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056 - ミルアさんの健康診断

「話は変わるけど、ミルアさんの健康状態は大丈夫なのかしら?」


「わ、私ですか。どこも問題は無いはずですが……」

 突然、健康状態の話を振られたミルアさんが、手を前に出してパタパタしている。


「これから仲間になるわけだし、詳細なスキャンは必要よね?」

「えぇ……」

「5000年前からの変異や変化も気になりますね 」 とエンジュ。

「えぇー」

「私、新任医療補佐なのでお勉強させてください!」 とタマミちゃん。

「えぇぇぇぇー」

「お、おれは…… えっと…… 副医療補佐ってことで!」 最後にラング。

「それはちょっと…… 」


「ぶっぶー。ラングはアウトね」

 ここは譲ってはダメなラインだな。ちょっと外に行っててもらおう。


「役付きには艦長の任命が必要ですよ、ラング 」 とエンジュ。


「悪いけど、ラングは外で待っててね~、部屋に戻ってなんかしててもいいわよ」 とタマミちゃん。


「分かったゾ…… 」

 ちょっと寂しそうなのが可哀想だが、ミルアさんのためにも、ここは譲っちゃだめだ。

 エンジュとラングが外に行き、エンジュが部屋に復活すると、ミルアさんの調査開始だ。


「それじゃ、ミルアさんの健康状態を確認していきましょうか。エンジュ、ミルアさんのシミュレータって作れる?」


「はい。 まだ詳細スキャンを実施していないので、作成はその後になります。 これまでの取得データから立体映像を作ることはできますが、投影しますか? 」


「そうね。お願い」


 私たちの立体映像が出るのと同じように、ミルアさんの立体映像が投影される。

 一応下着姿だけど……普段つけている下着なのだろうか……

 ちょっと……いや、だいぶセクシー路線だ。

 そして、なかなかのワガママボディ……


「ちょ、ちょっと待ってください。私の下着だけ何でこんな……って今着けているからですか! エンジュさん、飾り気のないシンプルな下着に変えてください。お願いしますぅ~」


 立体映像の下着の部分だけが、白地のスポーツ下着のようなものに替わっていく。一度スッポンポンにならないだけ、だいぶ配慮されている感じだ。


「うぅ。なんか恥ずかしい……」


「ミルアさんの種族の標準体型が分からないから、このままだと健康かどうかも分からないわね」


「では横に、5000年前の兎耳長族の標準体型を出してみましょうか 」

 立体映像ミルアさんのさらに横に、ミルアさんに似た背格好の立体映像が投影される。比べて見ると、ミルアさんよりも若干小柄に見える。


「へーこれがご先祖様かぁ~。あまり変わらないですね」


「まぁ先祖と言っても5000年前ですからね。 人為的に遺伝子を弄らない限りそう変わりませんよ 」


「昔の映像の方が小さいみたいだけど、これくらいだと個人差かしら?」


「そうですね。 同じ比率で背丈が同じになるように合わせて見ましょうか 」


 ご先祖の映像が少し大きくなりミルアさんと完全に並ぶ。

 気持ち、セクシー度合いは盛られているかもしれないが、だいたい同じと言っていいかもしれない。


「体の中はどう?」


「そうですね。 遺伝性の疾患因子はありません。 怪我、病気、病変も無し。 血液、臓器にも問題はありません。 強いて挙げるなら胃が少し荒れていますね 」


「そういえば眠りが浅いって言ってたわね」


「はい」


「ミルアさんはすごく健康なんですね! これから私がちゃんと観察して健康を守っていきますね!」


「お、お手柔らかにお願いします……」

 ミルアさんが少し引いている。

 タマミちゃん、程々にね……


「結論としては、健康体って事ね?」


「そうですね。 全く問題ありません 」


 なるほど、連邦の健康管理もばっちりということか。そろそろ夕飯の時間だけど…… 

 お風呂を先に入るのも悪くないわね……


「そう。じゃあこのまま裸の付き合いっていうのはどう? 皆で温泉に入りましょう!」


「温泉って、お外のお風呂のことですか? 私、初めてです!」

 タマミちゃんは初めてらしい。


「私は、軍大学の野外訓練以来ですかね……」

 ミルアさんも久しぶりと。


「あら、温泉文化は無いの?」


「皆、好みの温度が違うので、なかなか同じお風呂に入ることにならないんです。同族では温泉の経験もありますけど、仕事に就いてから、まだあまり旅行をする機会が無かったもので……」


「なるほどね。ラングはまた仲間外れになっちゃうけど、声だけ参加にしてもらいましょうか! エンジュ、温泉プログラムとラングを呼んで頂戴」


「かしこまりました 」




「ラング~聞こえる~?」


「聞こえるゾ~。こっちは広いお風呂を独り占めだ~。見晴らしも最高だぞ~」


 ちょっと声が(棒)っていう感じなのは、気のせいじゃないと思う。


「寂しかったらエンジュを呼べば、背中くらいは流してくれるかもよ~」


「寂しくなんかないから、ほっといてくれ~。(泣)」


 うん。今回は(泣)まで聞こえた。(笑)


「でも、素晴らしい見晴らしいいですねここ…… って、ホロルームってことは分かってますが……」

 ミルアさん、誰も見ていないからって、外から見えるところに堂々と立たないで……


「場所は、艦長の故郷の星を再現しました。 水質は少々弄っています 」


「効果は美肌ですか?」


「そうですね。 あとは毛に対する保護成分を少し 」


「あ、それは嬉しいですね」


 そうか、毛が多い彼らにはそんな対策も必要か……

 ミルアさんが湯船に向かう。


「湯加減も丁度いいですね」

 タマミちゃんも浴場に入ってきた。

 私も洗い場から湯船に向かう。


「あら~タマミちゃんスタイルいいわね~。引き締まったしなやかボディね」


「艦長も手足が長くてスラっとしていますね~。色もほんのりピンクで綺麗だし。食べちゃいたいくらいですね~」

 いつものタマミちゃんの笑顔だけど、ちょっと内容が物騒ですわよ……

 肉食の貴女に言われると、怖い気もするけど、純粋に褒められていると思うとちょっと嬉しい。


「エンジュも、一緒に入らない?」

 気が付けば、エンジュは入り口近くで控えている感じだ。


「あまり意味はありませんが、誘われては断れませんね。 では…… 」


 先ほどのミルアさんシミュレーターの映像のように、服を脱ぎ(?)タオルで軽く体を隠したエンジュが湯船のそばに歩いてくる。

 そのままどこから取り出したかも分からない桶を湯船から引き上げると、体に掛けていく。

 意味が無いと言いつつ、マナーは完璧だ…… 


「エンジュはやっぱり少し女性らしいカーブがある気がするわね」


「私の現在のボディパラメータは黒犬族の成人女性の平均値を取っています。 控えめの方がいいでしょうか? 」


「あ、いいえ、気にしないで。とても魅力的な体だと思うし」


「私も、もう少し控えめな胸とお尻だったらと思うときもありますね~。特に高重力訓練の時は本気で削ろうか迷いましたよ」

 ミルアさんが、こっちはこっちで、怖いことを平気で言っているわね……


 4人でゆっくり湯船に浸かる。


「ここが宇宙とは考えられないわね~」

 異世界に来てほぼ2週間、すべてが夢の様だが、仲間も出来てとても楽しい。


「そうですね~。すごい贅沢をしている気分です~」

 ミルアさんの感覚だとこれは贅沢だったか……


「私にとってここは異世界ですね~。光景的にも、宇宙に居ることも、メンバーも……」

 タマミちゃんも住んでいる世界がガラッと変わった一人か……


「私がホロルームでお風呂に入る日が来るとは…… 」

 まぁ、過去の帝国でAIをお風呂に入れた人はいないだろう。……いないかな? やめやめ。


 穏やかな時間が流れ、体の芯から温まってきた。

 夕飯は温泉宿の料理にしよう。あの種類が豊富で食べきれない位出るメニューも懐かしい。


「お風呂から出たら、温泉宿で夕飯にしましょう。もちろんみんなの料理は、エンジュのアレンジでね」


「「はーい」」

「うぇ~い」

 ちょっと遅れたラングの声は、いつもよりだいぶテロンとしていた。

 のぼせて無ければいいけど……


 お風呂から出て、エンジュに浴衣を用意してもらう。

 みんながそれぞれ珍しそうに袖に腕を通していく。

 ラングと合流し、エンジュの案内で館内を移動すると30畳ほどの畳張りの個室に着く。

 真ん中にテーブルと座布団が置いてあり、テーブルの上には食事の用意もされているようだ。


「お、もう食事が用意されているんだな!」 とラング

「なんかお皿がいっぱいありますね!」 とタマミちゃん。


「これで4人前ですか? ……確かに一品一品は少なめに見えますが……」 とミルアさん。


「これが、温泉宿グルメの醍醐味よ! さっ、座って座って!」


 私の前にミルアさんが座り、横にはタマミちゃん、はす向かいにラングが座る。

 目の前は大量の料理が敷き詰められていて、減ったお腹にぐりぐりと衝撃が来る。

 自分の前には天婦羅にお刺身、煮付けにカニ、鍋と料理の海だが、ミルアさんの前は花畑の様だ。

 色とりどりの葉物から根菜、実が小皿に乗せられている。花も咲いているが、あれは食べ物だろうか……飾りだろうか……判断に迷うところだ。

 ラングとタマミちゃんの前はなにやら一面が赤黒い……所々茶色い物、白い物もあるが……まぁお肉よね。


「お、唐揚げがあるけど2個しかないのか……でもこれはブラワー鳥の手羽先に、これってなんとか鰐のロースだっけ?」

「それは確か、バルム鰐のロースよ。このお肉蒸してあるのかしら、いい匂いがするわね」


「カウーベレタスのサラダに、ネリーヌ大根キューブ、あ、リコカロテン人参スティックもあるじゃないですか! 他にも見たことない野菜が一杯……ここは天国ですか!」

 ミルアさんが両手を組んで神に祈らんばかりだ。

 ヒューマノイドが感謝すると、あのポーズに行きつくんだろうか……


「じゃあ、みんなで食べましょう!いただきまーす!」


【いただきまーす!】




「あ~このネリーヌ大根キューブの辛みと甘みがたまりません!」


「こっちのお肉も美味しいですよ! エンジュさんこれ何のお肉ですか?」


「サザーランド羊の……漬けです 」


「なるほど、この滴っているのは……か! こんな味があるんだな!」


 ん? エンジュとラングの声が途中で途切れたけど何だろう……

 ちょっと不思議そうな顔をしていると、エンジュが耳元で小声でささやいて来る。


「お二人にはちょっと刺激が強いと思われましたので、音をマスクさせて頂きました。 気になるようでしたら今後は無しにすることもできますが 」


 滴っているのは赤い液体だ……聞かない方がいいこともあるだろう。


「いえ、いいわ。配慮に感謝するわ」


 見るとミルアさんが顔だけこっちに近づいて来る。

「ユメさん、これだけの料理にお酒無しは、ないんじゃないですか?」


「何言ってるの、この前へべれけになって前後不覚になったのはどこの誰かしら?」


「ぅぅ。せっかくこんな美味しいお料理が並んでいるのに……」


「そうですね。こんなに食べたら太っちゃいますね!」

 タマミちゃんの言葉で3人の箸が一瞬止まる。


「あ、明日から運動頑張らないとね~」

「わ、私も教科トレーニングを復習しようかなぁ~」

「お、俺も体鍛えるゾ」


 ……


 ちょっとした沈黙にミルアさんが何かを噛む、シャクシャクという音が響く。


「あ、ミルアさん今日はこの船で寝るのでよかったかしら?」


 ミルアさんの船は、戦艦のお腹に抱えられているので、クィーンバタフライ号に戻るには転送での移動が必要になってしまう。


「えっと、もしよければわたしも一緒に寝させてください。どうも、最近一人だと眠れないんです」


「え、いいけど。ベッドはそんなに広くないわよ?」


「寝相はそんなに悪くないと思いますので、たぶん大丈夫です。なんだったら同じ部屋のソファーでもいいので……」


「あ、全然気にしないから一緒に寝ましょう。なんだったら、この後ここで寝るのも悪くないわね」


 なにせここは旅館の一室、このまま寝て悪いことがあろうか、いやない。


「じゃあみんな目の前の敵をやっつけるわよ!」


【おー!】




「じゃあ、どういう順番で並ぼうかしらね?ラングとタマミちゃんは離すとして、ラング、私、ミルアさん、タマミちゃん?」

「艦長と男性を並べておくのはどうかと思います」

 ん? いつもよりミルアさんの押しが強い気がする……


「そぉね。じゃあラング、ミルアさん、私、タマミちゃん?」

 ぉ、タマミちゃんがちょっと喜んでいる。ラングは私と離れてちょっと残念そうだ。

 地球の男の子なら鼻血が止まらない状況だろうが、ま、そこは種族特性の所以ということで。


「とりあえず、異存がなければこれで行ってみましょう。ダメならすぐ変えればいいしね」


【はーい】


 そうして、みんなで布団に倒れこむ。最初はみんなお行儀よく、隣と接触しない感じで縦に並ぶ。


「じゃあ、みんなお休みなさい」


【おやすみなさい。】


 私はすぐに眠気に身を任せて暗い意識の底に落ちていった。




 朝起きてみると…… 

 アカン…… 

 この絵はダメなやつだ。


 ミルアさんがラングを完全に抱え込んでいる。ラングの顔がナニかに埋まって息ができているか心配になるレベルだ。

 お互いに安らかな寝息を立てているし、タマミちゃんもエンジュも何も言わないので問題は無いのかもしれない…… 


 が、私に問題がある! 

 ドキドキが止まらないではないか! 

 このフォーメーションは無し! 

 決定!


 とりあえず。朝から騒ぐことでもないので、案件としては夜に持ち越しで、朝のルーティーンに入ろう……

 なんか、すでに少し疲れた気がする……

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