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055 - タマミちゃん医療補佐になる

「さて、それじゃドルファ星に向けて発進!」

 ドルファ星の人工太陽の燃料を確保したところで、いざドルファ星までの長距離ワープだ。


【アイアイマム!】


「ワープ開始。……ワープフィールド正常。ワープ加速度正常。艦隊行動に問題なし。目標までの距離216.6光年 到着予定は22時間後でス」

「航路内に危険物ありません。本艦隊に反応する物体及びシグナルもありません」


「さて、22時間後ということは……到着は明日のお昼ね。久しぶりにゆっくりしようかしら……?」

 

「艦長、お忘れかもしれませんが、新任艦長講習会まだ終わってませんからね 」


「ぅ。分かってるわよ」


「あと、ラングとタマミちゃんの、治療経過観察が本日の予定です 」


「了解。明日の午前中は?」


「状況が分かってくると思いますので、作戦タイムではいかがでしょうか? 」


「そうね。そうしましょう」


「後は、護身用の格闘術や、重力バリエーションでの環境順応訓練などもメニューに入っています 」


 あ~、確かにちょっと重力が違うだけで、歩けなくなってしまうのは、みっともないかもしれない。

 大変だ。やることが山積みだ……


「とりあえず。新任講習会を進めましょうか。今日のお題は?」


「ユーティリティ装備と緊急事態への対処法です。 どちらも艦または艦隊としてのお話です。 今回は丁度いいので、ドルファ星に題材になってもらうことにしましょう 」


「ゆーてりてい? って何だろうな?」

「うーん。分からないわね」

 ラングとタマミちゃんがそろって首を傾けている。


「便利な道具っていう意味よ。部屋だと家事室とか設備部屋なんかを指すこともあるわね。船だと、採掘や移動補助、修理とかかしらね」

 ミルアさんが二人に説明してくれている。

 私もこっそり聞いておこう……


「ユーティリティ装備は攻撃兵装や防御兵装と違って明確な “目的” がありません。 使いようによっては武器にも防具にもなりますが、望んだ結果だけが起きるとは限りませんので、よくよく注意して使う必要があります。 それでは…… 」

「あ、待って。続きは艦長室でやりましょう」


「了解しました。 では移動しましょうか 」


【はーい!】




 艦長室に移動して、みんなの前にそれぞれの飲み物が用意されると、講習会の開始だ。


「まずは、先日のおさらいから始めますね。 ミルアさんが参加される前の作戦の概要です 」


 目の前には先日のエネルギー回収作戦の様子が模式図で表示される。

 400隻の工作艦がスルスルと星を囲んでいく様は、ゲーム画面のを見ている様だ。横ではミルアさんが食い入るように見守っている。


「この時は400隻の工作艦が星を取り囲み密閉フィールドを形成し、圧縮を行いました。 この時、戦艦はエネルギー供給および、この密閉フィールドの制御を行っていました。 この形が最も理想的なユーティリティ装備の使い方の形になります。 つまり、影響を与えたい “もの”() に対して “力点”() で囲んで、エネルギーの投射や制御、または供給を行う形になります 」


「なるほどね。これで、均等に力を入れることもできれば、狙ったところだけ効果のある何かをできるということね」


「もちろん、囲んでいなくても使えるユーティリティ装備もありますが、効果が薄くなったり、使えない場合もありますので注意してください 」


「エンジュ先生! 高速巡洋艦ではエネルギー供給はできないんでスか?」

 ラングが勢いよく手を挙げて質問をする。


「いいえ、そんなことはありません。 ただ、高速巡洋艦の出力は戦艦に比べるととても小さいので、先日の星の圧縮には力不足ですね 」

 ラングとエンジュが向き合って講義している。まるで生徒と先生の様だ。


「高速巡洋艦の役割って……?」


「そうですね。 標準艦隊の中での役割としては、工作艦を “早く” 目的の位置に展開させるというのがあります。 末端をできるだけ早く動かすのが仕事ですね 」


「それで、“高速” 巡洋艦なんだ…… それじゃ、逆に戦艦は?」


「戦艦はそれ自体が組織の要ですが、標準艦隊の中ではマザーシップの矛であり盾です。 必要な時に大火力を行使したり、マザーシップの盾となって防御の指揮を執るのがお仕事ですよ 」


 なるのど、そういう運用が考え方のベースなんだ…… 

 全然わかってなかったかも……ナイス、ラング!


「今回はドルファ星ですが、どっちを使うんですか?」

 今度はタマミちゃんの番かな?


「あまり大きな影響を与えるわけにはいかないので高速巡洋艦で十分でしょうね。 工作艦と高速巡洋艦を合わせて18隻なので綺麗に囲うには足りませんが、十分な影響力を与えられると思いますよ 」


「どんな方法が取れるんですか?」


「まだドルファ星の状態が分からないので一般的な話になりますが、冷えて凍っていることが課題なので、単純に温めてしまうのが解決の方向性になります。 各種電磁波で任意の場所を温めることは可能ですから、その辺が最初の一手になると思います 」


「簡単に解決できるんですか?」


「もちろん、温めるだけでは解決は難しいと思います。 無計画に温めれば嵐、台風、地震、火山等の自然災害が多発する上に、自然環境や生態系にも大きな被害が出てしまいます。 ですので実際には自然環境を壊さないように、穏やかに変化させるような “手入れ” が必要になります 」


「他には何か手があるの?」

 おもわずタマミちゃんの質問を奪う形で割り込んでしまった。


「密閉フィールドを地表面に垂直に使用することで、嵐を抑えることや海流を制御することもできますね。 後、海に浮かんだ氷山を “押して” 移動するなんてことも可能です 」


「あ、そうすれば、氷の上に熊さんが居ても溺れなくて済むんですね!」


「生態系の保護を考えれば、区画ごとテレポートさせるなんてことも可能です。 この場合は対象が生き物なのでMPを多めに使用しますが…… 」

 なるほど、生物コロニーが危なくなったら逃がすこともできるわけか……


「何かできそうな気がしてきました!」

 タマミちゃんがいい笑顔になってガッツポーズを取っている。

 みんなも自然に笑顔になるね!


「ちなみに、今回のドルファ星で使わないと思われるユーティリティ装備に関しては、紹介だけしておきますね 」


 そこから始まった話は半分も分からなかったが、とりあえず重力とか次元に穴をあけるとかのSF的な言葉が並んでいることだけは分かった。時間や確率もある程度なら操作可能とか……???だ。

 ラングとタマミちゃんは早々に諦めて、ドルファ星シミュレータで、操作の練習をすることにしたようだ。

 ミルアさんは実際の数値的なところをエンジュに質問しては驚いている。会話の内容的にも、どの機能も一応理解しているっぽい。

 さすが大学だけで20年も勉強した人は違うね。よし、ここはミルアさんに任せよう。




「今日のおやつも美味しかった~」


「さて、それではおやつの後は、ラングとタマミちゃんの診察にしましょう。 艦長とミルアさんはどうしますか? 」


「私も立ち会っても大丈夫ですか?」

 ミルアさんがエンジュに向かって問いかけると、エンジュが許可を求めてこちらを向いたので軽く頷いておく。


「連邦の医療の知識も、あったら教えて頂戴ね」


「そんなにお役に立てるほどのことは、私も……」

 ミルアさんがモジモジ状態になってしまった。カワイイ。


「じゃ、皆で医務室に移動!」


【はーい!】




「さて、今日は2回目の定期健診ね。あれから14日じゃなくて、15日か……二人の体調はどう?」


「特に変わったところはありませんが、毛に艶が出てきた気がします」 とタマミちゃん。

「俺はなんだか、すっきりしたというか、体がよく動くようになった気がするな」 とラング。


「ラングは引き続き訓練による筋力向上が出ていますね。 タマミちゃんの毛に艶が出てきたのは、食べるものが格段に良くなったことが理由の可能性が高いですね。 もちろん病気の影響が抑えられているから、でもありますが 」


「ここに来てから美味しい物しか食べて無いものね!」

「 “医食同源” だっけ? 昔、教会の爺さんが言ってたな」


「へー難しい言葉知っているのね。っていうか、あなた達の星にも同じ言葉があるのね」


「ラング達の星に残っていたのは置いておいても、医食同源は当たり前レベルの一般知識ですね。 いつもお出ししている料理にも足りない栄養素は追加されていますし、強いストレスが掛かる環境ではある程度それらを中和する食べ物も追加されますから 」

 もうそれは、医食同源を超えた何かではないのか……?


「あ、エンジュさん、私、最近眠りが浅いんですけど……」


「了解しました。 夕食に少し抗不安系の野菜を入れておきますね 」


「よろしくお願いします」

 ちょっと考え事をしているうちに、ミルアさんの診察と処方が終わってしまった。


「さて、話を元に戻しましょう。ラングとタマミちゃんは体調は大丈夫ね?」


「「はい」大丈夫です」


「おーけー。それで、エンジュ今日のメニューは?」


「ラングタマミシミュレータの進捗と、毒素の完全除去の開始です。 シミュレータの精度向上は1ヵ月先まで見通せるようになってきました。 またこれにより、この病気の様々なことが分かってきました。 これからは、実際の治療法をシミュレータに対してテストしていきます。 また毒素の方も、一週間の継続除去により、体内毒素レベル、生成毒素量が安定しています。 今週は除去のスピードを速めて、体内からの完全除去を目指します 」


「問題はないのかしら?」


「今のところはありません……が、治療には全身の遺伝子を書き換える必要がありますから、細心の注意が必要なのは言うまでもありません。 またこの皇帝病の特徴として、全身細胞が少しずつ、期間も役割も変えて毒または毒準備物質を生成するという特徴があるようですので、完治まではやはり長く掛かりそうです 」


「え、お二人が掛かっている病気って “帝国の友引” ですか? あ、えっと、連邦ではそういう風に呼ばれている病気があるのですが……遺伝性の疾患で、致死性の毒素を生成しちゃう病気がありまして」


 ミルアさんは知っている病気なのだろうか?

 よく似た違う病気という可能性もあるけど、詳しいことを聞いてみるか。


「似ているわね……その病気の詳しいことは分かっているの?」


「私も医療系の入門書で見た程度なので、詳しいことは分かりません。聞いたところだと、相当厄介な病気みたいです……あとで連邦のデータベースにアクセスしてみますね」


「連邦で治療実績があると嬉しいわね!」


「あまり詳しくなくて申し訳ありません。ただ、現状で症状が安定しているのであれば治療の方は少し待ってもらっていいですか? ちょっと気になることもありまして……」


「そうね、ラングとタマミちゃんが安全に治療できるならその方がいいわね。……いいかしらエンジュ?」


「情報は多いに越したことはありませんから、かまいません。 続きはドルファ星からの帰りにしましょうか 」


「あなた達もいいかしら?」


 ラングとタマミちゃんにも確認をしておく。


「「はい」大丈夫です」


「私の健康状態はどうかしら?」


「あ、はい。私から説明していいですか? まずは立体映像を出します」

 タマミちゃんが前に出て説明してくれるらしい。色々頑張っているね。


 私が頷くと、先週に引き続き下着姿の私が出現する。まぁ、ここのメンバーに見せるくらいは問題ないでしょう。

 タマミちゃんが上目遣いで、ちょっと言いにくそうにモジモジしている。


「あの、艦長の体形は素晴らしいと思うんですけど…… 医療補佐になるためにエンジュ先生から課題を出されていて…… 」


「それで?」


「艦長のボディパラメータですが…… 先週から筋肉量が1%低下して体脂肪率が1%上昇しています! 医療補佐として、軽度の運動を進めましゅ!」


「ぅっ」


 確かにあまり運動しているとは言い難い…… 

 目くじらを立てるほどの不摂生ではないと思うけど、これもタマミちゃん育成計画の一部なんだろう…… 

 行く行くはタマミちゃんが医療主任かな……適任だとは思うけど、堅そうだなぁ……


「分かったわ。毎日軽度の運動をすることを約束するわ」

 タマミちゃんがエンジュの方を見ると、エンジュが頷いている。


「タマミちゃんを医療補佐に任命した方がいいかしら?」


「お願いします 」


「それでは艦長権限において、タマミル・テイラーを医療補佐に任命します。いついかなる時もクルーの命と健康に献身することを希望します」

 

 エンジュがタマミちゃんの耳元で何かささやく。

「拝命いたします」

 笑顔になったタマミちゃんはカワイイ。まぢ天使!


「話は変わるけど、ミルアさんの健康状態は大丈夫なのかしら?」


「わ、私ですか。どこも問題は無いはずですが……」


 一歩下がったミルアさん。

 逃がさないわよ。

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