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163 - マズールベース その5

 午後、アマリリスとリンドウと、ゲート突入の艦隊編成を相談していると、艦橋に小さく通知音が二つ鳴り響く。

 そして、それに反応したミルアさんとラングが、ゆったりと手を動かす。

 少しの沈黙の後、二人が凄い勢いで、こちらを振り返えった。


「ユメ艦長! 大変です!」「艦長、ゲートからお知らせが……」


「なになになに……一人ずつ、お願いよ」


 ミルアさんとラングがアイコンタクトを交わして、ミルアさんの方がより緊急と判断された模様。


「評議員から、緊急のお手紙が来ちゃいました! 色々と文句も書いてありますが、用件は、「止められないから、せめて姿を見せて来て欲しい」だそうです!」


 あ~、そうか。クィーンバタフライ号の名前を出せば、バレバレなんだったわ。

 “止められない” というのが分からないけど、こっそりと大艦隊を連邦中枢に持ってこられるのは困るってところかしらね。


「返事の必要はありそう?」


「え~っと、今もう一度読み返していますが……観光の他に、目的があれば、探ってこいと書いてありますね」


 目的か……今のところは、特に無いわね……

 折角、近くまで行くのだから、顔合わせくらいはしておくべきかしら?


「それは、気になるでしょうね。本当は、こっそり気付かれないのが良かったけど、艦隊を見せるなら、トップと会談しに行ってもいいかしらね?」


「ほ、本気ですか? 評議長と面談……いや、連邦議会……いや、連邦と、こ、公式会談を申し込みますか?」


 そう言われると、私も緊張して来たぞ……

 星間国家の集合体の長って、どれだけエライんだろう……?


 でも、交渉のカードは沢山持っているし、艦隊を連れていければ、酷い事にもならない気がする。

 いずれは行くつもりだったのだから、ちょっと前倒しだと思おう!


「そうね。ミルア外交部長、よろしく頼むわね!」


 にっこりと微笑んであげたのに、ミルアさんから返答がない……


 あ、椅子から崩れ落ちた!

 すかさず、タマミちゃんが支える。

 ナイスフォローだ。


「ベッドに寝かせて来ますね」

 

 タマミちゃんが、どこからともなく出したストレッチャーにミルアさんを乗せる。

 そのままふわりと浮き上がったストレッチャーを、軽く引くようにして艦長室の方に歩いていく。


 ちょっと、刺激が強すぎたか……


「それで、ラングの方は?」

 ラングも、口の端が少し引き攣っている。

 今の遣り取りを見ていたからなのか、お知らせが過激だったのか……?


「ゲートから、申請通過のお知らせが届きました。許可艦艇の所が、空白に書き換わっていて、艦数の所が500隻に変更されていまス。艦隊を、公式に通過させていいよ……ということでしょうか?」


 500隻とは、いい所を突いている。

 中性子星でのエネルギー回収を観察されちゃったかしら? もしくは超新星爆発? それとも、ただの推測かしらね……?


「よーするに、打撃艦隊はOKって事ね。それだけ?」


「後、なんか難しい言葉遣いで、こちらの準備が出来たら最優先で対応します、とも書いてありまス!」


「ぉ、久しぶりのVIP扱いね!」


 ミルアさんに振ってみたつもりだったが、居ないんだった。

 ラングが少し困った顔をしている。


『私たちは』『どうなるのよ?』

 アマリリスとリンドウ姉妹が、連れて行って欲しそうにこちらを見ている。


「随伴艦無しなら行けそうね。何なら戦艦38隻を付けても、大丈夫かしらね」


『ちょっと心細いけど』『置いてきぼりよりはいいのよ』


 船の数を整理すると……

 旗艦艦隊が、打撃艦隊421隻と戦艦ボルドルファで合計422隻。

 クィーンバタフライ号を出したままなら+1。

 マザーシップ2隻と戦艦38隻を合わせても463隻で、まだ余裕がある。


「エンジュ、何隻で行くのがいいかしらね?」


「500隻は埋めないと、足元を見られそうですね。 もしくは打撃艦隊のようなバランスのとれた形で、あくまでも “切りのいい数だけ、出しました” の方が望ましいと思われます 」


 確かに、500隻でいいよと言われて、400隻で行ったら、舐められるか、下手をすると怒らせるか、のどちらかになりそうだ。

 ここでは最大限に手の内を隠す方がいい。


「相手に、こちらの戦力を予想させない為ね?」


「最大戦力が分かっている敵ほど、対処しやすくなりますから。 後、先行で送っている2個打撃艦隊はいかがしますか?」


 あぁ、先行で送っているのを忘れていたわ……

「あの2個艦隊は、切り札として取っておきましょう。ミルアさんにお願いして、()()ゲートを潜る船は500隻と伝えましょう」


「あの2個艦隊はこっそりとサポートさせるのかぁ。見えてる船の、ほぼ2倍が隠れてるって鬼だなぁ」 とラング。

「でも、その方が安全なら、反対はしないです」 とタマミちゃん。


『私たちは、普通にフォージニアスに乗っていれば、いいのかしらね?』 とシンリー。

『そうだね。他の種族と会う時は、是非連れて行って欲しいけどね』 とボルグ。


「あなた方にも、テレパス士官として是非交渉団に入って欲しいわ。勿論、テレパス防御的な意味合いも兼ねてね」


『お任せあれ、ですわ』

『多少、交渉を有利に進める事も、可能かもしれませんよ』


「その辺は、向こうの出方次第ね。とりあえずこの後、ゲートを潜る船を決めましょう~」


【お~】

早いもので夏ですね。

来週と再来週は、少し投稿ペースが乱れます。ご容赦下さい。


お読みいただいている皆様、ありがとうございます。

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