076 - 戦艦フォージニアス
シンリーにテレパス訓練を勧めたのを思い出した私は、多目的ホールにやってきた。
せっかく訓練を付けてもらっているのに、初心者の私がのほほんとしている訳にもいかないだろう。
せっかくなので広い畳の部屋と、春の庭園が見えるホロルームを作ってもらい、座禅を組む。
呼吸を一定のリズムに保ち、心を落ち着けて雑念を消していく。
そよ風が気持ちいい。そして幸いなことに、心配事はほとんどない。
心が落ち着いてきたら感情の壁を立ててみたり、動かしてみる。
これが一人だとなかなか難しい。
来ている“もの”に対して対抗するのはなんとなく分かった。しかし、何もないところに力を向けるのも難しいし、維持するのも難しい。力が抜ける感じがする。
しばらく、心の中で試行錯誤をしていると、エンジュから遠慮がちに声が掛かる。
「艦長、もしよろしければ、ボルグさんが実施していたテレパス波を再現してみましょうか? 」
「え、そんなことできるの?」
「はい。 ただ、これまでは外部種族との翻訳用でしか、使ったことがないような機能なので、性能は高くないと思われます 」
「なるほどね。とりあえず試してみましょうか。ちょっと怖いから、最初は弱めとかってできる?」
いきなり大出力でドカーンと来て、感情の波に飲まれたら目も当てられない。
慎重にお願いしよう。
「もちろんです。 それでは、先日のボルグさんが送っていた、テレパス波を再現します 」
「おっけー。バッチコーイ」
最初の感触は “非常に弱い”、“哀” の感情。
余裕で押し返す。
ここまでは予定通り。
少しずつ強さを上げてもらう。
練習の時の、半分くらいの強さになったところで、続きをお願いする。
たしか前回は、感情が色々な方向に変化したはずだ。
嫉※ 悲※さ 怒り 喜び 恐れ 不※ 安※ 驚※ 羨※ ※惑 嫌悪
ん? なんだか怪しい。
いくつのかの感情はストレートに表現できている気がするが、何の感情か分からないものもあった。
あと、感情(方向)の切り替えも、滑らかさがなく、ガビガビしている感じ……例えるなら滅茶苦茶解像度を落とした音声ファイルを聞いている感じだ。
一言でいえば “これはひどい” という状況。
まぁ、自分たちで試せない機能は、性能を上げようもないからな……旧帝国の技術者も性能が足りないと思いつかなかったか、十分だと思ったかどちらかだろう。
訓練の続きは、輪郭がはっきりとした感情だけ残してもらって続行した。今日の成果としては、感情を押し返す訓練と、壁だけを作る訓練を交互にすることで、心の壁の作り方がうまくなった気がする。
トレースできなかった感情に関しては、後日シンリーとボルグと私の3人で、記録と再生のテストをすることにした。
エンジュには、その時までに、センサーと放射器の改良をお願いしておいた。ただ、本格的な研究ができるわけではないので、数字的な性能アップしかできないとのこと。
そうこうしているうちに、あっという間に夕飯の時間になった。
そして楽しい夕食の後は、戦艦への移席……ユークレアスとはお別れの時間だ。
「私たちも戦艦に移動しましょうか。お疲れ様、ユークレアス!」
ッピ 『 乗艦を感謝します。 艦長の足跡が、銀河を超えて躍進することをお祈りしております 』
「え!? あなた……話せたの?」
ッピ 『 ご要望があれば対応は可能です。 私はアリスの分散分離型のサブユニットになりますから 』
なるほど、各艦にアリスの一部がインストールされているイメージか……
「なるほどね。これまでの航海を感謝するわ。いずれまたね」
ッピ 『 艦長の航海に赤き月と青き太陽のご加護があらんことを 』
「それでは戦艦に移動するわよ。みんな準備はいい?」
【アイアイマム!】
「総員、ユークレアスに敬礼!」
これは船に対する敬意を私なりに考えた結果だ。ラングとタマミちゃんも、見よう見まねで敬礼しているし、ミルアさんの姿勢はとても奇麗だ。
「戦艦の艦橋へ転送!」
その姿勢のまま全員を転送する。
「お~、久しぶりの戦艦の艦橋だ~。やっぱりユークレアスより一回り大きいな」
「コンソールも少し広いのね」
「これが戦艦の艦橋……」
ミルアさんはいつものように、恐る恐る周りを見回している。
みんなの感想の通り、戦艦の艦橋は高速巡洋艦より少し広いくらいで、すごく大きいわけではない。12席くらいかな? それでも空間は大きく取ってあるし、全体的にゆとりのある配置になっていて、窮屈感は完全になくなっている
「行政的なミッションは含まれませんから、運航メンバーと戦術メンバーの席数はこのくらいです 」
エンジュから、いいタイミングで補足説明が入る。
ッピ 『 ようこそ艦長。 ユークレアスからの引き継ぎは完了しております。 何なりとご命令を 』
先ほど、ユークレアスとの会話があったからかもしれないが、先に挨拶をしてくれるようだ。
「よろしくお願いすわね。あなたの名前はフォージニアスよ」
ッピ 『 良い名前をありがとうございます 』
「それじゃあ、シンリー達も呼び出そうかしら。通信開いて」
エンジュが頷いたのを確認して、シンリー達に呼びかける。
「シンリー戻ってきなさい~」
『了解ですわ~』
あら、以外に素直。かと思ったら、続いたボルグの言葉で察する。
『さすがにちょっと疲れました……』
いくら長距離の移動ができる彩海豚族といえども、次元迷路をノンストップは辛かったみたいだ。
二人に転送する旨を伝えて、返事を待って、転送実行。
目の前に大きめの白い球が2個現れ、直後に水球に浮かぶ2人の姿が見えるようになる。
「二人ともお疲れ様でした。食事と休養は必要?」
『えぇ、両方お願いしますわ。さすがに少しはしゃぎすぎましたわ』
『病み上がりとは言いませんが、運動不足による体力の衰えを感じました。食事も十分に頂いているのでトレーニングしないといけませんね』
「ものすごく助かったわ。ありがとう! この後はドルファ星まで戻るだけだから、ゆっくり休養を取って頂戴」
二人が自室に帰るのを見送り、みんなの方を向く。
「さ、私たちもお風呂に入って寝るわよ。その前にドルファ星まで移動を開始しましょうか」
「アイマム! 目的地ドルファ星セット完了しています」
「艦隊編成完了しています」
「よし。それじゃフォージニアス艦隊発進! 私たちはお風呂に発進!」
「えっ! 発進します。ワープ開始」
「あわわ…… 艦隊大丈夫でしゅ」
ラングとタマミちゃんは、いつもと違う指示で、大混乱になってしまった。
「ユメ艦長、そこはちゃんと〆ましょう……」
ミルアさんには呆れ顔をされてしまった。
「ゴメンゴメン。でも作業はここまで、エンジュ後はお願いね」
「はい、畏まりました。 どうぞ、ごゆっくり 」
翌日の朝、モーニングルーティーンをこなし、朝会に突入だ。
シンリー達もしっかり復活してきた。なかなかのタフさだ。
「では、本日の朝会を始めさせていただきます。 まずは我々の艦隊の確認からです。 フォージニアス艦隊は現在、ドルファ星に向かって移動中です。 ドルファーズアークも昨日合流し、同行しています。 到着予定は、本日18時となります 」
「現地での作業は、明日の朝からかしらね」
「それがいいかと思います。 続きまして、アルクタクトの状況です。 現在位置はVoid時空断裂領域にあることは変わっておりませんが、安全な移動回廊および、通信回線の確保が完了しました。 我々の移動には少し時間が掛かりますが、実質的にVoid時空断裂領域は無効化した、と言ってよいと思います 」
「アルクタクトは、このままVoid時空断裂領域の中に置いておいた方が、いいのかしら?」
「いえ、それはお勧めできません。 敵対勢力にアルクタクトの位置が補足された場合、さらに広い範囲で、時空攻撃を仕掛けられる可能性があります。 今回は比較的小さい範囲だったので無効化ができましたが、今後も可能とは言い切れません。 やはりワープが可能になり次第、旧首都星からは離れたほうがいいかと思います 」
「なるほどね。アルクタクトの位置と状態は、今後とも極秘ってコトね」
「はい 」
周りで聞いているみんなも、頷いて確認している。
「あとは現在遂行中のミッションに関してです。 グルンフィルステーションへのエネルギー供給は順調です。 作業中に懸念された妨害もありませんでした。 ドルファ星の惑星手術も順調です 」
「いいわね。それじゃ今日は、一日自由行動にしましょうか。最近忙しかったしね」
「私はドルファ星の確認をしてもいいですか?」 とタマミちゃん。
『私たちも、ちょっとさぼってしまったので、協力させてくださまし』
シンリーとボルグも、ドルファ星の問題解決に、手を付けたい様だ。
「まぁ、止めるのも変な話よね。根を詰めすぎないようにね!」
「はーい」『分かりましたわ』
「俺は、しばらく開いちゃったけど、格闘コースの続きをしようかなぁ」 とラング。
「それなら私も一緒にやりたいな。午後に一緒にやりましょう」 とタマミちゃん。
「私もご一緒していいですか?」 とミルアさん。
「艦長も新任艦長講習会のカリキュラムで、格闘コースがありますが、ご一緒にどうですか? 」
エンジュからも誘われては逃げられない……楽しそうだからいいんだけどね!
「おっけー、やるわよ! 午後ね!」
『その後は、テレパス訓練の続きをしましょうか』 とボルグ。
「お、おっけー、やるわよ! その後ね!」
自由行動ってなんだっけ……
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