017 - エネルギー回収ミッション
「さぁ、持ち場についてください 」
「「「アイアイサー」」」
覚悟を決めて、手元のディスプレイを覗き込む。
船はエンジュの操艦で、じわじわと恒星表面に近づいていく。
「最初は私がやって見せますね。 タマミちゃんは恒星表面をスキャンして異常がないかをモニターしていてくださいね。 ラング君は操艦の様子を見ていてください。 艦長はビーム発射のトリガーを渡しておきますね 」
なにやら完全にエンジュに仕切られてしまっている。
きっとエンジュは、昨日の段階でこれを見越していたに違いない……
恒星表面がどんどん近づいてくる。
艦橋の全面ディスプレイに映る映像は、すでに半分が恒星表面のオレンジ色だ。見ているだけで熱い。
「タマミちゃん恒星内部から上がってくるプロミネンスの卵分かりますか? 強調表示が付いているので分かると思いますが 」
「あ、大丈夫です。分かります」
タマミちゃんの明るい声が艦橋に響く。
「そうしたら、船から遠い方の根元にマーカーを合わせてロックしてみてください 」
「これでいいですか?」
「はい。 そうしたらそのデータを艦長に送っておいてくださいね 」
目の前のディスプレイにターゲットマーカーが表示された。
「あ、来たわ。撃てばいいのかしら?」
「ストーップ! まだですよ。 プロミネンスの半分くらいが現れたら撃ってくださいね 」
よく見るとターゲットマーカーに発砲禁止マークが付いている。
「エンジュ先生! すでに出てる大きいのじゃダメなんですか?」
「いい質問です。 なんでも大きければいいというものではありませんよ。 すでに出ているものは、形こそ大きいですが、その形を作るために大半のエネルギーを使ってしまっています。 ぎゅっとエネルギーが溜まっているところを見極めるのが重要です 」
「そうね、あなたたちも同じかもしれないわね。成長途中で一番エネルギーにあふれている年頃よ」
「艦長は違うんですか? そんなに年齢離れてなさそうですけど……」
ぅ。中身が24なので、ついついお姉さんぶってしまったが、14歳なら十分エネルギーに溢れている年齢だ。
「もちろん私だってガンガン成長するわよ!」
「艦長はそのままでも十分エネルギッシュだと思うぞ…… 」 とラング。
「なんか言った?」
「いえ。何も言っていません!マム!」
「マムはやめて頂戴……」
「いつまでも漫才やってる場合じゃありませんよ。 そろそろプロミネンスが顔を出し始めましたよ! 」
エンジュの声でみんなの視線が恒星表面に集まる。
「エンジュ先生! 予測値ってこれでいいですか?」
タマミちゃんがどんどん習熟していく。
「あらすごいわね。 それは艦長に報告して、データリンクに繋げておきましょう 」
「はい。エネルギー最大ポイントまであと152秒。データリンク転送」
ターゲットマーカーにカウントダウンが付いた。
とても分かりやすい。
「結構時間が掛かるのね」
「艦長の所のことわざで言う、”慌てる乞食は貰いが少ない” ってやつですよ。 しっかり引き付けて撃ってくださいね。 ラング君は最適な場所に船を微調整するのが役割ですよ。 今はしっかり見ててくださいね 」
右の恒星表面からプロミネンスが円弧状に上がってくるのが見える。
かなり早い。
「当たらないわよね?」
炎の見た目が、根源的な恐怖を煽る。
「それはタマミちゃん次第ですよ。 プロミネンスの動きを予測して、ラング君に送ってあげてくださいね 」
「ヒィー。オニー」
「バックアップはしてますから大丈夫ですよ。 艦長、高度隠蔽を解除しますね 」
「OK~」
心のバランスを保つためにも、意図的に軽い返事を返す。
「高度隠蔽を解除。 通常空間に復帰します 」
プロミネンスが視界の半分を超えて左半分に入り始める。高さが船のいる位置を超えたらしい。
熱くないはずなのに、顔がチリチリと焙られている気がしてくる。
「あと20秒! イレギュラーはありません。艦の位置も正常です」 とラング。
「上出来よ!」
「きゃっ!」
タマミちゃんが小さく声を上げた。
「どうしたの!?」
「外の温度だと思うんですけど、すごい大きな数字が出ています。壊れてますか?」
「センサーも表示も正常ですよ。 船外温度230万度。 本艦のシールドなら許容範囲内です 」
……見たことがある温度……なわけないね。
「……プロミネンス最適ポイントまで5秒、4、3、2、1、艦長!」
「ファイヤー!」
手元のディプレイをタッチする。
青いビームが遠い方のプロミネンスの根元に吸い込まれていく。
「どう?」
「成功です。 遠い方のプロミネンスの根元が切り離されました。 プロミネンス立ち上がります 」
ゆっくりとした動きだが、逆にそれが迫力だ。
「ぉぉぉぉ……」
目の前がオレンジ色に染まる。
プロミネンスに包まれているような錯覚に陥りそうになる。
「当たってないのよね?」
「大丈夫ですよ。 それより艦長、磁場の発生を 」
ディスプレイの横に船の模式図が表示されており、そこに緑色のボタンが光っている。
「了解。これね。ぽちっとな!」
立ち上がったプロミネンスが、裂けるチーズの様に目の前で割れる。
「プロミネンスの分離を確認。電極ビームの照準をデータリンクします」
「タマミちゃんいいわねっ。電極ビームを発射するわよ?」
「はい。大丈夫です」
「電極ビーム発射!」
二つに割れたプロミネンスに向けて、2本の太いビームが吸い込まれていく。
「電極ビーム拡散中…… 電圧上昇中…… 数字読めません!」
「今はそのままで大丈夫です。 艦長。 マテリアルディスペンサーに接続してください 」
次は船の模式図にあるマテリアルディスペンサーをタッチする。
「OK~ マテリアルディスペンサーに接続。マテリアルディスペンサーって修理用のディスペンサーってことでいいのかしら?」
「そうですね。 設備用とか備品用のディスペンサーと考えてください 」
「マテリアルディスペンサー稼働しました。かどうりつ……? 56%で安定しています」
模式図にあるマテリアルディスペンサーに円グラフが表示され、半分くらいで表示が揺れる。
「ここからは操艦がメインですよ。 ラング君やってみましょう。 カーソルの方向に艦首を向けてくださいね 」
「こんな感じでいいんだっけ?……いいんでスか?」
「はい。 その調子で続けてくださいね 」
状況が安定してきた。いい感じだ。
「これで、後はエネルギーを部品に変換し続ければいいのかしらね?」
「そうですね。 タマミちゃん。 このプロミネンスはあとどれくらい取れそうかしら? 」
「有効時間の所を読めばいいですか? あと1900秒なので……30分位ですか?」
「ここを押せば単位を変えられますよ。 ちなみに次のプロミネンスもスキャンしてみましょう 」
「えっと、次は恒星の裏側に近い所で、25分後に発生するみたいです」
「じゃあ、20分後に次のポイントに移動しましょう。もりもり稼がないとね!」
「「ラジャー!」」
「エンジュ先生…… 集中力が持ちません!」
ラングが悲鳴を上げている、まぁいきなり1時間もやればそんなものだろう。
「では、艦長代わりにやってみてください 」
「ぇ。私もやるの?」
「講習なんですから当然です。 お昼まであと30分ですから頑張りましょうね~ 」
「艦長、私もちょっと目がしょぼしょぼします……」
タマミちゃんが手を目に当ててグニグニしている。中々カワイイ。
「あぁ、タマミちゃんも休んで、エンジュサポートよろしく」
「了解です。 お昼前に、このプロミネンスから搾れるだけ搾っちゃいましょう 」
その後はみんなでお昼を食べて、順調にエネルギーを回収していった。
終了予定時間まで、後30分ほどだ。
「次のプロミネンスで終わりね」
「予定より少し少ないですが、潮時ですね 」
「タマミちゃん、最後はでかいの探してね!」
「お任せください! ぇーっと、スキャンレンジ調整して……ぁ……隠れているのを発見しました。規模はこれまでの2倍。位置は現在採取中のプロミネンスの裏側、すぐそばです」
え、2倍!?
大丈夫!?
「エンジュ問題は?」
「何もありません。 本日の最終課題にちょうどいいですね! 」
「よーし、じゃあ最初の布陣で臨むわよ。ラングは今のプロミネンスに炙られないように、位置取りを調整してね。タマミちゃんは、新しいプロミネンスにマーカーロックよろしく。行くわよ!」
「「アイアイマム」」
「マムはちょっと……」
「艦長、気にしちゃだめですって 」
最後のプロミネンスは2倍というだけあって、大迫力だった。マテリアルディスペンサーの稼働率も100%に張り付き、成果も上々。みんなのやり切った感が疲労感を程よく癒してくれる。
「さぁ、帰還するわよ。目標 “アルクタクト”、“ユークレアス” 発進。コース設定はラングに任せるわ」
「アイアイマム。目標 “アルクタクト”、進路210、仰角20、速度10 ……でいいですかエンジュ教官!」
「いいですね、ばっちりです。 ワープの設定はこっちでやります。 あと、艦長、高度隠蔽しますか? 」
「そうねやっておきましょう」
≪船体隠蔽!≫
この船体だと隠蔽魔法を使ってもMPは0.1%も減らない。
「“ユークレアス” 発進しまス」
「コース確認。航路内危険物ありません。“アルクタクト” 帰還まで2時間弱です」
「帰りはゆっくりしましょう。いいわよね、エンジュ?」
は~、疲れた。
「そうですね。 講習会としては十分です。 修理物資も予定通りですしね 」
「修理はどれくらい進みそう?」
「それは帰ってからのお楽しみにしましょう。 艦長、午後のおやつなんてどうですか? 」
さすがエンジュ、よくわかってるじゃない!
疲れた体に甘いものは、正義よね!
「いいわね。二人も一緒に食べましょう!」
「「わーい、やったー!」」




