044 - ステーション訪問
朝会の後、艦長室から艦橋に移動し、グルンフィルステーションへの移動の準備に入る。
「さて、それでは、グルンフィルステーションに向かいますか。っと、ミルアさん、どの辺から近づいたらいいかしらね?」
先ほどの会話でずいぶん顔色は良くなったが、昨日よりは元気がない。
この相談が終わったら、移動中は休んでもらおう。
「そうですね……クィーンバタフライ号で近づくんですよね?」
「そうね。あまり脅かしたくはないからね。一応、戦艦をすぐ近くに見えない状態でスタンバイさせるわ。何かあってもすぐに防御や、撤退が可能よ」
「でしたら、通常航路のワープアウトポイントでいいんじゃないでしょうか? 普通ならそこから、寄港手続きに入りますから」
「おーけー。じゃあ、そこで戦艦から出しましょう。エンジュ、他に気を付けることはある?」
「念のために、ワープ中は戦艦からもビーコンを出しておいた方がいいでしょうね。 ワープアウトポイントの手前でビーコンをクィーンバタフライ号に切り替えるのはどうでしょう 」
なるほど、相手からはずっとクィーンバタフライ号で来たと思わせることが出来る訳か。
「いいわね。じゃあそれで!」
「かしこまりました。 戦艦のワープ速度はクィーンバタフライ号に合わせて落としますね。 0.5光年手前でビーコンを点けて成りすまします 」
そうか、速度も破綻しないようにしないといけない訳ね……中々面倒くさい。
でも色々とボロを出すと、余計に面倒なことになる。ガンバロウ。
「それじゃあ、ミルアさんは部屋で休んでいていいわよ。2時間くらいかかるはずだから、少しでも寝ておいた方がいいわ」
「分かりました。じゃあ、私は休ませていただきます。エンジュさん、時間の10分前に起こしてもらっていいですか?」
「かしこまりました 」
ミルアさんが歩いて行くのを、みんなで見送る。
「それじゃ、ユークレアス艦隊、移動開始!」
【アイアイマム!】
さて、ワープアウトポイントの到着は2時間後だ。
何をしようかと考えて、ふとエンジュを見る。
「艦長は何かなさいますか? 」
少しエンジュからプレッシャーを感じる……何かをさせたがっている雰囲気だけど……何かあったかな?
折角だから、提案を聞いてみよう。
「何か、お勧めはあるかしら?」
「そうですね。 先日気になると仰っていた格闘のカリキュラムを開始するのはいかがでしょうか? 」
そんなに、積極的な発言はしていなかったと思うのだが……
「他には、アルクタクトの修理の方針や、MPの使い方の方針等も決定していきたいですね 」
MPは古戦場で余裕が出来たからね。それもいい。
「後は、ハイブリット8号機の修理が完了した後の話も、しておきたいですね 」
予定通りなら今日の15時に完了だったか……
次の修理計画も決めないとね。
「あぁ、そういえば、アルクタクトの修理は、ミルアさんにはまだ知られない方がいいかしらね」
「そうですね。 それでは、現状の確認からとなりますが、ハイブリット8号機の後はハイブリット計画はありません。 これは以前お話しした通り、ハイブリット化によるメリットが出ないためです 」
「ぉ、覚えてるぞ! 確か壊れている場所が同じだと、組み合わせようがないって話だったよな?」 とラング。
「その通りです。 ちなみにハイブリット8号機が正常に動作したと仮定して、ワープに必要なカラードクァンタム機関は後2基です。 そのまま修理を続けた場合の修理予定は、6.6か月後になります 」
「だいぶ短くなったけど、まだ結構掛かるんだなぁ」
「ステーションの人との交渉はどうでしょう? ミルアさんと一緒にお願いできないですか?」 とタマミちゃん。
「少し厳しいですね。 ステーションの出力が小型艦以下です。 彼らのエネルギーパック備蓄状況にも依りますが、とても足りません 」
「そう……ですか。残念です……」
二人とも、ちゃんと考えてくれているのが嬉しいね。
そうなると、次はどうするか……
「打てる手もまたなくなってきたわね。前回の星の形を変えるレベルでも1日か2日の量にしかならないんでしょう?」
「そうですね。 ただ手段が無くなって来たわけではありませんよ。 星がダメなら、もっとエネルギーを持っている天体を利用すればいいんです 」
確かに、これだけの科学力なら、普通の星以上の物も利用できそうだ。
いよいよブラックホールとか使うのかしら?
「なるほど! で、何を使うの!?」
「次の手はこちらです 」
テーブルの上に一つの天体が投影される。
白を基調とした天体にはコマのように軸があり、軸と垂直に円盤がある。よく見ると円盤の中心に小さく輝く点がある。
円盤部分の回転が目で見て分かるほどに早い。
「これは?」
「中性子星と呼ばれる天体です。 星が一度寿命を迎えた後に、ブラックホールになりきれなかった重い星の残骸です。 コマの軸が傾いているものはパルサーとも呼ばれています 」
普通の星と、ブラックホールの中間のような星か……
どやってエネルギーを取るんだろう……
「この星から放出されるジェットは非常に強くエネルギーが豊富です。 ただし、その分危険もこれまでよりも大きくなります 」
「エンジュ先生! 危険が大きくなるってどういう意味ですか?」
タマミちゃんがすっかり安全主任だ。
「いい質問です。 今回も皆さんの安全率は十分に取るので、身の安全という意味では問題ありません。 問題になるのは艦艇喪失の可能性の向上です。 以前の、星を対象にしたエネルギー回収よりも危険な状況になる確率が上がります。 そして危険になってからの時間的余裕も小さくなります。 結果的に、目的を達成する前に、船を失う可能性があるということになります 」
「具体的にはどんなことが起こるんですか?」
「そうですね。 今回エネルギーを採取する場所は中心星から離れたジェットになります。 このジェットは基本的にジャイロ効果で安定していますが、極稀に摂動によって振り回されることがあります 」
「箒を振り回される感じですか?」
「そうですね。 星から離れていれば時間的余裕が多く取れますが、近いほうが大きなエネルギーを取得できます 」
「私たちは離れて見ていればいいんですか?」
「位置的にはその通りですね。 でも、せっかくなので色々練習もしてもらおうかと思っています 」
「わ、わかったわ」
「お、おぅ」
タマミちゃんとラングがちょっと引いているが、気にするつもりはなさそうだ。
「そして、これらの星からエネルギーを取り出すには、流石に通常艦艇では無理があります。 専用船の作成と、打撃艦隊をエネルギー回収専用に改装して臨む必要があります。 よろしいですか、艦長? 」
「打撃艦隊を持ち出すの?」
打撃艦隊となれば戦艦1隻、高速巡洋艦20隻、工作艦400隻の大艦隊だ。とは言え、前回の恒星圧縮するときも使ったので変ではないか……
「はい。 これまでよりも大規模なエネルギー回収ですので、専用船で拾い上げたエネルギーを変換するのにも多くの艦艇が必要です。 打撃艦隊から武装を一部取り除いて資材変換を行う必要があります 」
「なるほどね……、準備にかかるエネルギーと時間は?」
「エネルギーはほぼ一日分、必要な時間は艦船工場をフル稼働させて6日です 」
「いいんじゃないかしら? 今度は中性子星観光ね!」
「わ、わかったわ」
「お、おぅ」
タマミちゃんとラングがちょっと引いているが、気にするつもりはない。
「かしこまりました。 それでは準備に入ります 」
軽く伸びをして、飲み物を一口。
グルンフィルステーション到着まで何をするか決めよう。
「ステーションの方は後どれくらいだっけ?」
「到着までは1時間と少しですね 」
「そう、とりあえず休憩にしましょう。私は……そうね……少し体を動かしましょうかね!」
「ぉ、じゃ俺も艦長と一緒にトレーニングします」
「私もご一緒しまーす」
「たまにはゆっくりしててもいいのよ?」
「色々できることが増えるから楽しくて、な!」
「そうね。何と言っていいか分からないけど、心が軽いんです。なんでもできる感じ?」
「うんうん」
何か二人で納得しているようなので、そのままにしておこう。
何かワーカーホリック的な危なさも感じるが、やる気に満ちているのを止めることも無い……かな?
「じゃ、エンジュ、案内よろしく!」
ユークレアス艦隊はもう少しで、クィーンバタフライ号をワープアウトさせるポイントまで来た。
途中、戦艦がクィーンバタフライ号のビーコンを出した時も、ステーションに変わった反応は起きなかったので、ユークレアス艦隊は予定通りの航路を飛行中だ。
私たちは、エンジュのメニューに従って基礎的なメニューで汗を流した後、軽くシャワーを浴びてさっぱりしている。
艦橋でゆったりしていると、ミルアさんも艦橋に入ってきた。
「あ、みなさん私だけ休ませていただいてスミマセン」
朝の超絶、体調不良といった雰囲気はなく、耳の色も血色のいい綺麗なピンク色になっている。
「気にしないでいいわよ。ここからはある意味、あなたが主役だからね!」
「ぇ、私ですか!? ユメさんが仕切るんじゃないんですか?」
ミルアさんが一歩引いて、構える。
そんなにおかしなことを言ったつもりは無いのだけどな……
「まずは、クィーンバタフライ号の船長として、ステーションに挨拶しないといけないでしょ。その後は、向こうの出方次第だけど、私は出しゃばらないつもりよ」
「そ、そんなぁ……」
へなへなと力が抜けてしまっている。
「まぁまぁ、そんなに悪いようにはならないから気楽にやって頂戴」
「通信に出るだけで、倒れそうですぅ……」
「艦長は結構無茶ぶりするからな~」
「私たちもだいぶしごかれている気がするわね」
ラングとタマミちゃんが、小さい声で話しているが丸聞こえだ……
「絶対助けてくださいね……絶対ですよ……」
「はいはい、大丈夫よ。あと、エンジュは非実体モードで同行、でよかったかしら?」
これも打ち合わせ済みの内容だ。船に残っている感を出すために一人減らすのと、何かあった時に突然現れて救援すれば相手の意表を突くことができるという作戦だ。
「はい。 皆さんは私がいるように話すことができますし、周囲の状況もモニターしていますから、そうそう危険な事にはならないと思います。 あと、ミルアさんの装備はいかがいたしますか?」
「そぉねぇ……いきなり仲間になっている宣言をしない方がいいと思うから、いまの恰好でいいかしら? 同じ人数で出て行って、ミルアさんが出てきていないようにも見えるのも困るしね」
ミルアさんが着ているのは、昨日着ていた連邦の服だ。
予備なのか昨日のをそのまま着ているのかは分からないけれど。
「私もそれで大丈夫です。この服で出ます」
「では皆さんは、昨日の潜入装備に変更しますよ。 軽くジャンプしてくださいね 」
3人がそれぞれのタイミングで軽くジャンプする。着地するときには昨日の装備に替わっている。
「ぇー、なんですかそれ! 便利すぎませんか! どれだけエネルギー使ってるんですかそれ……」
ミルアさんの表情がコロコロ変わるのが面白い。動画とか取っておこうかな……
「まぁ、早めにこの船の常識に慣れちゃって頂戴。準備完了かしらね?」
「そうですね。 それでは、クィーンバタフライ号の艦橋に移動しましょうか? 」
「そうね、やって頂戴」
ポーン 『 存在確率ジャンプを実行します。 4名転送。 』
光の粒が上に向かって消えて行き、目に入る光景はクィーンバタフライ号の艦橋になる。
「じゃあ、まずはクィーンバタフライ号を戦艦から出すわよ」
「緊張してきました」 とミルアさん。
「まだ早いわ。もう少し落ち着いて座ってていいわ」
「戦艦のハッチを開けます。 ビーコン発信切り替え完了。 ワープアウトまで後約10分です 」
「えっと、戦艦の位置は?」
「クィーンバタフライ号の1000km前方に相対速度0で配置します。 ステーションが近くなったらステーションから距離1万kmの地点で先に停止します 」
「戦艦とクィーンバタフライ号のワープフィールド分離完了。 戦艦、隠蔽状態に入ります 」
「ワープから出たら、ミルアさんは通常の入港手続きをしてみてね」
「分かりました。ユメ艦長」
艦橋の緊張が徐々に高まっていくのが分かるが、いかんともしがたい……
ワープアウト直前にはみんな息をするのもできないくらい張り詰めてしまった。
これはイカン……
「はい。みんな、深呼吸!」
無理やりブレイクしてみる。
「何か凄い苦しかったな……」 とラング。
「そうね……」 とタマミちゃん。
「スイマセン。私が、緊張しっぱなしだから……」
ミルアさんがまだ固いな……
「はい、はい。そこまで。もう一回深呼吸したら、そろそろワープアウトよ!」
全員で深呼吸して、みんなの緊張が少し下がる。
ベストとは言えないが、まぁこれなら何とかなるだろう……たぶん?
「クィーンバタフライ号ワープアウトします 」
中性子星からのエネルギー回収の艦艇数を調整しました。(関連する部分の表現も順次変更しています)
内容が変わらない範囲で、背景描写やセリフ回しを変更しました。文章量的には大きく変えたのでメモを残しています。(2024/11/02)
お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
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