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馬鹿みたいに恋がしたい  作者: 川面月夜
第八幕 無要運命デートor LINE
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第八幕 無要運命デートor LINE 4

八幕四話です、よろしくお願いします。

 睦美さんとの気まずい一件を昨日とする日曜日。


 昨日、どうすればよかったのだろう、などと自問しながら、無意に休日を潰していた。


 リビングでアイスを食らいながらボケーっとテレビを見ている。

 睦美さんと連絡はするし、表面上は普段通りであるが、どこかぎこちない感じがするのは勘違いではないだろう。


 それだけ重い事だった。

 付き合ってしばらくして、体の繋がりを求めるのは自然なことで、大事なことだと思う。

 それを台無しにしてしまったという睦美さんの心情は如何なものだろう。

 昨日、何度も慰め、チャットでも気にするなと送り続けてはいるが、抜本的な解決はしていない。


 きっと、時間をかけていく以外にないのかもしれない。

 けど、今月はクリスマス。その時を今のぎこちない関係のまま過ごしてしまっては、睦美さんに追い討ちをかけてしまう。できればクリスマスまでになんとかしたかった。


 無論、俺の心情もそうしたがっている。


 しかし、どうしたものか?


 考えてはいたのだが、答えは出なかった。


 ハァとため息を吐く。

 と、同時のことだった。

 インターフォンが鳴らされる。


「飛鳥、お願い」


 料理の仕込みをしている母は、手が離せないからと俺に対応を振る。

 少し気分転換が必要なのもある。俺は重い腰を上げ、インターフォンのモニターを見ると、俺はその顔に一瞬の高揚を覚えたが、即座に困惑へと転じた。


 思い人と同じ造形でありながら、ある一点がすべての印象を上塗りする……ように見せかけて、実は内心は割と普通よりっぽい女の子。

 即ち、天津華月だった。


「……蓮城ですが」

『おや、そこに見えるは飛鳥さん。どうも華月です、遊びに来ちゃいました』


 てへぺろ。

 なんだろう、アポ無しで脅かすのが趣味なのかと問いたいが、門前払いは流石にできないので、結局家に上げる。声を聞いた途端母さんがめちゃくちゃ喜んでいたので選択肢はそもそもなかった。

 というかそっちからは見えてないだろ。

 内心でツッコむ。


 しかし、よく考えてみれば。皮肉なことではあるが、これ以上に睦美さんのことについて頼り甲斐のある人物はいない。渡りに船と言っていいかもしれない。


「どうもお母さん、ご無沙汰してました。これ、お土産です」


 言いつつ、ケーキを差し出してくる。かなり美味いと話題のもので、たしか結構並ばないと買えないやつだったと思う。

 アポは取らないのに、毎度こういうのは欠かさないのはどういう了見だろう。単に遊び心かもしれないが。


「あら、ごめんね、気を使わせちゃって」

「いえいえ、いつも姉がお世話になっておりますから」

「後で出すからね」

「我ながらよいケーキと自負してますから、楽しみです」


 人好きのする笑顔を浮かべて、華月は母と一通り挨拶を済ませる(母さん、手、離してね?)と、こちらに向かって、


「近況を伺いたいのですけど、大丈夫ですか?」

「……構わない。俺も訊きたいことがある。部屋に行っても?」

「そうですね、それが良いでしょう」


 うんうん、とわざとらしく頷く華月を連れて、自室に入り、どっかと座り込む。

 さあ、話そう……と意気込んだ瞬間、兄がさっきのケーキとお茶を持ってやってきた。無駄に様になっていてムカつくことこの上ない。


「誰かと思えば、君だったんだ」

「ええ、お久しぶりです。姉がお世話になっております」

「よしてくれ、世話になってるのはそこの愚弟だろう」

「それがそうでもないのですよ。飛鳥さんはとても良い愚弟ですね」

「良い愚弟、ね。はは、まったく持ってな」

「……なんで兄さんが来るんだ?」

「これからつぼみと出かけるんだが、それで下に降りたら母さんがケーキの用意をしていたものだからな」


 まあ、そんなところだろうとは思う。

 というか、以前華月が来た時もたまたま居合わせた兄がお茶菓子を持ってきたのではなかったか。

 これを運命と結びつけるのはなんとも安直だが、事実として華月の運命の相手は兄さんと出ているらしいのだから困ったものだ。

 まあ、その件について俺が口を挟むことはない。兄とつぼみが破局するというのに思うところはあるが、自然に別れたりするのを無理に繋ぎ止めたりするものではないだろう。

 俺に用意された役など、せいぜい泣く兄のゲーム相手になるくらいだ。


「まあ、そんなとこか」

「もっとドラマチックなら良かったんだけどな」


 それが運命の糸によるものならこれ以上泣くドラマチックなことだが、そんなことは知る由もない兄であった。


「ま、俺はそろそろ行くよ」

「ケーキ、ありがとうございました」

「気にすることはない……そもそも君からの貰い物だしな」

「ふふ、お兄さんの分もありますので、後で召し上がってくださいね」

「楽しみにしておくよ」


 言いながら下に降りていく兄を見送る華月は、どのような心持ちなのだろう。と、そんな視線を気取ったか、華月が微笑んで言う。


「私は特に何をすることもありませんよ」

「運命の人なんて、胸をくすぐるワードだと思うが」

「あなたがそれを言いますか。まあ、それは私だって一応少女と定義づけられる存在ですから、その言葉に高揚を覚えないわけではありませんよ。ですが、現状大した関わりもありませんし、それに掠奪みたいになってしまいますしね、今アプローチなんてしたら」

「まあ、それはそうか」


 運命の人と提示されていたとしても、それ以外に何もなければそれはそれで困ってしまうものかもしれない。

 俺と睦美さんは共に別の困難を抱えていて、だからこそ傾倒しやすい状態だったが、華月はそうではないのだろう。

 睦美さんへの罪悪感などもあると思うし、多分、そもそも今恋愛などする気がないのだ。


「そういえば、過去視ってまだしてるのか?」

「いえ。元々あなたの為人を把握するためだけに使っていたものです。今となっては無用ですよ」

「そうか。まあ、それならいいんだ」

「重ねて言いますが、現状では私がお兄さんに執着する理由がありませんからね。まあ、そのことはいいでしょう。それより、近況を早く伺いたいですね」


 そう言う表情は明るい。

 多分、昨日のことは知らないのだろう。

 少し迷ったが、洗いざらい話すことにした。

 最初の頃はわざとらしく、ふむふむ、とか言っていたが、次第にそんな遊びが消えていった。


「……そうですか……」


 あからさまに落ち込んだ表情で華月が溢した。

 この二ヶ月、偶にではあるが華月と接してきて分かったことがある。おちゃらけたようにもみえる華月の態度だが、それは罪悪感をカモフラージュするためのものだ。一度その衣を剥いでしまえば、ありのままの華月というのはかなり自己肯定感の低い質のように見受けられる。

 まったくの演技というわけではないのだろうが、務めてそう振る舞っているのは間違いないだろう。


 彼女の過去を思えば、当然と言ってもいいだろう。


「ほんとうに、なんと言ったらいいか……」

「気にするな、とは言えないが……」

「……そうですね。力添えしますよ。そうすべき。いや、そうしなければなりません、私は」

「……どうすればいいかな。情けないことだが、あんまり経験がなくてな」

「……パッと浮かぶのは、プレゼントではないでしょうか。まあ、こんなのは早々に浮かぶ案とは思いますが」

「でも、そのためだけにあつらえたものだって察しがつくだろ。それで意味があるものかな」

「? だけ、ですか? うってつけ、一石二鳥と思いますが」

「どういうことだ?」

「……もしかして、知らないのですか?」


 華月が、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてから、左手でその表情を覆い隠すようにして。


「……たしかに、姉らしいといえば、らしいかもしれませんが……。いや、でもこれは飛鳥さんにも非があるか……」

「ほんとにどういうことなんだ」

「……私の誕生日、今月の二十八日なんですよ」

「……? おめでとう」


 それがどうしたというのだろう。

 いや、素直にめでたいこととは思う……が……? ん、あれ?


「それって……」

「そういうことですよ。私たちは双子ですから、当然、そういうことですよ」


 ……しまった。

 なんたる痛恨のミス。

 その話を切り出すのはなんだか自分が欲しがるようで遠慮してしまっていた。

 睦美さんもそうだったのだ。


「……睦美さんの誕生日が、クリスマスの少し後……」

「クリスマスプレゼントの用意は?」

「それは流石にある。いや、まだ選んでないけど」

「……わかりました。来週、選ぶの付き合いますよ。あと、二つ用意してください。誕生日プレゼントと、クリスマスプレゼント。そういうの、結構嬉しいものなんですよ」

「近いと一緒にされる、とかいうものな」

「そういうことです。まあ、私たちにそういう経験はありませんが」

「でも、さっき言ったのってそういうことじゃなくてさ。クリスマスプレゼントはクリスマスプレゼントだし、誕生日もそうだろ。別枠で何かあげたい」

「そこまでしたら気を遣わせますよ。無論、気を遣ってることを悟らせて気を遣わせるのが目的にはなります。聡く甘い姉ですからね、こちらの意図を看破して、その上で心情を汲んでくれると思います。が、やりすぎたら姉の自罰思考を刺激するでしょう」

「む。それは、そうか……」

「過度の気遣いは返って逆効果になるものです」

「……やっぱり、姉妹だよな」

「しかも双子ですから」


 そう言って悲しげに笑ってから、顔を引き締めた華月が言う。


「……姉は心待ちに来ていることでしょう。その時を。クリスマス。その時に狙いを定めます。その時が、貴方の童貞最後の日です」


 ……。


「うるせえよ」


 苦し紛れに、ケーキに手を伸ばす。ケーキは、こんな時でも甘かった。

読んでくださった方、本当にありがとうございます。

感想や評価、誹謗中傷でもくださると、作者は嬉しいです。

次回でもよろしくお願いします。

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