SS - ステーション長の胃が痛い一日【中編】
今回はグルンフィルステーション長の視点となります。
「所長、昨日のミルア・セレスティン逃亡に関する資料がまとまりました。ご確認なさいますか?」
「あぁ、見よう。あとそれから本件に関わったものには緘口令を出せ。そして昨日外で行われた戦闘に見えたものは演習だとニュースに流せ。市民には事前の連絡不足を詫びるのと、情報提供にはしっかり感謝しておくように。ただし問い合わせには一切応じなくてよい」
「了解しました」
さて、新しく出来た資料を見ようか。事件に関係する詳細な情報と内部事情が書いてあるはずだ。
内部事情はまた別の意味で頭が痛いが、見ないわけにも行かない。内部の話なんてどうにでもなれという気分だが……
さてさて……
ミルア・セレスティンおよび密航者逃亡事件に関する報告資料
1.ミルア・セレスティンの行動
10時00分 辞令交付
10時20分 不服申し立てカウンターに書類を提出
10時28分 中央庁を退出
11時08分 行政区からオフィス街へ移動
11時31分 ホテルチェックアウト
11時46分 オフィス街から繁華街へ移動
12時50分前後 4人組と接触(4人の移動経路は不明)
13時05分前後 職員用通用門を5人で通過 職員用通路を使ってドックへ移動
15時11分 クィーンバタフライ号出港許可申請
15時13分 ステーション管制と通信 4名の密航者を通達
15時13分 クィーンバタフライ号発進 ゲート破損(開閉動作不能)
局地戦闘機4機による追跡
ステーション砲撃を人工物の陰で回避
15時28分 現れた人工物に収納され消失。
……人工物ね。まぁここまでは聞いている範囲だ。
やはり接触から移動までの時間が短いな……初対面ではあるまい。
そして移動に職員用通用門を使われたのが痛かったな……職員がいても、身内はやっぱりセキュリティが甘くなってしまう。
あと問題は、ステーション砲撃だな……局地戦闘機の出撃まではマニュアル通りだが、砲撃にはステーション長の許可が必要だ。そして俺は許可を出していない。いったいなんで発射することになったのか……
2.密航者の行動・情報
4名で行動。確認できる範囲では、分離行動無し。ミルア・セレスティンとの接触までの行動は不明。同一のデザインによる外套およびアウターを着用。
監視カメラによる映像3枚。推定体重4人合わせて200 kg以下、身長130~160 cm
……これが写真か。
まぁちゃんと写ってはいるが、顔も見えないし、外套で体つきも分からないな。身長と体重からは小柄の種族なら成人と言えなくもない。といったところか……
少年がいればビンゴなんだがな……
悪い方に……
3.通用門職員の行動
4.ステーション管制の行動
……ここは後で見よう。
5.局地戦闘機の行動
クィーンバタフライ号発進時のアラートに対してスクランブル出撃まで240秒。
牽制攻撃を全機成功!
(慌てず、当てないことができた……と、あと警告を忘れたらしいです。)
あまりに動かない(回避しない)ので直撃弾を一発命中。
その後、相手が回避行動を開始したので牽制攻撃を継続
(回避中は当てるつもりでも当たらなかったとのこと……)
ステーション砲撃を通達されたので散開
無事に全機帰還。
(危険手当か追加報酬を要望)
()は調査官の補足
……ふざけるな! たるみすぎだろ!
しかも警告なしで撃っただと…… ボーナスどころか懲戒ものだ!
その上、連絡艇相手にかすりもしないとは下手すぎるにもほどがある!
連絡艇と戦闘機だぞ! 相手が熟練したパイロットだとしても当てられる性能差だろう。
そもそもスクランブルは120秒以内のはずだ……
……まぁいい、いや良くない……一発当ててるのかぁ……根に持たれてたらやだなぁ……
とりあえず、防衛部隊には訓練が足りないということがよくわかった。
特訓だ。
6.ステーション砲撃の経緯
タンガ・ミロイ少佐に命令されました。
ステーション砲撃手。
……あれか、昨日中央から来た奴か……後回し!
……いや待て、このまま勝手に動かれても困る。少なくとも監視が必要だ。
「ラルフいるか?」
秘書を呼ぶと、受付で事務作業をしていたラルフがすぐに部屋に入ってくる。
「タンガ・ミロイ少佐に監視をつけろ、二人一組で行け。人選は任せる。断られても俺の命令だと言えば黙るだろう。あー、護衛だ、護衛。そう言え」
「了解しました」
さて、続きを読むか……
7.ステーション砲撃の余波
エネルギーパック換算で120パックを消費しました。来月の環境維持に問題が出るレベルです。早急に60パック分のエネルギーを手当する必要があります。
エネルギー局 局長。
……手当ね。
絞るか、買うかしかないんだよなぁ。買うって言ってもパック自体が通貨みたいなもんだから、何かを売らないといけないわけで……
絞ると死ぬんだよな……貧民が……
はぁ……どっかから湧いてこないかなぁ……エネルギー
8.人工物に関する考察
出現時間は23秒間。全長12 km、幅3 km、全高2.5 km 推定重量300億トン。
ミルア・セレスティンの船の前方100 km前後の位置に突如出現。ミルア・セレスティンの船の超至近に出現したことからワープアウトではないと思われます。
出現と同時にシールド展開。ステーション砲撃に対しての対応は確認できる範囲では無し。ステーション砲撃の影響も確認できず。
砲撃終了後、下部シールドを消したと推定されます。
その間にクィーンバタフライ号を収納
収納後は出現時と同じテクノロジーで消滅したと推定されます。
外見は旧帝国の戦艦級に酷似。
……もう、旧帝国の戦艦でいいだろうよ。それならステーションの砲撃なんて蚊が止まるようなもんだ。
しかしまずい……普通に考えて宣戦布告だ……
マジで腹痛くなってきた……
「所長! 管制局から緊急回線です。お出になりますか?」
「あぁ、回してくれ」
キタ!
さぁ何が来た!?
要塞か? 戦艦か? いきなりミサイルだけは勘弁してくれよ……
「所長、11時02分にクィーンバタフライ号が現れました。ステーションから距離0.1光時の位置です。相対速度は光速の8%です。迎撃しますか?」
「バカ言え。死にたいのか! じっと見てろ! 通信局、聞こえるか?」
「はい、こちら通信局」
「クィーンバタフライ号から通信が入ったらすべてこっちにも回せ。ミラーリングでいい」
「了解。クィーンバタフライ号の通信はすべて所長室にも流します」
「全職員に緊急通達!クィーンバタフライ号には手を出すな! いいか!出撃も砲撃もすべて禁止だ! いいな!」
さぁ、正念場だ! 生き残るぞ!




