表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/195

SS - スリカータの後日談 第4惑星

 ヴァイパーが頬杖をついて書類を読んでいると、秘書官が部屋に入って来る。

 先ほど、用件があるのを伝えた所だった。


「そんなに遺跡を奪われたのが堪えましたか?」

 少しからかう雰囲気を醸しつつ、執務テーブルの横に移動する。

 タブレットを持ち上げ、用件がある空気を出す。


「馬鹿者、そんな話ではないわ。それで、働いていた者たちは全員無事なんだな?」

 対するヴァイパーは、秘書官の用件よりも、自分が気になっていたことを先に片付けることにしたようだ。


「はい、以前報告した通り、誰一人怪我はしておりません。その後の精神状態にも、問題は出ておりません」


「物的な被害は?」


「遺跡内のアーティファクト一式、持ち込んだ動力機器、計測機器全て。それとガーディアン一体です。逆に、遺跡の外側の物には一切の痕跡がありませんでした」


「要するに全部か……」

 確認する前から結果は知っていたはずだが、改めて確認すると、落胆もするのだろう。

 頭が下がる。


「一応壁は残っていますが、それだけです。彼女らの仕業ですか?」


「それ以外にある訳が無かろう。遺跡の外側の構造体には一切の破壊工作は無く、どう考えても通らない物を持ち出したのだ」


「バラバラにするとかは?」


「紫足帝国が持ち込んだ、原子切断機でも傷一つ付かない物を、あの短時間で切り刻んだと? 無いな……いや、逆か。何があってもおかしくはないな」


「なぜ気が付かれたのでしょうか? 我々の計測器には何も出ないのですよ」


「そうだな。紫足帝国の科学者は、科学の範疇ではない、とまで言っていたな。しかし、原理は分からなくても、設定すればその通りに動いた。科学であることは間違いないのだ。より高度な技術を持っていれば、検出も出来るのだろう。我々の見込みが甘かったのだ」


「では、我々が攻撃していたことも……」

 秘書官の声がわずかに小さく、低くなる。


「当然、気が付かれただろうな」

 ヴァイパーは何を今更、という表情で答える。


「なぜ、放置されたのでしょう?」

 秘書官が心底不思議そうに問いかける。

 紫足帝国の攻撃に対しては、あれだけの反撃をしているのだ。


「分からん。そして聞いてみる訳にもいかん。それこそ藪蛇だ」

 答えるヴァイパーはやや投げやりだ。


「そうですね。あの戦艦で撃たれた日には、何も残りそうもありませんからね」


「あぁ、いまだに思い出すと手の震えが止まらん。あんなに綺麗なエネルギーの流れを見ることができるとはな。あの戦艦の攻撃に比べたら、紫足帝国の攻撃なぞ、オモチャの鉄砲だ」


「紫足帝国の攻撃も、派手でしたが……」


「あぁ、そう見えるか……あの派手さはな、制御の甘さ故だ。おそらくハイペロンが端から崩壊しているのさ。それに比べて、あの戦艦の制御は、完璧だった。文献によればだが、あの一撃で惑星を貫けるらしいぞ」


「なるほど、紫足帝国の船に簡単に穴が開くわけですね……遺跡は、高い勉強代で済んでよかった、と思いましょうか」


「そうだな。残念だが仕方がない。どのみち、我々には過ぎた代物だったのだ」

 ヴァイパーが、無理やり自分を納得させるための言葉で閉める。


 二人の間に沈黙が落ちる。


 そして、秘書官がここに来た用件を思い出した風に、話を切り出す。


「あぁ、紫足帝国から連絡がありました。滞在期間延長の通達が来ております」


「そう言えば紫足帝国の奴ら、誰が本国に帰るかでもめているらしいぞ」

 秘書官の話で()()を思い出したのか、ヴァイパーがにやりと笑う。


「あぁ、船にダメージを受けましたからね。責任問題ですか?」


「あぁ。我らが皇子殿はここで直すと言っているらしい。というか、直さないと実質、帰れない状態らしいがな」


「どういうことですか? 航行装置に不具合でも?」


「いや、それがな……シールド機関の隣の区画がな、いいか、極秘だぞ……汚物処理装置、だったらしいぞ」

 クックック、と笑いを隠せない。


「それでは、あの船の中は……」


「あぁ、凄い匂いになっているそうだ。気が付いても指摘するなよ」


「了解しました。部下にも硬く言い含めておきます」

 秘書官も口角が上がり楽し気だ。彼の部下達にも、ちゃんと伝わる事だろう。


「まぁ、それは置いておいても、弁務官殿はこのまま帰れば、間違いなく神の食卓だからな」

 ヴァイパーが少しだけ表情を引き締めて、近未来を予測する。


「そうなると、皇子だけ帰還ですか。皇子と言えども、危ないのでは?」


「あぁ。たしか第六皇子だったか。微妙なラインだろうな。ま、我々には関係のない事さ」


「そうですね。しばらくはそっとしておきましょう」


「あぁ、我々が巻き込まれないようにするには、それしかないからな……」

お読みいただいている皆様、ありがとうございます。

ブックマーク&☆評価の方よろしくお願いします。

気に入ったエピソードにいいね!も是非!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ