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101 - マーブル・グレイファー

 翌日の朝は、すっきりとした目覚めとなった。

 ここ最近の不調があの遺跡のせいだと思うと、腹が立つと同時に安心感もある。


 そしてミルアさんは頭が痛そうだ。

 そっちは原因が分かっているので、そっと水を渡しておく。


「さぁ、本日の朝会を始めましょう」


「それでは艦隊の状態から報告致します。 当星系に存在するフォージニアス艦隊は、第3惑星を中心に、衛星の月、第4惑星の軌道上に展開しました。 これにより各惑星の表面に死角はなくなりました。 本艦および戦艦その2は、第3惑星軌道上を公転しています 」

 艦隊は昨日の夜のうちに散開状態にしておいた。もちろん隠蔽状態は解除していない。

 この後のイベントでは油断しないのだ。


 それはそうと、戦艦の名前は何とかしよう。


「戦艦その2はちょっと可哀そうだから名前を付けましょうか。何がいいかしらね」


「みんなの名前をモチーフにしたらどうでしょう? 前にはラングが乗ったこともありましたし、今回はボルグさんとシンリーさんが乗りましたよね?」

 タマミちゃんの意見にみんな同意している。


「乗った時に名前を変えるのも面白いっス!」

 ラングはお気に入りの名前があるのかな?

 でも、船の名前ってそんなに頻繁に変えていいんだろうか?


「エンジュ、船の名前ってコロコロ変えてもいいものなの?」


「船の名前の変更頻度に関しては規定がありませんね。 普段は混乱を避けるために、そう何度も変更はしないと思います 」


「そう……まぁもう少ししたら全員分の戦艦を持ち出してもいいかもね。よし、全員自分の戦艦を持つと思って名前を付けて頂戴。あの船(戦艦その2)は昨日ボルグが乗ったから、ボルグが考えた名前を付けるわよ」


【了解!】


 そこからみんな考え始めてしまったので、朝会は一時中断となった。

 花の名前や星の名前、各種族の英雄の名前など色々な名前とエピソードが出てきて楽しい時間が過ぎる。 


 ボルグを除く全員の会話が2、3周したあたりで、ひとまずボルグが名前をひねり出した。

 じっくりと熟考していたボルグが付けた名前は “ボルドルファ” 。

 自分の名前とドルファ星の名前を融合した造語とのこと。


 周りのみんなはモチロンの事、シンリーに褒められて照れているボルグも珍しい。

 みんなも ”自分の名前を入れる欲” が高まった様だ。


「それでは朝会を再開しましょう。 次は離れた場所の艦船です。 中性子星のエネルギー回収は順調です。 そのほか、ドルファ星、グルンフィルステーション、アルクタクトも問題点はありません 」


「こっちでは色々あったけど、離れている場所が何事も無くてよかったわ。このまま戻るまで、何もないといいわね」


「はい。 次に、昨日接収した設備に関しての調査結果です。 結論だけ先に言ってしまいますが、時空円環ゲートを使って精神波に変換する部分に関しては未知のテクノロジーが使われており解析できておりません。 またターゲットシステムに関しても爆発の影響で破損しています 」

 あれだけ色々頑張ったのに分からないことだらけか……


「収穫無し?」


「そんなことはありませんよ。 まず、使われていた時空円環ゲートですが、これ自体がかなり貴重品です。 アルクタクトの修理にも使えますし、解析する手段があれば、未知のテクノロジーを手に入れられる可能性があります。 他にも時空円環ゲートを駆動するためのエネルギーパック480個を入手しております 」


「レプリカなんだっけ?」


「昨日はそのようにお伝えしましたが、細部を確認すると差異が見られました。 似た設計の別物の可能性があります 」


「似ている部品だとすると、元はどんな部品なの?」


「アルクタクトにあるのは、時空円環ゲートを構成するリングの一つ、別名 “自我意識強化レンズ” と言うパーツです。 時空円環ゲートは複数のリング構造の集合体ですが、その理論的な動作は、時間と空間が離れた場所に焦点を合わせるように機能します 」


「それでリングだけど、レンズなのね。光を曲げるんじゃなくて、過去に送る何かの波を曲げるってこと?」


「その通りです。 自我意識強化レンズは使用者の意識を過去に送ります。 この時の外乱から意識を守り、時空間焦点を合わせる為に使用します 」


「なるほどね。今回は過去じゃないし、特定の意識を送っている訳じゃないのね……」


「ついでに言うと、住人の負の感情を集めて変換する機構を持っているようですね 」


「なかなかヤバイ装置ね。テクノロジーで後れを取るとどうなるか、というのを身をもって体験してしまったわね」


「私としても防御方法がないのは不安で仕方ありません。 何とかしたいのですが…… 」

 エンジュが不安かぁ……とはいえ、今はどうにもならなそうだ。


「まぁ、どうにもならないこともあるわよ。もう少し慎重に進めるしかないかしらね」


「了解です。 では次の話題です。 昨日作戦班が対峙したロボットに関しても解析が完了しております。 とは言っても、基本骨格は帝国末期によく用いられた警備用ロボットにいくつかのアタッチメントが付いているだけの物でした。 通常環境では脅威にもならない機体ですが、艦隊支援が使えず、装備が少々不足していたところで脅威になってしまいました 」


「帝国では、ロボットも使ってたのね」


「そうですね。 ホログラムによる警備だとエネルギーも馬鹿になりませんし、妨害にも弱いですからね 」

 確かに、警備ロボットが妨害で消えてしまっては本末転倒だ。


「私たちは持ってるの? 警備ロボット」


「ありませんね。 艦隊内では、より厳重なセキュリティシステムによって保護されていますから 」


「なるほどね」


「ただ使わないこともないですよ。 強襲揚陸ミッション等で人が足りないときは戦闘ロボを用意します。 並べてみますか?」


「あまり厳ついのは好みじゃないわね。すぐできるの?」


「畏まりました。 1万体ほど作っておきましょう 」


 い、いちまん?

 船が作れるのだから、あのサイズのロボットなんて簡単か……


「ま、まぁ、急がなくていいからね」


「了解です。 では次の話題です。 おととい頂いた紫足帝国との契約書の確認が進みました。 なかなか大胆に責任や賠償を回避する文言が追加・削除されているのが確認されました。 後ほどミルアさんと詳細を詰めたいと思います 」


「ミルアさんよろしくね!」


「お任せ下さい」


「後これが最後の話題です。 予定では本日午後、紫足帝国の輸送船団が星系に到着予定です 」


「ワープ中の船の移動はやっぱり見えない?」


「はい。 一般ビーコンは点けていないようです。 軍用か、もしくは無点灯かは分かりません 」


「とりあえず動静に注意しておいてもらえる?」


「了解です。 システム上は警戒態勢にしておきましょう。 みなさんには、何か動きがありましたら連絡します 」


「いいわね。じゃ、解散!」




 朝会を解散してすぐに、マーブル・グレイファーさんから通信が入った。

 彼女の体調も良くなったようだ。


「ミルアさんに是非お見舞いのお礼をしたいということです。 お繋ぎしてもよろしいでしょうか? 」


「いいわよね?」 と確認すると、ミルアさんが頷く。


 ミルアさんが統合(いつもの)ステーションに立ち、通信が開く。

 マーブルさんは、執務室のテーブルに座った状態でスクリーンに映る。


「昨日エンジュさんに頂いた薬が良く効きました。ミルアさん、ご丁寧な診察の提案ありがとうございます。エンジュさんにもよろしくお伝えください」

 口調はしっかりしているがまだ少し辛そうだ。

 私より長く症状が出ていたはずなので、治るのには時間が掛かるだろう。


「体調が良くなったそうで、なによりです」


「本当にありがとうございます。おかげさまで、明日の船の取引にも出席できそうです」

 マーブルさんも取引に立ち会うのか……スリカータとしてはかなり大事なイベントなんだな。


「まだあまり、ご無理をなさいませんように……」


「お気遣いありがとうございます。そう言えば、明日の船の取引の立会人になられたそうですね」


「はい。色々ありまして……」

 そうね、()()あったわね。


「厄介な依頼を受けていただきましてありがとうございます。これなら死ぬ前にささやかな夢が叶いそうです」

 死ぬ前のささやかな夢とは穏やかじゃないわね……何があったのかしら?


「ささやかな夢……ですか?」


「はい。死ぬまでには一度、植民惑星を見に行ってみたいのです」

 マーブルさんが両手を組んで少し上を見上げる。


「以前に事故があったという星でしたでしょうか? 何か理由でも?」


「昔、夫が植民地貿易船の船長だったのです。うまくいけば移住する予定もあったのですが、残念ながら事故で……」


「それは……辛いことを思い出させてしまいました。申し訳ありません」


「いいえ。いいのです。とても綺麗な星だったのですよ。事故で生存者はいないという話でしたが、確かめた人は誰もいません。今でも、ふと生き残っているのではないかと思う時があるのです」


「そうですか……」


 現実には知らない方がいいこともある。

 しかしそれでも、望んで知ろうとする人を止めることは誰にもできない。


 それにしても、私が見た星の印象とはかなり隔たりがある。

 綺麗な星が不毛の大地になる……そんなに大きな事故だったのだろうか?


「まずは、明日の取引を成功させなくてはなりませんね。私は何もできないかもしれませんが応援していますね」

 マーブルさんが終わり際、軽く手を振ってくれる。上品な方だなぁ。


「はい。よろしくお願いいたします。お大事に」

 ミルアさんが浅く頭を下げ、耳が重力に負けながら、さらに深くお辞儀をする。


 マーブルさんの笑顔がスクリーンごと光の粒となって消え、通信が終了した。

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