらえたんだよ。よくやってくれたって」
「そうかい」
ぶっきらぼうだが優しさが感じられる声。
「長いようで短かったな……」
「寂しかったんじゃないかい?」
「色々あったさ……」
「そうかい。……このまま意識として残るかい?ボーン」
「いや、俺はそんな魂じゃないよ。もうすぐしたら、薄まって消えるさ」
「そうかい。またさみしくなるね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇねぇ、何かお話して!」
「そうだなぁ……シンリーは、海に上には何があるか知っているかい?」
「お空よ。ママに習ったわ!」
「じゃあ、さらにその上には、何があるかなぁ?」
「う~ん……わかんない」
「ずっと上には、物凄く大きな海があるんだぞ」
「ふーん。変なの~」
「そしてね、そこにはね……なんと、お話しする犬やウサギがいるんだ! ほかにも、馬や猿や豚ともお話できるんだぞ!」
「すごーい。どんな事をお話するのかしら」
「どんな事かなぁ、食べ物とかかなぁ? シンリーならすぐお友達になれるかな?」
「うん! お友達、いっぱいいるのよ! ボルグでしょ、カイトでしょ、あと……ミリー!」
「うん。いっぱいだね。……さぁ、そろそろ寝る時間だ。シンリーはもう一人で眠れるかな?」
「暗い海は、まだちょっと怖いの。でもママとパパと、お友達が近くに居るから平気よ!」
「そうか~、えらくなったなぁ!」
「ねぇ、おじちゃん、なんで海が寒いの? シンリーね、もっと泳ぎたいし、ご飯も一杯たべたーい」
「今度な、おじちゃんが太陽を明るくしてくるし、海を暖かくしてくるぞ!」
「えー、ホントにできるの~」
「できるさ~、そうなったら暖かい海で、お腹一杯食べれるからな!」
「すご~い!」
「だからシンリーは、一杯勉強して、立派な族長になるんだぞ。おじちゃんとの約束だ」
「わかった! じゃあねぇ、ほんとに出来たらね、シンリーがちゅ、ってしてあげるね!」
「それは楽しみだな! ほら、もう今日は寝なさい」
「は~い。おじちゃん、おやすみなさい」
「おやすみ、シンリー……」
そして周りが静寂に沈む頃、男が静かに呟く。
「……行ってくるよ。空の上の海へ」
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