025 - 救助要請
艦橋のスクリーンには、目的地の恒星がもう目前に見えている。
主系列星の太陽より軽い星は、わずかに赤みがかった姿を曝している。
「ワープアウト座標確認。ユークレアス艦隊から恒星D345-U002-000Aの目視進路0俯角90になりまス」
今回は艦隊で星を包む形になるため、星系の垂直方向から進入して、工作艦は星を包んでいく。
他の艦は星系水平面、つまり惑星回転面に向かって別れながら進んでいく。
この辺の移動も、先ほどの練習でやった内容なので、不安は……あんまりない。
考えている間にも、ラングの報告が続く。
「速度は10.0、ワープアウト直後から所定の位置に移動を開始、減速した後の恒星からの距離は20万kmになります。ワープアウトまで後10分です」
ワープアウト後は忙しくなる。作戦前にリラックスしておこう。
「ワープアウトまで少し休憩にしましょう」
「よし。タマミお手洗い行っとこう!」
「だから、もう! ぁ」
そう、今回は別々の船に乗っているので同じ行動は取れない。
いくら存在感とか、見た目とか言っても、立ち上がって部屋を移動すると一人を実感してしまう。
そして、この宇宙で一人という感覚はなかなか堪える……心の芯が冷えるというか……なんというか……
今回、エンジュはこれを経験させるために、バラバラの船に乗せたのではないかと思うくらいだ。
艦橋に戻ればみんなが居る……居ると思い込む。
「宇宙って、寒いと思ったことはない?」
ふとエンジュに聞いてみる。
「体感温度のことじゃないですよね? 残念ながら、その感覚はわかりません…… 」
「そう……よね」
「戦艦および工作艦、配置に着きました」
「エネルギー回収高速巡洋艦、準備完了です」
戻ってきたラングとタマミは、いつものお仕事モードだ。
「磁場展開用、高速巡洋艦も準備完了っと。じゃあ、開始するわよ?」
エンジュに振り返って確認する。
「はい。 すべての準備が完了しました 」
「高度隠蔽を解除!」
「高度隠蔽を解除します。 ユークレアス艦隊、通常空間に復帰しました 」
恒星規模に展開した艦隊の高度隠蔽を解除できるか少し不安だったが、特に問題なく解除できた。
「では、「乳しぼり」作戦スタートよ! ラング!」
ここからは、戦艦に乗ったラングのオペレーションだ。
「は、はい。工作艦による密閉フィールドを展開します。続いて、各工作艦のベクター機関を接続、ケージ化します」
恒星の表面近くに配置されていた工作艦から、薄い膜の様なものがそれぞれ広がり、星を覆っていく。
覆われたところは、どんどん暗くなっていく。明るさが10分の1位になったんじゃなかな……
エネルギーの放射も、ほぼ“密閉”しているらしい……
「戦艦のベクター機関をケージに接続します」
「恒星ケージ出力12%で安定しています。 練習通りに圧縮を開始してくださいね 」
今回、状況報告はエンジュの役割になっている。
「了解。星の圧縮を開始します」
「恒星ケージ出力20%…… 30%…… 40%…… 」
私の視点から見える星は徐々に遠ざかっていき、星が少しずつ小さくなっていく……そして、赤から少し青み掛かった色に変化する。
密閉フィールドによる遮蔽効果でいつもの炙られている感がだいぶなくなる。
「50%…… 目標圧縮率に到達 」
目標到達時で元の直径のおよそ8割になるはずだ。そんなに大きく変わっていない気もするが、体積的には半分だ……
本気を出したらどこまで圧縮できるのだろう……
「加熱用電磁ビーム準備。目標、恒星中心」
「ビーム出力20%。 中心波長1.05 um。 スペクトラム拡散モード。 準備完了 」
「発射!」
目には見えないビームが戦艦から放たれる。このビームは恒星内部を加熱し続け、最後まで恒星圧力が低下するのを防ぐ役割がある。
「続いて、貫通用ビーム準備。目標、加熱ビームと同地点、恒星中心」
こっちが本命の穴をあけるビームだ。ついでに戦艦側にビームが出ないように押し返す役割もある。
「ビーム出力36%。 中心波長9.8オングストローム。 単一収束モード。 準備完了 」
「艦長行くゾ!」
「バッチコーイ!」
「発射!」
今回のビームも目には見えないが、ビームの当たった恒星表面では激しい閃光が放たれる。
そして1テンポ遅れて貫通した恒星表面からビームが放たれる。星を貫通したビームが、密閉フィールドをも貫通し、星の内部の高エネルギープラズマを伴って迫ってくる。
そして、これは艦橋のディスプレイ越しに見える。
明るく眩しい光の柱だ!
誰だ、これを水鉄砲に例えたのは!
そんな、生っちょろいものじゃないでしょ!
思わず腰が引けるが、ここでビビる訳にはいかない。
もう、何度も見た光景だ。見た目はもう当てにならないことは分かっているので、模式図を見る。
大丈夫、当たらない。
それでも引けそうになる腰を無理やり前に出し、胸を張る!
模式図には磁場発生タイミングも表示されている。
問題はない。
「よし、磁場発生開始!」
今回の高エネルギープラズマは太さもあるので、4艦同期による挟み込みを行う。
「磁場発生しました。 4艦出力安定。 4艦位置安定。 問題ありません 」
太い高エネルギープラズマが2本のプラズマに分かれる。いつも通り、偏ったYの字になる。
「タマミちゃーん」
ここからはタマミちゃんの出番だ。
「はーい。電極ビーム発射!マテリアルディスペンサー起動!」
今回は5艦直列で、それを3列並列にしたマトリクスでエネルギーを回収する。今回の高速巡洋艦は、資材回収をしない代わりにペイロード部分にもマテリアルディスペンサーを満載している。前回よりも短時間で大量にエネルギーを回収するためだ。
そして、もちろんオーバーロードの危険を考えて、タマミちゃんの乗艦は少し離れた位置でコントロールしている。
「電圧発生。 エネルギー回収開始。 マテリアルディスペンサー全艦問題なし 」
……
息の詰まる時間が流れる。
やっていることも、起きている事象も……すごい、としか言いようがない。
暫く、緊張の時間が続き、誰かが息を吐きだす。
とりあえず、安定している。乱れたり、振動したりということは起きていない……
「大丈夫かしらね……」
「そうですね。 ここまでくれば、後は外乱が無ければ最後まで行けるでしょう 」
「そう、ね。でも何が起こるか分からないわ。気を引き締めていきましょう!」
「「「了解!」」」
「艦長。 救助要請です 」
エネルギー回収の後半、残り10分ほどになったところで、エンジュが唐突に報告してきた。
「ぇ。どこから?」
「ここからですと、5.5光年ほど、さらに遠くになります。 つまりアルクタクトとは反対側です 」
「そこそこ離れているわね……内容は?」
「エネルギー喪失事故の様です。 クルーの生死不明。 メッセージは定型文がループしています。 そして発信元は…… 連邦艦です 」




