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035 - 古戦場観光

「艦長! 面白そうね……じゃありません! 光る艦隊はダメですよ! 危険が危ないです! もうおなか一杯です!」

 腰に手を当てたタマミちゃんがた、真っすぐこっちを見て口元を膨らませている。

 タマミちゃんの本気(マジ)が伝わってくる。

 

「わかってるわよ。危ないのは無しね。でも、幾つかは確認させて頂戴ね。まず、生存者はいない?」

 私に言われて、ハッとしたタマミちゃんがコンソールに向かう。


「えっと……センサーが全く通らないので内部の状態は不明です。エンジュさんなんとかなります?」

 タマミちゃんが振り返りながらエンジュに助けを求める。


「センサーで測定しなくても内部の状態は推定できます。 先ほどの推定が正しければ、ですが、各艦の内部は致死量を超えた放射線にさらされています。 厳密に言うと “まだ” 生きている可能性はありますが、助け出す手段も方法もありません 」


「あと何万年もこのままなのか?」


「中の人にとっては一瞬です。 我々にできることは何もありません。 彼らを憐れむのであれば、祈ってあげてください 」

 祈るAIか……これだけメンタリティーが近ければ、祈るのも不自然ではないが、AIが祈りを勧めるとは……


「そうね……じゃあ、みんなで少し黙祷をしましょう」


【……】




「これは、相手からの攻撃なのよね?」


「はい。 具体的な手段は分かりませんが、時間遅延系の攻撃だと思われます。 艦隊が爆発しかかっているのは、別の攻撃と推定されます。 いくつかの攻撃を同時に仕掛けられた可能性が高いですね 」


「この攻撃をされたら対応できる?」


「……何とも言えません。 我々の兵器リストには無い攻撃ですので、帝国末期に開発された兵器だと思われます。 初見で防御に成功するのは極めて困難です 」


「なるほどね……とりあえず取れるだけのデータは取っておいて頂戴」


「かしこまりました 」

 見回すと、ちょっとしんみりした空気が漂っている……

 カラ元気でも無いよりはいいだろう。


「よし! それじゃあ、一周回って主戦場に戻るわよ!」


【アイアイマム!】




 光る艦隊を中心に船の残骸をよけながら一周する機動を取る。

 予想通り、M(magitoron)P(粒子)が高い密度で存在しているようだ。手に流れ込むエネルギーの流れが少しだけわかる。気分はMP掃除機だ。


「艦長、マザーシップのエムニウムコアを発見しました。 確保した方がよいかと思います」

 分艦隊古戦場を半周ほどしたところでエンジュが報告してきた。


「それって、足りないって言ってた修理素材?」


「はい。 相転移炉の炉壁、時空円環の構成素材、艦隊作成の希少素材として必須の素材です 」


「それは、何としてでも確保したいわね! 持って帰ることはできるの?」


「はい。 それほど大きくありませんので、収納は余裕です。 ただ、現状では周りに残骸…… 元の船の構造物があり、一体化していますので、切り離す作業が必要になります 」


「問題は、あのおっちゃんになんて言おうかしらね……」


「気にせず回収してしまってもいいと思いますが? 元々帝国の物ですし…… 」

 エンジュからしたら、過去の落とし物、くらいの認識か。

 ジンさんから見たら、仕事場でお宝を拾っていく部外者ってところかしら。


「一応、現在は彼らの支配地域なわけでしょう? いきなり敵対関係にはなりたくないのよね」


「それでは、交渉を持ち掛けてみますか? 先ほど目ぼしいものは残っていないと言っていたので、価値がわかっていない可能性もありますが 」


「ちなみに交換するとして、どれくらいの価値があるのかしら?」


「そうですね。 純粋に対等な交換でしたら、武装を満載した戦艦を差し出しても足りませんね 」

 先ほど軍艦を出すのに苦言を呈したエンジュとは思えない発言だ。

 ちょっとウィンクしてくるのが憎い。

 それくらい欲しい素材ということか……


「それはダメなんじゃないの?」


「その通りです。 が、こちらとしてはそれくらい払っても手に入れたいものです。 まぁそんなものを配っていたら、このあたり一帯のパワーバランスも経済も滅茶苦茶になってしまうのは明白です。 なので、上手く欲しいものを聞き出すか、便宜を図る辺りが落としどころでしょうか。 艦長の手腕に期待しますよっ! 」


 なんという無茶ぶり……

 まぁやったりますか!


「私に任せなさい!」

 胸を叩いて見せるが、みんなの顔には一様に心配が張り付いている。

 自信なくすわぁ……


「まぁとりあえず、通信を開いて頂戴!」


「了解!」




 ワイバーンの艦長はどうやら作業に没頭していたようだ。少し不機嫌な感じで通信に出てきた。

 それでも、こちらの要望を伝えると多少興味を持ったようだ。


「それで、お前さんたちは何でその部分が欲しいんだ?」


「それなりに希少な素材だからよ」


「これがか? 主成分は鉄で……後はまぁ希少な超重元素は含んでいるみたいだが、お前さんたちが欲しがるようなものには見えないんだがね。ところで、他にも有ったらそれも望むか?」


「あるの?」


「ん~、たぶん……だな。ただ、これまでその部分を欲しがる奴は見たことがない」

 ジンさんの視線が左上の方を泳ぐ。これはたぶん持ってるな……


「で、どう? これは貰って行っていいかしら?」


「あぁ、いいぞ。そのくらいならだれも気にしないだろう」


「ありがと、ジンさん! じゃ、エンジュもらっていきますか」


「はぁ…… 艦長、もらっていきましょうか、じゃないですよ。 駆逐艦には乗らないですからね。 それ 」

 あぁ、そうかジンさんに見せているのは工作艦だけか…… 

 そうだ、MPが増えていたはずだ、残骸を収納できないだろうか…… 


<収納>

 ん、マーカーが出ているように見える。

<実行>

 あ、できた。できた。


「うぉ。残骸が消えた……? どう見てもその船よりでかいだろ……その残骸全部持っていけるのか……?」


「まぁね!」

 周りの視線が少し痛い……


「どんだけ便利なんだお前ら……まぁ俺は作業に戻らせてもらうわ……気をつけてな」

 後ろを振り向きながら頭を振っている映像で通信が切れる……

 メンタリティーが近ければ「あきれた」という様子だが……

 まぁたぶん誤解はなさそうかな……




 残骸を回収後は分艦隊の古戦場を一周し、古戦場へ続く回廊の入り口に戻ってきた。

 中心にぼんやりと光る艦隊があるだけで、他には有象無象の残骸ばかりだ。取り立てて見るものもなく、あっさりと戻ってきてしまった。


 ただ、収穫としては非常に大きかった……と思いたい。

 MPは36.6%まで回復したし、まだ取り出せていないとは言え、エムニウムコアも手に入った。


 ちなみに、ジンさんはまだ作業中のようだ。一声かけて、古戦場の方に移動する。


「ワープ……でいいのよね?」


「はい、先ほど修復しましたから、帰りはワープで帰れますね 」


「目標、古戦場。ワープアウト座標は分艦隊の古戦場入り口にセットしまス」

「ユークレアス分艦隊、ワープフィールド共有完了! Void時空間回廊のデータセット完了しました」

「ワープ準備完了しました」


「では、ユークレアス分艦隊、古戦場に向けて発進!」


「ワープ開始。……ワープフィールド正常。ワープ加速度正常。艦隊行動に問題なし。目標までの距離0.2光年、到着予定は30分後でス」

「航路内の危険物は……確認できません。Void時空間回廊を逆にたどります」


「到着したら、古戦場を観光よ!」


【了解!】




 古戦場の恒星は相変わらずドーナツ型で鈍く赤い光を放っており、残骸は暗く赤い色で照らされている。

 古戦場に戻ってきた私たちは、残り3/4の領域に向けて低速ワープで回遊を開始した。

 動き始めて少しして気が付いたが、サルベージ業者が数隻活動してるようだ。

 ここはあまり派手なことはしないでおこう。


「見て見て、惑星かと思ったら、要塞と艦隊の破片が雲のように固まっているわよ」 とタマミちゃん。

「こっちの恒星中心にも何かあるみたいだぞ。要塞の一部だったもの……か?」 とラング。


 二人はセンサーを色々調整しては色々発見して楽しんでいる。


「あ、この小惑星全部水……というか氷の塊ね」

「こっちのは全部鉄だってさ。見ろよ。すごい丸だぞ。何で鉄の塊が浮いてるんだろうな…… 」


 たまに物騒なものがあるのは、古戦場だから仕方がない……


「あ、人型の……ミイラみたいですね……」

「うぉ、なんか危険エリアって出てるぞ。重力断層ってのが致死量?高重力源……?」


「まぁ近寄らないようにしましょうね 」

 危なそうな時は、エンジュのフォローが入るので安心だ。


「「はーい」」


 MP残量も移動と共にじわじわと回復している。すでに45%を超えていて、このままなら60%は行けそうだ。


「こんな移動でもMP回収できちゃうのね……」


「Magitoron粒子は薄いワープフィールドに包まれていますから、常時ワープ状態といっても過言ではありません。 このワープ速度なら問題なく回収可能です。 加えて、艦長の持っているエムニウム結晶は通常のエムニウム合金と比較して、吸引・吸収効率が桁違いに高いようです。 アルクタクトではこの短時間で同じように回収するのは困難です 」

 益々もって、吸引力の変わらない掃除機……だな。 


「MPはまたここに来れば回復できるのかしら?」


「いいえ。 今回ので大部分は回収してしまったと考えてよさそうです。 基本的には供給源が無いと思われますので、次回ここにきても、大幅に増えることは無いかと思われます 」


「そう……じゃあ、増えたといっても無駄使いはできないわね……」


「そうですね。 アルクタクトに戻ったら使い方を相談しませんか? その、修理とか…… 」

 珍しくエンジュが遠慮気味だ。

 ペタンと耳を伏せた姿が可愛らしい。


「そうね。そうしましょう」


 回遊したり、止まって定点観測(観光?)したりしている間、エンジュも色々とスキャンしていたようだが、希少素材(エムニウムコア)は見つけられなかったようだ。

 サルベージ業者に見つかるのも避けたい上に、センサーを乱す物が散乱している場所では仕方がない。


「ジンさんは誰も欲しがらなかったと言っていましたが、この領域にはエムニウムコアは残ってないようですね 」


「それは確かなの?」


「確実とまでは言えないですが、少なくとも塊では残ってなさそうです。 元々、艦を放棄する際には、重要機密エリアはVoid空間に捨てら(パージさ)れますから、なくても不思議はないのですが…… 」


「まぁ無いものはしょうがないわね。さぁ、古戦場の入り口を修復して、ステーションに戻るわよ!」


【アイアイマム!】

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