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029 - ネタばらし

「え? っえ? 私死んだんじゃないんですか? ……クィーンバタフライ号は? そもそもここはどこ……?」

 さぁ、ネタバレのお時間だ。ミルアさんの色々な顔を見せてもらおう。


「まぁ落ち着きなさいな。ここは、救助船の中よ。最初にあった怪我も、もうだいぶ良くなったんじゃない?」

 ミルアさんの腕にあった、濃い目の痣がもう消え掛かっている。

 最初は怪我が治ったかどうか確認してみよう。


「あ、はい。腕も、脇腹ももう痛くありません。大丈夫です。ってゆうか、ここ船の中なんですか? どう見てもどこかの惑星上ですけど……」


「この環境はホロルームの中よ? あなた達にも同じような技術があるのではなくて?」


「ないことは無いですが……ここまで現実と区別がつかない環境にはなりません。あなた方はいったい……?」


「まぁ通りすがりの救助者ってところね。近くで救援信号が出てたから」


「それは、ありがとうございます。ということは、連邦の関係者では……」


「ないわよ」

 見る見るミルアさんの顔が曇っていく……


「え。じゃあやっぱり私は捕らえられて、捕虜かなにかに……」


「待って、待って。なんでそーなるのよ」

 そこからの話はミルアさんが混乱したのもあって、少し分かりにくかったが、エンジュの補足を加えると、おおよそ以下の感じの様だ。


 まず、救助が連邦やその関係者の手によって行われた場合は問題ない。関わった者同士で多少の金品(エネルギーや希少鉱石のことが多いらしい)のやり取りは発生するが、基本的には相互扶助の精神で解決する。

 他の勢力の手によって行われた場合は、状況によるが、かなりよろしくない状況になることが多い。特に難破船に近い場合は鹵獲されて、身柄も基本は拘束される。運が良ければ星間使節団による外交で交換解放されることもあるが、強制労働や研究材料にされて命を落とす例も、枚挙にいとまがない。

 敵対勢力や未知の文明の手によって行われた場合は、もう帰還は絶望的で、大体において船も船員も解析対象になってしまうらしい。


「だから、船が直り次第、あなたはいつもの生活に戻ればいいのよ」


「いいんですか……その、何も出せませんが……」

 本当に申し訳なさそうだ。


「気にしない気にしない。ファーストコンタクトは友好的な方がいいでしょ?」

 そう言って笑いかけると、ミルアさんの表情が柔らかくなった。


「あ、それで船は?」


「えっと。エンジュ?」


「はい。 クィーンバタフライ号の状況ですが、破損個所の調査は完了しています。 許可があれば、いつでも修理可能です。 現在はメインパワーが落ちていますので、ソフト的な破損は不明です。 こちらも許可があれば調査することは可能と思います 」


「修理しちゃっていいかしら?」

 改めてミルアさんに向き直る。


「そこまでしてもらうわけには……」

 またミルアさんの表情が曇ってしまった。


「でも、修理しないと、環境維持装置すら動いていないわよ?」


「うーん。でも……」

 ミルアさんはだいぶ迷っている感じだったが、数時間で呼吸すらできなくなる環境で、自分で修理できるかも分からない状態はさすがに無理と思ったらしい。


「では、お言葉に甘えて修理をお願い致します。代わりと言っては何ですが、私にできることならなんでも協力させてください」

 申し訳なさそうな顔に、少しの覚悟を見せてお願いしてくる。


「おーけー。じゃ、エンジュ "ゆっくり" 丁寧に修理してね」

 こう言っておかないと、"秒" で修理が完了して報告されそうだ……


「かしこまりました。 丁寧に修理します 」

 通じたようで何より……


「じゃあ、ミルアさん。さっそくだけど、今回ここで起きたことはどこにも話さないでもらえると嬉しいわ」


「上官にも……ですか?」

 ほうほう、困り顔はそんな感じね。


「そうね。まだ私たちこの宙域のことが分かっていないのよ。できれば、可能な限りばれないように移動したいのよね」


「分かりました。ここでは、何も見なかった。気が付いたら船が直っていた……ということでいいですか?」


「ちょっとまって。それだと、誰が修理したのかって話になるじゃない」


「そうですね……気が付いたら船は故障していなかった……起動したら普通に動いた! でいいですか?」

 ピコーン! と音がしそうなひらめき顔がカワイイ。


「えぇ。十分よ。あとは、連邦に所属していない船が自由にこの宙域を飛ぶにはどうすればいいかしらね?」


「それは、連邦に所属せずに……ですか?」

 今度は考え中の顔、と仕草。控えめだけど動きがいいわね。


「そうねぇ。連邦に所属してもいいのだけど、面倒は困るのよね。臨検とかされても面倒なことになりそうだし、武装解除とか、技術を渡せとかも困るわね」


「そうですねぇ。新しい異星文明が登録に来たら間違いなくパニックですね」

 そう言ってクスクスと笑う彼女は、とても魅力的だ。


「自由に飛ぶだけなら登録された亜空間ビーコンが出ていればいいので、思いつく方法は登録済みの船を買う、中古船から付け替える、難破船とか、破棄された船からサルベージする。あとは、乱暴ですが奪う……位でしょうか……私の立場的にあまり詳しくは言えませんが、裏ルートではそこそこ流通しているみたいですよ。海賊行為をする人たちは複数のビーコンを持っていて、罠に使ったり、囮に使ったりするそうです」


「ちなみにコピーするとどうなるかしら?」


「2か所から同じのが出ていたらバレるでしょうね……」

 両手を小さく上に上げて、お手上げの仕草。


「ですよね。ちなみに、宇宙を移動する人は多いの?」


「うーん。人口に比較したら圧倒的に少ないですね。個人だと、富豪や冒険家と呼ばれる人たち、仕事だと、商人や政府、連邦関係者ってところでしょうか。とは言え、有人惑星や大型のステーションでは日の往来が100や200以上はありますよ。交通の要所だと、船が入港待ちで列を作るくらいですから」


「結構活発に移動しているみたいだけど、それでも少数なんだ」


「人口は桁が違いますからね。大体はその住んでいる星やステーションで事足りますし……一生星から出ない人の方が多いですね」

 それもそうか、一つの星の中にも見どころは沢山あるだろうし、他の星もそんなに違わないとなれば出る人は少ないか……観光名所的な所があればまた違うのかな?


「あ、そうだ。上陸というか、入港手続きとか大変?」


「艦船登録されていれば、入港料と荷物の申告程度ですが、登録がない場合はどうなるんですかね……私もその辺の細かい決まりは分からないです」

 これは、思ったよりも厄介かもしれない。中世的な異世界なら個人認証はかなりガバガバなのが普通だが、文明が発達した社会では、身分証明のハードルが意外に高くなるだろう。

 いっそ戦艦で押し掛けるか……

 いかん、短絡的すぎる。それでは侵略者だ……


「入港料か……お金ってあるの? 貨幣経済?」


「もちろんありますよ。ただ、エネルギー通貨というか、エネルギーがベースになっていますね。小口の取引は端末ウォレットで数字が動くだけですが、大きな取引はエネルギーパックが通貨の代わりになる場合も多いですね」


「おねーさんは何のお仕事をしているんですか?」

 ぉ、ラング参戦。


「私は、辺境巡視艦隊所属で、主に不審船の取り締まりですね。職務中ならこの船を捕まえないといけないところですが…… 」

「ぇ“」

「心配しなくても大丈夫ですよ。ユメさんとの約束で何も見ていない事になってますし、皆さんは命の恩人ですから」

 そう言って、ラングにいたずらっぽく笑う。


「そうか……ところで "原初の森" って何なんだ? 何回か呟いていたけど……」


「あー、原初の森はですね……おとぎ話に出てくる場所なんですよ。黒犬族と、私たちの種族の楽園と言われています。美味しい食べ物が一杯あって、黒犬族に庇護されて穏やかな時間を過ごすことができる場所と言われています。昔は実際に有った場所だとか、死後の世界だとかとも言われています」


「ぉ、黒犬族とは仲いいのか?」


「仲が良かった……というべきでしょうかね。5000年前の戦争で滅びてしまいました。私も本物に会ったのは初めてです」

 ミルアさんがエンジュを見る目が優しい。


「彼らも黒犬族の末裔ですよ。 少し姿形が変わっていますが…… 」


「仲良くしような!」

「あ、私も!」

 二人が握手を求めて手を伸ばす。

 そして、その手をミルアさんがやさしく握り返している。


「あなたも、私たちの仲間になっちゃう?」

 少し茶化すように軽い感じで話を振ってみる。


「いえ、戻れば仕事が待っています。救助は感謝しますが、これでも頑張って連邦宇宙軍に入ったんです。申し訳ありませんが、戻らせてください」

 意外と言っては失礼かもしれないが、思いのほか職業意識の強い返答が返ってきた。


「いーの、いーの。もしかしたら……と思っただけだから。でも残念ね。美味しい人参もあるのに……」


「ぅ……その、あの……ゴメンナサイ!」

 だいぶ未練があったようだが、それでも振り切ったようだ。


「でも黒犬族が居て、兎耳長族の好物を知っていて、それを出せるということは、もしかして……あなた方は旧帝国の……」

 最後まで言わせないように、彼女の唇に指をあてる。

 ジェスチャーは通じたようで、ハッとした顔でその先を口には出さず、口を噤む。


「あなたの航海の無事を祈っているわ。エンジュ?」

 振り返りながらエンジュに目配せをする。


「はい。 修理は完了しています。 存在確率ジャンプでミルアさんお送りしますね 」

 エンジュが確認してきたので、軽く頷く。


「では、最後に昔話を一つ。5000年前の大戦でこの銀河の種族は半分になりました。そして、ほぼすべての種族が一時的に文明を失いました。今となっては、その理由も伝わっておりませんが、5000年前に栄えた帝国が原因と考えている種族は多くいます。皆様の航海に、赤き月と青き太陽のご加護があらんことを」


「あなたの航海にも、赤き月と青き太陽のご加護があらんことを」

 ミルアさんが敬礼のような恰好で、花のような笑顔を向けてくる。

 こちらも思わず警察の敬礼のような恰好をして、ほほ笑む。

 と、直後にはその姿が一瞬で光の繭に包まれ、光の粒となって消えていく。


「彼女は向こうの船に送りました。 もう一人の私が向こうの船を再起動中です 」


「起動させちゃって大丈夫なの?」


「はい、センサーを調べましたが性能は高くありませんでしたので、ダメージコントロールキューブや、我々の船が見つかる心配はないと思われます 」


「そう、それはよかったわ」


「ミルアさんの船が起動シーケンスを開始しました。 セルフチェック完了。 主要設備に重大な損傷はなさそうです。 撤収しますね 」


「よし、じゃあ私たちも撤収!」


「「「らじゃー」」」


「艦長ぅ……眠いですぅ」 とタマミちゃん。

 いつものパッチリお目々が半分位になっている。


「あ。エンジュ今何時?」


「19時を回ってます。 働きすぎですね 」

 なんてホワイト職場! とか言っている場合ではない。すぐに休ませてあげよう。


「ご飯はさっき食べたばかりだから、お風呂入る? はいれる?」

 タマミちゃんとエンジュに立て続けに聞く。


「もちろん各艦に入浴施設はあります 」

 間髪を入れずにエンジュが答えてくれた。


「じゃあ入ってきます~」

 ふらふらとタマミちゃんが艦橋を出ていく。


「じゃおれも~」 とラング。

 ついて行っているように見えるが、二人は実際は違う船に乗っているので問題はない。はずだ。


「エンジュ、帰還は任せていいかしら?」


「おまかせください。 アルクタクト到着は日が変わる前後になります。 アルクタクト到着後は、お部屋までお運びいたしますのでごゆっくりお休みください 」


「じゃ、私もお風呂入ってくるわ……」

 少し伸びをしながら、艦長室に向かう。

 今日も色々あったわ。


「どうぞ、ごゆっくり 」

(修正)

ダメージコントロールボックスを、ダメージコントロールキューブに名称変更しました。


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