160 - マズールベース その2
「艦長、馬艦隊がもうそろそろ到着します。推定ワープアウトポイントは、我々から30光分ほど離れています」 とラング。
馬艦隊のビーコンは常時見えているので、彼らの現在位置は、手に取るように分かる。
馬艦隊は、今回もちゃんと、標準ワープアウトポイントを使用するようだ。
「これだけ離れていれば、安全かしらね?」
「そうですね。 彼等から見えるのは、クィーンバタフライ号だけのはずですし、進路も干渉しません。 絡んでくる理由は見当たりませんね 」
「彼らはそのまま、大深度Void時空へのゲートに入るのかしら?」
馬艦隊の予想移動ルート上に、二連中性子星と、二重螺旋がある。
このまま進めば、二重螺旋の中心を通って、根元に向かって吸い込まれるルートだ。
「予約が済んでいれば、そうなると思います。他に待っている艦船もありませんので、そのままゲートインするのではないでしょうか。突入軌道で移動するかもしれませんね」 とミルアさん。
「それなら、この機会を利用して、ゲートの調査でもしてみましょうか!」
【ぉ~?】
今回は、ちょっとメンバーのノリが悪かった……
「馬艦隊がワープアウトしました。艦艇数は55隻。艦隊陣形は、楔形で以前と同じです」 とタマミちゃん。
とりあえず以前のイベントで、脱落したり、置いてきぼりになったりした船は居ないようだ。
「馬艦隊が進路を微調整しました。やはり、このままゲートインする可能性が高いですね」 とミルアさん。
「ゲートが開くときは、カダンさん達にも声を掛けることとして……ゲートの調査方法を決めましょう! タイロス兄弟を呼んで頂戴」
エンジュがタイロス兄弟を呼びに行くと、5秒もせずに3人が現れる。
あらかじめ待機していたのではないか、と思うスピードだ。
「お呼び頂き、ありがとうございますブ!」「なんでも致しますブ」「どんな御用ですかブ?」
ちょっと部屋の温度と湿度が上った気がする……
「あなた達は、大深度Voidチャンネルって使たことあるのかしら?」
3人が顔を見合わせて、首を振る。全く心当たりも無い様だ。
「この後、馬艦隊が大深度Voidチャンネルに突入するために、ゲートを開くのよ。どんな物理現象なのか、調査して頂戴」
「畏まりましたブ」「位置を変えることは可能ですかブ?」「色々な角度からも確認したいですブ」
対象をちゃんと観察するには、色々な角度から見た方がいいに決まっている。
「姉妹艦隊にも、協力してもらおうかしらね。うーん。やっぱり、彼女たちには、独自に調査してもらおうかしら……あなた達は、そのデータを全部渡すわ」
「それで充分ですブ」「彼女達の艦艇数があれば、何でも分かりそうブ」「ゲートの中も見れるかブ?」
「姉妹艦隊には、可能なら一部の艦を、そのままゲートインしてもらいましょう。最初は、打撃艦隊を入れてみましょうか……ね?」
話の流れ的に決まった事を、エンジュに振ってみる。
「問題無いかと思います。 艦長の安全を保つという意味でも、先行部隊が居るのは望ましいですね 」
「それじゃ、頼んだわよ。あんたたち!」
【はっ! 御意!】
揃って、片膝立ちで頭を下げて、消えて行った。
恐ろしくタイミングの合った動作だ。
絶対、練習してるわね、あれ。
「ゲートからアナウンスです。天上赤馬連合国艦隊が一時的にゲートを占有する旨が公開されました。推定ゲートオープン時刻は8時間20分後ですね」 とミルアさん。
どのみち、私たちはゲートの通過許可待ちなので、影響はない。
彼等には、サクサクと進んで、道を開けて貰おう。
予定通りなら、彼らが通過するゲートのオープンは、今日寝る直前くらいだ。
先ほどタイロス兄弟に依頼した調査を、アマリリスとリンドウにも伝えよう。
二人を艦橋に呼ぶ。
「アマリリスとリンドウ。ちょっと馬艦隊と一緒に行動して、ゲートのサイズとか特性を調査してきて頂戴」
『はいなの!』『作戦オーダーなの?』
「そうね、作戦よ! 作戦名は…… ”コバンザメ大作戦” よ!」
うーん。安直すぎて自分でもカッコイイとは思えない……
しかし、彼女達にとって、作戦オーダーで行動できることは、とても嬉しい事のようだ。
二人で手を叩いて喜んだ後、一瞬白く輝くと、大人の女性の姿になる。
『行ってまいりますの』『しっかりと、調査してくるのよ』
話し終わるや否や、消えかかるのを止める。
艦隊も少し動いたのを見逃さなかった。
「まだ作戦開始をしていないわよ! その、すぐ動くのは無し! いいわね!」
『『はーい……なの』』
しょんぼりとした風を装いながら、艦橋の開いているステーションに座る二人。
「では、作戦を説明するわよ。まず作戦の目的ね。今回の作戦の目的は二つ、一つはゲートの情報を出来る限り多く収集すること。勿論、マズールベースと、馬艦隊に気付かれずにね。そしてもう一つは、先行艦隊を送り込むことよ。ここまでは良いかしら?」
『はいなの』『大丈夫なのよ』
「そのために二人には、馬艦隊と同期して動く部隊と、ゲート周辺で変化を観測する部隊に分かれてもらうわ」
『私が、同期移動する役を貰うの』 とアマリリス。
『じゃ、私は定点観測ね。出来るだけ色々な方向から観察するのよ』 とリンドウ。
理解も、役割分担の決定も早くて助かる。
「あなた達にとっても、未知の物理現象に遭遇することになる訳だから、十分に気を付けるのよ。特にゲート周辺は危険な領域もあるだろうから、より慎重にね」
『わかったの』『十分に気を付けるのよ。使えるセンサーはパッシブだけかしら?』
「そうね、1回だけセミアクティブを使ってもいいわ。タイミングを見計らって……と言いたいけど、あんまりドンピシャのタイミングでセンサーパルスが飛んでくるのも怪しいわね……そこそこいいタイミングで、お願いするわ」
『中々、難しい注文なの』『最後は、出たとこ勝負なのよ』
「そうね。上手い事頼むわ。次は、先行艦隊の件ね。打撃艦隊を1艦隊でいいかしら?」
とエンジュに振ったつもりだったが……
『2艦隊が、いいと思うの!』『私も、そう思うのよ!』
反論も早く、息ぴったりだ。
二人とも1艦隊ずつ出したい、ということね。
「分かったわ。それじゃ、二人の艦隊から1打撃艦隊ずつ出してもらって、馬艦隊の前後を挟むように移動して、ゲートに入って頂戴。どのくらい密集するかは適宜判断になるわ。もしもの場合に、船を失うのは仕方ないけど、その場合でも出来る限り気付かれないことを優先して頂戴。分かったかしら?」
『『了解なの!』よ!』
「他に、決めておきたい事はあるかしら?」
『向こうでは、出ちゃっていいのかしら?』『艦長を待つべき、かしら?』
向こう、とは出口側での行動か……
出ておかないと、閉じ込められないとも限らないわね……
「馬艦隊が連邦ステーションで出るなら、付いて出ちゃってもらえるかしら? 途中で馬艦隊と別れた場合は、チャンネル内で待機かしらね。チャンネルから出た後は、待機よ。よっぽどのことが無い限り、動かず、気付かれない事。いいわね!?」
『了解なの!』よ!』
「それじゃ、準備について頂戴! 作戦開始よ!」
『はいなの!』
2つの最小標準艦隊、合計16842隻が、馬艦隊の方向に向けて動き出す。
超新星からずっと艦隊行動を練習してきただけあり、一糸乱れぬ艦隊運用だ。
「さぁ、ちょっと遅くなっちゃったけど、私たちはお昼にしましょうか!」
【はーい!】
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