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021 - 墓標

「さぁ~て気を取り直して、午後の部。行ってみましょ~。エンジュ報告を」


「はい、現在3本目のスーパーフレアからのエネルギー回収が終盤です。 4番目のスーパーフレアに向けて工作艦が発進しました。 次のスーパーフレア放出地点は恒星の裏側に設定しましたので、もう少しで移動を開始します 」


「エネルギー回収は予定通り順調?」


「そうですね。 エネルギー回収は計画比103 %で順調です 」


「工作艦はどうなってるんだっけ?」


「 工作艦損耗率も計画通りですが、これは次に何とかしたいところですね。 後は、イレギュラーとして、恒星内部に正体不明の物体を確認しています。 艦長が見つけたアレですね 」


「動きは?」


「ありません 」


「ま、それは最後のお楽しみに取っておきましょう。さぁ行くわよみんな。配置について頂戴」


「「「アイアイマム!」」」




「かんちょー、出ました!」

 工作艦が恒星から脱出してくる。


「よくやったわタマミ! トラクタービーム発射! ぽちっとな」


「工作艦。 駆動力消失しました。 」


「トラクタービーム負荷……正常です。やりました、艦長! 今回は回収できそうですね!」


「そうね。ラングそっちは?」


「準備万端!」


 こうして午後のエネルギー回収は、工作艦を失うことなく順調に進み、とうとう恒星内部の正体不明物体の調査となった。あの後の調査で、正体不明物体の軌道や状態は分かっている。

 エンジュによるとアクセスの方法は三つ。ディメンションハイドミサイルによる攻撃。工作艦による体当たり。高速巡洋艦による軌道同期接触。があるらしい。

 ミサイルによる攻撃はせっかく回収したエネルギーを使う上に、相手の正体も何も分からなくなってしまうので却下、工作艦の体当たりも似たような結果になるから却下ということで、高速巡洋艦で接触してみることになるわけだが……

 問題は、有人で行くか無人で行くか……一応安全マージンを考えても有人での接触は可能という事だが……


「艦長、少しよろしいですか? 」


「ん?なに?」


「正体不明物体に関してですが、帝国の物である可能性があります。 軍事標準プロトコルでアクセスしてもよろしいですか? 」


「あらそうなの? えぇ。いいわよ。やって頂戴」


「反応ありました。 やはり帝国の物ですね。 但し、反応は警告でした。 帝国の皇室関連の施設の様です 」


「かかわらない方がいいかしら?」


「もう少し素性がわかないと何とも言えませんね…… 艦長のコードならかなり深いところまでアクセスできるはずですが…… 」


「やってみましょう。『艦長コードS01EXAFS』承認」


「最上位艦長コードを受領しました。 当該施設に対してコマンドラインを送信します。 ……反応ありました 」


「か、艦長! 星が……割れる……」

「キレイ……」


 艦橋のスクリーンを見ると、星が観音開きのドアを開けるように開いていく……

 ラングが椅子から落ちそうなほど驚き、タマミちゃんがうっとりするのも頷ける光景だ。


 恒星の中から大量の光の花と、巨大な石碑が近づいてくる。

 石碑の大きさは後ろの恒星を隠さんばかりだ。


「何が……起きたの……?」


「スクリーンに表示されているのは宇宙空間に投影されたビジョンです。 現実ではありません。 どうやら、墓標の様ですね…… 」


「皇室の?」


「当時の第1皇女エリザベート妃の、ペットのゼルシュタイン様のもののようです 」

 見ている間にも映像はどんどん変わり、蔓が伸び花が咲いていく。しかもそれが派手なのに嫌味がない。上品と言ってもいいと思う……サイズを別にすれば……だけど。


「ペットの……お墓……?」

「スケールが違いすぎる……」


「ついでに言うと、墓標はエムニウム合金で、MP不足警告が出ています。 このままだとあと数十年で機能停止して消滅します。 回収しますか? 」


「回収してどうするの?」


「MPを再充填して再設置するか……修理用素材にしますか? 」


「流石にペットのとは言え、お墓を荒らすのは後ろめたさを感じるわね。再充填にはどれくらい必要なのかしら?」


「艦長のMP保有量からしたら極々微量ですね。 回収して再充填の方向でいいですか? 」


「そうね」


「では、メンテナンスシーケンスを起動します。 10分後に恒星表面軌道に出てきます 」

 エンジュが言い終わらないうちに、巨大な花の映像は小さくなっていく。


 後には無機質な石碑が残り、そこにはコマンドラインが流れる。

 石碑を再利用するのは有りなのか疑問に思うが、メンテナンスモードになった様だ。


 エンジュの操艦によって10分後にランデブーしたのは、まさにモノリスタイプの石板だった。

 長い辺で100mほどの大きさだ。

 船としては大きくないが、スクリーン上では遠近法で大きく見える。


「でっかいなぁ~」

「いろいろ書いてありますね」


「鎮魂と祈りですね。 裏側には再生の歌が書いてあるようですよ 」


「MPの譲渡はどうすればいいのかしら?」


「magitoron粒子はビーム照射が可能ですから、杖を持っていただいて、ビーム照射開始でOKですよ 」


「それでは、照射開始!」

 照射されたビームはモノリスの中心を外すことなく吸い込まれていく。数秒も経たない内にビームの流れに抵抗を感じる。

 満タンという事だろう。直後に、頭に声が響く。


『ありがとうございます。 神託の巫女様。 あなた様の活躍をお祈り申し上げます 』


「今のは?」


「思念波による自動応答と思われます 」


「私宛?」


「おそらく 」


「なんで判ったのかしら?」


「出力…ですかね。 あんなmagitoron粒子ビームを出すのは、当時の帝国の軍艦でも無理ですし…… 」


「ふぅ~ん…あ、そうだ、これ元に戻すと連邦艦に見つからない?」


「そうですね。 その可能性はかなり高いと思います 」


「この墓標にも高度隠蔽使えるかしら?」


「材質はエムニウム合金ですし、MP残量も十分ですから状態維持だけなら可能じゃないでしょうか? 」


「じゃあ、高度隠蔽を使ってみましょう」


 艦長席からmagitoron粒子を照射するときと同じようにして、高度隠蔽魔法を使用する。

 失敗するかとも思ったが、うまくターゲッティングモードに入ったようだ。墓石が選択状態になる。


 ≪実行≫


「うまくいったようですね。 メンテナンスモードを終了します 」


『ありがとうございます。 神託の巫女様。 心優しい貴方様なら、必ずやこの世界を再生に導いてくれると信じております 』

 最後にメッセージを残して墓石は星の中に沈んでゆく。とは言ってもそれを見れるのは我々だけだろう。出てきたときは違いとても地味だ。


「なにかさみしいですね」

「ずっと星の中か……」


 タマミちゃんとラングが少ししんみりしてしまったが、作戦は成功だ。

 元気よく帰ろう!


「さぁ、大漁大漁。帰るわよ!」


「「「アイアイマム!」」」


「むぅ……」

 マム呼びかぁ……慣れるかなぁ……




 帰りはみんなぐったりして、エンジュのバックアップ(丸投げ)で、ついさっきアルクタクトに帰ってきた。

 流石に作戦時間が8時間を超えると厳しい……仕事はもっと長く働いていた気がするけど、責任なのか、宇宙なのか、やっていることが過激だからなのか……それか!

 タマミちゃんとラングもよくやってくれている。あとでちゃんと労っておこう!

 その前に……


「さぁって、本日の戦果は~っと。エンジュ報告よろしく」


「はい。 では本日の作戦の、成果確認会をしましょう。 回収した資材の量ですが、前回のおよそ8倍を回収することに成功しました。 現在のアルクタクトの、修理資材生産量の10時間分に相当します 」


「ぉ~」

「頑張ったもんね!」

 二人も手ごたえを感じているみたいだ。


「前回と同じくらいの時間で8倍はすごいわね……さすがスーパーフレアってところからしら。そして艦隊で行っても10時間分にしかならないのね……」


「ハイブリット13号機が稼働したことで、アルクタクトの修理資材生産量も2.4倍ほどになっていますからね。 今後、外部調達はより効果が薄くなっていきますね 」


「なるほど……それで次のハイブリット機はどれくらいで稼働できそうかしら?」


「18号機からパーツを流用して、今日の資材を組み込んだ上で、6日後ですね 」


「あら、今回はずいぶん掛かるのね?」


「今回の主機関の破損は同じ原因で起きているので、同じ場所が壊れているんですよ。 なので、今後はより移植可能部位が減っていきます 」

 それもそうか、過電流でヒューズが飛んだのなら、すべてのヒューズを買い直さなければならないということだ。


「次の回収はどうしようかしら? もうあまり意味がない?」


「いえ、次の計画も立ててあります。 これによりハイブリット8号機の稼働が4日後になる可能性がありますがどうしますか? 」

 エンジュがノリノリだ……次の講習会のネタを考えているに違いない……まぁ他にすることもないし、どんどん進めよう。


「いいわよ。やりましょう!」


「一つ相談なのですが、戦艦を一隻パワー供給から外して、艦隊に参加させてもよろしいですか? 」


「いいの? その分、修理が遅くなっちゃうんじゃない?」


「ハイブリッド13号機が稼働したことにより、戦艦一隻の寄与率がだいぶ下がりました。 次回の作戦に戦艦を使用した時の効果倍率は、6日間のパワー供給に対して300倍になります 」


「了解。じゃそれで」


「次は戦艦で行くんだってよ……ちょっとワクワクするな」

「何するのかしらね……」


「さ、それじゃ。夕ご飯にしましょう。 皆さんメニューを決めてくださいね! 」

 ノリノリのエンジュにちょっと恐怖しつつ、みんなで美味しい夕食をいただきました!




「艦長、お知らせがあります 」


「わっ! びっくりした!」

 お風呂でゆったりしているときに話しかけられるとは思わなかった。先日、ゆったりしたいと思って湯舟を作ってもらったのだが、完全に油断していた……ちなみに音声のみでビジョンは出てきていない。


「申し訳ありません。 一応早めにお耳に入れておいた方がいいと思いましたので…… 」


「あぁ、いいのよ。なに?」


「先ほどまでエネルギー回収をしていた恒星系に船が現れました 」


「連邦艦かしら?」


「分かりませんが、隠蔽はしていないようです 」


「1艦?」


「感知できる範囲では 」


「何をしているか分かる?」


「恒星の異常を調べようとしているようですが、詳細は不明です 」


「とりあえず。行動を記録しておいて」


「了解しました。 ごゆっくりどうぞ…… 」


 さて、状況的には連邦艦が異変に気が付いた、という可能性が一番高い。

 偶然通り掛かったというには辺鄙な場所過ぎるだろう……

 自分たちが、あの恒星を離れてからおよそ6時間とすこし……猶予があるとみるべきか、ギリギリとみるべきか……明日詳細が分かってから相談しよう……あ、墓標が見つかるとやだなぁ……


「エンジュ、墓標が見つかりそうなら、何か手を打ちたいわ」


「了解しました。 監視を続行します 」

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