SS - スリカータの後日談 第4惑星
ヴァイパーが頬杖をついて書類を読んでいると、秘書官が部屋に入って来る。
先ほど、用件があるのを伝えた所だった。
「そんなに遺跡を奪われたのが堪えましたか?」
少しからかう雰囲気を醸しつつ、執務テーブルの横に移動する。
タブレットを持ち上げ、用件がある空気を出す。
「馬鹿者、そんな話ではないわ。それで、働いていた者たちは全員無事なんだな?」
対するヴァイパーは、秘書官の用件よりも、自分が気になっていたことを先に片付けることにしたようだ。
「はい、以前報告した通り、誰一人怪我はしておりません。その後の精神状態にも、問題は出ておりません」
「物的な被害は?」
「遺跡内のアーティファクト一式、持ち込んだ動力機器、計測機器全て。それとガーディアン一体です。逆に、遺跡の外側の物には一切の痕跡がありませんでした」
「要するに全部か……」
確認する前から結果は知っていたはずだが、改めて確認すると、落胆もするのだろう。
頭が下がる。
「一応壁は残っていますが、それだけです。彼女らの仕業ですか?」
「それ以外にある訳が無かろう。遺跡の外側の構造体には一切の破壊工作は無く、どう考えても通らない物を持ち出したのだ」
「バラバラにするとかは?」
「紫足帝国が持ち込んだ、原子切断機でも傷一つ付かない物を、あの短時間で切り刻んだと? 無いな……いや、逆か。何があってもおかしくはないな」
「なぜ気が付かれたのでしょうか? 我々の計測器には何も出ないのですよ」
「そうだな。紫足帝国の科学者は、科学の範疇ではない、とまで言っていたな。しかし、原理は分からなくても、設定すればその通りに動いた。科学であることは間違いないのだ。より高度な技術を持っていれば、検出も出来るのだろう。我々の見込みが甘かったのだ」
「では、我々が攻撃していたことも……」
秘書官の声がわずかに小さく、低くなる。
「当然、気が付かれただろうな」
ヴァイパーは何を今更、という表情で答える。
「なぜ、放置されたのでしょう?」
秘書官が心底不思議そうに問いかける。
紫足帝国の攻撃に対しては、あれだけの反撃をしているのだ。
「分からん。そして聞いてみる訳にもいかん。それこそ藪蛇だ」
答えるヴァイパーはやや投げやりだ。
「そうですね。あの戦艦で撃たれた日には、何も残りそうもありませんからね」
「あぁ、いまだに思い出すと手の震えが止まらん。あんなに綺麗なエネルギーの流れを見ることができるとはな。あの戦艦の攻撃に比べたら、紫足帝国の攻撃なぞ、オモチャの鉄砲だ」
「紫足帝国の攻撃も、派手でしたが……」
「あぁ、そう見えるか……あの派手さはな、制御の甘さ故だ。おそらくハイペロンが端から崩壊しているのさ。それに比べて、あの戦艦の制御は、完璧だった。文献によればだが、あの一撃で惑星を貫けるらしいぞ」
「なるほど、紫足帝国の船に簡単に穴が開くわけですね……遺跡は、高い勉強代で済んでよかった、と思いましょうか」
「そうだな。残念だが仕方がない。どのみち、我々には過ぎた代物だったのだ」
ヴァイパーが、無理やり自分を納得させるための言葉で閉める。
二人の間に沈黙が落ちる。
そして、秘書官がここに来た用件を思い出した風に、話を切り出す。
「あぁ、紫足帝国から連絡がありました。滞在期間延長の通達が来ております」
「そう言えば紫足帝国の奴ら、誰が本国に帰るかでもめているらしいぞ」
秘書官の話で何かを思い出したのか、ヴァイパーがにやりと笑う。
「あぁ、船にダメージを受けましたからね。責任問題ですか?」
「あぁ。我らが皇子殿はここで直すと言っているらしい。というか、直さないと実質、帰れない状態らしいがな」
「どういうことですか? 航行装置に不具合でも?」
「いや、それがな……シールド機関の隣の区画がな、いいか、極秘だぞ……汚物処理装置、だったらしいぞ」
クックック、と笑いを隠せない。
「それでは、あの船の中は……」
「あぁ、凄い匂いになっているそうだ。気が付いても指摘するなよ」
「了解しました。部下にも硬く言い含めておきます」
秘書官も口角が上がり楽し気だ。彼の部下達にも、ちゃんと伝わる事だろう。
「まぁ、それは置いておいても、弁務官殿はこのまま帰れば、間違いなく神の食卓だからな」
ヴァイパーが少しだけ表情を引き締めて、近未来を予測する。
「そうなると、皇子だけ帰還ですか。皇子と言えども、危ないのでは?」
「あぁ。たしか第六皇子だったか。微妙なラインだろうな。ま、我々には関係のない事さ」
「そうですね。しばらくはそっとしておきましょう」
「あぁ、我々が巻き込まれないようにするには、それしかないからな……」
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