070 - 不安な帰還 その1
「艦長! 緊急事態です! 旧首都星の第4惑星軌道で爆発が起こりました! 」
「被害は!?」
「損害不明です。 爆発したのはVoid時空断裂爆弾のようです。 爆発の規模は5光年級。 旧首都星系を中心に5光年がVoid時空断裂状態になりました 」
「それって……」
「はい、Void時空通信が不可能になりました。 現在、アルクタクトとは音信不通です。 またワープでの接近が事実上不可能になりました。 」
ガーン。
本当にショックな事が起きると、本当に頭の中で音が鳴るらしい。
足元が崩れるような衝撃と、めまいがする。
「どんな被害が考えられる?」
「おそらくですが、アルクタクトに被害はないと推定されます。 旧首都星に関しては、使われた爆弾の種類によります。 Void時空だけを破壊する爆弾であれば、旧首都星にも被害は無いでしょう。 一方で物理的な破壊力を持つ爆弾だった場合は、惑星そのものが消滅している可能性もあります 」
「そ、そんな……」 とタマミちゃん。
「マジかよ……」 とラング。
二人とも口に手を当てて、呆然としている。
「やったのは連邦? タンガ・ミロイ少佐? だっけ?」
直前に、この宙域を離れた者が最も怪しい。
ついでに言うと、その能力もありそうだ。
「ほぼ間違いなく 」
「なぜそんなことを?」
「分かりません。 ただ、Void時空断裂爆弾という特殊な手段を使ったことにより、相手の狙いはワープまたは通信を妨害するのが目的と推測されます。 最も可能性が高いのは、我々の情報の隠蔽だと考えられます 」
「どういうこと?」
「今後5年の間は近づくこともできませんし、星系内部を調査することもできません。 我々が警告された連邦船とミロイ少佐以外に、我々の情報または旧首都星で起きた事象情報を渡したくないということかもしれません 」
「そこまでするかしら?」
「情報の価値は重いですよ。 時と場合によっては星の全住民よりも、です 」
まさかそこまで……という思いと、軍隊の冷酷さはそういうことをするかもしれない……という考えが交錯する。
『ユメさん、確認しに行きたいのではなくて?』
「え、えぇ。でも……」
『困ったときはお互い様と言って下さったではないですか。私達がいれば次元迷路も突破可能ですわ!』
「そうね。……でもちょっと考えさせてね」
今回の件は、結構大事な分岐点になる気がする。
ちゃんと考えてみよう。
まず、アルクタクトの安全確認は最優先事項だ。
音信不通を放っておいていいことは何もない。
旧首都星も状態不明のままではラング達がかわいそうだ。手を出せるかどうかは分からないが。
一方ドルファ星は、今のところ急ぎで対応する項目は無い。
今はドルファーズアークを戻す為に行動しているが、それも急ぎではない……はずだ。
ただ、事態の急変に備えて監視と調整は必要だろう。
アルクタクトの方に行ってしまうと、しばらく通信できない可能性もあるか……
よし、ひとつずつ確認しよう。
「エンジュ、ドルファーズアークはこのまま宇宙にいた場合、問題はある?」
「一か月以内であれば手当の必要はありません。 一か月を超えると大きくなった魚によって育成スペースを拡張する必要が出てきます 」
ならドルファーズアークの件は大丈夫。でも、作戦行動時間は一か月という制限付きね。
「じゃ次に、アルクタクトに戻るとして、しばらくはドルファ星と通信できないのよね?」
「そうですね。 中継点を作ることも可能ですが常時オンラインにはならないと思います 」
中継点か! その発想はなかったわ。
「中継点はどうするの?」
「工作艦で通信中継ブイを作成し航路上にばら撒きます。 中継地点の間にVoid時空断層がなければ、その中継地点間は超光速通信が可能です。 確率的にすべての中継地点がつながることは無いと思いますが、長時間の通信途絶にはならないかと思います 」
あぁ、インターネットと同じ感じで通信できるってことかな? 技術的に細かいことは分からないけど行けそうだわ!
「シンリー、もう一度確認するけど、ドルファ星を後回しにしてもいいのね?」
『えぇ、構わないですわ。私たちは散々お世話になっているんですから気にしないでくださいまし』
念のためボルグの方に視線を送ると、こちらも頷きで返答が来る。
「よし! 確認しに行きましょう。アルクタクトとラング達の故郷! シンリーありがとうね!」
「シンリーさんありがとうございます」
「ありがとうございます!」
タマミちゃんとラングも頭を下げている
『わ、私たちは仲間……なんでしょ!』
こ、これは、逆ツンデレ!?
旧首都星に向かうことを決めた後、すぐに艦隊進路を反転してアルクタクトを目指す。
同時に通信中継ブイの作成を開始してもらった。ただ現在の艦隊が、戦艦1、高速巡洋艦4、工作艦4と少ないため十分な数が用意できないのが悔やまれる。
ケチらずに気前よく連れてくればよかったな。次に出るときは "収納" も使って一杯連れまわそう。
「ラング、艦隊予定を教えて頂戴」
「りょーかい、艦長。ユークレアス艦隊、目標アルクタクト手前5光年のポイントを目指して進行中です。目標までの距離80.2光年 到着予定は10時間後でス」
「到着は明日の早朝ね。今日は今日でみんな疲れたと思うから、ゆっくり休んで頂戴」
【アイアイマム!】
朝起きるとベッドにだれもいない。
エンジュに聞くと、みんな目が覚めてしまったと言って艦橋で準備中だとか……
私も急いで艦橋に向かおう。
「みんなおはよう。大丈夫? 疲れ取れてる?」
「あ、艦長。おはようございます。目が覚めてしまったので先に準備始めちゃいました」
「目が冴えてあんまり寝れなかったんだけど、とりあえず眠くないから大丈夫でス」
タマミちゃんとラングは故郷の事もあるから、気になるのはよくわかる。
「ユメ艦長、おはようございます。ミロイ少佐の痕跡を調査してみましたが足取り以上の情報は得られませんでした」
ミルアさんは、連邦がやったこととして引け目を感じているのかな……
『ユメさん、おはようございます。Void時空断裂領域への侵入ルートは捜索済みですわ。いつでも行けますわよ。大船に乗ったつもりで任せてくださいまし』
こっちは楽しいことを目の前にした子供か。
まぁシンリーの協力と能力で成り立っている話でもあるので、やる気があるのはとても助かる。
「みんな、ありがとうね。じゃあ、さっそくだけど作戦会議と行きましょうか。ラング、艦隊の状態は?」
「はい、艦長。ユークレアス艦隊はVoid時空断裂領域の手前に到達しました。ここから先はシンリーさん達に先導してもらう必要があります。艦隊編成はミルアさんが考えてくれています」
「ミルアさんの案は?」
「現有艦隊の艦数が少ないですが、通信中継ブイを最適にばら撒く艦隊行動案を作成しました。途中で戦艦と高速巡洋艦を止めることで、通信中継ブイのばら撒き範囲を最大に出来ます。乗艦する船に関してはエンジュさんと相談した結果、工作艦の方が安全だと考えています」
「シンリー達と同じ船に乗る感じ?」
「いいえ、シンリーさんが失敗したときに転送で呼び戻すために、シンリー艦のすぐ後ろを工作艦で進みます。ちなみに何かあった場合は、さらに後ろのユークレアスに転送移動する予定です」
「なるほど。ユークレアスに乗らない理由は?」
「高速巡洋艦は少し後ろを付いていきますが、非常に狭い部分があった場合は大破する可能性があります。予定通り進めば、アルクタクト到達時の艦隊は工作艦2隻とユークレアス1隻の編成になります」
「OK。いいんじゃないかしら。ちなみにシンリーはどれくらい先まで見えるの?」
『距離というよりも壁の枚数ですわね。3枚目を超えるとだいぶ不明瞭になる感じですわ。壁を隔てた隣の通路は見えますが、そのさらに隣の道はぼんやりと……といった感じです。ちなみにこれから向かう先の次元迷路はだいぶ活発に "動いて" おりますから、しっかり付いてきてくださいまし』
出来立てのVoid時空断裂領域は安定するまでの間かなり形を変えるらしい。特に今回のは出来立てホヤホヤだ。突然道が狭くなることもあるという。
「ボルグもOK?」
『はい。私はお嬢様についていくだけです。問題ありません』
ボルグは肝が据わってるな……
「ほかに相談しておくことはあるかしら?」
「はいはーい。ドルファ星の問題はエンジュさんと相談済みです。後は艦長の決定が必要とのことです」
タマミちゃんが元気よく報告してくれる。
「どんな感じになったの?」
「はい。Void時空断裂に入ると連絡が断続的になることから、こちらから連絡ができない期間はドルファ星の周囲に展開している第2艦隊にお任せしました。連絡が付くときは情報をもらって、こちらからお願いすることもできるそうです」
「いいわね。エンジュそれでよろしく。他に懸念事項はある?」
「一応、グルンフィルステーションに係留・接続している工作艦は何事もなければ問題ありません。しかし、有事の際はこちらで判断する必要が出てきます。 基本方針はどうしましょうか? 」
「……そうね。有事の場合はエネルギーラインを切断して、隠蔽かしらね。少し距離を取るのもいいわ。反撃は不可。やむを得ない状況になったら自沈かしらね……出来るだけステーションには被害を出さないようにしてね」
「かしこまりました 」
「他に心配事項がある人はいないかしら?」
みんなの顔を一人ずつ確認し、全員が頷くのを確認する。
「じゃあ、行きましょう。途中で疲れたり、厳しい状況になったらすぐに言うのよ。じゃ出発!」
【アイアイマム!】
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