032 - ワイバーン追跡
「ぉ、タマミこれ見てみろよ」
「ぇ、なになに?」
ラングとタマミちゃんが、半円形のステーションに入って何かを見せ合っている。
「5000光年先のあたりを光学望遠鏡でみたら、キラキラした所見つけたぞ」
「あ、ほんとだ。いろいろな色に輝いているわね」
ラングが何か面白いものを発見したらしい。
「え、どれどれ?私も見たいわ」
「あ、じゃメインスクリーンに出しまス」
少しの操作の後、メインスクリーンに宇宙空間が映し出される。
その直後、暗い背景に円形に並んだ光の点が瞬く。
「ぉ~。確かに綺麗ね。あ! 今の花火みたいだったわね!」
「花火って何ですか?」 とタマミちゃん。
「あ~、あなたたちの世界にはなかったのかしらね。夜空に火薬を打ち上げで光らせると、星を背景に綺麗な花が咲くのよ。いずれ見せてあげたいわね」
「へ~。楽しみです!」
次の瞬間、さっきよりも強く大きい光が、より長い時間現れる。
色も途中で変わって綺麗だ。
「ぉ、今のはひときわ大きかったな! 何が起こっているんだろうな」
ラングが誰とは無しに投げかけた疑問にエンジュが答える。
「夢を壊すようで申し訳ありませんが、あの光は過去の戦争の映像です 」
「「「ぇ“」」」
「先ほどの花火のような光は、艦隊が全滅したところで、大きな光は要塞が陥落したところだと推定されます 」
「「「・・・」」」
ほのぼのした空気が吹き飛んでしまった……
「じゃあ、艦長が言っていた花火も危ないものですか?」
タマミちゃんが、恐る恐るこちらを振り向く。
「あー違う違う。そっちは、平和なお祭りよ。屋台が出て、美味しいものを食べながら見るのよ」
「お祭りと屋台は行ったことあるぞ。カエル肉串が美味しかったなぁ……」 とラング。
「私は鳥のはちみつ漬けが好きだった!」 とタマミちゃん。
二人は食べ物メインか。私は何だったか……
小学生の時の町内会の夏祭り? 高校の文化祭? あとは……
「私はチョコバナナとたこ焼きがお気に入りよ!」
うーん。The食い意地。
みんな一緒でいいじゃない。
「今日のおやつは屋台シリーズにしますか? 」 とエンジュ。
分かってるじゃない!
「いいわね!」
「「やったー!」」
「あ、艦長。ステーションで動きがあります。600mクラスの船が出港しようとしています」
タマミちゃんがステーションの変化を見つけたらしい。
「なになに?」
「あ、あれはワイバーン2ですね。 だいぶ古い船ですが、人気商船だった船です。 色々改造されているのは廃品回収用の装備のようですね 」
「それだけ古くてもちゃんと動くのね」
「結局、機械は手入れがすべてですから。 中身がどれほど残っているか分かりませんし 」
それをAIが言うのか……真理というか、物悲しいというか……
「名前は “ワイバーン” でいいですか? 該当船がステーションから離れます」 とラング。
「そうね。どうせ本当の名前はわからないし。あの船はワイバーンってことで」
「ワイバーンが旋回してヴぉど時空間だんらつ領域……に進路を取ったみたいです」
初めて出てくる用語は言いにくそうだ。
「古戦場って名前にしましょ。言いにくいでしょ」
「了解。ワイバーンの観察を続けます」
それから暫くして、ワイバーンが通常空間から消えた。
「ワイバーンが古戦場に向けてワープに入りました。マーカーがあるので現在位置は把握可能です」
ラングが引き続きワイバーンの挙動を観察してくれている。
マーカーは航海灯や航空灯のように、自分の位置を示す役割がある様だ。
「ちなみに、Void時空間断裂領域に入るとマーカーは見えなくなります 」
嵐に入ると見えなくなるようなものかな。
「マーカーを観察しても5次元迷路の地図は手に入らないってことね?」
「そうなります。 十分に接近すれば見えるので、追いかければ道案内してもらうことは可能ですが 」
ストーカーみたいね……でもちょっと追いかけるくらいならいいかな……
「まだ追いつける?」
「はい。 古戦場までは5光年もありますし。 まだそんなに離れてないですからね 」
「結局、行くことになるのね」 とタマミちゃん。
「艦長が言い出したら止まらないもんな……」 とラング。
よくわかってるじゃないの。
「よし。それじゃ艦隊を二つに割りましょう。追跡部隊とステーション監視部隊よ。追跡は高速巡洋艦5隻と工作艦5隻で残りはここで待機」
「戦艦はどうしましょうか? 」
「危険はあるかしら?」
「彼らが活動する領域はそれなりに安全だと思います。 戦艦があれば、もしもの時の突破力。 または大量の資材を輸送できる可能性があります 」
「それなら今回は置いていきましょう。そんなに深く入り込むつもりはないし、彼らの仕事場を荒らすのも本意じゃないから」
「了解しました 」
「じゃ、ワイバーン追跡任務開始!」
「「「アイアイマム!」」」
「……ねぇ。遅くないかしら」
「そうはいっても追い抜くわけにもいかないでス……よね?」 とラング。
「地図なしでは、この速度すら出ませんよ。 今でも9000c出ているんですから、気長に待ちましょう 」
追跡開始直後に追い付いてから1時間と少し、まだ0.5光年しか進んでいない。
一向に進まないナビゲーションを見て、少しイライラしていたようだ。
光速の9000倍と聞くと凄いと思えるが、普段より遅いと不満に思うとは、我ながら贅沢になっている……のかしらね?
「ラング、古戦場領域への突入予定時刻は?」
「ワイバーンがこのままのスピードを維持すると仮定して、22時10分です」
もう15時40分か……
作戦が日を跨ぐ日はいつか来ると思っていたけど、意外に早かったわね……
「そのころには、寝る時間ね……どうしようかしら?」
横に立つエンジュに振ってみる。
「古戦場の入り口といってもまだそんなにVoid時空間断裂状態がひどいわけではないですし、私が操艦しますから大丈夫ですよ。 一点、確認ですが、古戦場領域突入時は隠蔽を解除する必要があります。 よろしいですか? 」
「見つかるわけじゃないのよね?」
「ワープ中はおそらく大丈夫です。 ワープから出る前に隠蔽デバイスを再起動するのを忘れないようにしましょう 」
「わかったわ。その時は声をかけて頂戴。よし、じゃあラング、夕飯までに船を選びましょう。タマミちゃんは休む?」
「いえ、医務室で少しやることがあるんですけどいいですか?」
「分かったわ。気を付けていってらっしゃい」
「はーい」
艦長室に戻ってきて応接テーブルを挟んでラングと座る。
「さて、どうやって選ぼうかしらね?」
テーブルの上には、色も大きさも様々な船が立体映像で並んでいる。
「俺は、かっこよくて強いのがいいな……でもそれだと戦艦になっちゃうか……」
少年のようにはにかむラングがかわいい。
「ちなみにカタログには基本モデルだけで、約12万船が登録されています。 当時の最新モデルから選ぶとしても5千船くらいの候補がありますね 」
「なんでそんなに沢山あるんだ?」 とラング。
「用途によってかなり細かく分類されているのと、サイズ違いがあるので意外に数が増えますね。 後は、皇族や高官の趣味で建造された船も種類を増やしている原因の一つですね 」
あ~、俺だけの……とか、俺専用とかが大好きな人達だものね。偏見かもしれないけど。
「偉い人の船ってどんなのだ?」
「何隻か出してみましょうか? 」
と言って目の前に3D表示された船たちは、優美な造形の中に棘がある感じの船が多い。
「これいる?」って聞きたくなるような突起物や張り出しが随所に散りばめられている。
「うーん。かっこいいと言えなくもないんだけど、これ要らないんだよなぁ……必要なのかなぁ……」
ラング、あんたは正しい!
「ちなみに、この船とか作っちゃっていいの? 偉い人の船なんでしょ?」
他にも意匠権とか、特許とかありそうだけど……
「かまいませんよ。 艦長は皇帝に次ぐ特権を持ってますし、そもそも権利も消滅、または主張する人がいませんからね。 一応、歴代皇帝の御座船だけは建造できないと思ってください 」
「ま、それもそうか……横道にそれちゃったわね。まずは目的を決めて数を絞ってみましょうか」
「目的ってなんだっけ?」
ラングが首をひねる。
「えっと、許可が取れたとして、この宙域を航行しても怪しまれない船……がいいわね。4人が乗っていて不自然じゃなくて、軍艦のように威圧する感じじゃなくて、大きすぎない船?」
「で、かっこよくて、強くて……」
ラングの指が増えながら立っていく。
「あと、早い船! あのワイバーンと同じ速度とか勘弁してほしいわね!」
「艦長、該当する船がありません…… 」
あらら、条件が厳しすぎたか……
「そもそも条件が矛盾していますよ…… 怪しまれないけど、かっこよくて強そうな船ってどんな船ですか…… 2隻作ってもいいですからそこは分けましょう 」
エンジュが少々呆れ顔だ。
「じゃあ、まずは私の要望の方からでいいかしら? ラングは別のスクリーンで適当に見ててもいいわよ」
「ん~、みんなで乗る船だから俺も見てるぞ。選び方もよくわからないしな」
「おっけー。じゃ、まずはサイズで絞ろうかしら? あのワイバーンよりは小さい方がいいかしらね?」
「そうですね。 あれは小型商船ですから、あれより小さければ威圧感は出ないと思います 」
「あ~、でも工作艦よりは大きいのか……工作艦より小さい方がいい?」
「そうですね。 民間の船で、商売でもないとなると200~400m級が適当なところでしょうか。 機関部と情報システムと居住スペースだけの船になりますね。 機関部を大きくすると船が大きくなって、そのまま速度が高くなるイメージですね。 スクリーンに出しますね 」
テーブルの上に3×4の並びで船が表示される。
「ぉ、カッコイイじゃん。赤とかもいいなぁ……この形もいいなぁ……」
ラングの目の色が変わって、熱心に覗き込んでいる。
「ただ、この手の設計の船は贅沢品に含まれるので、目立つんですよね…… 」
「ラングを見れば分かるわね」
エンジュと共に自然に笑みがこぼれれる。
「一応、贅沢品に含まれる関係で、最高速度も比較的高めに設定されています。 とはいえ、軍艦には及びませんが…… 」
「この中で一番早い船はどれ?」
「この赤い船ですね。 最大巡航速度は8万cです 」
たしか艦隊の巡航速度は10万cだったはずなのでその8割か。形も所々に流線型の装飾があり、優美な雰囲気がいい感じだ。
「いいんじゃないかしら? どうラング?」
「ぇ。これ作るのか。かっこいいし、乗りたいけど……すごく目立たないか?」
ラングが急に冷静になる。
さっきまでノリノリだったのに、少し裏切られた気分だ。
「逆に考えるのよ。目立たない為だけに、あのワイバーンに乗りたい?」
「あれは、あれで、ゴツくてカッコいいと思うんだけど……」
「あと、ビーコンつけて飛ぶと余計目立ちますよ? 速度的に 」
「ん~、じゃあ移動中はビーコン隠して……っていうのは?」
「本気ですか? それならいっそ軍艦でいいのでは? 」
ぅ“。
鋭いツッコミね……
「軍艦じゃ入港できないかもしれないでしょ。それに、相手の油断を誘えるから、民間船というとことろに意味があるのよ! 次はラングの番よ!」
その後、ラングが探検船カテゴリーからほぼ同じサイズで、最大速度7.2万cの船を見つけて、その船も作ることになった……
探検船なので速度が控え目になっているが、替わりに探査系センサーやシールド系が強化されているらしい……。
おかしいな、私が実用的な船を選ぶはずだったのに……
どうしてこうなった?




