061 - 彩海豚族
『どうしてあなた達は、“そう” 突然なのよ! もう少し説明をするとか、ゆっくりできない訳!?』
『シンリー落ち着いて……彼らにも理由があるんだよ。たぶん』
スイマセン。私がせっかちなだけです……
艦橋の中央部分に水球と共に現れた彼らは、いきなり凄い剣幕で話し始めた。もしかすると向こうでは、ずっと文句を言っていたのかもしれない。同じ環境に来たので、テレパシー無しでも会話が可能になった。が、しかし、言語も違えば、向こうは水中だ。聞こえる音は変換後の機械音声となっている。
「あらためまして、こんにちは。私が “カンナヅキ ユメ” です」
一歩前に出つつ名乗りをあげる。
目の前の空間には直径5mくらいの水球があり、その中に2頭のイルカが浮いている。
話している内容からすると、ピンク色のイルカがドゥーシンリーで、水色のイルカがボルグだろう。
少しの沈黙の後、ピンクのイルカの方が少し頷き、水色のイルカの方が気持ち前に出てくる。
『私はボルグ・フィンター。彼女はドゥーシンリー・ドルファ、この星の管理者の娘です』
「ようこそ、ユークレアス艦隊旗艦、ユークレアスへ」
『お招きありがとうございます。キャプテン ユメ。本来であれば、ドゥーシンリーが対応すべきところですが、まだ気分が優れない為、私の方で対応させていただきたいと思います。構いませんか?』
「構いません。それでは早速メンバーの紹介と、現在の計画に関して説明してまいりましょう」
『その前に、この環境は呼吸とか大丈夫でしょうか? あと、動けないので少し寒いのですが……』
見た目はカプセル状なので、不安に感じるのも分かる。
エンジュに視線を送り、説明をお願いする。
「呼吸が必要な場合は、天井付近まで上昇してください。 海面が現れます。 また移動した場合に現れる海水や大気は新鮮なものです。 ご安心ください。 後は温度ですね、如何様にも変更できますが、どうなさいますか? 」
『そうですね……体温との差分の5分の1ほど上げてもらえますか?』
「かしこまりました。 必要があればお気軽に声を掛けてください。 あと、水球の中では速く動いてもらっても大丈夫です。 飛び出すことはありませんので 」
彼らが水球の中でヒレを使って横に移動すると、水球ごと空間を移動する。さらに移動して、二人の距離が離れると水球が二つに割れた。壁や天井には、触れる前に水球は止まるようなので安心だ。
『だいぶ楽になりました。移動も可能なのですね』
彼らの水球は、暗闇の中のスポットライトのようなものになっているようだ。
彼らが居る場所の水だけが見えているが、実際は水で満たされているようなイメージを持つといいのかもしれない。
そこからは全員が輪のように並び、紹介を進めていく。
「次は、現在の計画ね。まずは現在の計画を理解して貰えるかしら。エンジュ説明をお願い」
「かしこまりました。 こちらの映像をご覧ください 」
ドルファ星を中心に映したシミュレーションで、オペレーションを説明していく。
と、ラングがそろそろ限界の様だ……
時計を見れば、いつもなら、もうお風呂に入って寝る準備をする時間だ。
「申し訳ないけど、私たちはそろそろ休息が必要な時間です。あなた方はどうかしら?」
『私たちは大丈夫です。ですが、一度星に戻りましょうか?』
「いいえ。あなた方が問題なければ、エンジュと検討を進めてもらっても大丈夫です。エンジュは休息が必要ないから、サポートに付けますわ」
『感謝します。エンジュさんよろしくお願いします』
「じゃあ、エンジュ後はよろしくね」
エンジュを艦橋に残して、4人で艦長室に移動する。
タマミちゃんが少し残念そうに振り返ったが、本人も疲れているのだろう。素直に艦長室に移動する。
後は就寝前のルーティーンなので、エンジュを呼ぶほどでもない。
限界が近いラングとタマミちゃんをお風呂に送り込んで、自分とミルアさんもそれぞれお風呂に入りパジャマに着替える。
そしてまた来たベッドの並び順問題……
結局ラングをミルアさんとタマミちゃんから離そうとしたら自分が入るしかない……
「今日は、ラング、私、ミルアさん、タマミちゃんね」
ミルアさんが何か言いかけたが、とありあえず納得したらしい。
そうして、みんなで布団に倒れこむ。最初はみんなお行儀よく、隣と接触しない感じで川の字に並ぶ。
「じゃあ、みんなお休みなさい」
【おやすみなさい】
今日も疲れた……
目が覚めると左手が暖かいナニかに包まれている……
あぁ、ミルアさんが腕を抱え込んでいるのか…… フニフニ…… この感触…… 至福。
そして左足にモフモフした重さが…… これはラングか…… まぁいいか…… 肌触りが凄くいいのよね……
と、起き上がる時にラングの頭を締めることになってしまった。
「う“ぇ」
「おはよう~」
まだ寝ぼけているみんなに、声を掛ける。
「おはようございます 」
エンジュはいつもの格好で、ベッドサイドに控えている。
「おはよ~ございます」 とタマミちゃん。
「んぁ、おはよぅございまス」 とラング。
ポワポワした二人もカワイイ。
「もちょっとぉ……もう少しぃ…… あ、おはようございます!」
フニャフニャのミルアさんが、突然シャキッとするのも面白い。
「エンジュ、彼らは?」
昨日、船に呼び寄せたイルカは大丈夫かな?
「はい。艦橋で検討中です 」
聞けば少しの休息は取っているが、ずっと検討を続けているらしい。
食事も取っていないということで、一緒に取ってみることにする。並んで座るわけにもいかないので、同じ空間でというだけになるが……
身だしなみを整えて、艦橋に向かう。
「おはよう。調子はいかがかしら?」
『おはようございます。ユメさん』 とボルグさん。
『おはよう……ございます』 とドゥシンリーさん。
ピンクのイルカの方、ドゥーシンリーさんも控えめながら挨拶をしてくれた。最初にぶつかってしまった以上、関係が少しギクシャクするのは仕方がないだろう。
話はボルグさんが進める感じの様だ。
『エンジュさんの助けをいただきまして、ありがとうございます。彼女はとても優秀なクルーですね』
「役に立ったようでよかったわ。それで、検討の方はどう? 順調?」
『いくつかの方向性を検討しました。よければこの後ユメさんに相談があるのですが……』
「その前に、食事にしましょう! あなた達も昨日から何も食べていないのでしょう?」
『お言葉はありがたいのですが、私たちの食べる量やタイミングは部族で決められています。勝手に食べるわけにはいきません』
二人とも首を振っている。
理由は何だろうか。
「それは、資源的な制約のせい? それとも体調や宗教的なもののせいなの?」
『資源的な制約ですね。これを破ることは部族からの追放を意味します』
「資源的な意味でなら、あなた方の星の資源に影響することなく、食事を提供できますよ」
『それは今後、星の仲間にも提供されるのかしら?』
ドゥーシンリーさんが、ボルグさんの後ろから控えめに聞いてくる。
「もともとの予定ではそのつもりです。現在の星の供給可能な有機栄養量では、現在の生存個体数を維持できないのはわかっています」
『……ありがとう…… ……ございます。それから昨日はすまなかったわ……』
そういうとドゥーシンリーさんはボルグさんの後ろに下がってしまった。
まだ気恥ずかしさもあるのだろう。
「私こそごめんなさいね。テレパシーも初めてだったものだから。今後は仲良くしてもらえると助かるわ」
ドゥーシンリーさんが少しうなずいたように動いた気がする。まぁ徐々に仲良くなっていこう。
『それでユメさん、一緒に食事とおっしゃいますが、どのようにしますか? 我々は水中で小型の魚を食べる種族ですが、あなた方は空気中ですよね?』
「そうね。でも、細かいことはいいのよ、今も同じ空間にいるのだから、お互いに見えるところで食べれば一緒に食べたようなものよ!」
「絶対、何も考えてなかったよな……」 とラング。
「わざわざ言わなくていいのよ。またぐりぐりされるわよ」 とタマミちゃん。
二人が手の届かないところで、また内緒話を……
「とりあえず、多目的ホールに移動しましょう。さぁ行くわよ。ラング!」
ラングの近くに寄りつつ、首を後ろから掴んで引っ張る。
「フォァ、アイマム!」
いい返事だ。
多目的ホールに付くと、4人分のテーブルとイスと食事が用意されており、その前には大きめの水球が準備されている。2匹はエンジュと軽くアイコンタクトすると、水球の中にすっと入っていった。
二匹が軽く泳げるサイズなので直径15mくらいだろうか。2匹もサイズを確認するかのように中を一周してこちらに向き直る。
「あなたたちの食べたい魚は何かしら?」
『イワシとアジをおなか一杯食べてみたいですわ。塊で泳いでいる所を見てみたいの。できるかしら?』
ぉ、ドゥシンリーさんが少し前に出てきた。
食べ物の話題に、はずれ無しね。
「エンジュどう? ……っていうか地球の魚?」
「魚の名前は、近い形の魚を翻訳に充てた結果です。 泳いでいるのは…… 生きていないので難しいですが、それっぽく動かせばよいでしょうか? 」
エンジュが水球に目を向けると、数百匹はいるであろう小魚の群れが現れる。水族館で見たような群れで動き、時折反射する光がキラキラとしてとても綺麗だ。
『これを食べてもいいの……? こんなにたくさんの魚を……? 怒られないのよね……?』
『あぁ、大丈夫…… のはずだ……』
2匹の目が魚の群れに釘付けになっている。今までずっと我慢してきたのだろうから、無理もないだろう。
「じゃあ私たちもいただきましょう。みんな席に座って……いただきます!」
「「「いただきます」」」
『……いただきます?』
「食事の前のお祈りみたいなものよ。気にしないでどうぞ」
私とミルアさんはサラダの盛り合わせ、ラングとタマミちゃんは薄肉のドレッシング和えを食べながら彩海豚族の2匹(人?)が食事をするのを眺める。
小魚の煌めきや、逃げるための動き。
それを追う2匹の伸びやかな姿態と、バネの効いたターン、そして時折見せる獰猛な一面。
今までに見た、どの水族館のシーンよりも迫力のあるショーを見せてもらった。
途中から、空気中組の食事の手が止まっていたのも無理もない。
「ごちそうさまでした」
「「「ごちそうさまでした」」」
『……ごちそうさまでした?』
「これも食後のお祈りみたいなものよ。どうだった? おなか一杯のお食事は?」
『少しだけ昔を思い出しました。暖かく豊かだった海の匂いと、誰かの声と……』
『私も遠い記憶が少し。久しぶりすぎてお腹がちょっと変な感じですわね』
二人とも味よりも思い出に行ってしまったか。まぁ満足した様子なのでいいか。
「不満なところはない? 足りなければお代りもあるわよ?」
『そうですわね……魚の動きが実際の魚とは違ったのはちょっと不満ですけど、本物じゃないですし…… あとお腹に入った後も……』
『シンリーそこまでにしておきましょう。ユメさんお食事にお招きありがとうございました。待っている仲間もおりますので星の問題の方に戻りませんか?』
ん? シンリーさんのセリフを遮る形で、ボルグさんが被せた気がする。
まぁ食事も終わったことだし、ボルグさんの言う通り、実務面を進めますかね!
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※彩海豚族の水球環境に関して少し修正しました。




