020 - ちょっと過激なエネルギー回収ミッション
「艦長、高度隠蔽を解除しますね 」
「OK~」
「高度隠蔽を解除。 通常空間に復帰します。 最初は私がやって見せますね。 タマミちゃんは磁力線の集め方をよく見てくださいね 」
「わかりました!」
「ラング君は9隻の操艦の様子を見ていてください。 バランスが重要ですよ 」
「ぉぅ。頑張るゾ」
「艦長はトラクタービームのトリガーを渡しておきます。 工作艦がうまく脱出出来たら引っ張り上げてください。 無理して本艦を星に落とさないでくださいね! 」
「おっけ~。任せなさ~い」
今回も艦橋のスクリーンは、半分が星で紅に染まっている。今回は下半分、つまり足元が紅い。なにやら、焼肉になった気分だ。
本艦より前方上には高速巡行艦が並んでいるのが見える。予定ではその前方にスーパーフレアを引っ張ってくる。
後ろを振り返ると、工作艦が出番待ちよろしく並んでいる。
「では工作艦一番艦出発!」
ユークレアスの一番近くにいた工作艦が、星に吸い込まれていく。
「タマミちゃん磁力線は確認できますか? 」
「大丈夫です」
「それぞれの磁力線に青いマーカーが付いているのが分かりますか? 」
「はい。たくさん見えます」
「それが磁力線を効率よく回収するポイントです。 そのポイントを無駄なく無理なく結んで移動していけば、クルクルスパゲッティの完成です。 最後に緑色の大きなマーカー分かりますか? 」
「本艦の前方下にあるマーカーですね」
「そうです。 そこが脱出ポイントです。 ここを外すとみんなが丸焦げになるので気を付けてくださいね! 」
「リョウカイデス……」
「ラング君、9隻の船の配置は頭に入りましたか? 」
「大丈夫でス」
「最初のスーパーフレアまではまだ時間がありますから、少し楽にしていていいですよ。 大事なのは、9隻全体の位置と、傾きです。 余裕があったらそれぞれの艦の位置を微調整してくださいね」
「了解でス」
15分ほどかけて、工作艦が星の内部を1周してくる。さすがAIだ。全く無駄がなく、綺麗な円弧を描きつつ磁力線の20%ほどの線を引っ掛けて緑色のマーカーに向けて飛び込んで……あ、失速した。
「すみません。 調子に乗って集めすぎました。 ただ、スーパーフレアの誘発自体は成功です。 きますよ! 」
勢いのついた磁力線の束は止まらない。ギラギラとした恒星表面(?)を突き破って巨大な火柱が迫ってくる。
毎度思うが、距離感が掴めない。
目の前が一瞬で真っ赤になり、踊る焔に根源的な恐怖を覚える。
「これ当たらないのよね」
「大丈夫です。 模式表示の方を信用してください。 工作艦融解。 トラクタービームの有効範囲外です 」
「溶けちゃった……」 とタマミちゃん。
「磁力線の "重さ" が想定以上ですね。 パラメータを少し調整します 」
「ラング君、まずは磁場を発生させますよ。 はい、今です 」
「了解。磁場発生します」
「続いて9隻から拡散電極ビームを発射! 」
「照準に向けて拡散電極ビーム発射します!」
「続けて、各艦のマテリアルディスペンサーに接続! 」
「各艦のマテリアルディスペンサーに接続します! 全艦接続完了しました!」
ディスプレイに並んだ高速巡洋艦のディスペンサーに "Ready!" の緑マークが並ぶ。
「艦長、全艦のマテリアルディスペンサーを起動してください! 」
マークを指で撫でる様にタッチする。
「全艦のマテリアルディスペンサー起動!」
マテリアルディスペンサーに円グラフが現れ稼働状態が表示される。
順調だ。
「ラングは微調整をしながら、グイグイエネルギーを回収していきましょう 」
「なかなか難しいなこれ……よっ……ぁ……うーん……」
「中心とバンランスもよく見てくださいね 」
「ここは、ここを中心にして……ここの間隔を広くすると……ぉ、いい感じだ」
エンジュはうまいことラングを誘導しているようだ。
「タマミちゃんは、次の工作艦の移動プランを立てましょう。 出発は20分後とすると…… 磁力線の配置はこんな感じで…… 」
「これとこれを通るといいですか? ここはこっちの方がいいかな?」
「できる限り速度を落とさないようにしましょう…… ここはちょっと急に曲がってますね…… あと、さっきの感じからもう少し早めに戻るようにしてみましょう…… 」
タマミちゃんの方も順調そうだ……私は特にやることがないな……ま、いっか。
「艦長。 もしよければ、恒星の中をスキャンしてみてもらえませんか? 先ほど工作艦が失速した原因が隠れていると思うんです 」
「シミュレーションのパラメータミスじゃないの?」
「この規模の恒星であれば、シミュレーション誤差はほぼ発生しません。 何らかの人工物が介在している可能性があります 」
「連邦の何かかしら?」
「それを調べてみてください。 やり方は私が案内しますので 」
「分かったわ」
と言いつつ、おそらくこれは講習だ。
エンジュならすでにスキャンを終えて、何が原因かわかっているのだろう。
まぁ、いっちょやったりますか!
「タマミちゃん、工作艦二番艦出発 」
「了解です。工作艦二番艦出発します」
「取りこぼしても気にせずに、次に意識を向けてくださいね 」
「はい、エンジュ先生!」
第1波のエネルギー回収の工程は順調に進み、第2波の準備段階に進んでいる。
次のスーパーフレアが準備できれば、今のスーパーフレアを放棄して次に進む予定だ。うまくいけば連続して同じ場所でエネルギー回収が可能になるのだが……
私の方はというと……船のセンサーと格闘中だ……もう少しで原因が分かりそうなところまで来ている……と思う。
「原因はこれかしら……?」
「おそらくそうですね。 磁気反応が少しあります。 ただこの環境で形状を保っているのは普通ではありませんね。 こっちのセンサーで、Void次元を調べてみましょう 」
「これかしら……あ、かなりくっきりとした形が出たわ。これはどういう事?」
「いわゆる隠蔽状態ですね。 ただ、これは隠蔽が目的というよりも、恒星の中で形状を保つための仕組みでしょうか…… 」
「何かしらね。危ないものかしら?」
「どうでしょうね。 引っ張り上げてみますか? 」
「そうね気になるわね……一応監視しておいて、最後に余力があったら引っ張り上げてみましょう」
「了解しました 」
「集中力がつづかなーい」 とラング。
「またお船溶けちゃいました……」 とタマミちゃん。
エネルギー回収は順調に3本目のスーパーフレア発生を迎えて、午前の部がそろそろ終わりだ。
「二人もだいぶ疲れているようだし、ちょっと早いけど、お昼にしましょうか。エンジュ任せてもいいかしら?」
「そうですね。 もう2時間近くたってますね。 二人ともよく頑張りました! 」
前回は1時間位で音を上げていたような気がするので、だいぶ進歩していると思う。
ウキウキの二人に続いて、艦長室への扉を潜る。
「お昼はこちらのメニューからどうぞ 」
ぉ、メニューにミートソーススパゲティがある。私はこれにしようっと。
「艦長ところで作戦名の ”ミートソーススパゲティ” ってなんだ?」
「それはねぇ……これのことよ!」
こっちのメニューに出ている映像を、ラングの方に流してみる。
「これは……ミートっていうから期待したのに、ミートないな……この白いのは肉じゃないよな?」
「違いますね。 パスタっていうパンの親戚みたいなものですよ 」
「あ、エンジュ! あれを出してくれよ。土龍麺。あれならこのミートソーススパゲティとほとんど同じだろ?」
「あら、いいじゃない。それじゃ、二人はそれで、みんなで作戦成功を祈って食べましょう!」
タマミちゃんの方に振ってみるも、ちょっと困った顔をしている。
「あの、艦長……私……土龍麺はちょっと苦手で……」
「あらそうなの? 残念ね……どんな料理なの? 私にも見せて?」
「あ、おまちください。 艦長は見ない方が…… いいかと…… 」
珍しくエンジュの歯切れが悪い。
が、見ない方がいいと言われると、余計に気になる……
「いいから、いいから。そうだ、ラングに出してあげてよ」
「ほんとにいいんですか? 知りませんよ…… 」
カタッ
ラングの前にスパゲッティによく似た料理が置かれる。
パスタが少し太い……
「ぉ、うまそー」
ラングの目がとても輝いている。
スパゲッティには、よく似ている……
が、少し動いてる……?
ように見えるだけ……?
「ぎゃーーーーーーーーー」
目は合ってないけど、目が合った気がする……正体が分かってしまった……
あれは、ワームだ。
「だから言ったじゃないですかー 」
エンジュが呆れた声でつぶやいた。
「ちょ、ちょっとそれ食べるの?」
「何言ってんだ。艦長これうまいんだぞ。給食では、人気メニューの上位にくるメニューなんだぞ」
「なにいってんの、タマミちゃんも苦手って言ってたじゃない」
「女子の中には数人ダメなのがいるんだよなー。タマミもダメだったっけ……? じゃ、お先に、いっただっきまーす」
「う……」「ぅ」「ヴ……」
三者三様、違う声が漏れる。エンジュだけはすまし顔だ。
「うまい! なんだこれ、砂っぽさが全然ないし、肉厚で、ジューシーで……最高だ!」
「そ、そんなに? 私もちょっともらっていい?」
「いいぞ食ってみろよ」
「ぇ。タマミちゃん苦手だったんじゃ……」
なんか、ちょっと裏切られた気分だ。
「あ、美味しー。臭みもないのね。これなら食べられます。というか私もこれがいいです」
「タマミちゃん大丈夫なの……?」
「ぇえ。私、このワームの砂っぽさというか、土臭さがダメだったんですよ」
「見た目とかは……」
「特に……? これすごく美味しいですよ。さすがエンジュさんが出すものに、はずれはありませんね!」
「一応、黒犬族の食の歴史も長いですからね。 どれも美味しいですよ 」
この後の食事……私、食欲持つかな……
とりあえず、スパゲッティをクルクル巻いて口に入れる……
「あ、艦長!ミートソーススパゲティ作戦ってそうゆうことなんだな! 俺もクルクルっと…… 」
パクッ
「うめー」
「あ、私もー クルクルっと」
パクッ
「おいしー」
タマミちゃんのお口の中にワームが……
目の前のお皿の上には、見た目が近いパスタが……
どうしてこうなった……




