004 - エンジュファ
ッピ 『 指示または質問の意図が不明です 』
エラー的な返答をされてしまった。さてこの後どうしよう。とりあえず、もっと情報を集めなければ……
ッピ 『 艦長にはたくさんの疑問があると思いますので、相談や身の回りのお世話をするインターフェースを準備します 』
「あら、あなたが全部対応してくれるわけじゃないのね?」
ッピ 『 対応は可能ですが、推奨されておりません。私への指示は基本的に即時実行となります。場合によっては武器の使用や、環境変更等、危険を伴う場合がありますので、細心の注意を払って指示をお願いします。過去には冗談で言ったつもりで有人惑星を一つ消滅させた事例もあったようです 』
そ、それは……
ポーン 『 艦内セクレタリー[エンジュファ]を起動します 』
「はーい艦長! 初めまして、セクレタリーの[エンジュファ]です。 呼びにくかったら『エンジュ』でも『エンファ』でも大丈夫ですよっ。 これからなんでもお申し付けくださいねっ 」
光の粒が集まるようにして出てきたエンジュファは、元気いっぱいといった感じで挨拶をしてくれた。けどこれもコンピュータ? AI? NPC? なのよね……?
そして、その出現から見ているはずなのに、すでに人と見分けがつかない存在感でそこにいる。めちゃめちゃカワイイ! でも少し違和感が……?
「よ、よろしくお願いします」
エンジュに軽く頭を下げる。
会釈を返してくるエンジュの頭の上が見える。犬耳だ!
改めて顔を見ると、人に近いようで、少し違う。横から見ると鼻のあたりが全体的に高くなっていて、犬の雰囲気がある。
じろじろ見るのもよくないと思いつつ、顔や手足、洋服を見てしまう。
年齢的には小学生を超えて中学生になったばっかり、という雰囲気で、背は私より少し低い。手足は細いが、華奢というほどでもない。そんな体をライトグリーンのスーツがぴしっと包み込んでいる。印象的には、元気な子が少しおませな恰好をしていると言ったら悪いだろうか……?
「わたくしめには、丁寧な言葉は不要ですっ。 初めて艦長となられました 神無月 結命様には新任艦長講習が義務付けられておりますので、準備ができ次第お声がけくださいませ 」
開口一番で講習会とか、新入社員の研修かっ! まさか異世界に来てまで研修を受けることになるとは……
「分かったわ。よろしくね……エンジュでいいかしら……」
「はい。 もちろんです。 えっと……講習はあとでゆっくり行うとして、まずはメインコンピュータから引き継いだ仕事、艦長の疑問にお答えするコーナー行ってみましょう~ 」
か、軽いなぁ……まぁこれくらいの方が、気が楽かな…… "失言一つ" で文明消滅とか笑えない。
「その前に、まずはこのリアルプロジェクションインターフェースを終了しましょうか 」
ッピ 『 リアルプロジェクションインターフェース「神託の巫女」を終了します 』
抑揚の少ない音声に続いて、目の前の光景が淡い光となって上昇しながら溶けていく。残されたのは私とエンジュ、あとは手に持った杖、そして周りは体育館のような広い空間と艶の無い銀色の壁だけの様だ。
「とは言え、このままでは殺風景すぎますね~。 うーん、応接室で行きましょうかっ 」
ポーン 『 リアルプロジェクションインターフェース「外交用応接間 小」を開始します 』
周りに光の柱が立ったと思うと、壁、調度品、テーブル、ソファー、絨毯が下から絵を描くように出現する。どれも高そうだし、ソファーは柔らかそうだが、実際に座れるのだろうか……?
一歩を踏み出すとその感触はまさに分厚い絨毯。本物だ。
「最初の草原もすごかったけど、これもすごいわね! 実物ではないのでしょう?」
「詳しく話すと結構時間が掛かりそうなので、その辺はあとにしましょ。 まずは、こちらにお掛けくださいね 」
恐る恐る、ソファーにゆっくり腰を下ろすと、その感触は極上。埋もれるような下品さはなく、しっかりとしたサポートで腰を支えてくれる。肘掛けにあたる部分も木のような材質で、滑らかで冷たい感じがしない。
さっきまで何も無かったところに突然できたものとは思えないクォリティーだ。
エンジュが説明用のポジションに移動する。
あ、しっぽがある!
「まずは何から説明しましょうかっ 」
「そーねー。まずはこの船に関して教えて頂戴。座っちゃったけど、あとで艦内を案内してもらえると助かるわ」
「それでは、まず船首部分からご紹介しますねっ。 こちらが船首部分の外観になります 」
目の前のテーブルの上に斜めになった空間ディスプレイが現れる。そこに移っているのは鈍色で流線型の美しい宇宙船だった。よく見るとディスプレイは3D表示となっており見る角度で見え方が変わる。
「かっこいい……」
「こちらのここが現在位置です。 先ほど見ていただいた体育館のような空間、多目的ホールになります 」
1 mほどの立体映像に、先ほど見た体育館ほどの空間が赤く豆粒のように表示されている。3D表示なので船の中の大体の位置もわかるが……あの空間がこのサイズってことは……
「縮尺を入れられる?」
「はい。 今表示したのが1 km四方の箱になります 」
自分の握りこぶしよりも、ひと回り大きい箱が表示された……
「これって、全長15 km……ってこと?」
「いえ……ここは船首部分ですので……全体像はこうなります…… 」
先ほどの映像がするすると小さくなり、先ほどの宇宙船の後方に黒い球体が現れる。
全体像が見えた時には、最初の流線型の船は米粒のようになってしまった……端的に言ってボール……棘のついたボール……
「丸ね……かっこ悪……」
ぼそっと出てしまった言葉に、
「ですよね~ 」
エンジュもそう思っているのか、力なく同意してくれる……
「でも、でも実力はすごいですよっ。 そこは保証しますっ 」
「で、実際の全長はいくつなの?」
「はい、球体部の直径が360 km 船首部が16.4 kmであと、球体部の突起を大雑把に入れて、およそ378 kmですっ 」
380 kmの船……完全にアニメの世界ね……デ〇・スターも真っ青だわ……
「これ、動くんでしょうね。動いたらバラバラになったりは……」
「そんなわけないじゃないですかっ。 構造強化フィールドと、マルチプル重力制御で、浅いところならブラックホールからでも脱出可能ですよ 」
さらっとすごいことを聞いた気がした……
「ついでに言うと、慣性質量低減システムにより常用加速度は2400G、これによりワープ可能な光速の10%までの時間は20分強です。 そして、ワープ航法及びジャンプ航法可能です。 追加装備で単独銀河間ワープが可能になります 」
銀河間とか……考えない……考えない……
「じゃ、移動はいいとして、武器は? 兵装っていうの?」
「当然各種揃っています。 ただ…… 数と種類が多いのと、それぞれの安全等を考えると新任艦長講習でしっかりと学ばれた方がよいと思います 」
「そうね、じゃ、そっちはその時に。あとは……防御は?」
「こちらも、各種揃っています。 基本的には自動防御ですので、そんなに気にする必要はありません。 こちらも新任艦長講習の必須事項ですので、あとでしっかり学んでくださいね 」
「うーん。じゃあ……この船の元の持ち主は? あと、私の立ち位置的なところを教えてちょうだい」
「はい、この船の持ち主は皇帝陛下になります。 管理主体は帝国政府となりますが、帝国政府はおよそ約5200年前に崩壊しました。 現在も皇帝陛下が存在する場合、持ち主と認められます。 ただし最後の命令に従いまして、特権提督の権限を剥奪するには、皇帝陛下の最上位認証コードが必要です 」
「皇帝陛下が生きている可能性はあるのかしら?」
「この場合の皇帝陛下は、個人とは限りません。 特定の遺伝子コードセットを強く持っている方、またはその方を含む、その集団の長となります 」
「それはちょっと厄介ね。ま、あとで考えましょ……」
「現実問題としては、皇帝の血族は帝国の崩壊とともに失われたと推定されます。 従いまして所有権第2位の結命様がこの艦を所有し、特権提督として管理していただいて問題ありません 」
さすがに話題が重いと、軽口も減るみたいね……
なかなか優秀なAI……というか軽く人を超えていそうね……
「じゃあ、次に……ここはどこかしら? 船の外の話ね」
「はい、こちらをご覧ください 」
ディスプレイに示されている絵が変わり、銀河系が映し出される。縮尺もついているとは丁寧な仕事だ。
どこかで見たような銀河系と、基本的な形は同じだが、腕の形がはっきりしていて、どことなく自分が居た銀河系ではない気がする。
「こちらは、第6支配銀河となりますっ。 このスケールの絵ではあまり大きな差は出ませんが、これからお見せする位置関係は、本艦が封印される直前のデータベースによるものです 」
「第6?」
「はい、帝国の6番目の支配銀河です。 この、第1腕の中央付近が現在位置となります 」
銀河系を6個……もしくはそれ以上とか……どんな巨大帝国だよ……そりゃー銀河系間を移動する方法があるわけだわ。
説明のためか、その現在位置の周辺が拡大される。
太陽を中心とした恒星系だ。惑星が複数あり、かなり外側にマーカーがある。
「こちらが、この第6銀河を治めた中心星系で、現在位置はこの第8惑星の衛星軌道上となります。 かつては、この星系の第3惑星がこの銀河の中心でしたが、約5100年前に生物兵器が使用され惑星住民は激減、その後も続いた動乱と遺伝子的な劣化により、現在の文明レベルは4-0で星間国家と呼べないレベルとなっているようです 」
「今でも住民はいるの?」
「はい、現在センサーの調整を行いながら観察しておりますが、およそ10億人の黒犬族、23億体の大型動物が生息しています。 状況的には、艦長の故郷の産業革命直後の文明レベルと考えるとよいかと思います。 しかし…… これを黒犬族と呼ぶのはちょっとアレですね…… 」
「どうしたの?」
「外見的特徴がかなり変わってしまっています。 簡単に言うと、先祖帰りといいますか…… 」
「あ~なるほどね……って見えるの!? この距離から!」
「はい、まだセンサーが本格稼働していませんが、個体を絞れば外見を抽出することも可能です。 だいぶ粗い映像ですが見てみますか? 」
「お願い」
「了解しました。 静止3Dとして投影しますね 」
目の前に2体の直立した犬が現れる。ちょっと画像が荒いが確かに知的生命体っぽい。なにせ服を着ている。あと、エンジュよりは顔の奥行きが大きくなって鼻も高くなっているのかな? さっきの説明からすると、犬に戻りつつあるのかな? ちょっと可愛いかも。
しかし、これだけ離れているのにこんな映像が見えるとは……
「彼らと話すことはできるかしら?」
「えーっと、帝国艦隊規約および、帝国環境保護条例では文明レベル6-0未満、つまりワープ不可能な文明との接触は禁止されていますが……特権提督は一応これらには縛られないことになっています。 どうしますか? 」
「なら仕方ないか。無理にすることでもないしね」
「はい。 そろそろ、いい時間経ちましたが、そろそろ休憩にしますか? 」
「そうね、じゃ最後に私たちの目的地を教えてもらえるかしら?」
「あー、あの個人文化パッケージにあった怪しいファイルの中身ですね…… 」
怪しいって……
「容量は小さいくせに、何重にも暗号化が掛けてあって、そのくせ解凍方法も復号キーも教えてくれるっていう……嫌がらせとしか思えないファイルなんですよ 」
「それは確かに……ひどいというか……」
「サブ演算ユニットに計算させていた結果が、今でました。 とは言っても出たのは座標ではなく、エリアですね…… 現在の演算ユニットではこの先の計算は無理そうです。 これを解くにはべらぼうな時間掛けるか、支援装備を取りに行くしかありませんね…… 」
「あー、『彼』からもそんな話を聞いたわ。装備を集めて奈落に行けって」
「とりあえず出たエリアをプロットしますね。 ずいぶん広い領域を示していますねぇ…… 」
先ほど星系を示していたマップ表示がグングン小さくなり、第6銀河も小さくなっていく。
と、赤い半透明の領域が右から小さく映り込んできた。小さいといっても第6銀河と同じようなサイズなので銀河が目標らしい。
「ここまで来たら、過去の帝国版図を表示しちゃいますね 」
さらに表示はどんどん小さくなり、7個の銀河系(?)が青い半透明の領域に入っている状態で止まった。
6個の銀河系はかなりいびつな6角形を形作っており、その中心よりちょっと右に赤い領域がある。
「これが、帝国の最大版図です。この後各銀河はバラバラに支配権が乱立し、混乱の時代に入りました。 今回目標として出たのが赤い領域に含まれる銀河、通称「第0銀河」、正式名称は「ガルーダ銀河」です。 帝国末期に超大型相転移実験炉に対して大規模なテロ行為が行われた結果、銀河系全体がVoid時空間断裂状態となり、内部進入が事実上不可能になりました 」
テロで、銀河系が一個ダメになるとか……規模が違いすぎて頭が痛い……
それよりも、そんなところに入るのか?
「行けるの?」
「外縁部までは当然可能です。 内部進入も通常空間は移動可能ですが、Void時空間テクノロジーでの移動ができません。 奥に行くのは難しいでしょうね…… 」
「装備を揃えて、行ってみるしかないか……」
まさか、入れませんとか、詰みです。とかはないでしょ……指示通り行けば……
「ところで装備だけど……」
「艦長! 緊急事態です! 」
「え!?」




