130 - 追われる馬蹄艦隊 その1
◇天上赤馬連合国 馬蹄艦隊旗艦 グラスヴァルク◇
突然、艦内に大きな鐘の音が響き渡る。
その音も、機械的な電子音ではなく、牧歌的な鐘の音だ。
短い間隔で2度、3度と繰り返される。
「何事だ? ワープ中だぞ、どうなっている? 誰かがドラマを爆音再生でもしたか?」
ジャックが苦笑いで、参謀長のバルマーに報告を求める。
軍艦の、しかも艦橋に、個室の音が響くなど有り得ない事だが、ジャックとしても他に原因が思いつかなかったようだ。
異常事態に対して冗談を言うことで、心の平衡を取ろうとしているのかもしれない。
「分かりません。発生源も不明です」
答えるバルマーは、いつもの通り冷静だ。
しかし、その手元は上がってくる報告書を高速でさばきながら、原因を検索している。
発生源不明は不穏すぎる。
ジャックの顔が強張る。
「なにっ!? 攻撃か?」
「いえ、被害報告は入っておりません」
ひとまず被害が無いのであれば、ゆっくりと原因を追究すればよい。
部下たちは慌ただしく確認を進める中、軽く緊張を解いたジャックが深く座りなおす。
「ふん。不思議なこともあるものだな……今のは、艦内システムから流れた物か?」
「いえ、違います。センサーに音は記録されていますが、放送の形跡はありません」
「この艦橋だけか? 艦内全ての部署に聞こえた物か?」
「お待ちください。今情報を集めています。……各部署から、何が起きたか問い合わせが殺到しています。この部屋だけの現象では無いようです」
「僚艦ではどうなのだ?」
「そちらも混乱しているようです。何名かの艦長から微妙な内容の質問文が届いています」
他の艦でも混乱が発生して、事態の収拾を図ろうとしているのだろう。
とは言え、事態が不可思議すぎて、素直に聞くのも憚られる状況なのかもしれない。
「通信部! 私の名前で、全艦に通達を出せ! 攻撃ではない。落ち着いて行動せよ。被害があれば軽微なものであっても報告するように。原因の心当たりがある者はしかるべき上司に連絡せよ! 以上だ」
「はっ!」
通信士官が勢いよく敬礼をして、作業に取り掛かる。
「……しかし、一体何だったのだ……こんなことは今まで一度も経験したことが無いぞ。参謀長、警戒を厳とせよ!」
旗艦だけではなく、僚艦まで影響が及んでいるとしたら、かなりまずい。
対処を間違うと、艦隊全滅の可能性まである。
「は! 畏まりました! 通信部、科学部、解析に当たれ! 分かったことがあれば速やかに報告するように!」
【ははっ!】
◇フォージニアス艦隊旗艦 フォージニアス艦橋◇
シンリーから一時離脱の報告が入る。
敵艦内の様子は一部しか分からないが、今のところ順調そうだ。
まずは挨拶代わりに、空気の振動だけを転送してみた。
「馬艦隊の進路および編成に、影響は見られません」 とラング。
「旗艦内の人の動きは、活発になっています」 とタマミちゃん。
「敵艦内部での通信頻度が激増しています。艦同士の通信も増えているようです」 とミルアさん。
敵が慌てているのが良くわかる。
それにしても、みんな楽しそうに報告してくれる。
いたずらって、仕掛ける方は楽しいよね!
「まずはドアノッカー作戦成功ね! それじゃあ、次の作戦の準備よろしくね!」
【アイマム!】
お話しの切りの良さで短めになってしまいました。
週の中ほどで、もう一話投稿したいと思います。
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