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013 - 遠足

「エンジュ。高度隠蔽状態を維持。異常はある?」


「いいえ。 すべて問題なしです 」


 高速巡洋艦は、ドライドックから滑るように宇宙に飛び出し、第6惑星のリングに向けて航行中だ。

 魔法による高度隠蔽状態の船から外に出た場合は、中の物も高度隠蔽状態を維持できる。

 先ほど実験しておいたので、ここまでは予定通りだ。


 そして、私たちは高速巡洋艦内で広い空間に出る。

 艦の第一格納庫に着いたようだ。


「さぁ、これに乗り込むわよ!」

 エンジュに用意してもらっておいたのは、2人乗り戦闘艇だ。

 2人乗りと言っても、ごついおっさん(?)が乗れる代物なので、3人で乗っても全く問題にはならない。はずだ……


「ラング。前に乗りなさい。タマミちゃんは私と一緒に後部座席に乗りましょう」


「ぇ“……」

 ラング君が、「俺が前なの?」という顔をしているが、ちょっと嬉しそうだ。

 揺れた尻尾が、チラチラと見える。まぁ男の子は好きだよね、こうゆうの。


「大丈夫よ、ラング。すべてオートで、何も触らなくていいから」


「分かったぞ……」


「艦長。手をつないでもいいですか…… 」

 タマミちゃんが目をウルウルさせてる……かわいいなぁもぅ……

 体に手を回して反対側の手を握ってあげる。


 搭乗スペースがないエンジュには、音声でバックアップを頼む。

 声だけのエンジュに到着までの時間を聞き、外の様子を見られるように頼む。


「あと4分弱で発進位置です。 格納庫の内壁に外を投影します 」


 ちょうど左の位置に土星によく似たリング付きの惑星が映し出される。よく見ると惑星は徐々に正面に移動しながら、大きくなってきているのが分かる。

 リングにより接近すると、着陸するような動きになっていることが分かる。


「艦長、発進10秒前です。 よろしいですか? 」


 リングの少し上をすべるように移動しながら、カタパルトが下に向けて開いていく。しかし、あるはずのリングは見えず外は真っ暗なままだ。


「大丈夫よ。貴方達も大丈夫?」


「あぁ」

「モウヤケクソデス……」

 ラングは顔が見えないけど大丈夫そうだ。タマミちゃんには刺激が強すぎたか…… 


「発進!」

 色のついた艦内から、漆黒の宇宙に飛び出す。周りを見ても星の瞬き一つ見えない。


「高度隠蔽を解除。通常空間に戻って。重力制御もオフ」


「はい。 艦長 」


 エンジュには色々と言われたが、これをしないと周りが見えないのだ。隠蔽状態だと光学観測が全くできない。つまり目をつぶっているのと同じだ。

 目の前に掛かっていた霧が晴れるように惑星とリングが現れる。反対側を見れば一つ一つは小さいギラギラとした光の点が無数にちりばめられている……


 360度 大・迫・力!


 戦闘艇は滑るように移動し、リングに近づいていく。

 リングが近づいてくると、リングの上を移動している感じになる。まるで白い雪のハイウェイを走っている様だ。

 左を見ればリングが恒星からの光を反射し、キラキラと輝いている。


「右下を見てごらんなさい。私たちの影が写ってるわよ」


 この恒星系の星の光を斜めに受けて、大きな影が落ちている。

 そんな中をリングの濃淡に合わせて飛んだり、斜めに横切るように飛ぶ。

 タマミちゃんも落ち着いてきたようで、リングを見たり、惑星を眺めている。


「あ、艦長。星に風車があるよ」 とタマミちゃん。

 風車? あぁ渦巻きか。


「台風みたいなものよ。貴方達の星でもあったかしら?」


「台風って何ですか?」

 そうか、衛星写真がなければ、台風は解らないか……


「季節の変わり目に来る、強い雨と風の天気のことよ」


「あぁ、それなら分かるわ……じゃあ、あの下は嵐なのね。 ……リング、キレイね……」


「艦長。やっぱり何でできてるかよくわなんないぞ」 とラング。


「もうちょっとしたら、リングの中に入るわよっ! そうしたらよく見てね」


 暫く進むと、リングを構成する岩塊が視認できるようになってくる。相対速度が近くなったのだろう。


「岩なのか?」

「白いのもあるわよ?」


 リングの中に潜り込む。


「意外にスカスカ?」

「水の中じゃないのね…… 」


「白っぽいのは氷の塊ですよ。 水は寒くて存在できませんね。 遠くから見ると板状に見えますが、実態は岩や氷の欠片がたくさん浮いている状態ですよ 」


「うぁ。前におっきい岩の塊があるぞ!」


 岩の塊に向けて飛んでいた船は少し進路をずらすと、岩の表面をかすめるようにぐるりと回る。岩と言っても実は衛星だ。エンジュに重力制御を切ってもらっているので、少し強めの遠心力が働く。


「ぉぉぉ……」


 そして、進行方向が惑星の方向を向く。正面に、ややくすんだオレンジ色の惑星が見える。


「ちょちょちょ。 艦長?」

 これでいいのか? とラングの視線が訴えてくる。


「次の目的地は、あの目の中心よ!」


「マジカヨ……」

「キコエナイ、キコエナイ……」


 惑星に向かって加速する。が、すぐに無重力状態に戻る。この辺の進入軌道を間違うと、大変なことになるというのは、SFでも現実でも定番だ。エンジュにお任せしておけば問題ないだろう。


「ぉぉ“ぉぉ“……」


 色々な制御を切ってもらっているので振動がすごい……

 窓の外が灼熱の色に染まってくる。シールドを張っているらしく、機体よりも離れたところに赤い衝撃波面が見える。

 惑星の表面がどんどん近づいてくる。

 ガス惑星なのでいきなり衝突とかは無い。はずだ…… 

 ただ、中に入っても視界が無くて面白くない。

 なので雲の表面を飛ぶ予定だ。


 ガスの雲の上を飛び、渦の目の周囲を回る。目の中は深い部分まで見えそうだが暗くてあまりよく見えない。

 時折、大きな稲妻が横に走っているが、どれくらいのサイズなのか……


「艦長。 報告があります 」


「どうしたの?」


「惑星の雲の中に、移動する巨大な質量を確認しました 」


「衛星?」


 そんなはずはないと思いつつ、ほかに選択肢が思い浮かばないので言ってみる。


「きっとクジラさんだよ!」


 タマミちゃんの答えはもっとなさそうだったが……


「巨大な質量が急速接近中です! 」


「なに?」


「魚です 」


「は?」


 横から巨大な口を開けた鯉が飛び上がってくる。


「接続<コネクト>!『100倍』」


 まわりの光景が一瞬止まる。 

 と見えて、落ち着いて見るとすごくゆっくり動いているのが分かる。


『はい。 艦長。 接続は良好です 』


 そう、前に思考加速を有効利用するために思い付いた、エンジュとの思考接続だ。音声だけでも思考加速と指示はできるが、声が高周波になる辺りで意思疎通が困難になってしまったので杖を媒介にできるかテストしておいたのだ。


『避けられる? 』


『問題ありません。 重力制御を起動します 』


『あれはなに?』


『あれは惑星魚と呼ばれる魚の一種です。 皇族によって品種改良された種で、この星系にも放流されていたんですね…… 』

 惑星魚!? もう怪獣と言った方がいいのではないだろうか?


『タマミに負けた……じゃなくて……あれ、5000年以上生きてるの?』


『そういうことになりますね…… 』


 そして、口を躱した後の魚の動きが面白い…… 体をひねって背中から雲の中に落ちていく。


『また来そうね……加速を通常の10倍に変更。なんかあったら全力で避けてね』


『了解 』


 少し早く周りが動き出す中で、ラングが何か言っているが、聞き取れない……遅すぎるのか……

 かといって、ゆっくりしゃべっても伝わるとも思えない。ここは今後の課題にしておこう。


 と、再び惑星魚がジャンプしてくる。

 しかし、その軌道が食べるための軌道ではない……遊ぼうとしているのか?


『エンジュ。惑星魚と2重螺旋を描くように飛べる?』


『可能ですが、どんな意味が? 』


『なんとなくよ、なんとなく。ついでにラングたちが魚をよく見える方向に、艦首を向けてあげて』


『鬼ですかっ! 』


『サービスよっ!』



 それから数度のジャンプの後、撤収を決めて遠足は終了となった。

 私としては、連邦艦との接触もなく、大きなトラブルもなかったので大満足の遠足だったのだが……

 艦長室に戻った後、数時間にわたって2人は呆けていた。

 すまない、ちょっとはしゃぎすぎた……




 遠足の日の午後、二人はまだダウンしている…… 食事も喉を通らないということなのでベッドで休んでもらっている。

 私はというと…… エンジュの新任艦長講習会の第一回目が待っていた。

 そう、「一回目」だと!


「最初は船の説明から始めます。 第一回目は主要設備と主機関、相転移炉に関してです。 これならすでに少し話もしていますから、分かり易いかと思いまして 」


「あ、まって」


「なんですか? 逃げるのは許しませんよ? 」


「そーじゃないわよ。その辺は3人で聞いた方がよくないかしら?」


「私は3回やってもいいのですが……そ~ですね。 では先に、帝国軍規の一部抜粋で、階級と役目や、遵守事項から行きますか 」

 なんか重いのが来た……気がする。


「お手柔らかにお願いします」


「基本的には、艦長には特権が付与されていますので、帝国軍規には縛られません。 ただ、ルールにはそれぞれ意味があります。 まず艦長には、常識としてのルールを覚えて頂きたいと思います 」


「そうね。特に常識の所は同意するわ」


「それでは、最初に階級とその役目ですが…… 」


・・・・・・


「それでは、今日はこのくらいにしておきましょう 」


「ありがとうございましたっ!」

 机に突っ伏すと、エンジュが飲み物を持ってきてくれる。

 時間を見ると、3時間もやっていたようだ。


 エンジュは素晴らしい先生だった。分からない単語や考え方もこちらの文化を交えて解説してくれる。うとうとした時は、やばかったが…… 


「ぷふぁー」

 冷たいジンジャーエールとは気が利いている。


「艦長、お行儀が悪いですよ」 とタマミちゃん。

 夕方近くなって二人が再起動したようだ。


 ちなみに艦内時間は、起きた時間を朝7時として時計をリセットしてもらった。


「二人はもう大丈夫?」


「「はい」」


「艦長は勉強していたんでスか?」 とラング。


「そうね。私も新人艦長だからね。そうだ、明日から、朝は一緒に講習会を受けましょう」


「え“、勉強は苦手だぞ」

「艦長の役に立つんでしょ。おバカじゃ役に立たないわよ!」

 二人の掛け合いも微笑ましい。


「最初は簡単なところからやってもらうから大丈夫よ。午後はどうしようかしらね?」


「修理でもなんでもしまス。ただ何も知らないっスけど」

「そこ威張るとこじゃないでしょ」


「エンジュ、修理の手って必要?」


「正直、人の手でどうこうなるレベルではありませんね。 それよりもお二人にはこんなメニューがおすすめですよ 」


 そう言ってディスプレイにいくつかの候補が現れる。


・体力トレーニング

・射撃トレーニング

・操縦トレーニング

・戦術トレーニング

・外交トレーニング

・耐環境トレーニング


「ちょっとまって。二人は士官候補生じゃないのよ」


「あ、ばれました? では、他にこんなのはいかがですか? 」


・医学学習

・料理学習

・基礎国語

・基礎数学

・基礎科学

・基礎天文学


「艦長、俺…… 僕は、士官候補生じゃないですけど、士官候補生になることはできまスか?」


「そうね。やれることが増えたら、できることを増やしてあげる約束だものね。どうかしら、エンジュ?」


「大丈夫ですよ。 ビシバシいきましょ~! 」


「お手柔らかに頼むゾ……」


「私は、体力トレーニングと学習系を半々くらいでもいいでしょうか? 少しずつ色々やってみたいです」 とタマミちゃん。


「じゃあ、ラングと被るところは同じようにやってみて頂戴。案外、操縦とかのセンスがあるかもよ」


「朝の遠足で、操縦は無理そうと思いました……」

 あら、心を折ってしまったか……でもそのうち気が変わるかもしれないし。


「そぉ、操縦桿握ると性格変わる人多いらしいわよ~」

 この辺は適当だ。車の運転も、戦闘機の操縦桿も大して変わらないだろう……


「ところで、エンジュさん一人で大丈夫なんですか?」


「あぁ、大丈夫よ。エンジュは分身の術が使えるから!」


「「ぇ!……あぁ……」」


 納得したらしい。


「さぁ、そうしたら晩御飯にしましょう。と、その前に、現在の修理の進捗を教えてもらえる?」


「では、トピックスから…… 相転移炉は状況が落ち着いてきました。 破損個所の詳細な調査中です。 見込みよりも修復に掛かる時間は少なくなりそうです。 逆に時空円環ゲートの方は、破損部位が内部構造にまで浸透していた模様です。 修復には予定よりも時間が掛かりそうです。 主機関の方は詳細調査も終わり、破損部品の撤去作業を一部開始しています。 マザーシップの主機関は起動完了し、2時間前から修理の方にエネルギーをまわしています。 これによりワープ可能になるまでの期間は1年4か月に短縮されました 」


「少しづつでも、進歩ね! ちなみに主機関全部のステータスを表示できる?」


「はい。 こちらになります 」

 21個ある主機関に番号が付いて、それぞれの修理状況が赤い棒グラフで表示される。

 大破と言っていた15個は、さすがに修理状況が半分以下の物が多い、10%台もちらほら…… 逆に、破損と言っていた5機に関しては、70-80%台の物が大半の様だ。21番目の主機関は緑色で全力運転中らしい。

 そしてその下に緑色の短い棒が2本並んでいる。キャプションを読むと、どうやら艦首の主機関とマザーシップの主機関の様だ。長さが出力だとしたら、確かに微力だ……


「これ全部同時に修理、進めてるの?」


「いいえ。 破損度の少ないものから優先的に修理しています。 追加で1機でも動き出せば、だいぶ早くなるんですが…… 」


「エンジュねーちゃん。これとこれを合わせて100にできないのか?」

「そんな簡単にできるわけないでしょ」 タマミちゃんの突っ込みが早い。


「ラング、主機関ってものすごく大きいのよ。マザーシップ見たでしょ。()()()()よ。エンジュ、さすがにそこは検討済みよね?」


「ぇ。 あはは…… そーですね。簡単ではないですが、できないことはないかもしれませんね…… 」

 エンジュの目が泳いでいる……無駄に芸が細かいな……


「さすがに、ポン付けでは動きませんが、うまくいけばかなり時間を短縮できるかもしれません。 但し、うまく動かない場合や、最大出力が下がる場合もあります。 それでもよろしいですか? 」


「やれるだけやってみましょ。ラング、お手柄ねっ! 今日はデザートも付けてあげるわ!」

 タマミちゃんが羨望の眼差しでラングを見てる…… 

 そして、こっちを見る目がちょっと泣きそう…… 可愛すぎる……

 ケチるようなものでもないが、健康を考えると無制限もよくない気がする。

 ま、今回はいっか。


「ラングに免じてタマミちゃんもいいわよ」


「わーぃ」

 タマミちゃんの顔がぱっと輝き、まるで花が咲いたように見えた。


「さて、それでは改めて夕飯にしましょうか」



 今晩の夕食も、とても美味しかったです!

 そしてデザートを食べているタマミちゃんはとても幸せそうで、ごちそうさまでした!

 ベッドでも二人がモフモフで、ありがとうございました!


 こうして2日目の夜が過ぎていくのでした まる

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