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059 - 惑星手術

「それじゃあ、みんな準備はいい? 惑星(テラサージカル)手術(オペレーション)スタートよ!」


【アイアイマム!】


「まずは燃料補給からね、準備は?」


「ばっちりです。燃料を抱えた船はすでに人工太陽の背面に位置していまス」


「じゃあ、燃料補給を開始しましょう。タマミちゃんよろしく!」


「了解です。人工太陽、背面ハッチオープン。自動燃料補給シーケンスを開始します」


 人工太陽の後ろのパネルが一か所、消える様に開く。

 そしてそこを塞ぐように、工作艦が接近する。


「人工太陽の燃料タンクの空き容量を確認しました。持ってきた燃料で満タンに出来そうです」

 ミルアさんが燃料の管理をしてくれている。

 スクリーンには、燃料の残量がリアルタイムで表示されているようだ。

 目で見て分かる速度でメーターが上っていく。


「満タンだと、どれくらい持つの?」


「満タンだと約6千年分ですね。過去に配置された段階では満タンではなかったようです。あと、そのことに関して面白い記録を見つけました」

 ミルアさんの耳がピコピコと小刻みに動いている。

 噂話とか好きなのかな?


「面白い記録?」


「はい。元々この人工太陽を設置した人達の日誌です。この人達も惑星から燃料を調達するつもりで、準備を進めていたようです。ところが、上からの許可が下りず、一度この惑星を離れることにしたようです。日誌は所々破損していますが、悪口の部分がちょうど破損していまして…… 」


 ミルアさんがスクリーンの方に視線を向けた。スクリーンに出してくれるらしい。


『このままじゃ5千年もしないうちに、また星が死んでしまうじゃないか! 何のための保護プログラムなんだ! エングルングのXXX覚えてやがれ、次に合ったらXXXをXXXしてXXXXXXXな!』


「といった感じです。どこでも、いつでも、同じような文句であふれてるんですね」

 スクリーンを見上げながら、微笑んでいるミルアさんはカワイイが……


 ミルアさんも、日誌に文句を書いているのかな…… 

 私も書かれないように気を付けよう……


「な、なるほどね。それで、惑星からの燃料調達の仕組みはあるのかしら?」


「はい。システム一式揃っているようです。点検は必要だと思いますが、エンジュさんお願いしていいですか?」


「勿論です。 お任せください 」


「後は、補給計画もありませんね。こちらは修理補修計画と合わせて作成しておきます」


「それじゃ、補給の方はこれでいいかしらね?」


「補給は問題ないのですが、一つ問題があります。 このままですと、燃料低下警告が消えたとたんに100%出力の光度になってしまいます 」

 さすがエンジュ。細かいところにもよく気が付く。


「やっぱりまずい?」


「大気はかなり荒れるでしょうね。 生命体にとっても、いきなり強い光が降り注ぐのは負担が大きいと思います 」

 真冬の太陽と、真夏の太陽を考えれば、確かに厳しい。

 ましてや、今回は10倍になるとしたらそれだけで死んでしまう個体もあるかもしれない。


「ミルアさんお勧めプランはある?」


「え、私ですか? ……そうですね……一日10%位づつ上げてみてはどうでしょうか?」


 今が10%だから、100%にするだけで8日か…… 

 どっちみち人工太陽の熱量だけでは溶かせない訳だし、焦っても仕方ないか……


「そうね。とりあえず様子を見ながら上げていきましょう。ラング、惑星の加熱計画に、人工太陽の段階的な出力アップを織り込んで頂戴」


「了解、艦長!」




「じゃあ次は、加熱ね! ラングどう?」


「あ、ちょ。人工太陽の出力を階段状にしたから、その影響がまだ直せていな……いません」


 おっとイケナイ。

 指示したばっかりで、すぐに結果を求めたら、昔の嫌な上司と同じになってしまう。


「あぁ、大丈夫よ。元々の計画を教えてもらえる?」


「了解です。ミルアさんと相談して深海を暖めるプランと、大型生物が乗っている氷の大陸を切り取るプランを準備中です。深海を暖めるプランに関してはポイントをすでに選び終わりました。3か所に直径100kmの湧昇流を作り出します。氷の大陸の切り離しは海岸線から始めます。うまくいけば、大型生物を乗せたままの氷山大陸を極地方に押せるはずです」


 直径100 kmかぁ……関東地方がすっぽり入る大きさか。

 ラングもだいぶ感覚がマヒしてるのかなぁ…… 


「湧昇流の温度は?」


「暖める場所……つまり海底付近の温度で30℃を予定しています。ちなみに、暖め方は鉄の棒を海底に林立させて、その棒を加熱します」


「意外に原始的ね……」


「狙った場所を加熱するのには一番手っ取り早いみたいです。海底に打ち込む鉄の棒は準備できています。こちらは艦長の指示待ちです」


「分かったわ。やっちゃって頂戴」


「了解!」


「氷山の方はどこから、どんな風に溶かすの?」


「南側の海岸線と北側の海岸線それぞれ6か所で、計12か所です。一か所辺り200kmの幅で極地方に向かって掘っていく感じになります」


 幅200kmの川(でも実態は海)ができるイメージか……


「スピードですが、当初の予定で秒速10m。1日で約900kmになります。その後は赤道と平行にドルファ星を一周します。9日後には南北で合計12個の氷山大陸が出来上がる予定でス」


「後は、その氷山大陸の移動先を溶かしては、氷山大陸を押していけばいいのね?」


「はい。そうなります」


 氷山大陸に乗っている大型生物達は、常に海に面した状態で、極地方に移動することになる。

 移動するにしたがって、氷山大陸も少しずつ小さくする必要があるな。


「エネルギーは足りるの? 結構な熱量よね?」


「最初のプランでは10日で全部溶かせた位なので、このくらいは “お茶の子さいさい“ らしいです」


 エンジュが教えたのか? 何でそんな言い回しになったのか……


「そうだったわね。じゃあ、とりあえず、燃料補給後の船の位置と、人工太陽の出力とのバランスはお願いね! 準備が出来たら氷山の解凍を開始して頂戴!」


「了解です! 艦長!」




「燃料警告、解除されました。人工太陽出力20%に上昇。出力調整…… 問題なし。動力系…… 問題なし。照射系…… 問題なし。すべて問題ありません(オールグリーンです)。あ、ちなみに損傷個所の修復も完了しています。失われたデータ以外はすべて正常です」

 ミルアさんがテキパキと人工太陽の問題には対処してくれている。ありがたい。


「損傷個所も大変じゃなかったみたいね」


「はい。どれも軽微な故障です。劣化部品の交換作業もタスク化しましたので、10日後にはより健全な状態になると思います」


「あら、もうそんなところまで? ありがとう!」


「いえいえ。お役に立ててよかったです。それに、このユーザーインターフェースにもだいぶ慣れましたし……やってよかったです」

 なるほど、言語が同じでも、ユーザーインターフェースは連邦の物と違うらしい。やっぱり実際に使ってみないと、慣れないのだろう。


「じゃあ、次は生命体の方ね。どう? 反応はあった?」

 ここはタマミちゃんの担当だったかな。


「はい。光が当たっている場所では、大きく動く動物が増えています。とは言え、動き回るのは少ないみたいです。あと、全く動きが変わらない動物も少しいます。病気か、弱っているのでしょうか?」


「まだ何とも言えないわね……そういえば、彼らに合う食料の見込みはどう?」


「はい。エンジュさんと相談して、いい案が一つ出ました。艦長に聞いてもらっていいですか?」


「勿論よ」

 エンジュが頷き、私も頷く。


「まず、大型生物は536種確認していますが、私たちは彼らが食べるものを持っていません。そして彼らが何を食べるかもわかっていません。そこでまずは彼らの中から元気な個体を選びスキャンしてマテリアルディスペンサーに登録します。マテリアルディスペンサーでは生命の複製まではできませんので、コピーしたモノは “生きていません” が、ほぼ生きていた時の鮮度で提供することができるようになります」


「まずは食料データベースを作るのね」


「はい。そうです。その上で、その食料のどれを好んで食べるかを確認するために、彼らの各種族から弱っている者と元気な者を10頭ずつ転送で呼び込みます。場合によっては簡単な治療を行う予定です」


「適した餌が分かればエンジュにばら撒いてもらえばいいわけね。あ、そうだ! 弱っている個体には口に手を突っ込んででも食べてもらうのもよくない? できるわよね?」


「ぇ。 それを…… やるんですか? 私が?? 」

 あ、やばい。エンジュがドン引してる……

 別に汚れを気にするわけじゃないし、ケガもしないからいい案だと思ったんだけど、ちょっと酷かったか。


「まぁ、実際は手を使わなくてもできるでしょ?」


「あぁ、そういうことであれば……とはなりません。 生命体の内側に物を送り込んだり、引き出したりするには、ちゃんとした許可が必要になります。 少なくとも医療行為として成り立つ程度の正当性が無ければ、行為に制限が掛かります 」


「大丈夫よ。私たちは今惑星全体を “手術” しているのよ。全部まとめて医療行為じゃない!?」


「そんな無茶苦茶な…… 」


「ところで、生命体転送(呼び込むの)に必要なMPは足りる?」


「はい。 艦隊の保有MPでも賄えます。 しかし、終盤でほぼ空になってしまいますので、艦長のストックから補充してもらえると助かります 」

 艦隊保有MPはごくわずかだったはずだ。これくらいはケチらなくてもいいだろう。


「分かったわ。じゃ適当なタイミングで教えて頂戴」


「かしこまりました 」


「タマミちゃん。作戦に掛かる時間は?」


「艦長、その前に、転送した生命体を治療するスペースを確保したいのですが、よろしいですか? エンジュさんからは、燃料補給で空になった工作艦に、環境再現プラス治療ホロルームを作るのが良いと聞いていますが……」


「そうね。それで実行して頂戴。タマミちゃんは直接見れないけどいいの?」


「一応、遠隔ホロで見ることも触ることもできるので十分です」

 いい笑顔だ。

 確かに遠隔ホロなら、安全に10m級の動物でも触れ合える。

 こういう任務には、うってつけの方法なのかもしれない。


「あー、そうね。その方が安全ね」


「はい。それで作戦時間ですが、治療の方は不確定ですが、食料データベースの方は、8時間ほどで終わります。あとはその食料をどの種が食べるかですね。元気な個体に色々な餌を見せて、食べたがる物を提供すれば大体の食料問題は解決です。好みなどを追及すると、結構な時間が掛かりそうですが……」


「まぁ、まずは食べられるもので腹を膨らましてもらいましょう。観察や治療はいつでも打ち切れるようにしておいて頂戴ね」


「わかりました」




 作戦、惑星(テラサージカル)手術(オペレーション)を開始して1時間ほどが経過した。

 今のところはどれも順調だ。

 やることも多いのでみんなコンソールとにらめっこしながら、手は忙しなく動いている。


 私は、惑星のパラメータや食料データベースの進捗を見ながら、異常が起きていないことを俯瞰してみている。リーダーとしてはこの辺のバランスが大事だと思うのよね。


 と、タマミちゃんが振り返る。

「艦長、知的生命体が異変に気が付いたようです。2頭ペア(ツーマンセル)が5組。コロニーから探索に出発したように見えます」


「どこに向かっているか分かる?」


「4組は氷山を溶かしているポイントで、1組は湧昇流を作り出そうとしているポイントのようですね。到着は一番早い組で3時間後です」


「彼らの動きはどう? 十分に元気かしら?」


「そうですね。弱っている個体ではありません。むしろ彼らの中では若く元気な個体だとおもいます。しかし、全体的な栄養不足の可能性はありますので心配ではありますね」


「そうね……危険がありそうなら、引き戻すか、オペレーションを一時中断しましょう」


「了解です。……艦長、彼らとコンタクトは取らないんですか?」

 タマミちゃんの頭がコテっと倒れる。

 会って話をしたそうだ。


「うーん。どうするのがいいかしらねぇ……彼らの姿を見ちゃうとね……会話可能だと分かっていても上手く話せる気がしないというか……なんて言って話しければいいかとか……いろいろ考えちゃうのよね……」

 神様みたいに祀り上げられちゃうのもどうかと思うし、文句を言われたらどうしようとも考えちゃう……


「艦長も不安だったんですね……でも彼らも不安だと思うんですよ。これまで艦長はファーストコンタクトを全部成功させてきたじゃないですか。今回もきっと大丈夫ですよ!」

 タマミちゃんに励まされてしまった。

 そうね、私が不安に思っている場合じゃないわね。


「そうね。環境が変わる彼らの方が不安は大きいわよね……でも、そうね。もう少し待ってね。こっちの準備と彼らの環境認識がもう少し進んだら、コンタクトしてみましょう!」


「こっちの準備っていうのは食料のデータベースのことですか?」


「そうね。ちゃんと供給できないと、長く持たないからね」


「それなら、張り切って準備を進めなきゃ! ですね!」

 タマミちゃんのやる気が熱い! またコンソールに向き直ると凄い速さで手を動かしている。

 食料供給の目途が立って、惑星の温度を上げられることが見えてきたら彼らに向き合ってファーストコンタクトをしようかしらね。



 しかし、そんな思惑も虚しく、事態は急な展開を見せていくことになった…… のである。

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