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069 - テレパス訓練 その2

「さぁ、アークをドルファ星に戻すわよ! みんな、配置について!」


【アイアイマム!】


「予備加速は完了しています。艦隊速度は光速の10 %、目的地ドルファ星、セット完了していまス」

「艦隊編成にアークを追加して随伴行動中です。ワープフィールドの共有も完了です」


「アーク内、生命維持装置問題なし。リアクター正常機能中。ワープフィールド発生装置も問題ありません」

 お昼御飯中にエンジュが修理したため、アークの移動に必要な機能は正常になっている。

 まだ残っている細々とした機能の調整は、ミルアさんが買って出てくれた。


「それではドルファ星に向けてワープ開始!」


「ワープ開始。 ……ワープフィールド正常。ワープ加速度正常。艦隊行動に問題なし。目標までの距離219光年 到着予定は22時間後でス」

「航路内に危険物ありません。本艦隊に反応する物体及びシグナルもありません」


「到着は明日のお昼前か……エンジュ、色々一段落したし、最近やってなかったミーティングでもしますか!」


「そうですね。 まずは本艦隊の状況です、と言いたいところですが、先ほどラングが報告した通りですので次の話題に行きましょう。 ドルファ星に残してきた分艦隊、ステーションにエネルギーを供給している工作艦に関しては順調です。 特筆すべき内容はありません 」


「ステーションへのエネルギー供給はどんな感じ?」


「現時点で487パック相当のエネルギーを供給し、残り1697パック相当となります。 今のペースですと、完了までの時間は、18日程度となります。 ただし、ステーション側の吸い込み変動が大きいので目安程度に考えてください 」

 あ~、商業IDの分で追加があったんだっけか。でも日数的にはあまり増えていないのは、ステーション側のキャンペーンの効果かしらね。

 ジョージさんに感謝だ。


「なるほどね。他は?」


「アルクタクトの修理に関しては粛々と進めております。 各リアクターのアップグレードの準備をしたいのですが、よろしいでしょうか? 」


「あぁ、それはぜひ進めちゃって……あ、ちょっと待ってね。シンリー、報酬に当たる図面なんだけど、先に利用させてもらってもいいかしら?」


『えぇ、構いませんわよ』

 即答だ……シンリーからの信頼が篤い。


「ということで、エンジュ、アップグレードの準備もお願いね」


「了解しました。 あと、中性子星のエネルギー回収ミッション用の船の準備は本日の午後に完了します。 最後に、アリスから伝言です。 「たまには帰ってきてください 」とのことです 」

 そういえば、確かグルンフィルステーションを下見に行くだけのつもりで出発したんだった。

 ずいぶん長いこと要塞を離れてしまったな……


「アリスさんって、どなたですか?」

 ミルアさんが首を傾げている。


「あぁ、アルクタクトのAIよ。色々やっているうちに留守の時間が長くなっちゃったから、寂しがってるみたいね」


「そーですか……」


「アリスさんって拗ねてるって言ってませんでしたっけ?」 とタマミちゃん。

「怒らせたら怖そうだよな……」 とラング。

 たらり……二人のつぶやきで冷汗が出る。

 一回、帰った方がいいかな……

 とは言え、ドルファ星も放置できないしな……


「とりあえず、アークが一段落したら帰りましょう! ドルファ星の方はどう?」


「はーい。まずは私から説明しまーす」

 タマミちゃんがトップバッターで名乗り出る。


「栄養不足問題ですが、ドルファーズアークの記録の通りに栄養不足の個体にあげてみた所、元気に泳ぎ始めることができるようになりました! 全個体への栄養の配給はこの後エンジュさんと協力して進めるつもりです。その他の弱っている個体やケガをしている個体に関してはシンリーさん達と協力して進めます」

 サムズアップをしているタマミちゃんがカワイイ。


 次はラングの番のようだ。

「海の加熱は予定通りできています。赤道付近の海水面温度は4℃上昇しました。氷の大陸の切り離しと移動も順調です。両極に向けて80km移動しました。これにより赤道付近の海面の面積も広くなっています。今のところ嵐は最小限に抑え込めており、生物コロニーには被害は出ていません。また、海洋循環の方は湧昇流を作り出すことに成功しました。今はまだ循環の環が小さいですが、順調に規模が大きくなっています」

 きらりと光る歯を見せてアピールするラングもかわいい。いや、カッコいいと言ってもいい!


 次はミルアさんかな。

「ドルファ星の人工太陽に関する報告になります。現在の太陽光度は予定通り定格の40%で、システムはすべて正常です。また、後2時間弱で50%になります。しかし、ボルグさんからの報告で、皮膚や目に炎症を患っている個体が増加しているとのことです。太陽光度の向上を一時中断するか、上昇ペースを落とした方がいいかもしれません」

 物憂げなミルアさんもいいわね。


「そうね、いきなり上げすぎたかもしれないわね。ちょっと様子見しましょう」


「分かりました。2時間後の太陽光度の上昇はキャンセルしておきます」


『次はわたくしの番ですわね。彩海豚族の大部分は自力移動ができるまでに回復しました。食事の提供とその手段に関しては、殊の外(ことのほか)感謝されています。少数の個体はまだ医療ベッドの中ですが、周囲の者も協力して看護が行われております。総じて各部族は、良好な身体および精神状態に向かいつつあると言えるでしょう』


「それは何よりね。他にも不満や希望があれば聞いておいてね」


『了解ですわ。ユメさん』


 最後はボルグだ。

『では最後に私から。ドルファ星の生物種に全般に関する報告です。大型種はタマミさんの差配で順調に活動量レベルが上がっています。餌に関しては必要十分な量を供給しているため、過剰な捕食活動は行われておりません。中型種・小型種に関してはある程度捕食されているものもありますが、今後の繁殖行動で数を回復できる範囲と推定されます。最後に、プランクトン等の微生物はすでに分裂活動を開始しており順調に数を増やしています』


「後は、生態系に足りない生物種が戻れば、順調に回復しそうね!」


『はい。ユメ様には感謝してもしたりません』


「やめてよね。困ったときはお互い様でしょ」

 シンリーとボルグが頭を下げてステーションに戻る。


 それにしても一つの星の問題を解決するって、これだけの科学力があっても簡単じゃないのね……

 同時に、エンジュのサポート力の高さにも驚く。


「エンジュもありがとうね」


「いえ。 それが私の役割ですので 」


「それでも、よ。それはそれとして、他はこんなところかしら?」


「後は、タンガ・ミロイ少佐が乗船していると思われる船が、旧首都星の衛星から出航した模様です。 初期の移動方向はエネルギー回収を行った恒星系の方向です。 ワープに入った後の行動は補足できておりません 」


「私たちの痕跡を探っているのかしらね? そっちも引き続き注視で」


「かしこまりました 」


「それでは、ドルファ星のミッションの続きをしましょうか!」


【はーい】


『ユメ様にはテレパス訓練があることもお忘れなく。シンリーもね』

「『う“』」


『いきますよ!』

「『はーぃ』」




 さぁ、今日も多目的ホールでテレパス訓練だ。エンジュも含めて4人で移動する。


『それでは、テレパスの訓練の続きを開始します。よろしいですね?』 とボルグさん。


「OKよ」

『はぁぃ』


『まずは昨日のおさらいから始めましょう。自分の心に通さないように心にガードを作る訓練ですよ。まずは心を落ち着けて集中しましょう』


「OK~」 

 昨日の、心にプレッシャーを感じる感覚を思い出しながら、精神を集中する。昔、お寺の体験修行で瞑想した時よりも本気だ。何せ、この瞑想の後は色々な方向から攻められるわけで、手を抜くわけにはいかない。


 5分ほども静かに呼吸を整えたあたりで、ボルグさんが動き出す。

 

『それでは昨日の復習です。私が感情を送り出しますので、昨日と同じように押し返す感じを、思い出してくださいね』

 私の正面に来て “哀” の感情を押し出してくる。その感情に力と方向を合わせて押し返す。


『昨日よりスムーズに出来てますね。それでは今日のメニューに入りましょう。最初は感情の種類を増やしますよ』

 そう言ってボルグさんが送ってきた感情は、


 嫉妬 悲しさ 怒り 喜び 恐れ 不安 安心 驚き 羨望 疑惑 嫌悪


 と、いろいろな「方向」が次々に代わる。


『強さは上げないので、方向を合わせることに集中して下さい』

 これは難しい……

 一つの感情を押し返すと、次の感情に対応するときに方向を合わせることができない。

 特に逆の感情に対応するときに、“心が追い付かない感” がすごい。

 スポーツで、早い動きに足がバタバタしてしまう感覚と同じかもしれない。もしくは一歩が出ない感覚か?


「ぷふぁ……ちょっと、タイム……」

 しばらく続けると、集中が続かなくなる。


『センスはいいですよ。少し休んだら、今日は別のメニューに行きましょう。それまで、シンリーを指導していますね』


「はい」

『私の番ね』


 ボルグとシンリーが向き合い、目を閉じる。

 私は自分の呼吸を整えつつ二人の様子を見るが、傍目には何もしていないように見える。

 ずっとこの状態が続くかと思われたころ、何かが近くを通り過ぎる。

 いや、通り過ぎたのは物体じゃない。

 その証拠に、その後もいくつもの「何か」が通りすぎるが目には映らない。


 私を通り過ぎる精神の流れ。

 そしてその「何か」が持つ感情が私の感情を波立たせる。

 流れの圧のようなものに囲まれ、身動きができなくなる。


 何か、きっと高度なことが行われている予感を残し、時間が過ぎる。

 次第にシンリーの様子が苦しそうになっていく。

 目の周りの筋肉がぴくぴくと痙攣し、尾びれが引きつる。


『し、仕舞いに願います』


『正しき精神が導く心理を真理へ』


『ありがとうございました』

 シンリーがギブアップの様だ。

 時間の感覚が分からないが、結構長い時間やっていたんじゃないだろうか。


『さぁ、次はユメ様の続きですね』


「よろしくお願いします」

 何か茶道や華道のような、「道」の世界に足を踏み込んだ気持ちになる。軽い気持ちで扱うものではない、と自然と思える。


『次は2方向からの感情に対応してください。初めは、全方位のガードで感覚を掴んでみてくださいね』


「はい」

 とりあえず全方位のガードを意識して、ボルグが送ってくる感情に備える。

 

 喜び 恐れ


 なるほど、来ている方向は分かる。


 驚き 羨望


 方向が変わるのも分かる。分かるが……

 それぞれに対応って、どうやるんだ?


『いいですね。個別に対応するためには、両手に、それぞれの感情を対応させるイメージを作るといいですよ』

 なるほど。手でガードするイメージか……


 って、無理無理。


『まぁ、いきなりこれは無理でしたかね。毎日の練習の中で、身に着けていきましょう』


「ありがとうございました」


『正しき精神が導く心理を真理へ』

 終わりの合図のようなものらしい。

 頭を下げて、もう一度感謝を伝える。


「ところで、さっきシンリーさんがやっていたのも、複数の感情への対応?」


『そうですね。同時に6個の感情への対応訓練です』


「そ、そんなに……」

 とても複数の感情を同時に持てる気がしない……


『どう、すごいでしょ。尊敬する気になった?』

 シンリーがちょっとおちゃらける感じを出してくるが、普通に尊敬できる。


「えぇ、凄いわね! シンリー!」


『そ、そぉでもないわよ!(愉悦、自慢、幸福感)

 シンリー、漏れてる、漏れてる。




 もう少しで夕食という頃に、シンリーがリズミカルな様子で近づいてくる。

 人で言えばウキウキとした様子、と言いたいところだが……


『ユメさん、わたくし、また工作艦の操縦を練習したいですわ』

 あぁ、楽しかったのね……


「ドルファ星に戻って、復旧がひと段落してからね」


『え~、そんなに動かさなかったら、忘れてしまいますわ! ちょっとでいいですから、お願いしますわ!』

 と言って、目の前でクルクルとターンする。

 彩海豚族の "カワイイ" アピールなのかもしれない。

 もしくは単純に、体力が有り余っているのかしらね……


「そんなに体力が余っているなら、ボルグと追いかけっこしてきなさいな。シミュレーターでドルファ星を再現してあげるから」


『ただの3次元の動きなんて、つまらないですわ。あの超空間を飛びたいんですのよ!』


「そうは言っても、この辺にVoid時空が乱れている場所は無いはずよ。それよりも、そろそろ夕食よ。この話はまた後でね!」


『ぶぅ~ですわ~』




『ユメさん、ちょっと相談があるのですが、よろしいでしょうか?』

 いただきます、をする前にシンリーがこっそりと近寄ってくる。


「なに? どうしたの?」


『魚の動きなんですが、もう少し早くしたり、機敏に出来ますか?』

 お昼には、アークからの知識で本物の動きに近くなったのを喜んでいたのに、もうお代わりか。


「あんまり特殊なことは、しない方がいいんじゃないの?」


『楽をする方じゃないんですから、問題は無いですわ』

 そーゆー問題じゃない気もするが……ボルグにも聞いてみるかと、視線を向ける。


『何とも言えませんね。訓練の一種と考えれば、興味はありますが……』

 

「なーなー、その逃げる魚の役を俺がコントールしちゃダメか?」

 ラングも彼らの動きに興味があるようだ。航宙士として、彩海豚族の動きには刺激されるものがあったのかもしれない。


『そうですわね。でも今のままではたぶんダメですわ。少なくともあの魚にタッチできる位、動けるようになってもらわなくては』

 シンリーの視線の先には、今日の夕飯のタイが泳いでいる。


「ぉっし、わかったゾ。練習しとくな!」


 話を戻すか。


「エンジュ、コントロールの方は大丈夫よね?」との問い合わせには「はい 」とのこと、危険の無い範囲なら問題は無いか……


「じゃ、少しずつあげてね。無理して怪我とか、骨折とかはなしよ!」


『分かっておりますわ。じゃ、エンジュさん、最初はちょっと上げてみてくださいな』


「かしこまりました。 とりあえず10%上げて見ますので、その後また微調整しましょう 」


『ありがとう存じますわ!』


 その後の食事はいつもよりも迫力が増して、見ごたえ十分な夕飯になった。

 いつもよりも彩海豚族の二人が大きく振り回され、たまに私たちの方にまで水球が近づいてくる。


 そうは言っても、さすがは海の民。徐々に追い詰め最後は丸呑みにしていた。 

 十分に堪能した感もあり、満足のオーラを出していたので、やってよかったのだろう。


 そうして、食後のまったりした時間を過ごしていると……

 エンジュの顔が、ピリッと仕事モードに変わる。


「艦長! 緊急事態です! 旧首都星の第4惑星軌道で爆発が起こりました! 」


 な、なんですって!

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